テルは、ヒカリの**「存在の危機」という緊急事態を受け、すぐにナナカマド博士とシロナに連絡を取った。二人は、時空を救ったチャンピオンからの緊迫した連絡に、すぐにナナカマド研究所**に集まった。
シロナは、トゲキッスでフタバタウンからショウを連れ出すことはできたが、ショウとヒカリの血縁関係の可能性については、まだ確信を持てていなかった。
ナナカマド博士:
「テル君、ヒカリ君。君たちの話は理解した。ヒスイ時代の調査隊員がヒカリ君の直系の祖先である可能性、そして、その祖先が現代に留まることで未来の子孫の存在が消滅する危険性か……」
ナナカマド博士は、深い髭を撫でながら、難しい顔をした。
ナナカマド博士:
「これは時空の連続性に関わる、非常に重大な問題だ。ディアルガやパルキアの力を再び借りるにしても、安易な時空操作は禁忌だ」
シロナ:
「ええ。私も学術的な見地から、ヒカリの危惧は十分に理解できるわ。もし本当にショウがヒカリの祖先で、現代で何かあったとしたら、ヒカリという存在が時間軸から抹消されてもおかしくない」
シロナは、持参したショウの調査服の写真と、古代シンオウの文献を照らし合わせていた。
シロナ:
「しかし、ショウの存在が、ヒカリの消滅に繋がるという論理には、一つ穴があるわ」
テル:
「穴、ですか?」
シロナ:
「ええ。ショウは、アルセウスの力によって、強制的に現代に転移させられた。これは、自然な歴史の流れではない。創造主が、何らかの意図を持ってショウを現代に送り込んだと考えるべきよ」
その時、ナナカマド研究所のドアが開き、トバリシティでのスモモとの修行から戻ってきたショウが入ってきた。彼女は、「ジムリーダーのスモモさんから特別な修行を受けてきました!」**と、目を輝かせて報告した。
シロナは、ショウに向き直り、鋭い目線を向けた。
シロナ:
「ショウ。あなたはなぜ、現代にいると思う?」
ショウ:
「え? それは……時空の裂け目に巻き込まれ、テルさんと共に、ポケモン図鑑完成というギンガ団の使命を、未来で継承するためであります!」
シロナ:
「違うわ。それはあなたの使命であって、創造主の意図ではない」
シロナは、テルとヒカリにも聞こえるように、声のトーンを上げた。
シロナ:
「テル、ヒカリ。考えてみて。ショウは、ヒスイ時代において、『ポケモンを捕まえる』という異端の技術を持っていた。そして、テルは、ショウと同じ顔を持ち、ショウと同じようにポケモン図鑑を完成させた者よ」
シロナ:
「ショウは、アルセウスにとって、『調和をもたらす存在』、あるいは**『未来の調和の雛形』だった。創造主が、未来にこの調和が必要だと判断し、ショウを現代に送り込んだ**のよ」
シロナは、ショウの目を見て、一つの事実を告げた。
シロナ:
「ショウ。 あなたがこの時代にいるということは、あなた自身が、ヒカリという未来の存在を消滅させるための要因ではなく、『ヒカリが存在し続けるための証明』、あるいは**『未来の調和の礎』**である可能性が高いわ」
シロナの力強い言葉に、ヒカリの顔から恐怖の色が引いていった。ショウの存在は呪いではなく、未来を保証するための贈り物かもしれないというのだ。
ナナカマド博士:
「つまり、性急に時空操作を行うのは危険だということだ。アルセウスの意図があるならば、歴史の歯車は、ショウの存在によって守られていると考えるべきだろう」
ナナカマド博士:
「テル君。君の責任は、ショウ君が現代で調和を乱すことなく、幸せに暮らせるように見守ることだ。時空操作は、最後の手段だ」
テルは、ヒカリの不安を和らげる論理的な根拠と、チャンピオンとしての新たな責任を得て、強く頷いた。
テル:
「わかりました、博士、シロナさん。ショウがこの時代でいることの意味を、俺が責任を持って見つけます」
