【やぶれた世界からの帰還】
シンオウ地方に、再び不吉な影が差し込もうとしていた。
場所は、シンオウの果て、テンガン山の最奥にある槍の柱。テルが以前、ディアルガとパルキアの騒動を収束させた神話の舞台である。
突如として、大気がねじ曲がり、空間の裂け目が開いた。それは、テルとショウが経験した時空の奔流とは異なり、歪んだ色彩と重力の異常を伴う、異界の門だった。
その裂け目から、まず現れたのは、ギラティナ。その異形の姿は、破れた世界(やぶれたせかい)の反物質的なエネルギーを纏い、現実の世界を拒絶するような威圧感を放っていた。
そして、ギラティナの背に乗り、虚無の空間から現れた二つの影があった。
一人は、ギンガ団の元ボス、アカギ。彼の瞳には、感情の揺らぎはなく、ただ冷たい虚無が宿っている。
もう一人は、すべての元凶、ウォロ。彼は、破れた世界のエネルギーに触れたことで、以前よりもさらに異様な、狂気を帯びた探究心に満ちていた。
アカギ:
「……この世界か。不完全で、感情に支配された、愚かな世界だ」
アカギは、破れた世界での長き沈黙を経て、自らの哲学をさらに強固にしていた。彼の目的は変わらない。感情のない、完全な新世界の創造である。
ウォロ:
「フフフ……ギラティナの反物質の力。そしてアカギ様の絶対的な虚無の意志。これこそが、アルセウスの調和を打ち破るための究極のロマンです!」
ウォロは、ギラティナの力を制御し、破れた世界からのエネルギーを利用する術を、アカギと共に修得していた。ウォロの目的は、創造主アルセウスの力を引き出し、自分のものとすること。そのための最大の障壁は、アルセウスが認めた調和の担い手、テルの存在だった。
ウォロ:
「アカギ様。あの少年、テルは、ヒスイの力とアルセウスの教えで、シンオウチャンピオンに納まりました。そして、邪魔な少女(ショウ)も現代に留まっている」
ウォロ:
「テルは、創造主が未来に託した調和の象徴。彼を屈服させれば、アルセウスは必ず姿を現す。そのためには、彼のすべてを奪う必要があります」
アカギは、静かに頷いた。
アカギ:
「感情は、世界の不完全さを生む。あの少年の周囲には、感情の雑音が多すぎる。ライバル、現代の科学者、過去の調査隊員……そして、ポケモンリーグという愚かな権威」
アカギ:
「ギラティナよ。まずは、あの不完全なチャンピオンから、彼が築き上げたものすべてを、虚無に還せ。世界の調和を嘲笑う、我々の新たな悪巧みの始まりだ」
ギラティナは、アカギの冷徹な命令を受け、低く不気味な咆哮を上げた。その声は、シンオウ全土に響き渡る。
その頃、食費の債務回収という現実的な問題に追われていたテルは、チャンピオンとしての危機を、再び背負うことになるのだった。
テルの生活は、利子の問題や二人の女性の争奪戦など、現実的な困難に満ちていたが、世界の危機は、容赦なく彼を呼び戻した。
テル:
(フタバタウンの自宅で、遠くから響くギラティナの咆哮を聞き、
顔を上げる)
「この振動……まさか、ギラティナ!?」
ヒカリ:
「テル! 空間の異常が、シンオウ全体に拡大していますわ! まるで、破れた世界のエネルギーが、漏れ出しているようです!」
ショウ:
「テルさん! 強大な、未知の存在を感じます! 調査隊員として、準備であります!」
ジュンは、遠いトバリシティで、**「チクショー! これこそが究極のロマンだぜ!」**と、興奮を隠せない様子だった。
テルは、時空を超えた悪意の再来を感じ、チャンピオンとしての決意を新たにした。時空を超えた旅の最終的な結末は、まだ訪れていなかったのだ。
伝説の激突と、二人の再臨
