遠き郷から来たシンオウチャンピオン   作:gp真白

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新たな相棒と決意

 

テルはナナカマド博士に頭を下げた。 

 

「博士、ありがとうございます。一つお願いがあります」

 

「なんだね?」

 

「この図鑑は、誰にも見られてはいけないものです。ヒスイのすがたのポケモンや、そこに記録された情報の全てが、現代の常識からかけ離れすぎている。もし不用意に公になれば、また大きな騒動になりかねません」

 

テルは、神話のポケモンたちとの繋がりや、チャンピオンとしての失踪の噂で既に大混乱している現状を思い、警戒を強めた。

 

「なので、申し訳ありませんが、今持っている図鑑と、まっさらな新しい図鑑を交換していただけませんか? 図鑑の情報はポケモンセンターのパソコンに全て記録されていますから、調査に支障はありません」

 

ナナカマド博士は、図鑑を手に取りながら、複雑な表情を浮かべた。

 

「そうか。本当に良いのかね? 君がチャンピオンとして、どれほどの情熱と時間をかけて完成させた、唯一無二の記録だぞ」

 

「今回ばかりは仕方ありません」テルは断固として言った。「この図鑑が何かのきっかけで見られてしまっては、すべてが台無しになってしまいますから」

博士はテルの真剣な眼差しを受け止め、深く頷いた。

 

「よかろう。君の判断を尊重する。この図鑑はわしが厳重に保管しておこう。……代わりに、新品の図鑑だ」

 

博士から受け取った新しい図鑑は、テルが以前使っていたものと全く同じ型だが、白紙のように何も記録されていなかった。

 

テルは安堵のため息をつき、続けて博士に旅の体制について相談した。

 

「それと、旅のポケモンですが、ムクホークと、ヒスイから連れてきた仲間たちで進めようと思います。ヒスイの仲間たちは目立ちますから、ポケモンセンターに入るたびにローテーションで入れ替え、人目を避けていきます」

 

「良いだろう、賢明な判断だ」博士は目を細めた。「さて、そのヒスイの仲間が五匹。そして空を飛ぶムクホークで合計六匹か。……いや、待てよ」

 

博士はにやりと笑い、テーブルの上に三つのモンスターボールを並べた。

 

「テル君。君がこのシンオウで最初に出会った相棒は、ヒコザルだったね。だがあのムクホークとは別に、もう一匹、新たな相棒を一から育ててみるのはどうだ? 新しい図鑑で、新しい記録を作っていくのも、また一興ではないかね?」

 

テルはボールをじっと見つめた。ヒコザル、ナエトル、ポッチャマ。シンオウ地方で旅立つ者たちが最初に選ぶ御三家だ。

 

「ナエトルとポッチャマ、か……」

 

テルは過去の記憶を辿った。

 

(確か、ナエトルはドダイトスに進化して、大地を背負う姿が一部の**"逆張り厨"**と呼ばれるトレーナーたちに特に好まれていたんだっけか。最初の相棒として選ぶことで、他の大多数と違うという優越感を得やすいと……)

 

(ポッチャマは、**『ポッチャマファンクラブ』**という、ポケモン大好きクラブの中でも特に結束力の高い、ポッチャマを愛する集団があると聞いている。熱狂的な人気を持つ、少し手のかかるポケモン)

 

テルは苦笑した。この数ヶ月間で、自分はそんな世間の知識まで身につけていたのだ。実際、パソコンの中にはチャンピオンとして育てたであろう、逞しいドダイトスもエンペルトも記録されている。

 

「うーん……」

 

テルはナエトルのボールを手に取ったが、すぐに戻した。逆張りもファンクラブも、今の自分の目的とは少しずれている。しかし、新しい相棒を持つなら、直感で決めたい。

 

「決めました、博士」

 

テルは一番左にあった青いボールを手に取った。

 

「今回は、ポッチャマを選んでみようかな」

 

テルはボールを握りしめた。ポッチャマの持つ、自信家で少し不器用な可愛らしさ。彼の失われた記憶と、謎の失踪という重いテーマを抱える旅に、新しい風を吹き込んでくれるかもしれない。

 

ナナカマド博士は嬉しそうに頷いた。

 

「そうか! ポッチャマに決めたか! よし、テル君。新しい相棒と、新しい図鑑と共に、もう一度このシンオウ地方を旅立つのだ! 健闘を祈る!」

 

テルはポッチャマのボールを手に持ち、研究所の広い庭に出た。

 

「新しい相棒だ。よろしくな、ポッチャマ!」

 

