はるさめside
モニターには力尽きたように横倒しになっていくやまとの姿が見えた。
「上条は脱出できたのか?」
モニターから目線を外さずに、隣に立つ副長に聞く。
しかし、副長は何も見ずに何処かに問い合わせることもせずに答えた。
「分かりません。
詳細は不明です。」
それに今の段階で問い合わせたところで、答えが返ってくるはずも無い。
副長にはそれがよく分かっていた。
「
SH-60Jを救難仕様にて発進させよ。」
「命令されてませんよ。」
副長のこの言葉には大丈夫なのかとの思いがありありと見受けられる。
「大丈夫だ。
責任は俺が取る。
それに上条の奴も心配だしな。」
「了解。」
「低空にて偵察飛行を行って、生存者がいれば救助せよ。
爆発炎上したわけではないから、死んだ者は少ないはずだ。」
艦長の神山二佐はモニターの一点を見つめていた。
「SH-60J発進用意良し。」
「発進。」
はるさめside out
SH-60Jside
「目標の上空に到着。
これより目視による捜索を開始する。」
「了解。
慎重に捜索せよ。」
「了解。」
はるさめを発進したSH-60Jは光で照らされたやまとの周囲を旋回する。
見える範囲に生存者はいない。
「地上よりの発光信号。
コ・チ・ラ・ハ・ヤ・マ・ト
ヤ・マ・ト・カ・ン・ナ・イ・ニ・ヨ・ウ・キ・ュ・ウ・ジ・ョ・シ・ャ・ア・リ
バ・シ・ョ・ハ・カ・ン・キ・ョ・ウ
ニ・ン・ズ・ウ・ハ・ヨ・ン・ジ・ュ・ウ・ニ・ン
ク・リ・カ・エ・ス
ヤ・マ・ト・カ・ン・ナ・イ・ニ・ヨ・ウ・キ・ュ・ウ・ジ・ョ・シ・ャ・ア・リ
バ・シ・ョ・ハ・カ・ン・キ・ョ・ウ
ニ・ン・ズ・ウ・ハ・ヨ・ン・ジ・ュ・ウ・ニ・ン
とのことです。。」
「了解。
これより、機上救助員を降下させ、詳細を調査する。」
「おいっ。
安全は確認できたのか?」
慌てて問い合わせて来る
「危険なのは取り残されている方だ。
だから艦長は、俺達を出したんだろう。
無論、危険と判断すればさっさと逃げるよ。」
艦橋脇の窓の側にゆっくりと機体を下ろしていく。
ヘリにしろ、飛行機にしろ低空が危険なのは同じである。
例えば、低空を飛ぶときの危険な要素として風が挙げられる。
低空では吹く風が突如変わりやすい。
それの見極めが必要なのだ。
さいわい今日の風は弱い西風だった。
見たところ突然に変わることも少ないだろう。
細かい操縦を二人掛かりで行いながら、機長は機上救助員に降下準備を命じた。
機上救助員といっても、SH-60Jにそんな人間が乗っているわけが無い。
仕方なく
「こちら
「降下。」
機体から機上救助員が飛び降りて、ホイストを伝って降下する。
慎重に慎重を重ねている。
そして、やまとに降り立つと窓から覗き込んで、内部を確認する。
「機長、内部に人がいるのを確認しました。
これより、内部に進入します。」
「了解。
気をつけて行け。」
それから10分くらいたった頃だったか、機上救助員より連絡が入った。
「負傷者を確認。
情報通り、40人です。
全員生存しています。
最初の重傷者を運び出すので、ホイストの準備を頼みます。」
「了解。
ソナー員も下りてやれ。
「了解。」
ピシッと敬礼すると、ホイストに掴まりながら降下していく。
そして、1人目が、2人目が、3人目が、4人目が、5人目が、6人目が吊り上げられる。
「
生存者の収容完了。
本機はこれより病院へ急行するが、
「了解。」
生存者を収容したSH-60Jは、病院に急行するがその時には余計な振動を生まないように気を使う。
万が一にでも、傷に障ることがあってはならないからだ。
SH-60Jside out
SH-60Jから降下した
