ウィザードリィ外伝III外伝 〜名もなき墓標〜   作:沢八

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◇グランタン酒場

 

 酒場の扉を押すと、むっとする臭いに思わず顔をしかめた。

 冒険者ども(においのもと)が、馬小屋暮らしみたいなツラで笑っている。

 洗う前のイモのようにひしめく小汚い頭から目をそらし、隅の奥の方へ目をやる。

 尖った耳、金髪、テーブルに並んだ空き瓶。よし、いるな。

 おれはイモ共を避けながら近寄って、グラスを傾けていたエルフの女──ノイナに声をかけた。

 

「ノイナ、識別を頼みたい。今いいか?」

 

 おれは未識別の品物が詰まった袋をかかげてみせる。

 

「やぁヴェイン」ノイナはおれの名前を口にし、よどんだ目を袋に向ける。「盗賊稼業にはだいぶ慣れたみたいだね」

 

 ノイナはへらへらと笑いながら酒瓶を持ち上げた。

 まずは、酒だ。そういう意味だろう。

 おれはため息をついてみせてから、酒を運んでいる給仕の女に手振りをする。

 

(ワイン・一瓶ずつ・一番安いやつ)

 

 給仕はクスリと笑ってうなづいた。

 おれがノイナの向かいに腰を下ろすと、ノイナは酒瓶をグラスの上で逆さにしながら口を開いた。

 

「それで、ヴェイン。どうなんだい?」

「なにがだ」

「決まってるだろう。新しいパーティの調子さ」

 

 ニヤニヤとするノイナの顔を見ないですむよう、おれは手で顔を覆う。

 

 

「もうやめたい⋯⋯」

 

 

「ブフッ! フハハハ!!」ノイナはつばを撒き散らしながら笑う。「そ、それはもったいない! あんなに愉快で珍しい仲間たちなのに!」

 

 ゲラゲラと笑い続けるノイナを横目に、おれは運ばれてきたワインを自分のグラスに注ぐ。

 ノイナはまだ笑いながら言う。

 

「も、もういちど話してくれるかい? どんな6人だったっけ。まず人間族である君だ」

 

 ノイナがおれを指さしてさらに言う。

 

「それと、ドラコンにリズマン族、フェアリー族」

「ああ」

「あとはラウルフ族と、ム、ムー──」

「⋯⋯ムーク族だ」おれはそう付け足した。

「うふっ、見事にバラバラだね」

 

 ノイナはニヤニヤと笑いながら椅子の背もたれにより掛かる。

 

「それにまるで、珍種の見本市だ。たいていは人間族を中心に、エルフやドワーフを散りばめるばかり。最近は猫獣人も流行ってるけどね」

 

 おれは黙ってグラスを傾ける。

 ノイナの言うことはもっともだ。人数が集まればたいていは人間が複数いる。

 人間はとにかく多い。多いだけで、取り柄はないけどな。

 エルフやドワーフは冒険者であれば、わりと見かける。あいつらは人間よりずっと魔力があったり、頑丈だったりでずるいもんだ。

 フェアリーは珍しいがまあ、聞く。リズマンはリザードマンって呼び方ならよく聞くな。

 ラウルフとムークに至っては初めて聞いた。

 

「それに戒律も、くくく、どんなだったかな」

 

 からかうのを隠さず言うノイナに、おれは顔をしかめてみせる。

 

 面倒な戒律(アライメント)ってやつがある。同じパーティに『善』と『悪』が組めないとされている。『中立』はどちらとも組める。

 あとは聖なる騎士である君主(ロード)は善しかなれない、神の存在を信じない中立は僧侶になれないなんて、戒律は生き方や職業に関わってくる。

 

「ヴェイン、言ってくれよ。君のパーティの戒律を」

 

 ノイナが先を促してくる。

 

「中立中立悪悪悪悪だ」

「ギャハハハハハ!! 性格! ワルそぉ!!」

「うるせぇ!! てめぇだって悪だろうが!!」

 

 有名な、戒律を確かめる質問が前に流行ったな。『道で座り込んだ老婆にどうするか』だった。

 おれは金をくれるなら助けると答えた。悪の典型的な回答らしい。

 

「ひぃ、ひぃッ」

「笑いすぎだ」

 

 そのまま窒息(マカニト)しやがれ。

 

