遠き郷から来たシンオウチャンピオン   作:gp真白

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チャンピオンの責務と、四天王の策略

 

激戦の末、ジュンとのチャンピオン防衛戦を制したテルは、安堵の息をついた。これでシンオウチャンピオンとしての責務を果たし、ようやくショウの身柄についてシロナと腰を落ち着けて話せると思った。

 

「シロナさん。防衛戦、ありがとうございました。これで落ち着いて、ショウのことを……」

 

テルが切り出すと、シロナの目の色が変わった。その瞳は、戦闘狂としてのそれではなく、古代のロマンを追い求める研究者の輝きだった。

 

シロナ:

「そうよ、テル! あなたは先にそのことを話すべきだったわ! ヒスイ時代の調査隊員が現代にいるんですって!? ナナカマド博士の極秘報告では、時空の歪みに巻き込まれた**『謎の少女』**としか聞かされていなかったわ!」

シロナは、一気に探究心を爆発させた。

 

シロナ:

「ヒスイの調査服! ポケモン図鑑への情熱! ギンガ団の団長をナナカマド博士と誤解しているというその状況! これは歴史学、考古学、そしてポケモン研究において、究極のロマンよ!」

シロナは、テルの報告を待たず、腰につけたボールからトゲキッスを繰り出した。

 

シロナ:

「テル! あなたの自宅の住所は覚えているわね。私は今すぐあなたの家に向かい、その少女とじっくり話をする必要があるわ! トゲキッス! 行くわよ!」

シロナは、テルに**「トゲキッスに乗りなさい」という暇さえ与えず、「それを先に話しなさい!」と言わんばかりの勢いで、トゲキッスの背に乗ってフタバタウン**目指し、光速で移動してしまった。

 

テル:

「え、ちょっ……シロナさん!? ショウの保護責任が……!」

テルが慌ててシロナを追いかけようと一歩踏み出した、その時だった。

【四天王の笑顔と、チャンピオンのデスクワーク】

残された四天王四人が、テルを囲むようにして立ちはだかった。全員が、にこやかな笑顔を浮かべている。

 

オーバ:

「よお、チャンピオン!」

リョウ:

「防衛、お見事だったね!」

キクノ:

「あんたのヒスイのポケモン、強かったよ!」

ゴヨウ:

「素晴らしい戦闘でしたよ、テル君。感動で私の知的な涙腺が緩みそうになりました」

テルは、四人の満面の笑みに、嫌な予感を覚えた。

テル:

「あ、ありがとうございます……でも、シロナさんを追わないと。ショウのことで、また何かやらかす気がします」

オーバ:

「ははは! シロナさんがロマンに夢中になったら、もう誰にも止められねえよ! トゲキッスに乗って行ったってことは、諦めろってことさ!」

リョウ:

「それより、チャンピオン。あなたの不在で、ポケモンリーグの事務作業が山積みなんだよ」

ゴヨウが、**「知的な笑顔」**をさらに深めて、背後に隠していたものをテルに見せた。

 

ゴヨウ:

「ご覧なさい。これは、あなたが時空の奔流に巻き込まれ、長期不在だった間に溜まってしまった、チャンピオンとしての裁決が必要な文書の山ですよ」

そこには、リーグの運営費の決済書類、ジムリーダーの休暇申請書、挑戦者のライセンス更新書類、そして未だに決まらないフロンティアブレーン人事案など、テルの背丈ほどもある書類の山があった。

 

キクノ:

「時空を救うのはチャンピオンの仕事だが、リーグを回すのもチャンピオンの仕事さ。さあ、チャンピオン。防衛戦、頑張れよ!」

四天王は、テルに書類の山を押し付けると、満足そうな笑みを浮かべ、それぞれの持ち場へと戻っていった。

 

テル:

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 時空を超えて旅をした俺の休暇は!? 英雄の待遇は!?」

 

オーバ(去り際に):

「時空を救った英雄なら、デスクワークも力業でやれるだろ? じゃあな!」

 

ゴヨウ(振り返って):

「ええ、インテリジェンスで処理なさい、テル君。インテリジェンスで早技を行使すれば問題ないさ」

 

こうして、時空を救い、チャンピオンを防衛した英雄・テルの**「空白の旅」の真の終着点**は、ポケモンリーグの薄暗い事務室で、終わりの見えない書類の山と格闘する、孤独なデスクワークとなったのだった。

