遠き郷から来たシンオウチャンピオン   作:gp真白

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ナタネの介入と、ヒカリの危機感

 

コトブキシティの喧騒を後にし、テルとヒカリはハクタイシティへと続く森の道、204番道路を歩いていた。テルは懐にポッチャマを抱き、ヒカリはギャロップを連れている。

 

ギンガ団との遭遇で一気に緊張感が走ったが、今は落ち着きを取り戻し、テルは隣を歩くヒカリに話しかけた。

 

「しかし、ヒカリ。さっきは助かった。まさか、あんな強引な手でマスコミを撒くとはな。コーディネーターというのは、ああいう機転も必要なのか?」

 

ヒカリは鼻で笑った。

 

「当然ですわ。ステージでは、予期せぬアクシデントは日常茶飯事。常に最悪の事態を想定して動くのが、一流のコーディネーターです。貴方のあの**『棒立ちインタビュー』**は、最悪の部類でしたわよ」

 

「棒立ち……」

 

「ええ。まるで、大きな野生のポケモンに捕まった時の、警戒心の薄い開拓者のようでした。ほら、貴方、ヒスイではあんなに大胆だったのに、現代の取材には、全く対応できていませんわ」

 

テルは肩をすくめた。

 

「ヒスイでは、取材なんてものは存在しないからな。せいぜい、シマボシ隊長への報告くらいだ」

 

ヒカリはパルファン(香水)の香りがするハンカチで口元を抑え、優雅に言った。

 

「その『空白の数ヶ月』で、最低限の常識は身につけたはずでしょうに。……全く、その鈍感さが、私に対する**『過払い請求』**の金額を、日に日に釣り上げているのですわ」

 

テルはげんなりとした顔になった。

 

「あの『過払い請求』だが、一体いつまで払わされるんだ? 利息付きと言われると、恐怖しか感じないんだが」

 

「ふふふ。そうですね……貴方が私とのポケモン勝負で一度でも勝つか、あるいはシロナ様を見つけ出すか、のどちらかでしょう」

 

「勝負で勝つ? チャンピオンだった俺に挑むのか?」テルは少し得意げに言った。

 

「ええ。今の貴方は記憶が曖昧で、ポケモンたちとの連携も**『ヒスイ仕様』でしょう? 私はその隙を突きますわ。それに、貴方、いくらチャンピオンになったとはいえ、ジュンとのバトルでは相変わらず『せっかち』**なミスをしていたそうですわよ?」

 

「……ジュンから、聞いたのか?」

 

「当然ですわ。彼とは毎日連絡を取っていましたから。『テルがまた、どうでもいいところでフル回復のアイテムを使った! 罰金100万円だ!』と、耳にタコができるほど聞きましたわ」

 

テルは頭を抱えた。どうやら「チャンピオン」としての自分の評判は、ヒカリとジュンの間で散々だったようだ。

 

その時、テルが抱えていたポッチャマが、ヒカリの持っているハンカチの香りに興味を示したのか、テルの懐から顔を出した。

 

「ポチャ? ポチャマ!」

 

ポッチャマは、ヒカリのハンカチの匂いを嗅ぎ、嬉しそうに翼をパタパタさせた。

 

ヒカリは目を細めた。

 

「あら、この子、私のパルファンが気に入ったようですわね。さすが、将来有望な子。感受性が高い証拠ですわ」

 

テルはポッチャマをなだめながら、苦笑した。

 

「ポッチャマ、ヒカリのお嬢様ぶりは、今は真似しなくていいぞ。ただでさえ、目立つんだからな」

 

「失礼ですわね! 私の優雅さは、テルの**『野生の臭い』**を中和しているのです!」

 

「野生の臭いって……」

 

軽口を叩き合いながら、二人はハクタイシティへと続く、森のトンネルへと差し掛かった。テルは、ヒカリの小言と、ポッチャマの生意気な可愛らしさが、自分の重い任務を支えていることを感じていた。

 

「ハクタイシティには、ギンガ団が使っていた建物があるんだな?」テルは真面目なトーンに戻った。

 

「ええ。今はサイエンスの殿堂という、一見普通の博物館になっていますが、裏には必ず何か残されているはずですわ。さあ、『空白のチャンピオン』。その恐ろしい『野生の勘』とやらで、歴史の影を暴いてみせてくださいまし!」

 

ヒカリはギャロップを少し進ませ、テルを先導するように微笑んだ。その瞳には、ライバルとしての期待と、時空を旅した英雄への信頼が満ちていた。

 

