広大な黒曜の原野を、テルとウォーグル、ショウとオオニューラが先行し、ヒカリとジュンはオオニューラの背に相乗りして移動していた。ヒカリはまだ、**「ポケモンリーグ規約違反」と「面倒臭い」**呼ばわりされた屈辱を引きずっていた。
ジュンは、オオニューラの高速移動に興奮しきりだ。「うおお! 速ぇ! これがヒスイのロマンのスピードか! ヒカリ、お前も乗ってりゃよかったのに、罰金100万円だぜ、その歩行速度!」
ヒカリは、ジュンの軽口を無視し、オオニューラを操縦するショウに話しかけた。
「ショウさん。わたくし、先ほどの**『違法なライドポケモン』**の件は譲れませんけれど、一つ質問させてください」
ショウは、オオニューラを巧みに操りながら、面倒くさそうに返事をした。
「なんですか、ヒカリさん。**『未来の食費規約違反』とか、『コトブキムラ景観破壊罪』**とか、また新しいルールを持ち出すのは勘弁してくださいね」
ヒカリは、ふん、と鼻を鳴らした。「いいえ。今回は純粋に、**テルの『空白の旅』**の解明と、ポケモントレーナーとしての興味ですわ」
ヒカリは、ウォーグルの背に乗るテルの方を指差した。
「テルと貴方たちは、このヒスイで、過去にどんなポケモンを捕まえたのですの?」
ヒカリは、テルが未来では**「御三家」以外の多くのポケモンを捕獲していたことを知っている。そのヒスイでの捕獲の歴史が、テルの「空白」**を埋めるヒントになると考えたのだ。
ショウは、ヒカリの質問に、ようやく**「調査隊員らしい」**興味を示し、少し顔を緩めた。
「ああ、ポケモン捕獲の話ですか。それはたくさんですよ! テルさんは、私たち調査隊のエースですから」
ショウは、遠くで飛んでいるテルの方を見ながら、懐かしそうに話し始めた。
「テルさんは、やっぱりすごいんです! ヒスイのゾロアを見つけてくれたのはテルさんですし、オオニューラやガチグマ、イダイトウみたいな、特別なポケモンの調査も、テルさんが率先してやってくれました」
「そして、私は、テルさんが最初に持っていたヒスイのバクフーンと、ヒスイのジュナイパーを捕まえたんです。特に、フシギダネ……じゃなくて、フタチマルをゲットしたときは、ラベン博士も大喜びで!」
ヒカリは、ヒスイのすがたの御三家の名前が出てきたことに、静かに興奮を覚えていた。
「なるほど……ガチグマやイダイトウといった、現代には進化の形が残っていないポケモンを……」
ヒカリは、すかさずテルに大声で尋ねた。「テル! 貴方、ヒスイのバクフーンの他に、ヒスイのポケモンを何匹捕まえたのですの!?」
ウォーグルの背から、テルが振り返って答えた。
「ええと、イシツブテとか、ムックルみたいな、普通に見つかるポケモンはほとんど捕まえたぞ。他には、オオニューラ、アヤシシ、**ハリーセン(ヒスイのすがた)**も捕獲した」
「あと、俺が**『未来』に行った直前には、ディアルガやパルキア**、ギラティナの調査も終えていたぞ」
ヒカリは、テルの**「ディアルガやパルキアの調査」**という、あまりにも壮大な過去の出来事に、再び思考が停止した。
「ディ、ディアルガにパルキアですって!? そんな伝説のポケモンまで捕獲対象ですの!?」
ショウは、ヒカリの驚きに満足そうに頷いた。「ええ。もちろん、**『捕獲』**といっても、ボールに入れて終わりじゃありませんけどね。キング・クイーンとして鎮めて、絆を結ぶんです」
ジュンは、再びロマンに目覚め、興奮のあまりオオニューラの上で飛び跳ねた。「ちくしょう! ディアルガとパルキア! それこそが究極のロマンだぜ! テル、オレ様もそのキング・クイーンとやらを捕まえる! 罰金100万円だ、この壮大すぎるヒスイの歴史に!」
ヒカリは、現代の**「ジムバッジを8個集めて四天王に挑む」という単純な目標と、ヒスイの「キング・クイーンを鎮めて、神を捕獲する」**という途方もない任務を比較し、愕然とした。