「そ、そうだ、いい機会だ。どういう風に出会ったか、教えてくれないか」

「いやだね。笑われ損じゃねぇか」

「そんなことにはしないさ⋯⋯そうだ」

 

 ノイナはテーブルの横にかがみ込んで、おれの持ってきた未識別の袋を持ち上げた。

 

「もし教えてくれるなら、識別代はタダにするよ」

「なんだって?」

 

 悪くない取引だ。識別代は安くない。

 商店で頼めば、それこそボッタクるような代金を取る。

 おれは少し考えたふりを見せてから、言う。

 

「わかった、取引成立だ。あれは10日ほど前だったか⋯⋯」

「ああ、ちょっと待った」

 

 ノイナは話し始めたおれを手で制した。

 

「なんだよ。やっぱり無しは無しだぜ」

「そんな野暮なことはしないさ。せっかくだから、臨場感たっぷりで味わいたくてね」

 

 ノイナはおれの頭に手のひらを向けて、目を細めた。

 

「──《ノバイス》」

 

 ノイナがそう唱えると、白い光が互いの頭をひと巡りして消える。

 

「なにをした?」

「フフ、読心の呪文さ。昔取ったきねづかってやつだよ。これでいい」

 

 読心? 心を読む呪文か。

 はるか遠くの地で、超能力者(サイオニック)と呼ばれる術師が使うと聞いたことがある。

 

「そういうことさ」とノイナはおれが頭で思ったことに答えた。

「ふうん、なるほど」

 

 いいぜ。口で喋るよりずっと楽でいい。口は酒を飲むのに忙しいんだ。

 教えてやる。どんな出会いからだったな。

 

 

◆1日目

 

 その日、おれは途方にくれていた。

 おれはここ、城塞都市ダリアに着いたばかりだった。

 

 ダリアは呪われた王都の廃墟の近くに築かれ、あふれる魔物を冒険者に狩らせている。

 冒険者は宝で(うるお)い、街と軍は治安と探索が進む。利害の一致ってやつだ。

 

 そんな時勢だ。鍵開け、隠れた道の発見が得意な盗賊は引く手あまた。宝も地位も名誉も、すべては思いのまま!

 そんな甘い皮算用を並べた手紙が、おれのもとに届いた。

 古く腐れた知り合いから送られてきた手紙だ⋯⋯そう、お前のことだ。ノイナ。

 

 おれの見通しも甘かったが、お前も適当なことを言いやがって。

 声がかかるのは中立なホビット族ばかりだ。人間の悪の盗賊なんて、ちっともお呼びじゃない。

 

 そう酒場の店主に言われたおれは、ふてくされて通りを歩いていた。ミケラ商店のあたりだ。

 パーティを組んで商店をのぞくやつらを横目でにらんでいると、なにやら騒ぎが耳に入った。

 どうやらケンカのようだ。

 

 普段なら気にもとめないが、さてはどこかのパーティが取り分で揉めてるな。そうかもしれないと思うと、おれはわくわくした気持ちになって、見物を決め込んだ。

 露店が点在する広場に人だかりができていた。おれは人混みを避けながら近寄った。

 

 まず目に入ったのは、大型の爬虫類のような風貌、リズマンと呼ばれる種族だ。

 肩をいからせて、太い尻尾で地面を苛立たしげに払った。

 

「引っ込んでろ人間! 先に手を出したのは、そっちの羽虫だ!」

 

 相対していたのは、リズマンに比べれば小柄だが、長身の女だ。顔は見えないが人間のようだ。

 女の背中あたりで、羽で飛ぶ、小人のような姿があった。フェアリーだ。

 どうやら長身の女はフェアリーをかばっているらしい。

 

 女はリズマンに対して、腕組をしたまま顎をあげる。

 

「弱いものの味方、などと言うつもりはない。だが、私はバランスが悪いのがキライでね。お前がこのフェアリーとケンカをするというなら⋯⋯そうだな、右腕以外の骨を全部折ってからが妥当だろう」

 

 女はめちゃくちゃなことを言っていた。

 当然リズマンは怒り狂い、燃えるように赤い口の中を見せながら大声を上げた。

 

「なめやがって!! お前の骨を折ってやる!!」

 

 リズマンが女の頭も包めそうなでかい手を伸ばすと、その手を女が掴んだ。

 凶暴な笑みを見せたリズマンだが、一転、顔色を変えた。

 

