◇グランタン酒場
酒場の扉を押すと、むっとする臭いに思わず顔をしかめた。
洗う前のイモのようにひしめく小汚い頭から目をそらし、隅の奥の方へ目をやる。
尖った耳、金髪、テーブルに並んだ空き瓶。よし、いるな。
おれはイモ共を避けながら近寄って、グラスを傾けていたエルフの女──ノイナに声をかけた。
「ノイナ、識別を頼みたい。今いいか?」
おれは未識別の品物が詰まった袋をかかげてみせる。
「やぁヴェイン」ノイナはおれの名前を口にし、よどんだ目を袋に向ける。「盗賊稼業にはだいぶ慣れたみたいだね」
ノイナはへらへらと笑いながら酒瓶を持ち上げた。
まずは、酒だ。そういう意味だろう。
おれはため息をついてみせてから、酒を運んでいる給仕の女に手振りをする。
(ワイン・一瓶ずつ・一番安いやつ)
給仕はクスリと笑ってうなづいた。
おれがノイナの向かいに腰を下ろすと、ノイナは酒瓶をグラスの上で逆さにしながら口を開いた。
「それで、ヴェイン。どうなんだい?」
「なにがだ」
「決まってるだろう。新しいパーティの調子さ」
ニヤニヤとするノイナの顔を見ないですむよう、おれは手で顔を覆う。
「もうやめたい⋯⋯」
「ブフッ! フハハハ!!」ノイナはつばを撒き散らしながら笑う。「そ、それはもったいない! あんなに愉快で珍しい仲間たちなのに!」
ゲラゲラと笑い続けるノイナを横目に、おれは運ばれてきたワインを自分のグラスに注ぐ。
ノイナはまだ笑いながら言う。
「も、もういちど話してくれるかい? どんな6人だったっけ。まず人間族である君だ」
ノイナがおれを指さしてさらに言う。
「それと、ドラコンにリズマン族、フェアリー族」
「ああ」
「あとはラウルフ族と、ム、ムー──」
「⋯⋯ムーク族だ」おれはそう付け足した。
「うふっ、見事にバラバラだね」
ノイナはニヤニヤと笑いながら椅子の背もたれにより掛かる。
「それにまるで、珍種の見本市だ。たいていは人間族を中心に、エルフやドワーフを散りばめるばかり。最近は猫獣人も流行ってるけどね」
おれは黙ってグラスを傾ける。
ノイナの言うことはもっともだ。人数が集まればたいていは人間が複数いる。
人間はとにかく多い。多いだけで、取り柄はないけどな。
エルフやドワーフは冒険者であれば、わりと見かける。あいつらは人間よりずっと魔力があったり、頑丈だったりでずるいもんだ。
フェアリーは珍しいがまあ、聞く。リズマンはリザードマンって呼び方ならよく聞くな。
ラウルフとムークに至っては初めて聞いた。
「それに戒律も、くくく、どんなだったかな」
からかうのを隠さず言うノイナに、おれは顔をしかめてみせる。
面倒な
あとは聖なる騎士である
「ヴェイン、言ってくれよ。君のパーティの戒律を」
ノイナが先を促してくる。
「中立中立悪悪悪悪だ」
「ギャハハハハハ!! 性格! ワルそぉ!!」
「うるせぇ!! てめぇだって悪だろうが!!」
有名な、戒律を確かめる質問が前に流行ったな。『道で座り込んだ老婆にどうするか』だった。
おれは金をくれるなら助けると答えた。悪の典型的な回答らしい。
「ひぃ、ひぃッ」
「笑いすぎだ」
そのまま
「そ、そうだ、いい機会だ。どういう風に出会ったか、教えてくれないか」
「いやだね。笑われ損じゃねぇか」
「そんなことにはしないさ⋯⋯そうだ」
ノイナはテーブルの横にかがみ込んで、おれの持ってきた未識別の袋を持ち上げた。
「もし教えてくれるなら、識別代はタダにするよ」
「なんだって?」
悪くない取引だ。識別代は安くない。
商店で頼めば、それこそボッタクるような代金を取る。
おれは少し考えたふりを見せてから、言う。
「わかった、取引成立だ。あれは10日ほど前だったか⋯⋯」
「ああ、ちょっと待った」
ノイナは話し始めたおれを手で制した。
「なんだよ。やっぱり無しは無しだぜ」
「そんな野暮なことはしないさ。せっかくだから、臨場感たっぷりで味わいたくてね」
ノイナはおれの頭に手のひらを向けて、目を細めた。
「──《ノバイス》」
ノイナがそう唱えると、白い光が互いの頭をひと巡りして消える。
「なにをした?」
「フフ、読心の呪文さ。昔取ったきねづかってやつだよ。これでいい」
読心? 心を読む呪文か。
はるか遠くの地で、
「そういうことさ」とノイナはおれが頭で思ったことに答えた。
「ふうん、なるほど」
いいぜ。口で喋るよりずっと楽でいい。口は酒を飲むのに忙しいんだ。
教えてやる。どんな出会いからだったな。
◆1日目
その日、おれは途方にくれていた。
おれはここ、城塞都市ダリアに着いたばかりだった。
ダリアは呪われた王都の廃墟の近くに築かれ、あふれる魔物を冒険者に狩らせている。
冒険者は宝で
そんな時勢だ。鍵開け、隠れた道の発見が得意な盗賊は引く手あまた。宝も地位も名誉も、すべては思いのまま!
