ウォロの誘導と嘘を見抜いたテルたちは、ヒカリの正確な知識を羅針盤に、やけたとうの最深部へと足を踏み入れた。炎で焼けた塔の内部は、静寂の中にも強い生命の気配が満ちていた。
最奥のフロアは、焼け焦げた壁と、中央にひっそりと佇む古代の祠があるだけの簡素な空間だった。祠には、三体の伝説のポケモン(スイクン、エンテイ、ライコウ)の姿を思わせる紋様が刻まれていた。
ヒカリは、祠の前に立ち、テルに告げた。「テル。これこそが、**『死と再生』のエネルギーを秘めた『時の祠』**ですわ。ディアルガの時の力を、ジョウトの再生のエネルギーで増幅させ、時空の奔流を巻き戻す鍵が、ここにあります」
テルは、祠の前にプレートを掲げた。プレートの力が、祠の紋様と共鳴し、祠全体が淡い緑色の光を放ち始めた。
ウォロは、その光景に歓喜の声を上げた。「ふふふ! やはり、私の探求は正しかった! 再生の力が、時の力を呼び覚ます! テルさん、その時空の鍵を、私に……」
ウォロがテルに一歩踏み出そうとした、その瞬間だった。
祠の緑色の光が、一際強く輝き、その中心から、予期せぬ小さな訪問者が現れた。
小さな妖精のような姿。頭には二枚の羽を持ち、時空を飛び越える力を持つという、幻のポケモン。
セレビィだった。
「キュイー!」
セレビィは、可愛らしい鳴き声を上げながら、祠の上を軽やかに舞った。セレビィの周囲からは、時空の流れが穏やかで安定していることを示す、温かいエネルギーが満ち溢れていた。
テルは、その幻のポケモンの登場に、驚きを隠せない。「セレビィ……! 時を越える力を持つ、森の守り神……!」
ヒカリは、目を輝かせた。「セレビィですわ! 時空を自由に移動できるという、未来のポケモン図鑑にも記録された、幻のポケモン! 彼こそが、時空の歪みを最も理解している存在ですわ!」
ジュンは、神話とはまた違う、可憐なロマンに心を打たれた。「チクショー! 時を旅するロマンだぜ! 小さくて可愛いのに、時空を超越しているなんて! 罰金100万円だ、その神秘的なロマンに!」
ウォロは、セレビィの出現に、驚愕と貪欲な探求心を剥き出しにした。
「な、なんという僥倖だ! セレビィ! 時空の真の支配者! あなたこそが、アルセウスの時空修復の計画における、**『現場監督』**ですか!」
ウォロは、セレビィに一歩近づこうとした。
しかし、セレビィは、ウォロの邪悪な意図を察したように、鋭い視線を向けた。そして、ウォロからテルへと飛び移り、テルのプレートの周りを優しく旋回した。
セレビィは、その時を操る力で、テルに未来のヴィジョン、あるいは時空のメッセージを送り込んできた。
テルは、そのメッセージを受け取り、目を見開いた。
「わかった……セレビィ。時空の扉を開き、未来に戻る方法は、ヒスイで始まった場所に戻ること……!」
セレビィは、「ヒスイに戻ること」が、ジョウトでの時空の旅の最終目標であることを示唆したのだ。そして、そのヒスイへの扉は、セレビィの力と、テルの強い意志、そしてプレートの調和によって開かれる。
セレビィは、テルたちに最後のメッセージを送った後、祠の上に留まり、強烈な緑色の光を放った。
光が、テルたち全員を包み込んだ。
「さあ、テル! 時空の扉が開くわ! 未来への帰還、そしてヒスイの修復を果たすのですわ!」ヒカリが叫んだ。
ジュンも、ロマンの光に包まれながら、興奮を隠せない。「行くぜ、テル! ロマンの旅のフィナーレだ!」
ウォロは、光の中で、最後の悪あがきをするかのように、テルを睨みつけた。「テルさん! 時空の鍵は、私一人のものでなければならない! 世界の創造は、私の探求でなければならない!」
セレビィの導きにより、テルたちは、ジョウト地方のシント遺跡から、時空の奔流に乗って、再びヒスイ地方へと戻るための、最後の転移を試みたのだった。
セレビィの導きによる緑色の光が収束したとき、テルたちは再びヒスイ地方の空気を感じていた。
目の前に広がるのは、見慣れたテンガンざんの険しい山肌。そして、彼らが転移させられる直前までいた、シンオウ神殿の崩れかけた祭壇だった。上空には、いまだ時空の裂け目が不気味に口を開けているが、その歪みは以前よりも小さくなっている。
「戻った……! ヒスイだ!」ショウは、見慣れた故郷の景色に、安堵の息を漏らした。
ヒカリは、安堵しながらも、すぐに周囲を確認した。「セレビィの力で、時空の奔流は修復されつつあるわ! でも、まだ完全に歪みが消えていない。私たちは、時空の修復を完了させる、最後の試練にいるのですわ!」
ジュンは、自分の足元を見つめ、大声で叫んだ。「チクショー! ジョウトからヒスイへ、一瞬で戻ってきたぜ! これこそ時空を超越するロマンだ! 罰金1億円だぜ、この神業的転移に!」
そして、彼らの傍には、顔に屈辱と怒りを浮かべたウォロが立っていた。ウォロは、自身の野望の道筋が、アルセウスとセレビィによって捻じ曲げられたことに、激しく憤慨していた。
「くそっ……! 時を越える力が、こんな矮小な精霊の手に……! しかし、テルさん! あなたのプレートと強い意志こそが、この時空の修復を完了させる真の鍵であることは、わかっています!」
ウォロは、テルに猛然と詰め寄った。その瞳には、世界の創造への最後の渇望が宿っていた。
「世界の創造の力は、私のような探求者こそが手にするべきだ! テルさん! 時空の修復も未来への帰還も、全てを賭けて、最後の決着をつけましょう!」
テルは、プレートを胸に強く押し当て、ウォロの邪悪な意志に正面から立ち向かった。
「ウォロ。貴方の探求心は、ヒスイの悪意そのものだ。貴方は、時空の歪みを利用し、世界を破壊しようとした。俺は、このヒスイの仲間と、未来の仲間、そして世界の調和のために、貴方を止める!」
その時、時空の裂け目から、ウォロの最後の切り札であるギラティナが、再び姿を現した。神殿全体が、反物質的な力に包まれ、激しく振動する。
ヒカリは、最後の力を振り絞り、テルにアドバイスした。
「テル! 時空の歪みは、ウォロの邪悪な意志とギラティナの反転世界の力が源ですわ! プレートの調和と、私たちの『未来への帰還』という強い意志で、その歪みを打ち消すのです!」
ジュンもまた、真剣な顔で叫んだ。「そうだぜ、テル! オレ様のロマンは、正しい時空に戻って、チャンピオンになることだ! 未来は、お前とオレ様のロマンで決めるんだ!」
ショウは、テルの隣で、決意を込めた眼差しでギラティナを見つめた。「テルさん! 私たちは、ヒスイで生きる! この故郷を、ウォロさんに壊させません!」
テルは、プレートの全ての力を解放した。プレートは、虹色の光を放ち、ディアルガとパルキアの力が残るシンオウ神殿全体を包み込んだ。
「ウォロ! 俺の**『調和の意志』で、貴方の歪んだ野望**を、正しい時空から消し去る!」
テルとウォロの最後のポケモンバトルが、時空の裂け目が残るシンオウ神殿で、今、始まろうとしていた。