ギラティナの咆哮がシンオウ全土に響き渡る中、槍の柱の空は再び光と闇の戦場と化した。
ギラティナが破れた世界のエネルギーを現実空間に放出しようとしたその時、時空の秩序を守るべく、ディアルガとパルキアが姿を現した。
ディアルガは時の咆哮(ときのほうこう)を、パルキアは亜空切断(あくうせつだん)を放ち、反物質の龍であるギラティナを討とうとする。しかし、ギラティナは以前の敗北から力を増しており、口から強大なはかいこうせんを吐き出し、二柱の攻撃を真正面から相殺した。
凄まじいエネルギーの衝突が起こり、爆発の煙が槍の柱一帯を覆い尽くした。
その煙の中から、アカギとウォロがギラティナの背から降り立ち、不敵な笑みを浮かべながら現実の世界へと足を踏み出した。
ウォロ:
「フフフ、創造主の雛形であるディアルガとパルキアも、我々の反逆のロマンを前にしては、時間稼ぎにしかならない」
アカギ:
「これで良い。感情に支配された神々に、無駄な力を使わせる必要はない」
彼らは、煙が晴れ、ディアルガとパルキアが警戒態勢に入ったことを確認すると、周囲の空間を捻じ曲げ、遠くフタバタウンにいるテルたちに声が届くように不気味なメッセージを送りつけた。
ウォロ:
「テル! チャンピオンよ! そしてヒスイの調査隊員! これから我々は、シンオウの根源たる三湖の伝説のポケモン、エムリット、アグノム、ユクシーを、我々の手で捕まえる」
アカギ:
「テル。世界の感情を司る三匹を奪われれば、新世界への道筋は容易となる。阻止したいなら、奪われないように気をつけることだ」
二人はそう言い放つと、ギラティナと共に破れた世界から持ち出した不気味な光に包まれ、跡形もなく姿を消した。
ほぼ同時刻、シンオウの治安を担う警察組織では、驚くべき報告が上がっていた。
「緊急報告! 地下にある独房より、元ギンガ団幹部のプルートの姿が、跡形もなく消失しました!」
プルートの消失は、ギンガ団の再始動を示唆していた。そして、その指示に従うように、マーズ、ジュピター、サターンの三幹部が、トバリシティに隠されたギンガ団アジトに極秘裏に集結していた。
マーズ:
「アカギ様は必ず帰ってこられると信じていたわ! プルートが先導したようね。さあ、感情のない新世界のために、三湖のポケモンを捕獲するわよ!」
三幹部が向かったのは、アカギの野望を成就させるための最初のターゲット、ユクシーの眠るエイチ湖に近い、トバリシティだった。
トバリジムの扉の前。ギンガ団の三幹部が、ユクシー捕獲の邪魔となりかねないジムリーダーを排除するために立っていた。
サターン:
「あのジムリーダーは、格闘ポケモンの使い手か。アカギ様の野望を前に、無駄な抵抗だ」
ジムから現れたスモモは、眠たげな表情で彼らに向かい合った。
スモモ:
「え……ギンガ団? また悪巧み? 困るなぁ、ジムの修行の邪魔だよ」
スモモは、チャンピオンからの借金取りという現実的な問題に追われていたが、世界の危機にも真摯に向き合おうとした。
ジュピター:
「無駄よ。アカギ様の野望は、あなたの修行とは次元が違う。さあ、さっさと退いてもらうわよ!」
ジュピターは、三幹部の連携を指示。マーズのブニャット、サターンのドクロッグ、ジュピターのスカタンクが、一斉に強力な攻撃を放った。
スモモは、エースのルカリオを繰り出す間もなく、不意を突いた圧倒的な力の前に、呆気なく倒されてしまった。
スモモ:
「うぅ……強い……修行が足りなかった……」
ジュピター:
「フン。ジムリーダーなど、所詮この程度よ」
ギンガ団幹部は、トバリジムを簡単に制圧し、三湖のポケモン捕獲という野望への最初の足がかりを築いたのだった。