テル、ヒカリ、ジュン、ショウの四人は、黒曜の原野に入り、早速ポケモン調査に取り掛かっていた。テルとショウは冷静にポケモンを観察し、ヒスイのポケモン図鑑を埋める作業を進める。
しかし、ヒカリは依然として**「サバイバル経済」**の恐怖から解放されていなかった。
「テル、ショウさん! クラフトの素材は全て採取</strong>しましたわね? キズぐすりの材料は一ミリたりとも無駄にできません! ジュン、貴方もむやみに道草を食うのは止めるのです!** その分、食料の消費に繋がりますわ!」
ヒカリはもはや、**「文明を失った倹約家」**と化しており、その鋭い視線は常にジュンの動向と、地面に生えている木の実の数に向けられていた。
ジュンはそんなヒカリを無視し、大自然のロマンに興奮していた。「チクショー! ヒスイのポケモンはやっぱりロマンだぜ! 図鑑に載ってないポケモンを捕まえるのが、オレ様の使命だ! 罰金100万円だ、この退屈な調査に!」
テルが呆れて言った。「ジュン、罰金を払う金がないんだから、罰金設定をやめろよ……」
その時、ジュンの視界に、巨大な影が飛び込んできた。
「おおおお! 見ろ、テル! 究極のロマンだぜ!」
ジュンが指差す先には、巨大な体躯を横たえて眠るカビゴンの姿があった。その巨体は山のように大きく、近くに生えていた小さな木々すら、その体で隠れてしまっている。
ジュンは瞳を輝かせた。「カビゴン! 捕獲するぜ! あんなにデカいポケモン、ゲットしたらロマン指数が跳ね上がるに決まってる!」
ジュンは、すぐさまエンペルトのボールを掴み、戦闘態勢に入ろうとした。
「エンペルト! ラスターカノンで起こすぞ!」
「やめてください! ジュン!」
ジュンの背後から、ヒカリの絶叫が響き渡った。
ヒカリは、血の涙を流しながら、ジュンの腕に文字通り飛びついてしがみついた。
「あのモンスターを捕獲するなど、絶対に許しませんわ!」
ジュンは、ヒカリの必死すぎる抵抗に驚いた。「な、なんだヒカリ! ロマンの邪魔をするのか! 罰金200万円だぞ!」
ヒカリは、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、カビゴンの巨大な図体を指さした。その瞳には、カビゴンではなく、巨大な借金取りが見えているかのようだった。
「貴方は、あのカビゴンの『食料消費係数』を理解していませんわ!」
「しょ、食料消費係数? なんじゃそりゃ!」ジュンは怯んだ。
「あの大きさ……! 貴方がカビゴンをゲットしたら、調査隊の食料供給体制が崩壊します! 貴方は一匹のポケモンを捕まえることで、コトブキムラ全体の経済に、取り返しのつかない打撃を与えるつもりですか!」
ヒカリは、涙と鼻水で顔をテカらせながら、必死の訴えを続けた。
「カビゴンは一日に400キロの食料を平気で食べると、未来の図鑑に載っていますわ! この原始的なヒスイの地で、どうやってその食料を賄うのですか! テルが一生かけても、カビゴンの餌代は払えませんわ! 私の過払い請求どころか、テルはカビゴンへの給餌という名の無限の債務を負うことになりますのよ!」
「うわあああ! カビゴンが無限債務を生むだと!?」ジュンは、ヒカリの凄まじい**「経済的恐怖」**に、完全に戦意を喪失した。
ショウは、ヒカリの異様な剣幕にドン引きしながら、テルに耳打ちした。
「テ、テルさん……ヒカリさんって、ポケモンの強さじゃなくて、経済的なリスクでポケモンを判断するんですね……未来って、すごいところなんだなあ」
テルは、カビゴンを前に意気消沈しているジュンを見て、ため息をついた。
「すまない、ジュン。ヒカリの言うことは、ロマンはないが、現実的だ。食料の自給自足が基本のこの時代で、カビゴンの食費は文明崩壊級のリスクだ」
ジュンは、カビゴンへのロマンと、ヒカリの経済的恫喝の板挟みになり、頭を抱えて叫んだ。
「ちくしょう! ロマンが、経済に敗北した! もういい! 罰金300万円だ! この、ロマンを理解しないヒスイの経済体制に!」
ジュンは、カビゴン捕獲を諦め、肩を落として立ち去った。ヒカリは、安堵の息をつきながら、そっとカビゴンに背を向けた。
「ふう……危ないところでしたわ。これで、テルの債務を、これ以上増やさずに済みましたわ」
こうして、ヒカリは**「未来の債権者」として、ヒスイの調査隊を経済的な危機**から救ったのだった。
カビゴン捕獲による**「無限債務リスク」を回避したテルたちは、黒曜の原野のさらに奥深くへと進んでいた。
ヒカリは、道すがら落ちている木の実や薬草を一つ残らず拾い集め、「資源の有効活用」に努めていた。ジュンは、カビゴンへのロマンを断たれたショックから立ち直れず、ぶつぶつと「経済に敗北したロマン」**について呟いていた。