そんな甘い皮算用を並べた手紙が、おれのもとに届いた。
古く腐れた知り合いから送られてきた手紙だ⋯⋯そう、お前のことだ。ノイナ。
おれの見通しも甘かったが、お前も適当なことを言いやがって。
声がかかるのは中立なホビット族ばかりだ。人間の悪の盗賊なんて、ちっともお呼びじゃない。
そう酒場の店主に言われたおれは、ふてくされて通りを歩いていた。ミケラ商店のあたりだ。
パーティを組んで商店をのぞくやつらを横目でにらんでいると、なにやら騒ぎが耳に入った。
どうやらケンカのようだ。
普段なら気にもとめないが、さてはどこかのパーティが取り分で揉めてるな。そうかもしれないと思うと、おれはわくわくした気持ちになって、見物を決め込んだ。
露店が点在する広場に人だかりができていた。おれは人混みを避けながら近寄った。
まず目に入ったのは、大型の爬虫類のような風貌、リズマンと呼ばれる種族だ。
肩をいからせて、太い尻尾で地面を苛立たしげに払った。
「引っ込んでろ人間! 先に手を出したのは、そっちの羽虫だ!」
相対していたのは、リズマンに比べれば小柄だが、長身の女だ。顔は見えないが人間のようだ。
女の背中あたりで、羽で飛ぶ、小人のような姿があった。フェアリーだ。
どうやら長身の女はフェアリーをかばっているらしい。
女はリズマンに対して、腕組をしたまま顎をあげる。
「弱いものの味方、などと言うつもりはない。だが、私はバランスが悪いのがキライでね。お前がこのフェアリーとケンカをするというなら⋯⋯そうだな、右腕以外の骨を全部折ってからが妥当だろう」
女はめちゃくちゃなことを言っていた。
当然リズマンは怒り狂い、燃えるように赤い口の中を見せながら大声を上げた。
「なめやがって!! お前の骨を折ってやる!!」
リズマンが女の頭も包めそうなでかい手を伸ばすと、その手を女が掴んだ。
凶暴な笑みを見せたリズマンだが、一転、顔色を変えた。
女は一歩も引かず、リズマンの手を押し返す。尋常じゃない腕力だ。
リズマンは顔色を変えてうめいた。
「てっ、てめえ⋯⋯人間族じゃないなッ!?」
「だからどうした? お前は相手の種族によって、ケンカをするか決めるのか?」
「ああ!? 上等だァ!! ぶっ潰してやる!!」
リズマンと女は正面から両手を組むと、押し合いを始めた。
両者の力は拮抗しているようで、その場で動かずプルプルと震えている。
ミシミシと筋肉と骨が鳴る音が聞こえてきた。
あの体格差で互角なんて、人間じゃあり得ない。
おれは人混みの後ろを移動し、女の正面に回って驚いた。
「ドラコンか」
ドラ『ゴ』ンじゃない、ドラ『コ』ンだ。聞いたことはあった。正確に言えば種族とは言えない。
竜族と人間族のハーフらしい。人間の形質が強くでているようで後ろ姿は人間だったが、正面から見たら違いがよくわかる。
縦長の瞳孔を持った目や、食いしばった口からのぞく牙。耳の上あたりに角も伸びていた。
リズマンとドラコンは両手を組み合わせ、足を踏ん張る。石畳がきしみ、
押し合いが続く中、ドラコンに庇われていたフェアリーは、おどおどした様子でふたりを交互に見ていた。
「グ⋯⋯グオオオオオオオ!!」
「ぬぉぉおおおおおおおお!!」
まだ押し合っている。
見物客は最初こそ声を上げていたが、やがて飽きて散り始めた。
それもそうだ。荒くれの集まるこの都市じゃ、ケンカなんて珍しいものじゃない。
だが、当の2人は真剣そのものだ。
額の汗を飛ばしながら、互いに
押し合う。ゆずらない。少しずつ、動きはじめた。
なぜか前にも後ろにも進まず、まるでカニのように横走りする。
「うわ!!」「お、おい、よけろよけろ!」
野次馬が声上げて避ける。2人は広場の端へ突っ込んだ。
座っていた何人かが巻き込まれ、土ぼこりが舞い上がる。