ショウは、ナナカマド団長(ナナカマド博士)とお姉さま(シロナ)の許可を得て、テルとの共同調査が続行できることに、感極まった様子で敬礼した。
ショウ:
「ありがとうございます! このショウ、未来のシンオウで、テルさんの相棒として、使命を全ういたします!」
ヒカリは、「消滅の危機」がひとまず回避されたことに安堵しつつ、ショウがテルとの相棒関係を強調したことに、不満げな視線を送るのだった。
ナナカマド博士とシロナから、「ショウの存在は未来を保証する礎」であるという学術的なお墨付きを得たことで、ヒカリの**「消滅の危機」**の不安は一時的に収まった。
ヒカリの家で、改めて**「ショウの現代への完全適応」という名のおめかし修行**(とテル母の監視)が再開されていた。
そんな中、ショウは、ふとリビングの棚に飾られた古風な額縁に気づいた。それは、ヒカリの家の簡略化された家系図だった。
ショウ:
「ヒカリさん、これは……? **『家系図』**でありますか!」
ヒカリ:
「ええ、昔の記録をまとめた、わたくしの家族の歴史ですわ」
ショウは、調査隊員としての探究心を燃やし、その家系図を食い入るように見つめた。そして、時空を超えた、素朴で核心を突く疑問を口にした。
ショウ:
「ヒカリさん。未来のこの世界なら、私が、誰と添い遂げたのか、分かるのではないですか?」
その一言に、ヒカリと、その場にいたテルは、同時に固まった。
テル:
(添い遂げた相手!? ヒスイでは、結婚が調査隊員としての義務だったもんな……だが、俺の先祖が誰か、ってことか!?)
ヒカリ:
「な、何を馬鹿なことを言っているんですの、ショウさん! 御先祖様が誰かなんて、公的な家系図に明確に載るはずが……」
ショウは、テルとヒカリの間に立ち、家系図の最も古い分岐点、つまり現代のヒカリの祖母の世代の配偶者の名前を指さした。
そこには、シンプルな楷書体で、くっきりと**「テルオ」**という名前が記載されていた。
ショウ:
「ほら、ありました! 私の添い遂げた相手は……『テルオ』さん! テルさんと一字違いであります!」
ヒカリ:
「ち、ち、ち、違いますわ! 似たような名前の別人ですよ、きっと! 当時のシンオウには、『テルオ』という名前の男性が何百人もいたはずですわ! これは偶然の一致! 科学的に見て、何の根拠もありません!」
ヒカリは、科学者の冷静さを保とうと必死だったが、その声の震えと早口は、動揺を隠しきれていなかった。
テル:
目の前の家系図の**「テルオ」という文字を見て、愕然とする
(テルオ……まるで、俺の名前に「オ」**を足しただけじゃないか……)
ショウは、ヒカリの必死な否定を、「照れ隠し」か「未来の習慣」だと受け取ったようだ。彼女は、調査隊員としての最大のロマンを発見したかのように、目を輝かせた。
ショウは、**家系図の「テルオ」**から、目の前のテルへと視線を移した。
ショウ:
「……いいえ、ヒカリさん。やはり、偶然ではありません! 創造主アルセウスの導きです!」
ショウは、テルに向かって、ヒスイの調査服を着ていた時のような純粋な熱意で、まっすぐと訴えかけた。
ショウ:
「テルさん! 時空を超えて、あなたと私が出会い、共に行動している! そして、未来の記録には、あなたによく似た名前がある!」
ショウ:
「テルさん! やはり、貴方が、私の婚約相手なのかもしれません! 時空のロマンが、そう叫んでいます!」
テルは、ヒカリの先祖を巡る命がけのパラドックスが、ショウの熱烈なプロポーズという、現実的なロマンへと急転直下したことに、対応のしようがないまま固まってしまった。
ヒカリ:
「ショウさん、ストップですわ! 科学的な飛躍が過ぎます!」
テル:
(祖先が現代にいるから消滅するかもしれないヒカリと、祖先が未来の家系図にいるから結婚するかもしれないショウ……俺の人生、時空の奔流に巻き込まれっぱなしだ……!)