広大な原野を効率よく移動するため、テルは立ち止まってオオニューラのきんのたまを取り出し、ポケモンを呼び出す準備をした。
「さて、ここからは移動に時間がかかる。**ウォーグル(ヒスイのすがた)**を呼ぶぞ」
テルがきんのたまを軽く振ると、上空から巨大な**ウォーグル(ヒスイのすがた)**が舞い降りてきた。テルは慣れた様子でその背に飛び乗った。
「ショウ、乗れ! ヒカリとジュンは、ショウのオオニューラに乗せてもらうぞ」
ショウも、腰のオオニューラのきんのたまを取り出し、**オオニューラ(ヒスイのすがた)**を呼び出した。ショウはヒカリとジュンに声をかける。
「二人とも、後ろにしっかり捕まってくださいね。オオニューラは足場が悪い場所でも、速く移動できますから!」
ヒカリとジュンは、ウォーグルとオオニューラという巨大なポケモンが現れたことに驚き、特にジュンは目を輝かせていた。「すげえ! ロマン溢れるライドポケモンだぜ!」
しかし、ヒカリは、二体のポケモンが通常のモンスターボールから出てきたわけではないことに気づき、テルとショウの行動を即座に**「違法」**だと断定した。
ヒカリは、オオニューラに乗るのを拒否し、ウォーグルの真下で立ち尽くしたテルに怒鳴りつけた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい、テル! 違法ですわ! それは違法行為ですわよ!」
テルはウォーグルから降り、面倒くさそうな顔をした。「今度はなんだ、ヒカリ」
「なんですわじゃありません! テルが呼び出したウォーグルも、ショウさんが呼び出したオオニューラも、貴方の手持ちポケモンとして6匹のポケモンの中に入っていませんわよね!?」
ヒカリは、現代の**『ポケモンリーグ規約』**を持ち出し、憤慨した。
「ポケモンリーグの規定では、手持ちとして連れて行けるのは6匹までと定められていますわ! 貴方達は、7匹目以降のポケモンを、ライドという名目で不正に持ち出しているではありませんの! これは明らかなルール違反、いや、犯罪ですわ!」
テルは、頭を抱えた。「ああ、ヒカリ。またその未来の法律を持ち出すのか……」
ショウは、ヒカリの異様な剣幕と、全く理解できない**「ポケモンリーグ規約」**という言葉に、心底面倒臭いという表情を隠さなかった。
ショウは、腰に手を当てて、疲れたようにヒカリに言った。
「あの……ヒカリさん。私たちは、調査隊であって、ポケモンリーグなんていう未来のルールには従いませんよ」
「それに、このウォーグルもオオニューラも、**正式に村から貸し出されている『特別なポケモン』**なんです。私たちのポケモンじゃありませんから、6匹のカウントには含まれません。移動のための道具みたいなものです」
ヒカリは、ショウの**『移動のための道具』**という説明に、さらにヒートアップした。
「道具ですって!? ポケモンを道具扱いだなんて、言語道断ですわ! ポケモン愛護団体に訴えられますわよ! 貴方達、この時代のポケモンリーグがないのをいいことに、やりたい放題ではありませんの!」
ジュンは、再びロマンに興奮していた。「やりたい放題! それがヒスイのロマンだぜ! ヒカリ、そんな細かいルール、罰金100万円だ!」
テルは、早く移動を済ませたい一心で、ヒカリの肩を掴んだ。
「ヒカリ、いい加減にしてくれ。ここはヒスイだ。ポケモンリーグは、この先、何百年も後にできるんだ。この時代の法律と常識に従ってくれ」
ショウは、テルとヒカリの間に割って入り、テルを庇うようにヒカリに向き直った。
「テルさんの言う通りです。ヒカリさんは、未来のルールで、いちいち私たちを**『違法』**と決めつけるの、本当にやめてくれませんか? すごく面倒臭いです」
ショウの、心からの面倒臭いという感情がこもった一言に、ヒカリは言葉を失った。
「めん、面倒臭い……ですって?」
「はい。面倒臭いです。さあ、テルさん、行きましょう。私は、面倒臭い人は置いていきます」
ショウは、オオニューラに跨り、テルを促した。テルは、ヒカリにこれ以上、未来の法律を持ち出さないようにという願いを込めた視線を送り、ウォーグルの背に乗って飛び立った。
ヒカリは、広大な原野に一人取り残され、「違法」という言葉が通じない世界に、再び文明の敗北を感じるのだった。
「ひどいですわ! **『面倒臭い』**だなんて! 私の正義が、面倒臭い扱いですって!?」
ジュンは、ヒカリの隣で、オオニューラのきんのたまを眺めながら、満足そうに笑った。「チクショー! 違法なライドポケモンでロマンを感じるぜ! 罰金100万円だ、このロマンを理解しない未来の法律に!」