「おっしゃあああ!! どうだ! 俺の勝ちだ!!」リズマンが先に立ち上がった。
「クソッ!! おいもう一度だ!!」
どうやら女のほうが背中を地面に付けたらしい。
勝ち負けに夢中になって、本来の目的を忘れているようだ。なんてうかつな奴らだろうと、おれは思った。
「フン、負けを認めて大人しく引っ込んで⋯⋯あ? 羽虫はどこだ?」
「む? 逃げたか。なんだつまらん、ケンカする理由がなくなってしまった」
「冗談じゃねえぞ! どこに隠しやがったてめえ!」
「なに!? 知らないと言っている!」
フェアリーを見失ったことに気づいた2人は、ぎゃあぎゃあと揉め始めた。
もう一戦、始めそうな勢いだ。
ところで、ものごとの
悪意に満ちた宝箱の罠を
「おい、探してるのはコイツだろう?」
おれは再びつかみ合いをはじめた2人に言った。右手にもっているものがよく見えるように。
「あ? 引っ込ん⋯⋯ああ! 羽虫!!」
「フェアリー!? 貴様! そのものを離せ!!」
おれが持ち上げてみせたのは、ドラコンにかばわれていたフェアリーだ。
フェアリーは「はなして!」と言いながらおれの手をつねりあげる。けっこう痛い。
「そんでもってこれが、ほれ」おれは痛みに耐えながら、左手のものをドラコンに向かって投げる。
ドラコンは警戒して身をかわした。革袋が空を描き、地面に落ちて鈍い音を立てた。銀貨が一枚、ころりと転がる。
ドラコンは、はっとした顔をしたあと、自身の腰を探る。
「
「それとこれだ」
おれは薄い欠片を数枚、カードのように広げてみせる。
「ああ! 俺のウロコだ!!」リズマンが叫んだ。
「おい、人間。これはどういうことだ」
ドラコンは理解できないという顔をしている。
「その羽虫が! この俺のウロコをむしりやがったんだよ! なんか痛ってえなと思ったら、ソイツがぶちぶちやってやがった!」
なんてことはない。意外にも正当性はリズマンにあったわけだ。
小さくてかよわいものが善人とは限らない。
「女! てめえどう落とし前つけるんだ!」リズマンがドラコンに食ってかかる。
「どうもしない。そもそも私はバランスが悪いのが気に食わなかった。どちらが原因など関係ない」
「なんなんだ、てめえは!!」
「フェアリーよ、このリズマンの言うことは本当か?」
フェアリーはおれの手の中でこくんとうなずいた。「リズマンのうろこはね、くすりのそざいになるの」
「そうか⋯⋯私の財布を盗ったのはなぜだ?」
「さいふは、とれそうだったから。あなた、にぶそうだったし」
「⋯⋯⋯⋯」
ドラコンは引きつった顔で固まっている。
「おまえ、老婆が道でしゃがみ込んでたら、なんて言う?」
おれは手の中のフェアリーにそうたずねた。
「なぁにそれ? しんだらそざいにしていい?」
予想よりもずっとひどい答えにおれは冷や汗を流した。
こいつ⋯⋯生粋の
フェアリーは小さな手を胸に当て、必死に羽を震わせている。が、その手は、落ちたままの財布の方へ伸びていた。
「⋯⋯おい、人間。ソイツをよこしな」
リズマンがこちらに近づき、手を伸ばす。
「どうするつもりだ?」おれはフェアリーを持った手を遠ざける。
「決まってる。ウロコと同じ数だけ羽をむしってやる」
「なんだと? それでは釣り合いがとれまい。私は許さんぞ」ドラコンが口を挟んだ。
「なにが釣り合いだ! バランスだッ!! ウロコ剥がされたことあんのかてめえらは!!」
リズマンは激昂して叫ぶ。
「俺は俺の気の済むようにやるぞ──ソイツをよこせ、雑魚人間!!」
「──なんだと? やなこった。そんなことをしておれになんの得がある。こいつがほしければ、有り金をよこしな。それか、おまえら2人、高値を出したほうに売ってやる」
「なに? 身柄を金でやりとりするつもりか!」
