遠き郷から来たシンオウチャンピオン   作:gp真白

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取り戻すべき食事代と、ジムへの強襲作戦

 

激しい朝を迎えたテルは、なんとかヒカリとショウの物理的拘束から逃れ、朝食の席についていた。ヒカリとショウは、テルの隣の席を奪い合いながら、互いに**「テルへの相応しさ」**を主張していた。

その最中、ヒカリがポンと手を打ち、何かを思い出したように表情を険しくした。

 

ヒカリ:

「ああっ! そういえば、もっと重要な債務を忘れていましたわ!」

テル:

「え? 俺への監視義務の追加か? もう勘弁してくれ……」

ヒカリ:

「違います! あなたの私的な債務ではありません! 公的な債務ですわ! ヒスイ地方に強制転移させられる直前、スモモさんと食事に行ったでしょう!」

 

ヒカリは、恐ろしい記憶を掘り起こした。

 

ヒカリ:

「あの時、スモモさんが食い倒れて、私たちのお財布が空っぽになりましたわ! あの食事代、請求し忘れていました!」

テルは、その地獄のような記憶に、顔面蒼白になった。

テル:

「ああ……思い出した。トバリシティの高級レストランで、スモモさんが**『気絶するほど美味しい』**って言って、コース料理を次々と追加して、財布が空になったんだ……」

ショウ:

「え? スモモさん? 食い倒れる? 食事代とは、一体……?」

 

テルは、ヒスイから現代へ、ジョウトを挟んで時空を旅した全てを話すよりも、この食費の債務を話す方が簡単だと判断し、ショウに事の経緯を伝えた。

 

テル:

「ショウ、いいか。スモモという人物は、トバリシティのジムリーダーだが、底なしの食欲を持っている。俺たちは過去の旅のせいで金欠になりかけていたのに、彼女の食費で完全に破産したんだ。その借金を、彼女のジムに行って取り立てる必要がある」

ショウ:

(目を丸くするが、すぐに調査隊員の使命感を燃やす)

「なるほど! 過去の調査隊員が、未来のジムリーダーに食事代という債務を負わせているのですね! 調査隊員として、その債務を回収するのは当然の任務であります!」

 

ヒカリは、スマホロトムを操作し、テルに告げた。

 

ヒカリ:

「トバリシティジムは、現在営業中ですわ。あの人がジムリーダーという公的地位にいる間に、食事代を請求する必要があります! 今すぐ行動しますわよ!」

 

テルは、チャンピオン防衛戦でヒスイ流の戦術を身につけたジュンを、この特殊な作戦に巻き込む必要があると考えた。

 

テルがジュンに電話をかけると、ジュンは**「チクショー! 負けたロマンをどう昇華するか考えていたところだぜ!」**と興奮気味に応答した。

 

テル:

「ジュン、最高のロマンを提供してやる。トバリジムに行って、スモモから食費の債務を取り立てるぞ。お前の早業エンペルトの力がいる」

 

ジュン:

「食費の債務!? 過去の旅の精算か! チクショー、なんてロマンチックで現実的な話だ! よし、参戦するぜ! 罰金1000円だ、この新しいロマンに!」

 

こうして、チャンピオン・テル、未来の科学者・ヒカリ、過去の調査隊員・ショウ、そしてライバル・ジュンという時空を超えた四人組は、食事代という現実的な債務を回収するため、**トバリシティジムへの「強襲作戦」**を決行することになったのだった。

 

 

フタバタウンからトバリシティへ向かう道中、テル、ヒカリ、ショウ、そして合流したジュンは、**「トバリジム強襲作戦」**の最終確認を行っていた。

しかし、テルとジュンは、道中でチャンピオンとしての誇りとライバルとしての義侠心が芽生え始め、作戦の目的に疑問を呈し始めた。

 

テル:

「なあ、ジュン。移動しながら考えてたんだけどさ……」

 

ジュン:

「チクショー、なんだよテル。食費のロマンに疑問でも抱いたか?」

 

テル:

「いや、疑問というか……俺たちって、なんだかんだでディアルガとかパルキアとか、シンオウ地方の大きな事件を解決に繋がったわけだろ?」

 

テル:

「スモモさんもジムリーダーとしてシンオウの治安を守ってるんだし、時空を超えて世界を救った功績を考えたら、あのレストランの一食分くらい、別に取り立てなくても良いんじゃないか?」

 

ジュンは、主人公の意見に強く頷いた。

 

ジュン:

「そうだぜ、テル! ロマンだよ! ジムリーダーってのは、シンオウの顔なんだ! あの人だって、ジムリーダーなんだから、いざとなったらちゃんと財布を出すに決まってるだろ! 見た目はああでも、ジムリーダーとしてしっかりしてるんだし、今更言ったところで、恥をかかせるだけだぜ!」

 

テル:

「そうだよな。きっと、ジムの運営費とかでしっかり返済の準備をしてくれてるはずだ。俺たちが大騒ぎして、公の場で取り立てるのは……」

 

二人の**「チャンピオンとライバルとしての甘い見解」を聞いていたヒカリは、額に青筋を立てた。彼女の冷静沈着な科学者**の仮面が剥がれ落ち、経済観念に厳しい債権者の顔が露わになった。

