黒曜の原野で時空の裂け目の出現を確認したテルたちは、これ以上の調査は危険と判断し、急いでコトブキムラへと引き返した。ムラに戻るなり、テルは事態の重大性をデンボク団長に報告するため、ギンガ団本部へと向かった。
デンボク団長の部屋に入ると、彼はいつものように机に向かい、厳しい表情で書類を検分していた。シマボシ隊長とラベン博士も同席していた。
テルは、敬礼し、緊張した面持ちで口を開いた。
「デンボク団長! 報告します! 黒曜の原野上空に、再び大規模な**『時空の裂け目』が出現しました! そして、この二人が『未来のシンオウ』**から一緒に戻ってきました!」
テルは、横に並ぶヒスイの調査服を着たヒカリとジュンを指し示した。
デンボク団長は、テルと二人の未来人を厳しい眼差しで見つめた後、深く頷いた。
「うむ。テル、よく戻った。**『時空の裂け目』**の件は、既にムラからも目撃情報が上がっている。心配はしておったが、まさか、未来からの客まで連れて帰ってくるとはな」
シマボシ隊長が、すぐに補足した。「団長。あの**『未来の女』、ヒカリはテルの債務者と称しており、このムラの経済構造と調査隊の規律を乱す可能性が高いです。ジュンという男は、『ロマン』という奇妙な言葉を連呼する危険な奇人**です」
「罰金100万円だ、シマボシ隊長! オレ様のロマンを否定するなんて!」ジュンが早速反論したが、シマボシ隊長の冷たい視線に沈黙した。
ヒカリは、優雅に一歩前に出て、深々と頭を下げた。
「デンボク団長、初めまして。わたくしはヒカリと申します。テルと共に未来から参りました。わたくしの目的は、債務者テルの**『過払い請求』の回収と、未来の歴史を守るためのテルの空白の解明**です。何卒、このムラの調査にご協力させてください」
デンボク団長は、ヒカリの丁寧な言葉遣いと、その**「債務」「過払い請求」**という言葉の不一致に、わずかに眉を動かしたが、すぐに厳格な顔に戻った。
「わかった。テル。順を追って話せ。なぜ、お前は**『未来』に行ったのか。そして、そこで何があったのか。時空を超えた旅の経緯の全て**を、報告せよ」
テルは、深呼吸し、現代のシンオウでの出来事を包み隠さず報告した。
「はい。俺は、現代のシンオウに**『定着した異物』として不安定な存在となっていました。未来のギンガ団の残党であるプルートという男が、俺の不安定な存在を利用し、時空を固定化して世界を支配**しようと企んでいました」
「私は、未来のチャンピオンであるシロナさんや、ヒカリ、ジュンと共にプルートの野望を阻止しました。そして、テンガンざんで**『創りし者』**の問いかけを受けました」
デンボク団長は、プルートやシロナ、テンガンざんという単語に真剣に聞き入っている。
「**『創りし者』**の問いとは、なんだ?」
「俺が現代に残るか、それともヒスイの歴史を修復するために現代から存在を抹消し、ヒスイに戻るか、という究極の選択でした」
デンボク団長は、目を見開いた。「……そして、お前は、ヒスイに戻ることを選んだ、と」
「はい。ヒスイの仲間のことを思い、『過去の時』への修復を選びました。その際、手を繋いでいたヒカリとジュンまで、時空の歪みに巻き込んでしまいました」
デンボク団長は、テル、ヒカリ、ジュンを交互に見つめ、一言一言、重みを込めて言った。
「わかった。テル。お前はこのムラの平和のために、『存在の抹消』という大きな犠牲を払う覚悟をしたのだ。その勇気と使命感、団長として評価する」
彼は、ヒカリとジュンに視線を移した。
「君たち二人、未来のシンオウでは、テルはチャンピオンであったと聞く。そのチャンピオンの力を、このヒスイで、ポケモンと人が共に生きる歴史を作るために、活かしてくれ。債務やロマンは、ひとまず横に置け。このムラは、君たち時空を超えた旅人の力を必要としている」
ジュンは、デンボク団長の重厚な言葉に、興奮のあまり敬礼した。「へい! 団長! 時空を超えたロマンの力、存分に発揮してやりますぜ! 罰金100万円だ、このロマン溢れる任務に!」
ヒカリも、真剣な表情で頷いた。「ありがとうございます、団長。わたくし、このムラのために資金調達と経済構造の安定に貢献することを誓います。債務者テルが、再び時空を歪ませるようなことがないよう、厳しく監視しますわ!」
こうして、テルたちは、デンボク団長への報告を終え、未来の危機とヒスイの歴史が複雑に絡み合った、新たな調査任務へと向かうことになった。
