険しい道のりを経て、テルたちはついにテンガンざんの頂上、シンオウ神殿へとたどり着いた。
古の神殿は、時空の裂け目から漏れ出す紫の光と、不気味な空間の歪みに包まれていた。空気は重く、ポケモンたちの威圧感が肌を刺す。
そして、神殿の最奥。崩れかけた祭壇の中央に、一人の男が立っていた。
ウォロ。かつてのイチョウ商会の行商人は、今は古代の装束を纏い、その手にテルがかつて集めたはずの全てのプレートのレプリカを掲げていた。彼の瞳は狂気的な光を帯び、その周囲にはプレートの力を無理やり引き出したような不穏なエネルギーが渦巻いていた。
「……ウォロ!」テルが強く呼びかけた。
ウォロは、テルたちの姿に気づき、静かに振り返った。その顔には、かつての穏やかな笑顔の欠片もなく、邪悪な野心だけが張り付いていた。
「ああ、テルさん。やはり、あなたは来ましたか」ウォロは、テルたちが来ることを予期していたようだった。
「そのプレートは、どうした? なぜ、そんな不自然な力を」テルは、ウォロの持つプレートのレプリカから放たれる歪んだエネルギーに警戒した。
ウォロは、テルが持つ本物のプレートに視線を移し、渇望を滲ませた。
「ふふ。それは私が**『創りし者』の計画**を先読みし、自らの手で複製したものですよ。ですが、レプリカでは、真の創造の力は引き出せない。やはり、**本物の『魂の欠片』**は、あなたが持っている」
ウォロは、テルを指さし、その声は歓喜に震えていた。
「テルさん! あなたは、時空を越えた『鍵』であり、全てのプレートを手に入れた『選ばれし者』です! あなたの『世界を創りし者』への強い想いこそが、アルセウスをこのシンオウ神殿に降臨させるための、最後のトリガーとなる!」
ヒカリは、ウォロの狂気的な計画に、憤りを隠せない。
「世界の創造の力を、貴方のような独善的な人間が手に入れるなど、断じて許しませんわ! 貴方のやっていることは、未来のギンガ団と何ら変わりませんわよ!」
ウォロは、ヒカリを冷たい目で見下ろした。
「未来のギンガ団? 感情のない世界を創ろうとした、あの矮小な連中と、私を一緒にするのはやめていただきたい。私の目的は、世界を創り変えることではない。**『創りし者』**の隣に立ち、世界が創られる瞬間を体験し、その全てを己の手に収めること! これこそ、究極の探求、真のロマンですよ!」
ウォロは、ジュンがいつも口にする**『ロマン』**という言葉を、悪意を込めて用いた。
ジュンは、自分の**『ロマン』が、ウォロの邪悪な野望**に利用されたことに激昂した。
「チクショー! ロマンを汚すな、ウォロ! お前のロマンは、自己満足の独りよがりだ! 罰金1億万円だ! 世界の創造を、お前なんかに汚されてたまるか!」
ショウは、ウォロの変貌した姿に、悲しみと怒りを滲ませた。「ウォロさん……どうして、そんな恐ろしいことを……!」
テルは、プレートを握りしめ、ウォロの前に立ち塞がった。
「ウォロ。貴方を、ここで止めなければならない。アルセウスを呼ぶのなら、俺が、このヒスイの歴史、そして未来を守るために、貴方と戦う!」
ウォロは、テルに微笑みかけた。その笑顔は、かつてイチョウ商会で見せていた、人懐こい笑みと酷似していた。
「ふふふ。そうこなくては。テルさん。時空を超えた『鍵』よ。さあ、私とポケモンバトルをしましょう。そして、全てのプレートを私に渡しなさい! それが、アルセウスへの最後の献上物となる!」
シンオウ神殿。時空の歪みが渦巻くその場所で、世界の運命をかけた、テルとウォロの宿命の対決が、今、始まろうとしていた。
シンオウ神殿の祭壇で、テルとウォロの宿命の対決が始まった。ウォロは、テルが持つ本物のプレートを手に入れるため、容赦のない攻撃を仕掛けてきた。
「さあ、テルさん! 私の探求心に応えてください! あなたの力を、全て見せていただきましょう!」ウォロは、狂気に満ちた笑みを浮かべた。
