シント遺跡の祭壇で、テルが**「世界の調和」を願う強い意志を集中させ、プレートの力を解放した瞬間、祭壇の上空に集まった神々しい光**が、制御不能なエネルギーの奔流へと変わった。
「クオオオオオオオオ!!!」
遥か上空の時空の裂け目の先から、アルセウスの怒りにも似た咆哮が響き渡った。その声は、テルたちの意識を根底から揺さぶる、創造主の絶対的な力だった。
アルセウスの叫びに呼応するように、空間は時間の奔流に飲み込まれた。
「グガアアアアア!!!」
ディアルガの咆哮が響き渡り、周囲の時間が加速と減速を繰り返し、テルたちの体が不規則な振動に襲われた。
「ヴァアアアアア!!!」
パルキアの雄叫びが空間を切り裂き、シント遺跡の全てが歪み、景色が万華鏡のように粉砕されていく。そして、反転世界からも、異様な叫びが重なった。
「ギュラララララ!!!」
ギラティナの反物質的な叫びが、時間と空間の調和を乱し、時空の裂け目は、ヒスイと未来、そして別次元をも繋ぐ、巨大なワームホールへと変貌した。
テル、ヒカリ、ジュン、ショウ、そして……ウォロ。神殿に居合わせた者たちは、三神の制御不能な力の奔流に、為す術もなく巻き込まれた。
「キャアアアア!」ヒカリは、空間の法則が崩壊していく恐怖に、悲鳴を上げた。
「チクショー! これが神話のロマンの最終形態か! 罰金1億万円だぜ、この強すぎる時空の歪みに!」ジュンは叫びながら、エンペルトを抱きしめた。
ショウは、テルにしがみつき、強く目を閉じた。「テルさん! 私たち、どこに……!」
ウォロは、その制御不能な力の奔流に、歓喜と絶望を同時に感じていた。「アルセウス! 私の探求心に応えるには、強大すぎたようですね……!」
意識がブラックアウトする直前、テルは、アルセウスの**「調和を学ぶべし」**という、最後のメッセージを聞いた気がした。
次に彼らが意識を取り戻したのは、石の床の上だった。
テルは、ゆっくりと目を開けた。そこは、先ほどまでいたシント遺跡とは、明らかに異なる場所だった。
周囲には、古代の石造りの建造物が残っているが、ヒスイの遺跡とは様式が違う。空は青く澄み渡り、時空の裂け目の影は消えていた。
「ここは……」
ヒカリが、地面に散らばったヒスイの調査服の切れ端と、古代の石の文様を見て、顔面蒼白になった。
「テ、テル! ここは……アルフの遺跡に似ていますが、ヒスイの遺跡ではない! この石造りの様式と、周囲の自然の風景……私たちが未来のシンオウで訪れた、ジョウト地方の……!」
ジュンは、辺りを見回し、背後にある巨大な木組みの家屋を見て、驚愕の声を上げた。
「ま、まさか! ジョウト地方か!? 未来のシンオウから、さらに遠い過去に飛ばされたのか!?」
そして、最も驚くべきは、彼らのすぐ傍で、咳き込んでいる人物がいたことだ。
「ゴホッ……! 時空の奔流とは、予測不能ですね……」
それは、ウォロだった。彼は、自身の野望の失敗を悔やみながらも、時空を超えた現象に、科学者としての興味を抑えきれない様子だった。
そして、ショウも、ヒスイの服を着たまま、呆然と周囲を見渡していた。
テルは、立ち上がり、広大な遺跡の交差点を見渡した。ジョウト地方のシント遺跡。そこは、三神の調和と創造の神話が交差する、時空の交差点だ。
アルセウスは、ヒスイの時空の歪みを修復するため、彼らを神々の力が調和する、この場所へと強制的に転移させたのだろう。そして、ウォロとショウまでも巻き込んで。
「ここは……ジョウトのシント遺跡だ。ウォロ……貴方も一緒か」
テルは、時空の奔流によって、ヒスイの調査隊、未来の来訪者、そして悪の野望を抱く者が、ジョウトの地で新たな運命を共有することになった、時空を超えた旅の新たなステージの始まりを悟った。
ジョウト地方のシント遺跡に強制転移させられたテル、ヒカリ、ジュン、ショウ、そしてウォロ。彼らの眼前には、ヒスイの原始的な風景とは全く異なる、未来の文明へと一歩近づいた、ジョウト地方の広大な自然が広がっていた。
