夜が明け、テルたちはジョウト地方のエンジュシティを目指して旅を再開した。彼らは、ウォロの**「やけたとう」に関する情報と、ヒカリの未来の地理情報**を頼りに、見知らぬ土地を進む。
旅の道中、ウォロはテルたちから離れすぎない距離を保ちながら、行商人時代の顔で、積極的にジョウトの神話や古代遺跡について語り始めた。
「エンジュシティは、このジョウト地方でも最も古い歴史を持つ都市の一つです。**『時の流れ』と『魂の循環』に関する伝承が豊富に残っている。特に『やけたとう』**は、時の神ディアルガの力が強く作用した場所だと考えられます」
ウォロは、テルに話しかける口調は丁寧だが、その内容はテルたちを**「やけたとう」へと誘導**しているかのようだった。
ヒカリは、ウォロの言葉を聞きながら、警戒を強めた。「ウォロ。貴方の情報提供は目的があるからでしょう? 『やけたとう』には、貴方の野望に繋がる何かがあるのではなくて?」
ウォロは、肩をすくめて優雅に笑った。「まさか。私の野望は、アルセウスに会うことで、世界の創造の秘密を全て知ること。今は、時空の奔流に巻き込まれた以上、ヒスイに戻り、再びアルセウスを呼ぶしか道はありません。そのためには、時空の歪みを修復し、この転移を理解する必要がある。つまり、あなたの目的と私の目的は、完全に一致しているのですよ、ヒカリさん」
ヒカリは、ウォロの論理的な誘導に反論できなかった。彼の目的が、時空修復という一点においては、テルたちと一致しているのは事実だった。
ジュンは、ジョウト地方で初めて見るポケモンたちに大興奮していた。
「チクショー! 見ろよ、テル! オオタチにレディバだぜ! 未来のシンオウにはいないポケモンばっかりだ! これこそ新しいロマンだ!」
ショウは、テルの隣で、この土地の調査隊員としての使命感を燃やしていた。「テルさん、この地方にもポケモン図鑑を作る必要があると思います! みんな、ポケモンを恐れているというより、敬っているようです」
テルは、周囲のポケモンたちの人間への態度が、ヒスイ時代よりも友好的であることに気づいた。この数百年で、人間とポケモンの関係は、ヒスイの恐怖と共存から、信頼と共存へと進化しているのだ。
「ショウの言う通りだ。この時代のポケモン図鑑を作ることは、ヒスイの歴史の延長線上にある。それが、アルセウスの示した**『調和』**を学ぶことにも繋がるかもしれない」
エンジュシティが近づくにつれて、ウォロはやけたとうの伝説について、核心に触れ始めた。
「『やけたとう』は、過去に落雷で焼失した非常に古い塔です。その時、三体のポケモンが炎の中から飛び出し、伝説のポケモンとなった。それは、この時代の人間が、ディアルガ、パルキア、ギラティナという三神の力を、異なる姿として捉えた記録かもしれません」
ウォロは、テルに意味ありげな視線を送った。
「テルさん。ディアルガの時の力は、三神の調和に不可欠です。『やけたとう』には、その時の力を再び呼び起こすための仕掛けがあるはず。それを起動できれば、シント遺跡で起こった時空の奔流を理解し、ヒスイに戻るためのエネルギー源を掴めるかもしれませんよ」
テルは、ウォロの巧妙な誘導を感じ取りながらも、『やけたとう』が時空修復の鍵であるという確信を強めた。
「わかった、ウォロ。貴方の情報に乗ろう。だが、勝手な行動は許さない。ヒカリ、ジュン、ショウ。やけたとうへ向かうぞ。気を引き締めろ!」
テルたちは、ジョウト地方の歴史に埋もれた神話の交差点、エンジュシティのやけたとうへと、その歩みを進めた。ウォロの邪悪な知識と、テルたちの正しき目的が、時空の謎を巡って、ジョウトの地で交差するのだった。
テルたちは、ついにエンジュシティのやけたとうにたどり着いた。落雷によって屋根が焼け落ち、内部はひっそりと静まり返っていたが、確かに古の力の痕跡を感じさせる場所だった。
ウォロは、塔の最深部へと続く階段を前に、テルに促した。
「テルさん。ディアルガの時の力は、この塔の最奥に眠っているはずです。三神の調和を司る鍵が、きっと見つかりますよ」
その時、ウォロの後ろから、ヒカリが冷たい視線を向けて、静かに言った。
「ウォロ。貴方、私たちに嘘をついていましたわね」
ウォロは、笑顔のままヒカリを振り返った。「おや? ヒカリさん、何のことで?」
ヒカリは、毅然とした態度でウォロに詰め寄った。
「貴方は言いましたわ。この**『やけたとう』の伝説は、ディアルガ、パルキア、ギラティナという三神**を、この時代の人間が誤認した記録だと。そして、ディアルガの時の力が眠っている、と」
ヒカリは、未来のポケモン図鑑に記録された、ジョウト地方の神話の情報を、正確に提示した。
「違いますわ。未来のジョウト地方の伝承によれば、この塔の伝説は、ディアルガ、パルキア、ギラティナとは一切関係ありません!」
ジュンは驚き、目を丸くした。「なんだって、ヒカリ! ロマンを否定するのか!?」
「これは事実です、ジュン!」ヒカリは一喝した。
「この塔は、かつて**『かぜのとう』と呼ばれ、ルギアという伝説のポケモンと共に、この街を見守っていました。そして、落雷で焼失した際、炎の中から飛び立ったのは、炎、雷、水の三体のポケモン。後のスイクン、エンテイ、ライコウという、『伝説の犬ポケモン』**ですわ!」
ショウは、初めて聞く伝説のポケモンの名に、目を輝かせた。「スイクン、エンテイ、ライコウ……! ヒスイにも、似たような伝説が伝わっています!」
ウォロは、ヒカリの**「真実の指摘」に、驚きと賞賛**が入り混じった複雑な表情を浮かべた。
「ふふふ……さすがは未来の知識人。わたくしが、三神の伝説に誘導しようとした意図を、見抜きましたか」
ウォロは、潔く認めた。「ええ、その通り。私は、ジョウトの神話が三神の物語ではないことを、知っていましたよ。ですが、ディアルガの時の力がこのジョウトという場所で時空の歪みを修復する鍵となることは、私の探求の結果、間違いのない真実です」
ウォロは、その理由を説明した。「『やけたとう』の伝説は、『死と再生』の物語。時空を超えた再生の力が、この塔に眠っている。この塔の再生のエネルギーが、ディアルガの時の力を増幅させ、時空の奔流を巻き戻すことができると、私は確信しているのです」
ヒカリは、ウォロの嘘が、真の目的に辿り着くための意図的な誘導だったことを理解した。
「なるほど……。三神の伝説を装い、私たちをここに連れてきたのは、ジョウトの伝承に秘められた**『再生の力』**を、時空の修復に利用するためですわね」
テルは、ウォロの知識の恐ろしさと、目的のためなら手段を選ばない冷酷さを改めて感じた。
「ウォロ。貴方の知識は認めよう。だが、俺たちは、貴方の野望には付き合わない。ヒカリの言う通り、この塔に時空を修復する鍵があるのなら、ウォロの野望ではなく、俺たちの意志で、その力を利用する!」
テルたちは、ウォロの誘導に乗りつつも、真実を見抜いたヒカリの冷静さを武器に、やけたとうの最深部へと、警戒しながら足を踏み入れた。ジョウトの神話と時空修復の鍵が交差する、伝説の塔の探索が、今、始まった。