 

テル:

「……チクショー。ウォロとの戦いより、こっちの方が現実的にきつい……!」

 

テルは、ヒスイの力と**『調和の意志』を事務処理**に活かそうと、四天王に仕組まれた過酷な試練に立ち向かうのだった。

 

 

シロナがトゲキッスでフタバタウンに到着したのは、テルがポケモンリーグで書類の山に埋もれてから、わずか数十分後のことだった。テル母の包容力のおかげで、ショウはリビングで大人しくお茶を飲んでいた。

 

シロナは、玄関の扉を開けるなり、ショウの姿を見て目を釘付けにした。

シロナ:

「……完璧だわ。まさか、ヒスイの調査隊員がこの時代に。これは古代研究における生きた文献よ!」

ショウは、シロナの圧倒的なオーラに、ナナカマド博士とはまた違う別種の威圧感を感じ、椅子から飛び上がって直立した。

 

ショウ:

「あ、あの……! お、お姉さま! 私はギンガ団調査隊員のショウであります! デンボク団長のお手伝いに参りました!」

 

シロナ:

「さあ、ショウ! 遠慮はいらないわよ。まずは、あなたがヒスイで体験した全てを、時間軸、地理情報、そしてポケモンの生態を含めて、全てレポートとして記録するわ!」

 

シロナは、持参していた分厚いノートと高級万年筆を取り出し、まるで歴史の証人を前にしたかのように、熱心にショウに問いかけ始めた。

 

シロナ:

「まず、時空の裂け目は何色の光を放っていた? ディアルガとパルキアが衝突した際の空間の歪みは、幾何学的だった? それとも有機的?」

 

ショウ:

「え、ええと……虹色で、空間の歪みは万華鏡のように粉砕されたように見えましたであります!」

シロナは、スマホロトムを取り出すと、ショウの全身にレンズを向けた。

 

シロナ:

「よし、次に最も重要なことよ。そのヒスイの調査服を、前後左右、そして袖口の縫製まで、全て写真に収める必要があるわ!」

 

ショウ:

「ひゃっ! お、お姉さま、写真とは一体……!? 服を脱ぐのでありますか!?」

 

シロナ:

「脱ぐ必要はないわ! 服を着たまま、私が360度、ローアングルからも撮るから、そのまま立っていてちょうだい! これは歴史的資料よ!」

 

カシャ! カシャ! カシャ!

シロナは、興奮した研究者そのものの表情で、ショウの調査服をあらゆる角度から撮影しまくった。ショウは、デンボク団長(ナナカマド博士)の命を受けた立派な女性からの命令だと信じ、恥ずかしがりながらも直立不動で耐え続けた。

 

そこに、ショウのおしゃれ修行を終え、自宅から様子を見に来たヒカリが、リビングの扉を開けて入ってきた。

 

ヒカリは、シロナがショウを完全に着せ替え人形扱いし、調査服をパパラッチのように撮影している光景を目撃し、思わず絶句した。

 

ヒカリ:

「……シロナさん!」

ヒカリは、チャンピオンという立場は一時忘れ、年上の友人として、シロナに容赦ないツッコミを入れた。

 

ヒカリ:

「気持ちはわからないこともありませんが、流石に容赦無いですわよ、シロナさん! 彼女は**『生きた研究資料』**である前に、**時空を超えて迷い込んできた『人間』**ですわ!」

 

シロナ:

「何を言うの、ヒカリ。これは歴史の記録よ! この調査服の素材、縫い目、そして汚れの付き方……数百年の歴史が凝縮されているわ! テルがリーグで事務処理している間に、私たちは真の学術的貢献をしているのよ!」

 

テル母:

(お茶を飲みながら)「あら、シロナちゃんもショウちゃんの服に夢中なのね。みんな、おめかしが好きでよかったわ。さあ、ハイアングルから撮るなら、この踏み台を使うといいわよ」

 

テル母までシロナの学術的暴走に協力し始めた光景に、ヒカリは頭を抱えた。

 

ヒカリ:

「お母様まで! もう、誰も止められませんわね……! テル! 早く書類を片付けて戻ってきてください! ショウさんが学術的な好奇心に**潰されちゃいますわ!」

 