「違法ですわ! 全ての法律に反していますわ! この時代、規約という概念が存在しないのですのね!」
ヒカリは、ライドポケモン、食費、そして今や伝説のポケモンの捕獲という、全てが**「現代の常識」**から逸脱したヒスイの現実に、深い絶望を感じるのだった。
テル、ヒカリ、ジュンは、黒曜の原野を進みながら、ヒスイのポケモンと現代のポケモンの違いについて話していた。ヒカリは、ディアルガやパルキアの捕獲が**「規約違反」**ではないという事実に、まだ納得がいかない様子だった。
ショウは、テルの過去の捕獲話を聞き終えると、目を輝かせて、ヒカリとジュンに尋ねた。
「あの、ヒカリさん、ジュンさん! 私からも質問してもいいですか?」
ヒカリは、まだ少し不機嫌な顔で答えた。「なんですの、ショウさん。また**『面倒臭い』**とか言うのでしたら、わたくし、立ち止まりますわよ!」
「言いませんよ! そうじゃなくて……」ショウは、純粋な好奇心に満ちた目で尋ねた。
「テルさんの話だと、未来には、私たちがまだ見たこともないポケモンがたくさんいるんですよね? どんなポケモンがいるんですか?」
ショウは、テルのヒスイの冒険の相棒だった。彼女にとって、テルの**「未来」は、彼女が完成させようとしているポケモン図鑑の遥かな完成形**を意味していた。
ヒカリは、目を丸くした。現代では当たり前のポケモンが、この時代では**「未来の幻」なのだという事実に、彼女の「文明の優位性」**がくすぐられた。
「フフフ。良い質問ですわ、ショウさん! ポケモン図鑑の権威、ラベン博士が完成させる図鑑の最終形態についてですわね! わたくしが、未来のポケモン図鑑の序章をお教えしますわ!」
ヒカリは、得意げに話し始めた。
「まず、私たちの時代では、貴方たちが『神様』のように扱っているディアルガやパルキアは、ポケモンリーグの四天王を倒したチャンピオンになれば、普通に会えますわ。その辺の草むらにはいませんけれどね」
ショウは、**「神様が普通に会える」**という事実に、すでに驚愕の表情を浮かべている。
「そして、このヒスイにいるヒスイのすがたのポケモンたち……例えばヒスイのゾロアークやヒスイのバクフーンは、ほとんど見かけません。代わりに、普通のゾロアークやバクフーンがいますわ」
「普通のバクフーン?」ショウは、テルのヒスイのバクフーンの姿を思い浮かべ、首を傾げた。「炎の色が青じゃなくて、赤いんですか?」
「ええ! そして、進化の仕方も違います。この時代のアヤシシはオドシシから、ガチグマはリングマから進化しますが、私たちの時代ではその進化は起こりません。時空を超えた進化ですわね!」
ジュンが、その話に割って入ってきた。彼は、ロマンという名の興奮を隠せない。
「フン! ヒカリ、そんな退屈な情報じゃ、ショウのロマンは満たされねえぜ!」
ジュンは、胸を張ってショウに言った。
「ショウ! オレ様の最高の相棒は、このエンペルトだぜ! この時代にはポッチャマとポッタイシしかいないだろ? エンペルトは、ポッタイシの次の進化だ! ロマンに満ちた皇帝のポケモンだぜ!」
ショウは、エンペルトという名前と、その**「皇帝」**という響きに目を輝かせた。
「エンペルト! すごい名前です! ポッタイシの先に、そんなにかっこいい進化が待っているんですね!」
ヒカリは、ジュンに負けじと、自分のポケモンを紹介した。
「わたくしのドダイトスも、ナエトルの進化系ですわ! 貴方たちの時代のドダイトスよりも、装飾品が多い、完成された姿です!」
ジュンは、自分のエンペルトが未来でも皇帝として君臨している事実に、胸を張った。
「フン! そうだぜ、ショウ! オレ様のエンペルトは、ポッタイシのロマンに満ちた最終形態だ! あの皇帝の威厳と鋼の輝きは、お前たちが想像するよりも遥かにロマンに溢れているぜ!」
ジュンは、ここぞとばかりに自慢しようと、エンペルトのボールを軽く叩いた。