ドラコンはさっと顔色を変えて詰め寄ってくる。
「どいつもこいつも⋯⋯俺をなめやがって!!」
「人間、あとから出てきて勝手を言うな! そのフェアリーを離せ!」
「はっ、おまえらの間抜け具合を教えてやったんだ。授業料くらいもらわないと損⋯⋯いってぇ! 噛んだこいつ!!」
「はなして! はねがかゆいの!」
「よこせ!!」
「バランス!!」
「金払え!!」
しくじった、とおれは思ったよ。もう少しうまく立ち回れると思ったんだ。
全員が意固地になっちまった。
押し合いもみ合いになりながら、それぞれが好き勝手に叫んでた。
「ならば全員が少しずつ、損をするのが良かろう」
見ると、黒い毛並みの大きな犬のような種族が立っていた。
服についた土ぼこりをパタパタと払いながらこちらを見ている。
後で知ったことだが、ラウルフという種族だ。場所によってはコボルトと呼ばれ、危険な敵対種族とされているらしい。
「なんだ、てめえは。これ以上邪魔者はいらねえんだよ」と、リズマン。
「全員が損、だと? ⋯⋯僧侶か、説教なら無用だ。怪我をしたくなければ離れていろ」
ドラコンはラウルフのローブを眺めてから言った。
「そういうわけにもいかぬ。見よ、我が家宝の杖だ」
「あ」
「げぇ」
ドラコンとリズマンは同時に声を上げた。
ラウルフが持ち上げた杖は、途中からまっぷたつに折れていた。2人が突っ込んだ先にいたらしい。
しかしラウルフは気にする様子もなく近寄り、おれたちの顔を順番に見る。
「いまここで
「⋯⋯はぁ?」
なんなんだこいつは、とおれはラウルフの顔を眺めた。説教めいた調子で、賭けとか博打などと言っている。
おれたちは水をかけられたように、勢いを失って立ちつくしていた。
「
「決まってんだろ。そこの羽虫を⋯⋯」
「そうではない」
ラウルフはぴしゃりと言った。
「なにを望みに、この都市へ来たのだ。ここは灰と隣り合わせの地、それ相応の願いがあるはず」
「ああ⋯⋯?」リズマンはすっかり飲まれた様子でいた。「⋯⋯金だ。腕ひとつで、稼ぐためにここに来たんだ」
文句あるか、という顔でリズマンはラウルフをにらみつける。
ラウルフはうんうんと頷くと、ドラコンのほうへ鼻先を向けた。
「半人半竜殿、おぬしは?」
「む⋯⋯私は」ドラコンは眉根をよせる。「力試しよ。この身に宿る力。これでどこまで成せるか、試したい」
「よろしい。竜にも人にもなりきれぬ身、その揺れの果てを見極めるがいい」
「⋯⋯⋯⋯ッ」
「はいはい! つぎ、わたしっ」
おれの手の中で、フェアリーが元気よく手をあげた。
「妖精殿、聞かせていただこう」
「わたしはね、おししょうにほめてもらいたいの。そのためにたくさんあつめたいの」
「師匠殿に褒めてもらいたい、認めてもらいたい。おぬしにとって重要な動機なのだな」
「うん!」
「よろしい⋯⋯さて」
ラウルフは顔をあげて、おれの目を見る。
まっすぐで、思慮深そうな眼差しだ。
「人間殿は、何を望む?」
「⋯⋯⋯⋯」
そんなの金に決まっている。ここに来るたいていのヤツらはそうさ。
莫大な財宝の爪の先でも手に入れれば、一生安泰だ。
富、名声、地位。それを手に入れるためにここに来た。
そして、それを手に入れるために、必要なものがある。
「仲間がいれば、おぬしの望みも叶うであろう」ラウルフは勝手にそう言った。
ラウルフはぐるりとおれたちを見回して、口を開いた。
「金、力試し、称賛。その目的は違えど、目的のための手段は同じ、
おれはようやく、こいつが何を言おうとしているかわかった。
「おぬしらは互いに貸しを作った。それは強固な絆となるだろう。ときにそれは、同じ目的をもつもの同士よりも、だ。合縁奇縁。我らで徒党を組もうではないか」
「徒党?