こうして、現代のシンオウに迷い込んだヒスイの調査隊員・ショウの新たな試練は、ヒカリの予想を超えた容赦のない『学術的興味』の対象となることから始まったのだった。

 

 

シロナの学術的暴走をひとまず受け流し、ヒカリとショウ、そしてテルの母とシロナは、リビングでようやく落ち着いてお茶を飲み始めた。シロナはショウへの質問と撮影を**「一時休止」**しただけだが、ショウにとっては久しぶりの休憩だった。

 

テル母は、目の前にいる**優秀な未来の科学者(ヒカリ)**と、**純粋で熱心な過去の調査隊員(ショウ)**を交互に見やり、ニコニコと微笑んだ。

 

テル母:

「それにしても、あなたたちは本当にテルのお友達なのね。時空を超えて旅をして、世界の危機を救うなんて、テルもとんでもないお友達を持ったわ」

テル母は、優しく、そして何気なく、爆弾を投下した。

 

テル母:

「でも、本当にね、こんなに立派で可愛い娘さんたちが、うちのぼんやりしたテルと仲良くしてくれるなんて、テルにはみんな勿体ない娘達だわ。特にヒカリちゃんは頭も良くて将来性があるし、ショウちゃんは純粋で一途で……」

その**「テルには勿体ない」という一言が、ヒカリとショウの心の中のスイッチ**を同時に押した。

 

ヒカリは、未来の科学者としてのプライドと、テルへの秘めたる感情を露わにした。その瞳には、ライバルジュンを負かした時のような、鋭い光が宿っていた。

 

ヒカリ:

「い、いいえ! お母様、何を仰いますの! テルには、わたくしこそが相応しいですわ!」

 

ショウ:

(ヒカリの言葉に驚き、デンボク団長への報告以上に強い使命感を燃やす)

「そ、そんなことはありません! テルさんに一番相応しいのは、この私であります!」

 

シロナは、新たな学術的テーマの発生に、再び目を輝かせ始めた。テル母は、事態が思わぬ方向に進んでいることに気づき、あたふたする。

 

テル母:

「え、ええ!? あなたたち、そんなにテルのことが……?」

 

ヒカリ:

「当たり前ですわ! わたくしは、未来の最高峰の科学知識を持ち、テルが成すべき『時空の修復』という使命を、論理的に、戦略的にサポートしました! テルが世界の調和を実現できたのは、わたくしの知性があってこそですわ!」

 

ショウ:

「違います! テルさんが世界の調和を願うことができたのは、私とヒスイの調査隊が、テルさんの帰る場所を守っていたからです! 私はヒスイの調査隊員として、どんな困難もテルさんと共に乗り越えるという一途な決意があります!」

 

ヒカリ:

「一途な決意だけでは時空は修復できませんわ! あなたはジョウトでのウォロの嘘すら見抜けていませんでしたでしょう! 知性こそが、未来を切り開く鍵ですわ!」

 

ショウ:

「知識だけでは、世界の創造主の**『強い意志』には勝てません! 私はテルさんのために**、ナナカマド団長(ナナカマド博士)の無理難題も、この現代のシンオウで乗り越えてみせます!」

 

ヒカリ:

「ナナカマド博士をデンボク団長と誤認している時点で、知性に決定的な欠陥がありますわ!」

 

ショウ:

「誤認でも、テルさんへの信頼は揺るぎません! 私はテルさんの相棒であります!」

 

シロナ:

(ノートに熱心にメモを取りながら)

「興味深いわ! 『知性の優位性』と『一途な献身性』。過去と未来の女性の価値観の衝突ね! これはテルという存在が、両者の価値観を象徴する存在であることの証拠よ! 『テルを相応しい』とする論理構成について、さらに深く掘り下げる必要があるわね!」

テル母は、娘たちの激しい言い争いと、シロナの学術的興奮に気圧され、ただ静かにお茶のおかわりを淹れるしかなかった。

 

テル母:

「あ、あの……テルは、今ポケモンリーグでお仕事をしているから、みんなで仲良く待ってあげてね……」

 

しかし、ヒカリとショウのテル争奪戦は、テルの帰宅まで、シンオウチャンピオンの自宅で、時空を超えた大論争として続くのだった。

 

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