「ショウ、いいか? エンペルトのロマンは、そのトリデプスの化石のような、古代の重々しさとは違う、未来的な王者の風格があるんだ! 期待しとけ!」
しかし、ショウはジュンの話を聞きながら、キョトンとした表情を浮かべた。
「あの……ジュンさん」
「ん? どうした? オレ様のエンペルト愛に感動したか?」ジュンは得意げだ。
「いえ、あの……エンペルトとドダイトスなら、知っていますよ?」
ジュンの顔から、一瞬にして血の気が引いた。
「……は? なんだって?」
ショウは、メモ帳を閉じながら、不思議そうに説明した。
「テルさんが、最初にこの村に来て、『未来から来た』と話した時に、私たちに『この時代のポケモンを教えてほしい』って言って、ナエトル、ヒコザル、ポッチャマの進化形を、みんなで予想したんです。その時に、テルさんが**『未来の姿』としてエンペルトとドダイトス**の絵を描いてくれましたよ?」
「ええっ! そんなロマンのネタバレを!?」ジュンは叫んだ。
テルは、気まずそうに顔を背けた。
「あー……その、ショウに**『未来の御三家』**の最終形態を見せてしまったのは、俺の空白の旅の、最初の失敗なんだ……」
ショウは、無邪気に笑った。「でも、あの絵のおかげで、ポッタイシの先に皇帝のポケモンがいるって知って、すごくロマンを感じましたよ! だから、ジュンさん、ドダイトスとエンペルトは、知っています!」
ジュンは、全身から力が抜けたかのように、オオニューラの背中に倒れ込んだ。ヒカリに**「原始的なおつむ」**と罵られた時以上の、精神的なダメージを負っていた。
「うわああああ! なんてこった! オレ様がロマンを語ろうとしたポケモンが、既に過去のネタバレを受けているなんて……!」
ジュンは、地団駄を踏みながら叫んだ。
「罰金100万円だ! この、余計なネタバレをした過去のテルに! そして罰金300万円だ! この、ロマンを語ろうとしたオレ様の不運に!」
ヒカリは、ジュンのあまりの落胆ぶりに、少し優越感を感じつつも、同情的な視線を送った。
「ジュン。ロマンのネタバレは、確かにトレーナーの尊厳に関わりますわね……でも、ドダイトスもエンペルトも、未来のポケモンリーグでは最強ですわ! 自信を持ちなさい!」
ショウは、テルの描いたエンペルトとドダイトスの絵を思い浮かべながら、再び目を輝かせた。
「でも、テルさんが教えてくれたのは絵だけです! タイプとか技とか、未来の生態は全然知らないので、ぜひ教えてください、ジュンさん!」
ショウの純粋な探究心に、ジュンは、少しだけ元気を取り戻した。
「……チッ。仕方ねえな。ロマンは、語り継がれるべきものだからな。よーし、ショウ! エンペルトのロマンに満ちた**『ラスターカノン』**について、一から十まで叩き込んでやるぜ!」
テルは、二人の自慢合戦に苦笑いしながらも、ショウにさらに具体的なポケモンの話を教えた。
「ショウ。未来には、ゴーストタイプとドラゴンタイプを持つギラティナに似たようなポケモンや、鋼と飛行タイプを持つエアームドっていうポケモン、それに電気と飛行タイプのサンダーっていうポケモンもいるんだ」
ショウは、テルの言葉を一言も聞き漏らすまいと、真剣に耳を傾け、持っていたメモ帳に一生懸命書き留めた。
「へえ……! ゴーストとドラゴン、電気と飛行! 『タイプ』の組み合わせが、私たちが知らない新しいものばかりです! 未来のポケモン図鑑は、なんてロマンに満ちているんでしょう!」
ショウの瞳は、未来への希望と探究心でキラキラと輝いていた。彼女にとって、ヒカリとジュンは、ポケモン図鑑の完成という夢を、さらに大きく膨らませてくれる、時空を超えた最高の情報源となっていた。
ヒカリは、ショウの純粋な反応に、文明の優位性とはまた違う、知識の共有という喜びを感じていた。ジュンは、自分のエンペルトが未来でもロマン溢れる存在であることを確認し、大満足だった。
こうして、四人の移動中、ヒカリとジュンは、ショウに**「未来のポケモン図鑑」**の内容を、熱心にレクチャーし続けたのだった。