『運命の出会いが欲しい』と願っていたら、モニターから男の子が生えてきました 作:おにぎり・S
恋がしたいな、って思ってた。
運命の出会いなんて、本当にあるのか分からないけど。
誰かを好きになって、心が燃えるような恋をしてみたい。
私を好きになってくれる王子様が現れないかなって、ずっと夢見てた。
でも世界は残酷だ。
圧倒的に男性が少ないこの世界では、相手を見つけることすら簡単じゃなくて。
恋なんて贅沢な願い。
どうせ夢のまま終わるんだろうなって、そう思ってたのに。
「な、なに……これ……!?」
言葉が出ない。
目の前の光景をどう理解したらいいのか分からなかった。
「こ、こんにちは……?」
男性の低い声が響く。
モニターから上半身だけ飛び出した男が、困ったような顔でこちらを見ていた。
◇
「あー、彼女ほしー」
大学の学食。
日替わりランチの唐揚げをかじりながら思わず漏れた俺のボヤキに、
対面でラーメンをすすっていた孝弘が、あきれたように顔を上げた。
「志郎、おまえまたそれかよ」
「だってさー、もう大学生だぜ?恋愛したいじゃんか。なんで女子と付き合えないんだろうな。
お前に言われた通り、髪も整えて、きれいな服買って、筋トレまでしてるのに!」
地方出身の芋男子、総戸志郎《そうと しろう》。
大学デビューを目指して奮闘中だった。
初めて入った美容室で髪型を整え、
服屋の店員にすすめられるまま清潔感のある服を買い、
女の子の前で脱いでも恥ずかしくない身体を目指して筋トレも始めた。
まあ、そんな機会は今のところないんだけど。
地元では冴えなかった俺も、少しは都会になじめてきた……と思う。
「見た目はよくなったけど、中身が追い付いてないんだろ」
「おまえ、言ってくれるじゃんか。やっぱ彼女もちは余裕が違うね」
孝弘はいかにもモテそうなタイプだ。
明るい茶髪にピアスしてて、目は二重で大きくて、顔立ちは整っていて。
よく分からない洒落たデザインの服をモデルみたいに着こなしている。
入学してすぐ彼女ができたって聞いた時も、正直まったく驚かなかった。
大学デビューをしたかった俺は、そんな孝弘に頼み込んで、「かっこいい男になる方法」を教えてもらったのだ。
「怒んなよ。少なくとも、そうやって変わろうと努力できるところはお前のいいとこだ。真摯に生きてりゃ、中身だってそのうちついてくるさ。彼女もできるって」
「そう言われてもな。俺は今欲しいんだよ!」
男と女。その数はだいたい同じだ。
1対1の比率なんだから、理屈の上では、一人につき一人恋人ができてもいいはずなのに。現実は一部のイケてる男女が恋愛を独占している。俺はその”恋愛カースト”の下の方から、今日も見上げているだけだった。
「はぁ、俺の何がダメなんだよ」
「とりあえず、女としゃべるときに緊張しすぎだ。どもりすぎて全然話せてないだろ」
「うぐ……」
女っ気のない田舎で生きてきた俺は、女子の前にでると緊張して頭が真っ白になってしまう。何を話していいかわからず、空回りばかり。
しかし俺も男子大学生。女子への興味は滅茶苦茶あるわけで。しんどい思いをしても、どうにかしようと懲りずに足掻いていた。
「ま、志郎はもうちょい”余裕”を持つことだな」
ラーメンの残りを食べ終えた孝弘が「ごちそーさん」と席を立つ。
俺は残りの唐揚げを口に放り込みながら、
『どっかに運命落ちてねーかな……』なんて考えていた。
◇
大学も終わり、俺は自室で眉間にしわを寄せながら椅子に腰を下ろしていた。
「ぐぬぬぬ……」
出会いがない。それが最大の問題だった。
地方から出てきた俺は、頼れる友達も少ない。孝弘に女子を紹介してもらうことも考えたが、あいつの周りの女子はレベルが高すぎて俺じゃ太刀打ちできない。
でも、彼女は欲しい。運命の出会い、してみたい。
悩みに悩んだ俺は一つの答えを出した。
……マッチングアプリ、やるか。