 女は一歩も引かず、リズマンの手を押し返す。尋常じゃない腕力だ。

 リズマンは顔色を変えてうめいた。

 

「てっ、てめえ⋯⋯人間族じゃないなッ!?」

「だからどうした? お前は相手の種族によって、ケンカをするか決めるのか?」

「ああ!? 上等だァ!! ぶっ潰してやる!!」

 

 リズマンと女は正面から両手を組むと、押し合いを始めた。

 両者の力は拮抗しているようで、その場で動かずプルプルと震えている。

 ミシミシと筋肉と骨が鳴る音が聞こえてきた。

 

 あの体格差で互角なんて、人間じゃあり得ない。

 おれは人混みの後ろを移動し、女の正面に回って驚いた。

 

「ドラコンか」

 

 ドラ『ゴ』ンじゃない、ドラ『コ』ンだ。聞いたことはあった。正確に言えば種族とは言えない。

 竜族と人間族のハーフらしい。人間の形質が強くでているようで後ろ姿は人間だったが、正面から見たら違いがよくわかる。

 縦長の瞳孔を持った目や、食いしばった口からのぞく牙。耳の上あたりに角も伸びていた。

 

 リズマンとドラコンは両手を組み合わせ、足を踏ん張る。石畳がきしみ、(ひたい)に青筋が浮かぶ。

 押し合いが続く中、ドラコンに庇われていたフェアリーは、おどおどした様子でふたりを交互に見ていた。

 

「グ⋯⋯グオオオオオオオ!!」

「ぬぉぉおおおおおおおお!!」

 

 まだ押し合っている。

 見物客は最初こそ声を上げていたが、やがて飽きて散り始めた。

 それもそうだ。荒くれの集まるこの都市じゃ、ケンカなんて珍しいものじゃない。

 

 だが、当の2人は真剣そのものだ。

 額の汗を飛ばしながら、互いに(ひたい)をぶつけ、じりじりと動く。

 押し合う。ゆずらない。少しずつ、動きはじめた。

 なぜか前にも後ろにも進まず、まるでカニのように横走りする。

 

「うわ!!」「お、おい、よけろよけろ!」

 

 野次馬が声上げて避ける。2人は広場の端へ突っ込んだ。

 座っていた何人かが巻き込まれ、土ぼこりが舞い上がる。

 

「おっしゃあああ!! どうだ! 俺の勝ちだ!!」リズマンが先に立ち上がった。

「クソッ!! おいもう一度だ!!」

 

 どうやら女のほうが背中を地面に付けたらしい。

 勝ち負けに夢中になって、本来の目的を忘れているようだ。なんてうかつな奴らだろうと、おれは思った。

 

「フン、負けを認めて大人しく引っ込んで⋯⋯あ? 羽虫はどこだ?」

「む? 逃げたか。なんだつまらん、ケンカする理由がなくなってしまった」

「冗談じゃねえぞ! どこに隠しやがったてめえ!」

「なに!? 知らないと言っている!」

 

 フェアリーを見失ったことに気づいた2人は、ぎゃあぎゃあと揉め始めた。

 もう一戦、始めそうな勢いだ。

 

 ところで、ものごとの真贋(しんがん)ってやつを見定めるのは、司教(ビショップ)だけじゃない。

 悪意に満ちた宝箱の罠を見極(みきわ)め、巧妙(こうみょう)に隠された扉を見つける。盗賊こそが、世界の表と裏の両方を見て歩く生き物だ。

 

「おい、探してるのはコイツだろう?」

 

 おれは再びつかみ合いをはじめた2人に言った。右手にもっているものがよく見えるように。

 

「あ? 引っ込ん⋯⋯ああ! 羽虫!!」

「フェアリー!? 貴様! そのものを離せ!!」

 

 おれが持ち上げてみせたのは、ドラコンにかばわれていたフェアリーだ。

 フェアリーは「はなして!」と言いながらおれの手をつねりあげる。けっこう痛い。

 

「そんでもってこれが、ほれ」おれは痛みに耐えながら、左手のものをドラコンに向かって投げる。

 

 ドラコンは警戒して身をかわした。革袋が空を描き、地面に落ちて鈍い音を立てた。銀貨が一枚、ころりと転がる。

 ドラコンは、はっとした顔をしたあと、自身の腰を探る。

 