テルは、未来の相棒であるジュンとヒカリに目を向け、決意を新たにした。
「行くぞ! ジュン、ヒカリ! お前たちの御三家の力を、今こそ見せてやれ!」
ジュンは、すぐさまエンペルトのボールを投げた。「行くぜ、エンペルト! ロマンの皇帝の力を見せてやれ! 早業の『アクアジェット』だ!」
ヒカリも、ドダイトスのボールを構えた。「ドダイトス! 大地と知識の力を! **『リーフストーム』**で攻めるのですわ!」
テルは、自身が未来で育てたゴウカザルを繰り出した。「ゴウカザル! 未来の炎を見せてやれ! 力業の『フレアドライブ』!」
シンオウ地方の三体の御三家の最終進化形が、現代の最強の力としてウォロに向かって襲い掛かった。
しかし、ウォロは余裕の笑みを崩さない。彼は、レプリカプレートを掲げ、不気味な呪文のような言葉を口にした。
「ふふふ……素晴らしい。ですが、神の創造の力の前では、その程度の力は無力ですよ」
ウォロが構えたボールから現れたのは、異形の影。それは、テルが過去に鎮めたはずの、反物質の世界を司る伝説のポケモン、ギラティナだった。
「ギラティナ!?」テルは愕然とした。
ウォロは冷酷に指示を出した。「ギラティナ! 御三家など、反転世界の力で塵と化せ! 『シャドーダイブ』!」
ギラティナは、一瞬で影の中に潜り込み、次の瞬間、ゴウカザル、エンペルト、ドダイトスの足元から現れた。その反物質的な力を込めた一撃は、あまりにも強力だった。
ドガァン!
三体の御三家は、現代の最強の力をもってしても、ギラティナの容赦ない攻撃の前に、為す術もなく戦闘不能に陥った。
ジュンは絶望した。「うそだろ……! ロマンの皇帝が、一撃で……!」
ヒカリは、未来のポケモンバトルの常識が通用しない神話的な暴力に、震え上がった。「この力……! 未来のシンオウチャンピオンも、この力には敵いませんわ!」
ウォロは高笑いした。「ふふふ。どうです、テルさん。神話の力の前では、未来の文明も最高のパートナーも、全て無力でしょう? さあ、プレートを渡しなさい!」
ウォロが勝利を確信し、本物のプレートを要求した、その時だった。
崩れかけたシンオウ神殿の祭壇の上空が、突如として黄金の光に包まれた。
その光の中から、純白の体と黄金の環を持つ、伝説の中の伝説のポケモン、アルセウスが静かに姿を現した。
「クオオオオオオオオ……」
アルセウスの創造の威厳を帯びた鳴き声は、時空の歪みをも鎮めるかのような、絶対的な静寂を神殿にもたらした。
ウォロとギラティナは、その降臨に、驚きを隠せなかった。
「ア、アルセウス……! 私の野望に応えて、ついに……!」ウォロは、驚愕と歓喜が入り混じった表情で、震える声を出した。ギラティナもまた、創造主の降臨に、一瞬動きを止めた。
しかし、アルセウスはウォロに視線を送ることはなかった。アルセウスの目は、テルと、彼が持つプレート、そして時空の裂け目に向けられていた。
その直後、アルセウスの強い意志の力に応えるかのように、テルの持っていたモンスターボールが、自らの意志で弾けた。
白銀の咆哮と共に現れたのは、時間の神、ディアルガ。
淡紅色の輝きと共に現れたのは、空間の神、パルキア。
ディアルガとパルキアは、創造主であるアルセウスの傍に立ち、ギラティナを挟むようにして、互いに強大な力をぶつけ始めた。
ディアルガが放つ時間軸の歪みと、パルキアが放つ空間軸の断絶。
二神の力がギラティナの反物質の力と対立し、神殿の上空の時空の裂け目は、制御不能な規模へと拡大していった。
ドオオオオオオオオン!!!
時間と空間、そして反転世界のエネルギーが衝突した瞬間、シンオウ神殿を覆う時空の裂け目は、ヒスイ全土を飲み込みかねないほどの、巨大な穴へと変貌した。
テルは、神々の戦いが、世界を崩壊の危機に晒していることを理解した。彼の**『空白の旅』**は、世界の創造と崩壊という、究極の局面を迎えたのだった。