ヒカリが**「クラフトによるプライドの回復」**を誓ったその日、テル、ヒカリ、ジュンは、黒曜の原野へ向かう前に、コトブキムラの広場でクラフトの練習を始めた。
ショウがニヤニヤしながら見守る中、テルは二人を励ました。「頑張れよ、二人とも。慣れればすぐに作れるようになるさ!」
まず、ジュンが挑戦した。彼は、現代の文明に頼り切っていたヒカリとは違い、元々**「ロマン」**を追求するがゆえに、大自然でのサバイバルや道具の自作にも興味を持つタイプだった。
ジュンは、ぼんぐりとたまいしを手にすると、少し考えるそぶりを見せた後、テルやショウが教えてくれた手順通りに、迷いなく手を動かし始めた。
カチカチ、シュッ!
「よし! モンスターボールだぜ! どうだ、テル! ロマンを感じるだろ!」
ジュンが完成させたモンスターボールは、ショウが作ったものと遜色ない出来栄えだった。
「すげえな、ジュン! 一発で成功か!」テルが驚きの声を上げた。
ショウも感心したように言った。「わあ、ジュンさん! 初めてなのに、私と同じくらい早いです!」
ジュンは得意満面だ。「フフフ、オレ様はロマンのためなら、どんな技術でもすぐに覚えるのさ! 罰金100万円だ、このクラフト技術を活かせなかった未来のオレ様に!」
そして、いよいよヒカリの番になった。ヒカリは、**「未来のコーディネーターの芸術性」**というプライドを賭け、真剣な表情で材料を手に取った。
しかし、彼女の**「文明に依存した指先」は、「原始的なクラフト」**に馴染まなかった。
「ええと……このたまいしを、このぼんぐりのどの角度で差し込むのが、芸術的に正しいのですの?」
ヒカリは、美しさや理論を追求しようとしすぎて、肝心の実用性を無視してしまう。彼女の手元は遅々として進まない。
カチッ……ポロポロ……
ぼんぐりとたまいしは、ヒカリの手元で何度もバラバラになってしまう。
ジュンは、ヒカリのあまりの遅さに、笑いをこらえられなくなった。
「おいおい、ヒカリ! 鈍臭いと言われても仕方ないレベルで一番遅いじゃねえか! オレ様がとっくに五個目に入ってるぜ!」
ジュンは、ヒカリの**「文明的なプライド」**を逆撫でするような、心底から馬鹿にした言い方で笑った。
ヒカリの顔が、一瞬で怒りに染まった。彼女は、ようやく、歪んだ形のモンスターボールを一つ完成させたが、そのボールをジュンに投げつける勢いで怒鳴りつけた。
「お、おつむの弱い貴方には言われたく無いですわ!」
ヒカリは、自分の知識や学力でジュンを打ちのめそうとした。
「貴方こそ、ポケモンバトルでは勝てても、計算や地理では、私の足元にも及ばないのですわよ! クソッタレ! この頭の出来が原始的な男**!」
ジュンは、ヒカリの知性に関する直接的な口撃に、一瞬で顔面蒼白になった。
「う……! 頭の出来が原始的……だと……!?」
ジュンは、ポケモンバトルやロマンへの評価には強いが、学業や知性を指摘されると、途端に自信を失う弱点があった。ヒカリはその弱点を正確に突いたのだ。
ジュンは、完成したばかりの五つのモンスターボールを地面に落とし、両手で頭を抱え、その場に蹲った。
「うわあああ! ロマンが、知性に敗北した! オレ様は、原始的な男……! ちくしょう! 罰金200万円だ! この鈍い頭に!」
ショウは、ヒカリの強烈な口撃と、ジュンの精神的な敗北の早さに驚愕した。「ひ、ヒカリさん……すごい……」
テルは、二人の間に流れる**「時空を超えた喧嘩の空気」**に、苦笑いするしかなかった。
「お前たち……早くしろ。もう黒曜の原野に行くぞ……」
テルたちのヒスイ調査は、ジュンの**「知性の欠如」と、ヒカリの「文明への執着」**という、新たな課題を抱えながら、始まったのだった。