デンボク団長への報告を終えたテルたち一行。団長は、「未来からの客人」であるヒカリとジュンを、ヒスイの主要な二つの勢力、コンゴウ団とシンジュ団に紹介する必要があると判断した。これは、未来から来た彼らが**「時空の歪み」の象徴であり、彼らの存在がムラの安全**に関わるという認識を共有するためだ。
デンボク団長は、テルたち四人に告げた。
「テル。お前には、この未来の二人を連れて、コンゴウ団とシンジュ団へ挨拶回りに行ってもらう。彼らがムラの脅威ではなく、友好の使者であることを示さねばならん」
「ヒカリとジュンは、未来のポケモンバトルと科学の知識を持つ貴重な人材だ。その知識を、両団の団主に見せ、信頼を得るのだ」
テルは、「わかりました、団長!」と即座に返事をした。
ヒカリは、外交という言葉に反応し、目を輝かせた。
「外交ですわね! 未来のシンオウチャンピオンの付き人として、ヒスイの主要な団主たちとの交渉を行う! ロマンと規律を重んじるわたくしに、うってつけの任務ですわ!」
ジュンは、不満そうな顔をした。「チクショー! 挨拶回りかよ! 罰金100万円だぜ、その退屈な任務に! ロマンはどこにあるんだ?」
「ロマンは、貴方が未来の文明とこの時代の伝統の衝突から生まれる火花に見出すものですわ、ジュン!」ヒカリがピシャリと言い放った。
シマボシ隊長は、口を挟んだ。「テル。くれぐれも、あの二人にムラの機密情報や、ギンガ団の食糧備蓄について話すことのないよう、厳しく監視しろ。特にヒカリ! **『過払い請求』**という言葉は、団主たちの前では決して口にするな!」
テルたちは、まずコンゴウ団の里へ向かった。団主であるセキは、テルの説明を真剣に聞いた後、興味深そうにヒカリとジュンを見つめた。
セキは、ジュンを見て豪快に笑った。「ほう! お前さんが、未来から来た若者か! **『ロマン』**とは、また変わった言葉を使うな!」
ジュンは、セキのロマンへの理解に喜び、声を大にして語った。「そうだぜ、団主! ロマンとは、未来を掴むための熱い魂だ! オレ様は、ロマンのために、時空を超えてまで戦いに来たんだ!」
セキは満足そうに頷いた。「ふむ。力強い魂を感じるな。『時』の流れを重んじる我がコンゴウ団にとって、お前たちの**『未来の知識』は、大いに役立つかもしれん。特に、お前が連れているエンペルト**というポケモン! ポッタイシの未来の姿か、見てみたいものだ!」
ヒカリは、セキの**『未来の知識』**への柔軟な姿勢を見て、すぐに交渉に入ろうとした。
「セキ団主! ありがとうございます! 我々の知識がお役に立てるならば、わたくし、未来の効率的な農作物の栽培技術をご提供できますわ! 代わりに、テルの債務の担保として……」
テルは、ヒカリの口を慌てて塞いだ。「ヒカリ! 債務の話はするな!」
セキは、テルの慌てぶりに、楽しそうに笑った。「ハハハ! テル。未来の友も、賑やかでいいな! 我々コンゴウ団は、時の流れに身を任せる。お前たちのことを信じよう」
次にテルたちは、シンジュ団の里へ向かった。団主であるカイは、静かで思慮深い表情で、テルたちの話を聞いていた。
カイは、ヒカリの顔をじっと見つめ、驚きを隠せない。
「……テル。貴方の横にいるこの娘……顔がよく似ている。まるで、ムラに伝わる古の女性のようだ」
ヒカリは、「遺伝子の繋がり」に敏感に反応した。「やはり! シンジュ団の里にも、わたくしたち親戚のルーツが……!」
ジュンは、少し不満そうに口を挟んだ。「団主、オレ様のロマンも見てくれよ! オレ様のエンペルトが、空間を歪める早業を使えるんだぜ!」
カイは、ジュンを落ち着かせた。「フフ。焦らなくていい、若者。我がシンジュ団は、『空間』を大切にする。貴方たちが『時空の歪み』と共に現れたこと、そして未来の知識を持っていることは理解した」
カイは、ヒカリに向き直り、真剣な眼差しで言った。
「ヒカリ。貴方は、『未来の文明の規律』を重んじていると聞いた。このヒスイの地では、ポケモン図鑑の完成こそが、人とポケモンの間に『新しい空間』を築くための唯一の**『規律』だ。貴方の知識を、その規律の完成**のために使ってほしい」
ヒカリは、**「規律」**という言葉に、深い感銘を受けた。「団主……わかりましたわ! 未来の法ではなく、ヒスイの規律に従います! この時代のトレーナーの規律を、わたくしが守り抜きますわ!」
こうして、テル、ヒカリ、ジュンは、**コンゴウ団の「時」とシンジュ団の「空間」**という、二つの思想を持つ団主たちから、未来の使者として受け入れられたのだった。