ボールを開けると、小さなペンギンポケモンが、元気いっぱいに飛び出してきた。ポッチャマは一度辺りを見回した後、**「ポチャマ!」**と胸を張り、自信満々でテルを見上げた。「どうだ!俺様こそが相棒にふさわしいだろう!」と言わんばかりの態度だ。

 

(確かに、この自信満々なところは、噂通りだな)

 

テルは思わず笑みをこぼした。彼の重すぎる旅の雰囲気を、この小さな相棒が少し和らげてくれそうだ。

 

テルは、他の仲間たちにも挨拶させようと思い立ち、ポッチャマに声をかけた。

 

 

「ポッチャマ、俺の旅の仲間たちだ。みんなにも挨拶しておこう」

 

そう言って、ヒスイの姿のバクフーン、ゾロアーク、ダイケンキのボールを一気に開けた。

 

青白い炎を揺らすバクフーン。銀色の毛皮を持つゾロアーク。そして、荒々しい水流を纏うダイケンキ。ヒスイの仲間たちは、現代のポケモンとは明らかに異なる、オヤブンにも通じる迫力を纏っていた。

 

ポッチャマは、その三体の威圧感に、**「ポチャッ!?」**と驚きの声を上げた。そして、一瞬で顔面蒼白になり、自慢の胸を張るどころか、慌ててテルの足元、彼の後ろ側に身を隠してしまった。

 

(ああ、しまった)

 

テルは内心で反省した。ヒスイでは日常の光景だったが、現代の、しかも旅立ったばかりのポッチャマには刺激が強すぎたようだ。

 

「すまない、ポッチャマ。驚かせたな。みんな、ボールに戻ってくれ」

 

テルは優しく声をかけ、他のポケモンたちをボールに戻した。

 

「ま、挨拶は早いに越したことはないだろう」と、テルは自分を納得させた。

「おお! いかんいかん!」

その様子を見ていたナナカマド博士が慌てて駆け寄ってきた。

 

「テル君、それはまずい。そのボール、君が持っているのは昔ながらの製法で作られたものだろう? そのままでは、最近のモンスターボールを当てられてしまうと、きみのポケモンが他人に捕まえられてしまいかねん!」

 

博士の言葉に、テルははっとした。現代のモンスターボールは、ポケモンを安全に収納し、持ち運びを便利にするための道具。しかし、ヒスイ時代の手作りボールとは構造も安全性も根本的に違う。

 

「そうか! 危ないところでした!」

 

「うむ。特にヒスイの仲間たちは、目立つ上に強すぎる。不用意に盗まれるような事態は避けねばならん。よし、彼らを最新式のモンスターボールに移し替えよう!」

 

テルはポッチャマを一旦戻し、ヒスイのポケモンたちを順次、博士が用意した新品のハイパーボールやスーパーボールへと捕まえ直した。

 

カチリ、と、ヒスイのゾロアークが新しいボールに収まった瞬間、テルが持つ新品のポケモン図鑑が、警告音と共に激しく点滅し始めた。

 

画面には、大きな**『ERROR: 番号外のポケモンを確認』**という文字が表示されている。

 

「これは……」

 

博士が覗き込む。

 

「やはりな。ヒスイのポケモンたちは、このシンオウ図鑑に記録されている番号の枠外にある存在ということだ。一種の時空の異物として認識されている。そのエラー表示が、君の旅の危険性を示しているようにも思えるな」

 

テルはエラー画面を閉じ、図鑑を胸に抱きしめた。このエラーこそが、彼が時を越えてきた何よりの証明だ。

 

「わかりました。ヒスイの仲間たちのボールは、常に肌身離さず持ち歩くことにします」

 

「うむ。さて、次の目的地は?」

 

「はい。まずは、この現代の旅の必需品であるポケッチを確保したい。旅立つ前にも使っていたはずですから。……コトブキシティのポケッチカンパニーへ向かいます」

 

テルはナナカマド博士に深々と頭を下げ、ポッチャマのボールを手に取った。

「博士、ありがとうございました。行ってきます」

 

「うむ! 無事を祈る! ポッチャマと共に、失われた道筋を、もう一度見つけてくるのだぞ!」

 

テルはポッチャマを連れ、一路、シンオウ最大の都市、コトブキシティへと向かって歩き出した。彼の「空白のシンオウ再調査」は、新たな相棒と、時空のエラーを抱えた図鑑と共に、本格的に始まった。

 

テルはポッチャマのボールを胸に抱き、博士に深々と頭を下げた。シンオウリーグのチャンピオン、そして時空を旅した開拓者テルが、新たな相棒ポッチャマと共に、失われた記憶とシロナの行方を追う旅が、今、始まる。

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