()()()()()。これは⋯⋯どういうことだ?」

「それとこれだ」

 

 おれは薄い欠片を数枚、カードのように広げてみせる。

 

「ああ! 俺のウロコだ!!」リズマンが叫んだ。

「おい、人間。これはどういうことだ」

 

 ドラコンは理解できないという顔をしている。

 

「その羽虫が! この俺のウロコをむしりやがったんだよ! なんか痛ってえなと思ったら、ソイツがぶちぶちやってやがった!」

 

 なんてことはない。意外にも正当性はリズマンにあったわけだ。

 小さくてかよわいものが善人とは限らない。

 

「女! てめえどう落とし前つけるんだ!」リズマンがドラコンに食ってかかる。

「どうもしない。そもそも私はバランスが悪いのが気に食わなかった。どちらが原因など関係ない」

「なんなんだ、てめえは!!」

「フェアリーよ、このリズマンの言うことは本当か?」

 

 フェアリーはおれの手の中でこくんとうなずいた。「リズマンのうろこはね、くすりのそざいになるの」

「そうか⋯⋯私の財布を盗ったのはなぜだ?」

「さいふは、とれそうだったから。あなた、にぶそうだったし」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 ドラコンは引きつった顔で固まっている。

 

「おまえ、老婆が道でしゃがみ込んでたら、なんて言う?」

 

 おれは手の中のフェアリーにそうたずねた。

 

「なぁにそれ? しんだらそざいにしていい?」

 

 予想よりもずっとひどい答えにおれは冷や汗を流した。

 こいつ⋯⋯生粋の()に違いない。

 フェアリーは小さな手を胸に当て、必死に羽を震わせている。が、その手は、落ちたままの財布の方へ伸びていた。

 

「⋯⋯おい、人間。ソイツをよこしな」

 

 リズマンがこちらに近づき、手を伸ばす。

 

「どうするつもりだ?」おれはフェアリーを持った手を遠ざける。

「決まってる。ウロコと同じ数だけ羽をむしってやる」

「なんだと? それでは釣り合いがとれまい。私は許さんぞ」ドラコンが口を挟んだ。

「なにが釣り合いだ! バランスだッ!! ウロコ剥がされたことあんのかてめえらは!!」

 

 リズマンは激昂して叫ぶ。

 

「俺は俺の気の済むようにやるぞ──ソイツをよこせ、雑魚人間!!」

「──なんだと? やなこった。そんなことをしておれになんの得がある。こいつがほしければ、有り金をよこしな。それか、おまえら2人、高値を出したほうに売ってやる」

「なに? 身柄を金でやりとりするつもりか!」

 

 ドラコンはさっと顔色を変えて詰め寄ってくる。

 

「どいつもこいつも⋯⋯俺をなめやがって!!」

「人間、あとから出てきて勝手を言うな! そのフェアリーを離せ!」

「はっ、おまえらの間抜け具合を教えてやったんだ。授業料くらいもらわないと損⋯⋯いってぇ! 噛んだこいつ!!」

「はなして! はねがかゆいの!」

「よこせ!!」

「バランス!!」

「金払え!!」

 

 しくじった、とおれは思ったよ。もう少しうまく立ち回れると思ったんだ。

 全員が意固地になっちまった。

 押し合いもみ合いになりながら、それぞれが好き勝手に叫んでた。

 

「ならば全員が少しずつ、損をするのが良かろう」

 

 喧騒(けんそう)を断ち切ったのは、低く落ち着いた声だった。

 見ると、黒い毛並みの大きな犬のような種族が立っていた。

 服についた土ぼこりをパタパタと払いながらこちらを見ている。

 後で知ったことだが、ラウルフという種族だ。場所によってはコボルトと呼ばれ、危険な敵対種族とされているらしい。

 

「なんだ、てめえは。これ以上邪魔者はいらねえんだよ」と、リズマン。

「全員が損、だと? ⋯⋯僧侶か、説教なら無用だ。怪我をしたくなければ離れていろ」

 

 ドラコンはラウルフのローブを眺めてから言った。

 

「そういうわけにもいかぬ。見よ、我が家宝の杖だ」

「あ」

「げぇ」

 

 ドラコンとリズマンは同時に声を上げた。

 ラウルフが持ち上げた杖は、途中からまっぷたつに折れていた。2人が突っ込んだ先にいたらしい。

 