リズマンがあ然とした顔で声をあげた。
「ありえぬ」ドラコンはきっぱりと言った。「こんな卑怯なヤツらと」
取り付く島もない様子だ。
それはそうだ。仲間を探してたとはいえ、おれだってこんな勝手なヤツらはごめんだ。
「冗談じゃねぇ、頼まれたってごめんさ」おれはそう口にしながら、逆のことを考えていた。
悪くない。体格にすぐれたリズマンに、それに劣らないドラコンだ。度胸や闘志がある。
フェアリー族も、総じて魔術に適正があるはずだ。
そしてこのラウルフ僧侶。こんな事を言うなら、きっと癒やしの術も使えるのだろう。
盗賊の技能をもつおれがいる。これらをひとそろえするのは大変だ。
どいつも身につけている装備は安物の布か、革の装備だ。つまり、この都市にきたばかり。仲間がいる様子もない。いればそれが理由で断るからな。
こいつらがひとりで廃都に挑むバカでなければ、同じように思っているはずだ。
おれはそっとリズマンとドラコンの顔を盗み見る。
2人は憤然といった顔で、しかし、立ち去りもせず押し黙っている。
悪くないと思いつつ、自分から折れるのはごめんだ、といったところだろう。
おれもそうだからわかる。メンツの問題だ。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯ねぇ」
「うわっ」
沈黙をやぶったのは、フェアリーだった。
いつのまにかおれの手から抜け出し、顔の前に飛び上がってきた。
「パーティ、くみたい」フェアリーがそう言った。
「なんだって?」
「おししょうに、いろんなそざいをあつめるようにいわれてるの。たてになってくれるひとがいたらなぁ、っておもってた」
「盾って⋯⋯お前な」
「おねがい。わたし、アルケミストのまほうがつかえるから」
やはり、魔法が使える。実に好都合、そろそろ折れ時だろう。
「そこまで言うなら、私もかまわん」ドラコンが言う。「全員そろって損というのは、実にバランスがいい」
ドラコンに先をこされてしまった。
リズマンのほうは、まだ踏ん切りがつかない様子だ。おれはひとつ策を打つことにした。
「おれもいいぜ。あんたがいれば」おれはドラコンに顎を向けて言う。「前衛は十分そうだ。こっちのほうが強そうだしな」
「なんだと!!」
思惑どおり、リズマンが食いついてきた。
「さっき俺が勝ったのを見てなかったのか! 俺のほうがでけぇし、強えんだよ!!」
「へぇ、そうかい。でも実践でみてみないとな⋯⋯口ではなんとでも言える」
「ああ!? やってやる!! おいてめえ!! どっちが強えかわからせてやるからな!!」
「⋯⋯フン、望むところだ」
ドラコンはそう言って、おれを非難するような目でみた。おれがそそのかしたのが分かったらしい。
「良し、決まりのようだな。毛人殿、来られよ」
ラウルフが後ろを向いてそう言った。
リズマンとドラコンが突っ込んだあたりに、大きな毛皮のようなものがあった。
毛皮はもぞもぞと動くと、ぬっと
「うわ!?」
「な、なんだソイツは!?」
全身も顔も、毛で覆われた大柄な人型の生き物だ。
ラウルフは平然と毛むくじゃらの歩く
「ムーク族と呼ばれる種族らしい。なに、道端で拾ったのだ。これでなかなかに腕が立つ。前衛に良かろう」
「Muuu」
ムークはうなるように、なにか言っている。
「これにて6人。我らは命を賭場に出した
ラウルフが神妙な顔で言った。
「我が名はアルヴァン、僧侶をしている。さあ、名乗られよ」
「わたしはピリカ。アルケミストなの。よろしくね」フェアリーはそう名乗った。
「私の名はセシル。バルキリーの位を授かっている」ドラコンが続けて名乗る。
「⋯⋯グロック。戦士だ。馴れ合いはしねえぞ」とリズマン。
「Muuuuu!」ムークは何ごとかうなった。
5人の視線がおれに向いた。
「おれはヴェイン。盗賊だ」おれはそう言った。
まだ日も高い。まずはひと仕事だ。
お手並み拝見、といったところだろう。
◇グランタン酒場
「いい感じじゃあないか」ノイナはそう言って、口元に笑みを浮かべた。「冒険のはじまりとしては、ありきたりだがね」
ノイナは識別の終わった品を床に置くと、顔を上げてこちらを見た。
揺れたロウソクの明かりが、空き瓶の並んだテーブルをぼんやり照らしていた。
「まだ続けるか?」おれは言った。
「もちろんだとも。これから初冒険だろう? 前衛が3人、後衛が3人。バランスはいいね」
「そう思うか? このあとが大変だったんだ。まずはムーくんが⋯⋯」
「ムーくん?」
「ああ、ムーク族のやつだ。名前わからないから、とりあえずムーくんて呼ぶことになった」
なにせ、何を言ってるのか、ひとつもわからない。
ムーク族みんながそうってわけじゃないんだろうが、あいつに関しちゃそうだ。
「安直だねぇ⋯⋯それで、ムーくんがどうなった?」
「死んだ」
「フフッ」