「機長、内部に人がいるのを確認しました。
これより、内部に進入します。」
「了解。
気をつけて行け。」
機長からの返答があった。
海上自衛隊艦艇に使用されている窓ガラスは割ると粉々に砕け散る仕様となっている。
これは被弾した際に、破壊された窓ガラスの破片によって死傷者が出ないようにするための配慮である。
窓から頭を入れてドアの状況を確かめた。
歪んでいるだけで、簡単にこじ開けられる。
事前に準備したロープをドアのところにくくりつけて、戦闘のあとの残る艦橋内に入る。
破片の散らばった艦橋の中をゆっくりと降下していく。
下のところに全員が固まっている。
やまと自体が大きく傾いているのだから、無理も無い。
人を掻き分けながら、状況を確認する。
そこには、現在のやまとで最上位の人が横たわっていた。
「救助に来ました。
上条二佐、大丈夫ですか?」
上条は
「ああ、大丈夫です。
他の連中から頼みます。」
しかし、見たところ上条が1番の重傷者だ。
他の負傷者の様子を見るが、上条以上にひどい人はいない。
全員、応答は無いがその代わりに大いびきをかいている。
「上条二佐、あなたから搬送します。」
しかし、言えなかった。
そう言うのを察したのか、上条が手を挙げて制したからだ。
「私には艦長代理としての責任があります。
私を搬送するのは最後にしていただきたい。」
息も絶え絶えながら、そう言い切った。
「分かりました。」
そう言って、上条に対し敬礼する。
機長に対して報告を行う。
「負傷者を確認。
情報通り、40人です。
全員生存しています。
最初の重傷者を運び出すので、ホイストの準備を頼みます。」
「了解。」
そのあとで近くにいた重傷者を抱えて艦橋を上がる。
上がりきったところには、ソナー員が待っていた。
「あとは私が担当します。」
「任せたぞ。」
「これが1番の負傷者ですか?」
ソナー員は疑問を持ったようだ。
「いや、1番の負傷者の上条二佐は離艦を拒否した。
部下の全員の離艦が終わるまではだが、無論容態が悪化すればすぐに離艦させるさ。」
「分かりました。
機長にはそう報告しておきます。」
「よろしく頼む。」
連続で6人を吊り上げると機長より命令が下った。
「
生存者の収容完了。
本機はこれより病院へ急行するが、
「了解。」
次には他の護衛艦を発進したSH-60J/Kが待機している。
そのうちの1機がやまとの上空にくる。
それを確認することなく、やまとの艦橋に戻り次の重傷者を引っ張り上げる。
6機のヘリコプターを見送り、次が最後だと気合いを入れ直す。
残り3人を最後のSH-60の機上救助員に引き渡すと、艦橋内に戻ると上条に声をかける。
「上条二佐、他の全員の離艦完了しました。
あなたが最後です。」
「ありがとう。
我が儘言ってすまなかった。」
そう言う上条を抱き抱えると、艦橋を登りはじめた。
艦橋のところには、ホイストが下りてきていた。
それをしっかりと上条の身体に固定させる。
ついで自分の身体にも、がっちり固定する。
準備が整ったことを、サインで示す。
一呼吸してホイストが巻き取られ、身体が浮きはじめた。
SH-60に到着すると、
「お疲れ様。
よくやったじゃないか。
水分は取っとけよ。」
こう言って水を渡してくれたのは、先輩の
「所属長に報告しなくてもいいのか?
というか、もう繋がってるぞ。」
ここで言う所属長とは、SH-60J発進を命じたはるさめ艦長である。
「はるさめ艦長の神山だ。」
「はっ、SH-60J戦術航空士、野中二尉であります。
たった今、上条二佐含む全員の救助完了しました。」
「そうか、よくやった。」
通信文の内容を変更しました。