遠き郷から来たシンオウチャンピオン   作:gp真白

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夜のテントと、時空を超えた眠れない夜

 

黒曜の原野の調査を続けるテルたち一行。ヒカリとジュンは、未だにヒスイの常識と現代の常識のギャップに戸惑っていた。特にヒカリは、**「トレーナーがポケモンを道具のように扱う無法地帯」**という認識を改められずにいた。

そんな中、彼らは茂みの中で一体の野生のムクホークと遭遇した。ムクホークはテルたちに気づくと、威嚇するように鳴き声を上げた。

 

テルは冷静にエンペルトを呼び出した。「ジュン、エンペルト、頼むぞ!」

ヒカリは、テルがエンペルトを出したのを見て、すぐに戦闘態勢に入った。

「ジュン、**まずは『まもる』で様子見なさい! そして『はがねのつばさ』で攻めるのですわ! 相手は飛行タイプ、『ステルスロック』**を巻くのも戦術として有効です!」

 

ヒカリは、現代のターン制バトルの定石を指示した。

 

しかし、テルはヒカリの指示を遮った。「待て、ヒカリ! それじゃダメだ!」

ムクホークは、ヒカリが指示を出す間もなく、テルたちのポケモンに向かって一直線に体当たりを仕掛けてきた。

 

「ほら見なさい! 指示を出す隙もなく攻撃してくるなんて、明らかなターン制バトルの規約違反ですわ!」ヒカリはパニックになった。

 

テルはムクホークの攻撃をエンペルトに受け止めさせながら、急いでヒカリとジュンにヒスイの戦闘術を伝授した。

 

「ヒスイのバトルは、行動順が技によって常に変わる! **『早業(はやわざ)』と『力業(ちからわざ)』**を覚えないと、一方的に叩きのめされるぞ!」

 

テルはエンペルトに指示を出した。「エンペルト! 早業の『アクアジェット』だ!」

 

エンペルトは、通常の技よりも素早く**『早業』**でムクホークに水を叩きつけた。ムクホークはよろめき、その直後、再びエンペルトの行動順が回ってきた。

 

「見ろ! 早業を使えば、ムクホークが行動する前に二回行動できることがあるんだ! これがヒスイの戦い方の基本だ!」

 

ジュンは、その**「連続行動」**という概念に、目をらんらんと輝かせた。

「な、なんだって!? ターンを捻じ曲げるロマンの戦術か! 罰金100万円だぜ、こんな面白いバトルを隠していた未来のオレ様に!」

 

ヒカリは、テルの説明に激しく反発した。

 

「戦術的な破綻ですわ! 『行動順が不安定になる』だなんて、公平性を欠いています! 技によってターンのスピードが変わるなんて、戦略的な駆け引きを放棄していますわ! 違法です!」

 

その時、ムクホークが反撃の隙を突いて、テルの顔めがけてつばさでうつを放ってきた。

 

「テ、テル!」ヒカリが叫んだ。

 

ショウは、面倒くさい説明を早く終わらせるため、実演でヒカリを黙らせることを選んだ。

 

「テルさん、下がってください! 今度は『力業』の使い方です」

 

ショウは、手持ちのフタチマルを繰り出し、ムクホークに向かって指示を出した。

 

「フタチマル! 力業の『みずのはどう』!」

 

フタチマルが**『力業』で放った水は、通常の技よりも遥かに強力**で、ムクホークに大ダメージを与えた。ムクホークは戦闘不能になり、静かに地面に落ちた。

 

ショウはフタチマルを戻し、ヒカリに向かって淡々と言い放った。

 

「力業は、次の行動順が遠くなる代わりに、技の威力が大きく上がります。ヒカリさんの言う**『公平な戦略』**なんて、このヒスイじゃ、一方的に野生ポケモンに負けるだけですよ。私たち調査隊は、確実に、効率よく、ポケモンを倒すか捕まえるかしなければなりません。面倒臭いルールを考えている暇なんてありませんから」

 

ヒカリは、ショウの**「効率と実利」に基づくヒスイの戦闘理論と、「力技による一撃必殺」**の迫力に、完全に圧倒された。

 

「ご、ごうりきによる暴力的な解決法…… ターンの概念を崩壊させる早業…… 全てが、現代のポケモントレーナーの美学と規約に反していますわ!」

 

ヒカリは、ショウの力業によって、文明的なバトル観が粉々に砕かれたような表情で、その場に立ち尽くした。

 

