テルの両側で繰り広げられる、ヒカリとショウによる**「テルの存在意義」**をかけた激しい争奪戦は、コトブキムラの一角で、大きな注目を集めていた。ジュンは遠巻きにその様子を観察し、時折「罰金ロマン」と叫んで場を盛り上げていた。
そこに、聞き慣れた、陽気な声が割って入ってきた。
「おお、これはこれは! 賑やかじゃのう!未来からの訪問者が来て、テルはモテモテじゃな!」
白衣を纏い、いつものように満面の笑みを浮かべたラベン博士が、テルの元にやってきた。彼は、テルの両脇で火花を散らすヒカリとショウを、面白そうに眺めていた。
ショウは、尊敬するラベン博士の声を聞いて、ようやく冷静を取り戻した。
「ラベン博士……! すみません、テルさんのことでちょっと……」
「ん、気にせんでよい、ショウ」 ラベン博士は優しくショウを宥めた。「テルは無事に帰った。わしにはそれが一番うれしいわい。君たちとテルの絆は、**『未来』**に行ったくらいじゃ切れんよ」
ショウは頷き、テルから手を離した。テルは、解放された腕を摩りながら、ラベン博士に感謝した。
その隙に、ヒカリはラベン博士に詰め寄った。
「博士! 貴方がラベン博士ですのね! テルの**『時空を超える債務』**の状況について、至急お話ししたいことがありますわ!」
「むむむ。こりゃまた、興味深い言葉じゃな!」 ラベン博士は目を丸くし、ヒカリの異様な剣幕にたじろいだ。「**『時空を超える債務』**か……しかし、まずは身の振り方じゃ。わしは、ポケモン図鑑を完成させるのに忙しいのでな」
ヒカリは、ポケモン図鑑という言葉に反応し、目を輝かせた。
「あの……博士? ポケモン図鑑ですって? 貴方が、あのオーキド博士やナナカマド博士にも匹敵する、ポケモンの研究の権威になる、ラベン博士ですのね!」
「む? 知っておるのか、わしのことを?」 ラベン博士は、自分の名が未来にまで轟いていることに驚きを隠せない。
ヒカリは興奮を抑えきれない様子で、テルの腕を小突いた。「テル! あのラベン博士よ! ポケモンの研究で、国際的にも有名になる、あのラベン博士! こんなに有名な方に、直接会えるだなんて! 夢にも思いませんでしたわ!」
テルは苦笑いした。「ヒカリ、落ち着け。未来じゃ有名だけど、この時代じゃ、まだ怪しい自称学者扱いされてるんだぞ……」
ラベン博士は鼻の下を擦りながら、嬉しそうに笑った。「ほう! わしが未来で有名じゃと! それは良いデータじゃな!」
「閑話休題じゃ!」 ラベン博士は、周囲を見渡し、コトブキムラの宿泊施設の現実的な問題に言及した。
「当面、君たち二人の寝床を決める必要がある。見ての通り、コトブキムラはまだ開拓の途中じゃ。宿泊の場所は限られておる」
ラベン博士は、テルとショウ、そしてヒカリとジュンに視線を向けた。
「そこでじゃ! ジュン君。君は、テルという面白そうな奴のライバルじゃな。君には、テルが使っている調査隊の寝床で、テルと同室になってもらう! 互いのロマンを語り合い、切磋琢磨するが良い!」
ジュンは目を輝かせた。「な、なんだって!? テルと同室か! 時空を超えたライバル同士の同居! これこそロマンだぜ! 遅れたら二人で罰金な!」
そして、ラベン博士はヒカリとショウを見た。
「ヒカリ君。君は、ショウのテルの相棒としての地位を脅かしておるようじゃが、これは良い機会じゃ! テルがいない間、共に過ごしたショウの寝床で、ショウと同室になってもらう! 互いのテルの知識を語り合い、絆を深めるが良い!」
ヒカリは、一瞬渋い顔をしたが、すぐに**「テルの未来の相棒」**としての情報収集のチャンスだと悟った。
「フフフ。結構ですわ、ラベン博士。テルの過去の生活圏を調査し、債務者の精神状態を把握するのも、債権者の義務ですからね! ショウさん、テルの過去の食費について、詳しくお話を聞かせてもらいますわよ」
ショウは、ヒカリの有無を言わせぬ圧力に少し怯えながらも、テルの相棒として受け入れることにした。「は、はい……ヒカリさん。テルさんのことを、たくさんお話ししますね」
シマボシ隊長は、遠くからその状況を見て、眉間に深い皺を刻んだ。「ケイブ博士。監視報告書に、**『未来の女のテルの占有率』**という項目を加えろ!」
最後に、ラベン博士は布の山から、簡素なヒスイの調査隊の服を取り出し、ヒカリとジュンに渡した。
「そしてじゃ! 君たち二人。その派手な未来の服は、ポケモンたちを警戒させてしまう。コトブキムラじゃ、これを着るのが掟じゃ。生活に馴染む努力も必要じゃぞ」
ヒカリは、豪華なコートとミニスカートを脱ぎ、簡素な調査服に袖を通した。少し不満そうだが、その姿はテルの横に立っても、違和感がなくなった。
ジュンは、新しい服に目を輝かせた。「おお! これがヒスイの作業服か! ロマン溢れる制服だぜ! よし、これでテルのヒスイ時代のライバルになるぜ!」
こうして、テル、ヒカリ、ジュンは、ヒスイの地で、男女混合の相棒とライバルとの同居生活という、新たな調査任務を開始することになったのだった。