 

ヒカリ:

「何を言ってるんですか、二人とも!!!」

ヒカリの怒声に、テルとジュンは思わず肩を竦めた。過去の調査隊員は、未来の女性の怒りの迫力に、直立不動になった。

 

ヒカリ:

「論点をすり替えないでください! 世界を救った功績と、私的な借金は、全くの別問題ですわ!」

 

ヒカリ:

「スモモさんがジムリーダーとして立派であることと、食費を支払っていない事実は、論理的に何の関係もありません! むしろ、公的な地位にある人間が、私的な債務を放置している方が、大問題ですわ!」

 

ヒカリ:

「それに、しっかりしているですって? あの人が**『気絶するほど美味しい』と言って、財布が空になるまでコース料理を注文した事実を、もうお忘れですか!? あの人は食のロマン**を追求するあまり、金銭感覚が欠如しているのですわ!」

 

ヒカリは、ファイナンスの法則を説くかのように、テルとジュンに鉄槌を下した。

 

ヒカリ:

「いいですか、二人とも! 世界を救うことと、生活を維持することは等しく重要な責務です! まずは、生活の基盤である食事代を回収します! トバリジムに強襲し、一円たりとも見逃しませんわ!」

 

ジュン:

「チ、チクショー……ヒカリのロマンは現実的すぎるぜ……」

 

テル:

(シロナさんの学術的暴走より、ヒカリの経済観念の方が怖い。世界の調和は救えたが、ヒカリの怒りからは、誰も救ってくれない……)

 

ヒカリの厳格なリーダーシップにより、トバリジム強襲作戦は、食費の債務回収という現実的な目的を掲げ、再開された。

 

トバリシティの雑踏を抜け、一行は目的のトバリジムの前に到着した。ジムは、格闘タイプを専門とするジムらしく、外観からしても鍛錬の気迫が感じられる建物だった。

 

テル、ヒカリ、ショウ、ジュンは、建物の前に並び立ち、これから始まる**「食費の債務回収」**という、異色のミッションに備えていた。

 

ショウ:

「テルさん! トバリジム……この威厳ある建物、デンボク団長(ナナカマド博士)の指令を帯びて、調査隊員として突入します!」

 

ジュン:

「チクショー、ここが借金取りのロマンが生まれる場所か! エンペルト、いつでも早業(はやわざ)アクアジェットで先手を取れるぜ!」

テル:

「頼むから物理的な強襲は避けてくれ。俺、チャンピオンの立場なんだ……」

 

ヒカリは、腕を組み、トバリジムの扉を見据えていた。彼女の表情は、世界を救う時よりもずっと厳しく、容赦のない債権者そのものだった。

ヒカリ:

「静かにしなさい、三人とも」

 

ヒカリは、テルとジュンを一瞥し、そしてトバリジムに向かって、はっきりとした声で宣言した。

 

ヒカリ:

「いいですか、スモモさん。シンオウチャンピオンとその監視役、そして未来の有望なトレーナーと過去の優秀な調査隊員が、こうしてジムまで直接足を運んだのには、理由がありますわ」

 

彼女は、スマホロトムを取り出すと、画面に表示されたレストランの領収書の画像を見せつけるように掲げた。

 

ヒカリ:

「スモモさん! 私達がヒスイ地方に強制転移させられる直前に、トバリシティの高級レストランで飲食した、コース料理の追加分と、高級デザートの全種類……その総額、未だに一切支払われていませんわ!」

 

ヒカリは、科学的な確実性と経済的な冷徹さをもって、ジムの扉の向こうにいるであろうジムリーダーに、債務の存在を通告した。

 

ヒカリ:

「あの時、私たちが全額を立て替えたのです。世界の調和は救われたかもしれませんが、あなたには未だに、私たちへの重大な債務が残っているのですわ!」

 

ヒカリ:

「さあ、ジムリーダーとして、公的な地位にある人間として、その責務を果たしなさい! 今すぐ、その食事代を全額返済なさい!」

トバリジムの重い扉は、ヒカリの容赦ない債務通告を前に、静かに、そしてゆっくりと開いた。

中から現れたのは、道着姿で、いつもの通り少し眠たげな表情をした、トバリジムリーダーのスモモだった。彼女は、**「債務」**という言葉を聞いても、特に動揺した様子は見せない。

 

スモモ:

「あ、テルくんたち。久しぶり……。えっと、何か修行の用かな……?」

 

テル:

「ス、スモモさん! 違います! 違うんです! 借金の……」

テルが慌てて説明しようとするが、ヒカリの目が鋭く光り、テルの言葉を制した。

 

ヒカリ:

「スモモさん! 誤魔化さないで! 食事代ですわ!」

スモモは、一瞬記憶を探るような仕草をした後、穏やかな笑顔で、とんでもない一言を放つのだった。

 

スモモ:

「ああ、あのごちそうのことかぁ……本当に美味しかったよね。ありがとう!」

その感謝の言葉に、債務回収チームの顔色は、一斉に青ざめるのだった。

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