ジュンのクラフトへの適応力と、ヒカリの容赦ない口撃によって、コトブキムラの一角は騒然となったが、テルはすぐに彼らを黒曜の原野へ連れ出した。この時代の生活の現実を教えることが、二人に一番の教育になると考えたのだ。
原野へと向かう道すがら、ヒカリはまだジュンの**「おつむが原始的」**発言の勝利に気を良くしつつも、すぐに現実的な問題に直面した。
「テル! ちょっと止まりなさい!」
ヒカリは足を止め、テルの調査服の襟を掴んだ。
「貴方の債務の清算についてですわ! 貴方、シンオウではチャンピオンとして潤沢な資金を持っていましたわよね? この時代のお金の稼ぎ方を教えてもらえませんか? 私の過払い請求のために、一刻も早く資金を稼ぐ必要がありますのよ!」
テルは困ったように笑った。
「ヒカリ、それは俺も同じだ。この時代には、未来のようなポケモンリーグの賞金も、高額な道具の売却もないんだ」
ショウが横から、当たり前のこととして説明を加えた。「ヒカリさん。この時代、お金を稼ぐ方法は基本的に二つです」
「二つ?」ヒカリは身を乗り出した。
「一つは、ポケモン図鑑の調査です。ラベン博士に研究報告をすると、調査ポイントがもらえ、それが小判に換金されます」
「調査ポイント……ポイント還元ですのね! それはわかります!」ヒカリは頷いた。
「もう一つは、自分で素材を集めてクラフトし、それをイチョウ商会に売るか、****野山で採れた食材や薬草を売るかです」
テルは付け加えた。「基本的には、自分で採って、自分で作って、自分で食べるという生活だ。換金できるのは、余った分か。だから、俺たちは日々の食材のために、畑を耕したり、木の実を採ったりするんだ」
ヒカリの顔から、みるみる血の気が引いていった。
「え……? 畑を……耕す? 自分で食材を……採取?」
ヒカリの頭の中には、デパートでの買い物、レストランでの優雅な食事、銀行の預金残高といった、現代の華やかな文明生活しかなかった。
「そんなの……サバイバル生活ではありませんの! 私の知っている**『お金を稼ぐ』**とは、頭脳と才能を使って、効率よく資産を増やすこと! まさか、肉体労働が主だなんて……!」
ヒカリは、現代の経済システムが根底から覆された事実に、ガーンという効果音がつくかのように、その場に崩れ落ちた。
「文明が……! 経済が……! 私の資産増殖計画が、全て原始に帰ってしまった……!」
ジュンは、その様子を指差して大笑いした。
「ハッハッハ! 見ろよ、テル! 文明の敗北者だぜ、ヒカリは! ロマンのために肉体労働なんて、当然だろ! 罰金100万円だ、この軟弱な未来のお嬢様に!」
ヒカリは、ジュンの言葉に反論する気力も失い、座り込んだまま魂が抜けたような状態になってしまった。
その時、ヒカリのコートの中から、ポッチャマが顔を出した。ポッチャマは、ヒカリの沈んだ様子を心配し、「ポチャ……」と鳴きながら、ヒカリの頭にそっと寄り添い、優しく嘴で頭をペシペシと撫でた。
「ポッチャマ……」ヒカリは、ポッチャマの温かさに、ようやく少しだけ正気を取り戻した。「そうね……ポッチャマ。わたくし、お金はなくても、貴方がいてくださる。これで生きていける……」
ショウは、ヒカリとポッチャマの絆を見て、少し複雑な表情を浮かべた。
「ヒカリさん……大丈夫ですか? サバイバルも、慣れれば楽しいですよ?」
テルは、ヒカリの肩に手を置いた。「ヒカリ。この時代では、『生きること』そのものが『稼ぐこと』なんだ。慣れるしかない。俺が教えるから、まずは木の実の採集からだ」
こうして、「未来の債権者」ヒカリは、文明の崩壊というショックを抱えながら、ヒスイの厳しいサバイバル経済の現実に立ち向かうことになったのだった。