 しかしラウルフは気にする様子もなく近寄り、おれたちの顔を順番に見る。

 

「いまここで(ゆず)るのは確かに損だろう。だがそれはいわば賭け金、場代だ。なにも差し出さずに、なにかを得ることはできない。この世は博打(ばくち)だ。場代を出さぬものには、勝ち目すらない」

「⋯⋯はぁ?」

 

 なんなんだこいつは、とおれはラウルフの顔を眺めた。説教めいた調子で、賭けとか博打などと言っている。

 おれたちは水をかけられたように、勢いを失って立ちつくしていた。

 

爬人(はじん)殿」ラウルフはリズマンの顔を見ながら言う。「おぬしはなにを望む?」

「決まってんだろ。そこの羽虫を⋯⋯」

「そうではない」

 

 ラウルフはぴしゃりと言った。

 

「なにを望みに、この都市へ来たのだ。ここは灰と隣り合わせの地、それ相応の願いがあるはず」

「ああ⋯⋯?」リズマンはすっかり飲まれた様子でいた。「⋯⋯金だ。腕ひとつで、稼ぐためにここに来たんだ」

 

 文句あるか、という顔でリズマンはラウルフをにらみつける。

 ラウルフはうんうんと頷くと、ドラコンのほうへ鼻先を向けた。

 

「半人半竜殿、おぬしは?」

「む⋯⋯私は」ドラコンは眉根をよせる。「力試しよ。この身に宿る力。これでどこまで成せるか、試したい」

「よろしい。竜にも人にもなりきれぬ身、その揺れの果てを見極めるがいい」

「⋯⋯⋯⋯ッ」

「はいはい! つぎ、わたしっ」

 

 おれの手の中で、フェアリーが元気よく手をあげた。

 

「妖精殿、聞かせていただこう」

「わたしはね、おししょうにほめてもらいたいの。そのためにたくさんあつめたいの」

「師匠殿に褒めてもらいたい、認めてもらいたい。おぬしにとって重要な動機なのだな」

「うん!」

「よろしい⋯⋯さて」

 

 ラウルフは顔をあげて、おれの目を見る。

 まっすぐで、思慮深そうな眼差しだ。

 

「人間殿は、何を望む?」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 そんなの金に決まっている。ここに来るたいていのヤツらはそうさ。

 莫大な財宝の爪の先でも手に入れれば、一生安泰だ。

 富、名声、地位。それを手に入れるためにここに来た。

 そして、それを手に入れるために、必要なものがある。

 

「仲間がいれば、おぬしの望みも叶うであろう」ラウルフは勝手にそう言った。

 

 ラウルフはぐるりとおれたちを見回して、口を開いた。

 

「金、力試し、称賛。その目的は違えど、目的のための手段は同じ、()()であろう」

 

 おれはようやく、こいつが何を言おうとしているかわかった。

 

「おぬしらは互いに貸しを作った。それは強固な絆となるだろう。ときにそれは、同じ目的をもつもの同士よりも、だ。合縁奇縁。我らで徒党を組もうではないか」

「徒党? 徒党(パーティ)だと? コイツラで?」

 

 リズマンがあ然とした顔で声をあげた。

 

「ありえぬ」ドラコンはきっぱりと言った。「こんな卑怯なヤツらと」

 

 取り付く島もない様子だ。

 それはそうだ。仲間を探してたとはいえ、おれだってこんな勝手なヤツらはごめんだ。

 

「冗談じゃねぇ、頼まれたってごめんさ」おれはそう口にしながら、逆のことを考えていた。

 

 悪くない。体格にすぐれたリズマンに、それに劣らないドラコンだ。度胸や闘志がある。

 フェアリー族も、総じて魔術に適正があるはずだ。

 そしてこのラウルフ僧侶。こんな事を言うなら、きっと癒やしの術も使えるのだろう。

 

 盗賊の技能をもつおれがいる。これらをひとそろえするのは大変だ。

 どいつも身につけている装備は安物の布か、革の装備だ。つまり、この都市にきたばかり。仲間がいる様子もない。いればそれが理由で断るからな。

 

 こいつらがひとりで廃都に挑むバカでなければ、同じように思っているはずだ。

 