ヒカリは、ジョウト地方の遺跡に立っているという事実に、頭を抱えた。
「ま、まさか! ジョウト地方ですって!? 私たちの未来では、シンオウ地方の遠い南西に位置する地域ですわ! 時空の奔流は、私たちを時代だけでなく、場所までも移動させたのですの!?」
ジュンは、ジョウト地方のポケモンや風景に、目を輝かせていた。
「チクショー! ジョウトだぜ! 金銀のロマンが詰まった場所だ! 罰金100万円だ、この予想外のロマン溢れる展開に!」
ショウは、全く知らない土地に放り出された恐怖で、テルの後ろに隠れていた。「テ、テルさん……ここ、ヒスイじゃないですよね? 私たち、どうなっちゃったんですか……」
ウォロは、地面に描かれた三神の紋章を熱心に調べながら、冷たい笑みを浮かべた。
「ふふふ。これは面白い。アルセウスは、私たちを**『時空の調和』が最も必要とされる場所に送り届けたようですね。このジョウトのシント遺跡は、創造主の力の交差点……神の御業が、シンオウとジョウトという異なる地方**を結びつける場所です」
テルは、事態を冷静に把握しようとした。ヒスイとは全く異なる空気、服装、そしてポケモン。彼らは、未来へ帰るどころか、ヒスイの過去から**さらに別の過去(未来から見れば過去)**の地方へと転移してしまったのだ。
「ヒカリ。ここはジョウト地方なのか。君の知っている未来の歴史の中で、この時代はいつ頃になる?」
ヒカリは、持っていた未来の地図(シンオウ地方のものだが、周辺情報も含む)を取り出し、周囲の地形と照らし合わせた。
「ヒスイから見てどれほどの未来かは不明ですが、このシント遺跡の存在と、ジョウト地方の自然から察するに、少なくともヒスイの時代から数百年は経過していますわ。ですが、まだ電化製品や自動車のない、原始的な文明の段階ですわね」
ヒカリは、さらに深刻な事実に気づいた。
「テル! 未来の地図を見てください! ヒスイ地方は、後のシンオウ地方の原型となる単一の土地として描かれています。しかし、ここジョウト地方は、ヒスイとは独立した土地として描かれている……つまり、私たちはヒスイという歴史の渦から、ジョウトという別の歴史の渦に、強制的に放り込まれたのです!」
ジュンは、ヒカリの深刻な分析に、興奮ではなく戦慄を感じた。「チクショー! 別の歴史の渦だと!? ロマンの予測不能すぎるぜ!」
テルは、ウォロを睨みつけた。「ウォロ。貴方も、この予測不能な転移を望んでいたわけではないはずだ」
ウォロは肩をすくめた。「ええ。ですが、『創りし者』の力は、常に私の探求心を満たしてくれます。テルさん。このジョウトのシント遺跡で、私たちはアルセウスの真の意図を知ることになるでしょう。世界を再構築する力は、この遺跡に隠されています」
ショウは、ウォロの恐ろしい言葉に、再び恐怖を感じたが、テルとヒカリの真剣な顔を見て、決意を新たにした。
「テルさん! 私は、どこへ行ってもギンガ団の調査隊員です! この新しい土地のポケモン図鑑を、テルさんと一緒に完成させます!」
テルは、ショウの変わらぬ探究心に、力強く頷いた。
「ありがとう、ショウ。よし。このジョウト地方で、アルセウスのメッセージを解読し、ヒカリとジュンを、そして俺たち全員を、正しい時空に戻す方法を見つけるぞ! ウォロ、貴方は逃がさない!」
ジョウト地方という新たな舞台で、テルたちの時空を超えた旅は、ウォロという危険な同行者を加えて、予期せぬ展開を迎えたのだった。
ジョウト地方のシント遺跡。テルがウォロを牽制すると、ウォロは顔に浮かんだ狂気の笑みを一変させ、人懐こい行商人の顔に戻した。しかし、その目の奥には、依然として底知れない野心が宿っていた。
「逃げませんよ、テルさん」ウォロは、両手を広げ、柔らかな口調で言った。