 

テルとヒカリは、軽妙な会話を交わしながら、ハクタイの森を抜け、木々の香りが濃く漂うハクタイシティに到着した。街の建物は古風で落ち着いた雰囲気だが、目指す「サイエンスの殿堂」は、ひときわ大きく建っていた。

 

「ここが、ギンガ団のアジトだった場所……」テルは厳粛な面持ちで言った。

「ええ。裏を探れば、あの男が言っていた**『最後の研究』**の手がかりが見つかるはずですわ。さあ、テル、私が先導を……」

 

ヒカリが意気込んでテルの腕を掴み、中へ入ろうとした、その瞬間。

 

「おや、テルじゃないか!」

 

明るく、ひまわりのように快活な声が背後から響いた。

 

テルが振り返ると、そこに立っていたのは、ハクタイシティのジムリーダー、ナタネだった。彼女は相変わらず麦わら帽子を被り、緑のジャケットに身を包んでいる。

 

ナタネは目を細め、テルとヒカリの様子を見てニヤリと笑った。

 

「おやおや、噂の幻のチャンピオンが、こんなところでデートかい? 両手に花だねぇ!」

 

テルはポッチャマを抱き直しながら、慌てて否定した。

 

「ち、違う! ナタネさん、これは誤解だ。ヒカリはただの……」

 

「ただの**『債権者』**ですわ!」ヒカリが即座に割り込み、ナタネに向けて優雅にお辞儀をした。しかし、その顔はテルの腕をしっかりと掴み、離す気配がない。

 

ナタネは興味津々といった様子で二人に近づいてきた。

 

「債権者? 随分と物騒な関係だねぇ。まあ、いいや。それより、話は聞こえてたよ。ギンガ団の悪事を探っているんだろう?」

 

「ナタネさんもご存知なんですか?」テルが尋ねた。

 

「そりゃあ、このハクタイシティは昔からギンガ団に目をつけられていた街だ。ジムリーダーとして、裏の動きには詳しいさ。特に、この『サイエンスの殿堂』の裏に、秘密の出入り口があるってことは、みんな知ってるよ」

 

ナタネは胸を叩いた。

 

「よし! なら、私も同行しよう。ギンガ団のアジトなら、私もちゃんと知ってるから、案内役くらいはできるさ」

 

ヒカリはこれ以上ないというほどの警戒心でテルの腕を強く握り、ナタネに詰め寄った。

 

「大丈夫ですわ! テルの周りには、私が常に着いて居ますから! ナタネさんはジムリーダーとしてお忙しいでしょう。私たちだけで十分ですから、お帰りになってもよろしくてよ!」

 

ヒカリは、笑顔ではあるものの、その言葉には明確な拒絶の意図が込められていた。テルを独占したい、というライバル心が丸出しだ。

 

しかし、ナタネは全く気にしない。彼女はテルの肩に手を置き、満面の笑みを浮かべた。

 

「いやいや、遠慮はいらないよ、ヒカリちゃん。私はこのハクタイシティの平和を守る義務がある、ジムリーダーなんだ。ギンガ団の悪事は、当然ほっとけないさ」

 

ナタネはテルの耳元に顔を寄せ、小さな声で囁いた。

 

「……それにさ、チャンピオンが戦っているところなんて、そうそう見られないからね。特に、噂の**『ヒスイのポケモン』**ってのを見てみたいんだよねぇ!」

 

ナタネはすぐに体を離し、ヒカリに向かってにっこりウィンクした。ヒカリは顔を引きつらせ、怒りに燃える目をナタネに向けた。

 

「絶対、後者の目的で着いて来てますわよね!!」

 

ヒカリはそう叫ぶと、テルの腕を、まるで宝物を奪われないように抱え込む。

テルは、二人の女性の間でオロオロしながら、ポッチャマを胸に抱きしめた。

 

(まさか、チャンピオンになったら、こんな修羅場に巻き込まれるのか……ヒスイの時代の方が、よっぽどシンプルで良かったぞ)

 

ナタネは楽しそうに笑いながら、先に立ってサイエンスの殿堂の裏口へと向かい始めた。

 

「さあ、案内するよ! 『幻のチャンピオン』。そして、『過払い請求のお嬢様』! ギンガ団のアジトに、突入だ!」

 

こうして、テルの「空白のシンオウ再調査」は、二人の個性強すぎる女性の思惑を乗せて、ギンガ団の隠された闇へと足を踏み入れるのだった。

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