一方、ジュンは目を血走らせながら、自分のエンペルトを撫でた。

「エンペルト! ロマンだぜ! これからは早業を極めて、相手が動く前に5回連続で攻撃するロマンの戦術を完成させるぜ! 罰金は、相手のムクホークに払わせる!」

 

テルは、ヒカリの精神的ダメージの大きさにため息をついた。「ヒカリ、お前は一旦、文明の概念を捨てろ。」

 

こうして、ヒカリは**「無法で暴力的」だと認識したヒスイのバトル術を渋々受け入れ、ジュンは「ロマンの極致」**と歓喜しながら、二人のレクチャーは次の段階へと進むのだった。

 

黒曜の原野での調査を終え、テルたちはムラの近くにある野営地にテントを張った。この日の調査報告を終え、テルとジュン、ヒカリとショウは、それぞれ同室となった寝床に戻った。

 

テルとジュンのテント。ジュンは、興奮冷めやらぬ様子で、テルに語りかけていた。

 

「おい、テル! 早業のロマンはヤバいぜ! オレ様のエンペルトが早業『アクアジェット』を極めれば、未来のジムリーダーなんて、動く前に瞬殺だぜ! 罰金100万円だ、この早業の存在を知らずに生きていたオレ様に!」

 

テルは、疲れた体を横たえながら、半分寝ぼけた声で答えた。「ああ、そうだな。ジュンは早業を極めろ。俺はもう寝るぞ……」

 

ジュンは、テルの寝床のすぐ横に陣取り、真剣な顔でテルを見つめた。

 

「待てよ、テル。お前と同室になったからには、ロマンの哲学を語り合うのが筋だろ! 時空を超えたライバル同士の夜の語らいこそ、究極のロマンだぜ!」

テルは、重い瞼を開けて言った。「ジュン、悪いけど、俺はヒスイのポケモン図鑑を完成させるために、毎日ハードな調査をやってるんだ。ロマンより睡眠が欲しい……」

 

「ロマンより睡眠だと!? 罰金500万円だ、その退屈な発言に!」ジュンは叫んだ。

 

一方、ショウとヒカリのテント。

 

ショウは、テルの横で寝るジュンとは対照的に、テントの隅で静かに寝床を整えていた。ヒカリは、**「テルの過去の生活圏」**の調査を開始する絶好の機会だと意気込んでいた。

 

ヒカリは、簡素な寝床に入りながら、ショウに話しかけた。

 

「ショウさん。おやすみの前に、テルの過去の生活について、詳しくお聞かせ願えますか? 特に、テルの食費や道具の消費量について……それが、テルの『過払い請求』の算出に、非常に重要なんですわ」

 

ショウは、ため息をついた。

 

「あの……ヒカリさん。正直、面倒臭いです。テルさんの過去は、私が日記に全部つけてますから、明日、それを見ればいいでしょう?」

 

ヒカリは、ショウの**『テルの過去の日記』**という言葉に、目を輝かせた。

 

「日記ですって!? テルの行動の全てが記録されている……そんな最高の証拠品があるのですのね! 明日、一字一句、全て閲覧させていただきますわ!」

 

ショウは、ヒカリの尋常ではない執念に、心底辟易していた。「はぁ……勝手にどうぞ。でも、その前に、一つだけ聞かせてください」

 

「なんですの?」ヒカリは、身構えた。

 

ショウは、静かにヒカリの顔を見つめた。

 

「ヒカリさん。貴方と私は、どうしてこんなに顔が似ているんでしょうか? テルさんが**『未来』に行ったことと、私たちの遺伝子**に、本当に何か関係があるんでしょうか?」

 

ショウの真剣な問いに、ヒカリは**「債権者」ではなく「未来の親戚」**としての顔を見せた。

 

「……ショウさん。わたくしも、それが気がかりです。わたくしたちは、きっと遠い親戚ですわ。テルの**『空白』は、ヒスイと未来、そしてわたくしたちの血縁**を繋ぐ、時空を超えた結び目だったのかもしれません」

 

ヒカリは、静かに自分の手のひらを見つめた。

 

「この時代で、貴方と出会ったことも、テルの未来の計画の一部だったのかもしれませんわね……」

 

ショウは、ヒカリの言葉を否定することはできなかった。テルという**『時空の異物』**の存在が、彼らを結びつけている。

 

その夜、ヒスイの荒野を照らす月明かりの下、テルとジュンは**「ロマンと睡眠」の戦いを繰り広げ、ヒカリとショウは「過去の記録と未来の遺伝子」**の謎について、静かに考えを巡らせる、眠れない夜を過ごしたのだった。

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