スモモとの**「利子交渉」と「修行による相殺」という非論理的な決着に疲れ果てたヒカリは、ショウを連れてトバリシティのブティックで買い物をしていた。ショウの現代への順応のため、「おめかし」は必須の「調査」**であるという名目だった。
ショウは、ヒカリが選んだ現代風のパーカーを着て、少し緊張しながらも鏡を見ていた。
ヒカリ:
「フフフ、似合っていますわよ、ショウさん。調査隊員としての機動性も、これで確保ですわ」
ショウ:
「ありがとうございます、ヒカリさん! 未来の調査服は、動きやすくて素晴らしいであります!」
二人が並んで鏡を見ると、顔立ちがそっくりなことに改めて気づかされる。ヒカリは未来の洗練された雰囲気を、ショウはヒスイの調査服の純粋な熱意を纏っているが、その美しさと面影は瓜二つだった。
それを見ていたブティックの店員が、微笑みながら近づいてきた。
店員:
「あら、お二人、本当にそっくりですね! 双子さんですか? こんな素敵でそっくりな双子は珍しいわ!」
ヒカリは苦笑し、ショウは驚いて目を丸くした。
ヒカリ:
「あ、いえ、違います。彼女は少し離れた地方から来た、大事な友人ですわ」
ショウ:
「ふ、双子でありますか! 時空を超えたご縁であります!」
店員は**「あら、仲良しなのね」と笑い、二人はその誤解**に微笑み合った。
しかし、その**「双子」という言葉が、ヒカリの科学的な思考**の中に、一つの恐ろしい可能性を呼び起こした。
ヒカリ:
(顔がこれほど似ている……私とショウさん。そして、ショウさんは数百年前のヒスイ地方の人間……)
ヒカリは、ふとナナカマド博士の研究員である自分の母親の言葉を思い出した。
(そういえば、お母様も、私たちが時空の旅から帰った後、「もしかして、本当にヒカリの御先祖様**なのではないか」**と、冗談半分で話していたわ……)
ヒカリは、ショウの手を取り、人目を避けるように店の隅へと移動した。
ヒカリ:
「ショウさん……聞いてください。もし、もしもあなたが、わたくしの、直接の御先祖様だったとしたら……」
ショウ:
「え? ヒカリさんの御先祖様? ギンガ団調査隊員に、そんな光栄な役目が……!」
ヒカリ:
「冗談ではありませんわ! 歴史学の常識で考えれば、『時間旅行者が過去を改変してはいけない』とされますわ。なぜなら、未来の存在であるわたくしたちの存在そのものが、消滅する可能性があるからです!」
ヒカリは、自身の冷静な声とは裏腹に、恐怖に震えていることに気づいた。
ヒカリ:
「しかし、今回は歴史を改変したのではなく、過去の存在であるあなたが未来に強制転移してきました。ですが、論理を突き詰めれば、もっと恐ろしい結論に至りますわ」
ヒカリは、ショウの両肩を掴み、目の奥の恐怖を隠さずに告げた。
ヒカリ:
「もし、あなたが、この現代で何らかの理由で命を落としたり、あるいはヒスイの時代に戻ってしまったとしたら……あなたがいなければ存在しなかったはずの、わたくしという未来の存在は……このシンオウ地方から、跡形もなく消えてしまうのではないか、と!」
ヒカリは、「御先祖様が現代にいる」というロマンチックな事実が、自分自身の存在を脅かす、究極の科学的な恐怖であることに気づき、顔面蒼白になるのだった。ショウの存在は、テルにとっては責任だが、ヒカリにとっては存在証明の危機となったのだ。
数日後、食費の債務問題から一時的に解放されたテルが、リビングでくつろいでいると、ヒカリがいつになく真剣な表情で彼の前に現れた。彼女の目には、敗北したバトルの悔しさや未回収の債務への怒りではなく、純粋な恐怖が宿っていた。
ヒカリ:
「テル、非常に重要で、わたくしの存在に関わる問題ですわ。真剣に聞いてください」
テル:
「なんだよ、ヒカリ。また利子の話か? もう俺もジュンも、スモモさんの修行を受け入れる気でいるぞ……」
ヒカリ:
「違いますわ! 金銭的な問題ではありません! 存在そのものの危機です!」
ヒカリは、トバリシティでの**「双子の誤解」をきっかけに、自身が導き出した恐ろしい結論をテルに告げた。ショウが自分の直系の御先祖様である可能性、そして祖先が現代に滞在し続けることが、未来の自分自身の存在を不安定にしているという時空のパラドックス**の理論を。
ヒカリ:
「あの買い物での双子の誤解、そして時空の法則を照らし合わせた結果、わたくしの存在が消滅する可能性がある、という結論に至りましたわ」
ヒカリ:
「ショウさんがヒスイの時代にいない限り、私という未来が確定しないのです。これは単なる予測ではなく、論理的に導き出された結論ですわ!」
テルは、その科学的な説明の重さに、息を呑んだ。自分の隣にいる二人の女性が、一方の存在によってもう一方の存在を脅かしているという事実に、背筋が凍った。
ヒカリは、テルに向かって、時空を揺るがす大胆な提案をした。
ヒカリ:
「テル。あなたはディアルガ、そしてパルキアの時空を操る力を知っています。そして、あの時空の裂け目を開いたエネルギーの残滓も、シンオウにはまだ残っているはずですわ」
ヒカリ:
「ディアルガやパルキアの力を借りるか、あるいは以前開いた時空の裂け目のエネルギーの特性を利用して、ショウさんを元の時代に戻すことはできませんか?」
ヒカリは、一刻も早い「時空の再構築」を望んでいた。自分の消滅という恐怖が、彼女を強行策へと駆り立てていたのだ。
テルの頭には、ディアルガとパルキアの圧倒的な力、そしてギラティナが時空の裂け目を通じて世界を危機に陥れた記憶が鮮明に蘇った。彼は、チャンピオンとして、ポケモンの力を安易に利用することの危険性を誰よりも理解していた。
テル:
「待ってくれ、ヒカリ。そんな強引な方法は危険すぎる」
テル:
「ディアルガやパルキアの力を、人の都合で時空を捻じ曲げるために使うのは、世界を救った俺たちの責任として軽率すぎる」
テルは、ヒカリの肩に手を置き、チャンピオンとしての重みのある言葉で諭した。
テル:
「もし、時空の裂け目を再び開こうとして、ショウを元の時代に戻すどころか、別の時空に吹き飛ばしたり、あるいはシンオウ全体に歪みを発生させたら、世界の調和が再び崩壊する」
テル:
「だから、危ない。少し時間をくれ。俺一人で決めることじゃない」
テルは、シンオウ地方の歴史とポケモン研究の二人の権威の名前を挙げ、最善策を講じることを約束した。
テル:
「ナナカマド博士やシロナさんに相談して、時空の専門的な知識と、伝説のポケモンの力について議論してから、改めて考えることにさせてくれないか?」
ヒカリは、自身の存在の危機に焦っていたが、テルのチャンピオンとしての慎重さと責任感を受け入れざるを得なかった。彼女の存在は、二人の権威の判断に委ねられることになったのだった。