「むしろ、この予期せぬ転移は、私たちにとって千載一遇の機会です。アルセウスが私たちをこのシント遺跡に連れてきたのは、『世界の再構築』、あるいは**『時空の修復』**の方法が、この地にあるからです」
ウォロは、テル、ヒカリ、ジュン、そしてショウをぐるりと見渡した。
「テルさんはプレートを持っておられ、ヒカリさんとジュンさんは未来の知識を携えている。そしてショウさんはヒスイの調査経験がある。私もアルセウスの神話については誰にも負けない知識がある。どうです? 目的が一致している間は、共闘と行きましょうか?」
ウォロはニヤリと笑みを浮かべた。それは、かつてイチョウ商会の行商人として、テルに**「知識を売る」**時の、油断ならない笑顔だった。
ヒカリは、即座にウォロの提案に反発した。
「共闘ですって!? ふざけないでください、ウォロ! 貴方は世界の崩壊を目論んだ危険人物ですわ! 未来の規律とヒスイの平和に反する、極悪非道なテロリストです!」
ジュンもまた、感情を露わにした。「そうだぜ、ウォロ! お前のロマンは、自己満足で世界の迷惑だ! 罰金1億万円だ! お前と組むなんて、ロマンの哲学に反する!」
テルは、二人の反発を制し、ウォロの目をまっすぐに見つめた。ウォロの提案は、危険極まりないが、この見知らぬジョウトの地で、アルセウスの真意を探るためには、ウォロの知識が不可欠であることも事実だった。
「……いいだろう、ウォロ。一時的な共闘だ。だが、俺たちの目的は、ヒカリとジュンを未来に帰すこと。そして、時空の歪みを修復することだ。もし、貴方が再び世界の創造の力を私的に悪用しようとしたら、その場で貴方を止める」
ウォロは、満足そうに頷いた。「結構。それでこそ、世界の鍵たるテルさんです。さあ、この遺跡のどこかに、三神の調和を司る場所があるはず。夜明け前に、何か手がかりを見つけ出しましょう」
日が沈み、シント遺跡の夜は、不気味な静寂に包まれた。テルたちは、遺跡の一角に火を焚き、警戒しながら夜を過ごすことにした。
ショウは、ウォロの存在に怯えながらも、テルの隣で火を見つめていた。「テルさん、本当にあのウォロさんと一緒で大丈夫なんですか……? あの人は、私たちが知っているウォロさんじゃありません」
テルは、ショウの不安を和らげるように、そっと肩に触れた。「大丈夫だ、ショウ。ウォロが俺たちに敵対すれば、すぐに時空の修復という目的から遠ざかる。ウォロは、目的のためなら手段を選ばないが、目的自体を捨てることはしない。今は、利用できるものは全て利用する」
ヒカリは、ウォロから距離を置き、未来のポケモン図鑑に記録されているジョウト地方の歴史を、何度も確認していた。
「このシント遺跡は、古代ジョウトの伝承でも、**『神々の交差点』**として知られていますわ。時空を超えた転移が、この地で起こったという事実自体が、アルセウスの意図を示している……」
その時、ウォロが不意に口を開いた。
「ヒカリさん。ジョウトの伝承に、『時間の流れを司る祠』についての記述はありませんでしたか? ディアルガの力が、この転移に大きく関与しているはずです」
ヒカリは、ウォロの知識の深さに驚きながらも、その情報を利用した。「……『時の祠』。確かに、エンジュシティという場所の**『やけたとう』**の伝承に、時間の流れを司る伝説が残っていますわ。三体の伝説のポケモンが、雷に打たれた塔から飛び立ったという……」
ジュンは、その伝説のロマンに再び興奮した。「チクショー! 時間のロマンだ! 『やけたとう』! それが次の目的地か! 罰金50万円だ、このゾクゾクする展開に!」
テルは、ウォロの知識が、この見知らぬ土地で羅針盤となり得ることを実感した。
「ウォロ、情報提供、感謝する。次の目的地は、**エンジュシティの『やけたとう』**だ。そこで、時空修復の鍵を見つけ出すぞ。ただし、油断はしない」
テルは、ウォロの**「共闘」の裏に潜む邪悪な野望**に警戒しながら、ジョウトの不穏な夜を、未来への希望に変えることを誓うのだった。