 おれはそっとリズマンとドラコンの顔を盗み見る。

 2人は憤然といった顔で、しかし、立ち去りもせず押し黙っている。

 悪くないと思いつつ、自分から折れるのはごめんだ、といったところだろう。

 おれもそうだからわかる。メンツの問題だ。

 

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯ねぇ」

「うわっ」

 

 沈黙をやぶったのは、フェアリーだった。

 いつのまにかおれの手から抜け出し、顔の前に飛び上がってきた。

 

「パーティ、くみたい」フェアリーがそう言った。

「なんだって?」

「おししょうに、いろんなそざいをあつめるようにいわれてるの。たてになってくれるひとがいたらなぁ、っておもってた」

「盾って⋯⋯お前な」

「おねがい。わたし、アルケミストのまほうがつかえるから」

 

 やはり、魔法が使える。実に好都合、そろそろ折れ時だろう。

 

「そこまで言うなら、私もかまわん」ドラコンが言う。「全員そろって損というのは、実にバランスがいい」

 

 ドラコンに先をこされてしまった。

 リズマンのほうは、まだ踏ん切りがつかない様子だ。おれはひとつ策を打つことにした。

 

「おれもいいぜ。あんたがいれば」おれはドラコンに顎を向けて言う。「前衛は十分そうだ。こっちのほうが強そうだしな」

「なんだと!!」

 

 思惑どおり、リズマンが食いついてきた。

 

「さっき俺が勝ったのを見てなかったのか! 俺のほうがでけぇし、強えんだよ!!」

「へぇ、そうかい。でも実践でみてみないとな⋯⋯口ではなんとでも言える」

「ああ!? やってやる!! おいてめえ!! どっちが強えかわからせてやるからな!!」

「⋯⋯フン、望むところだ」

 

 ドラコンはそう言って、おれを非難するような目でみた。おれがそそのかしたのが分かったらしい。

 

「良し、決まりのようだな。毛人殿、来られよ」

 

 ラウルフが後ろを向いてそう言った。

 リズマンとドラコンが突っ込んだあたりに、大きな毛皮のようなものがあった。

 毛皮はもぞもぞと動くと、ぬっと()()()()()()

 

「うわ!?」

「な、なんだソイツは!?」

 

 全身も顔も、毛で覆われた大柄な人型の生き物だ。

 ラウルフは平然と毛むくじゃらの歩く絨毯(じゅうたん)を見上げる。

 

「ムーク族と呼ばれる種族らしい。なに、道端で拾ったのだ。これでなかなかに腕が立つ。前衛に良かろう」

「Muuu」

 

 ムークはうなるように、なにか言っている。

 

「これにて6人。我らは命を賭場に出した一党(パーティ)よ」

 

 ラウルフが神妙な顔で言った。

 

「我が名はアルヴァン、僧侶をしている。さあ、名乗られよ」

「わたしはピリカ。アルケミストなの。よろしくね」フェアリーはそう名乗った。

「私の名はセシル。バルキリーの位を授かっている」ドラコンが続けて名乗る。

「⋯⋯グロック。戦士だ。馴れ合いはしねえぞ」とリズマン。

「Muuuuu!」ムークは何ごとかうなった。

 

 5人の視線がおれに向いた。

 

「おれはヴェイン。盗賊だ」おれはそう言った。

 

 まだ日も高い。まずはひと仕事だ。

 お手並み拝見、といったところだろう。

 

 

◇グランタン酒場

 

「いい感じじゃあないか」ノイナはそう言って、口元に笑みを浮かべた。「冒険のはじまりとしては、ありきたりだがね」

 

 ノイナは識別の終わった品を床に置くと、顔を上げてこちらを見た。

 揺れたロウソクの明かりが、空き瓶の並んだテーブルをぼんやり照らしていた。

 

「まだ続けるか?」おれは言った。

「もちろんだとも。これから初冒険だろう? 前衛が3人、後衛が3人。バランスはいいね」

「そう思うか? このあとが大変だったんだ。まずはムーくんが⋯⋯」

「ムーくん?」

「ああ、ムーク族のやつだ。名前わからないから、とりあえずムーくんて呼ぶことになった」

 

 なにせ、何を言ってるのか、ひとつもわからない。

 ムーク族みんながそうってわけじゃないんだろうが、あいつに関しちゃそうだ。

 

「安直だねぇ⋯⋯それで、ムーくんがどうなった?」

「死んだ」

「フフッ」

 

 

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