抵抗はあった。ネットの出会いってなんか怖いし、勧誘とかトラブルとか変な話も聞く。でも、何もしないまま時間だけ過ぎていくのはもっと嫌だった。
思い立ったが吉日。スマホを手に取り、アプリをインストールしようとした、その瞬間。
画面が光った。
「うわっ!」
目が焼けるような光。反射的にまぶたを閉じた次の瞬間、胸元をぐっと引っ張られるような力を感じた。
スマホに吸い込まれる──そんな馬鹿な、と思う間もなく、視界が白に溶けていく。
浮遊感、ぐるぐるとした感覚が俺を襲いどちらが上か下かもわからない。
徐々に光が薄れていき、目を開くと
……そこは知らない部屋だった。
白を基調とした、落ち着いた部屋。
棚の上にはぬいぐるみが置いてあって。
壁には淡いピンクのカーテン。
どうみても、女の子の部屋。
そして、目の前に──
茶髪のショートボブの、かわいい女の子がいた。
困惑した顔で、俺を見つめている。
「こ、こんにちは……?」
思わず口から出た言葉に、
彼女はびくっと肩を震わせた。
「こ、こんにちは……って、男の子!?え、ていうかそれ、どうなってるの!?」
困惑と驚いた表情の彼女が俺の方をみている。
視線を追うようにおれは目線を下半身に向ける。
「な、なんじゃこりゃ!?」
ローテーブルの上に置かれたノートパソコンの画面。
そこから俺の上半身が飛び出し、下半身はグニャグニャと波打つ光の中に消えていた。
「だ、大丈夫……なの?」
女の子が心配そうに声をかけてくれる。
「え、あ、い、痛くはないんだけど……あ、これ抜けるかも」
テーブルに手をつき、這うように前に進むと、少しずつ下半身がモニターから抜けていく。そして全身が出た瞬間、俺は床に倒れこんだ。
その上から、女の子が困惑した顔で見下ろしていた。
「あ……、えと」
互いに言葉を失ったまま、奇妙な沈黙が漂っていた。
◇
「えっと……俺、総戸 志郎《そうと しろう》。大学生です。」
「そうとくん……ね。私は詩賀 優愛《しが ゆあ》。大学生です。お、同い年、かな」
乾いた愛想笑いが空気を埋める。
あまりに現実離れした状況に、俺たちは混乱していた。
ローテーブルを挟んで向かい合い、とりあえず自己紹介と状況の整理をしていた。
とはいえ、どうみても”女子の部屋に突如現れた不審者”なのは、俺の方だ。
「えっと、俺、君に危害を加える気とか、そういうのは全然なくて!」
「う、うん。そこは信じたいけど……ていうか、さっきのあれ、何?」
怪訝そうな顔で優愛が問いかける。
「分かんない。部屋でスマホ見てたら、いきなり画面が光って、気が付いたらここで上半身だけでてた」
「……うん、どう考えてもおかしいよね」
優愛は額を抑えて、目をつむっている。
しばらくして、心配そうにこちらを見た。
「身体とかいたくない?どこか変な感じとか」
「と、とりあえず……大丈夫、みたい」
「そっか、よかった」
ふっと優愛が笑う。
その笑顔につられて、俺も苦笑いを返した。
張りつめていた空気が、少しだけ緩む。
「とりあえず俺、一回、警察に行こうかなって思う。」
「えっ?」
「どうしてこうなったのかは、正直よくわかんないけど……とにかく、一度家に帰らないと。スマホも財布もないけど、警察なら何とかしてくれるだろ」
俺の持っているものは今身に着けている服だけ。お金もスマホも何も持っていなかった。警察なら事情を話せば、電車賃くらい貸してくれるかもしれない。
「ま、待って!交番までここから結構距離あるし、歩きじゃきついよ。それに、もう23時前だし、電車もバスも止まってる」
「……23時?」
思わず聞き返す。そんな馬鹿な。
俺が家にいたのは夕方だったはずだ。あれから何時間もたっていない。
「それにここの寮なの。住んでるの、女の子ばっかりで……。
もし君が見つかったらトラブルになるよ。今出ていったら絶対誰かに見つかる。もう外も真っ暗だし、危ないと思うの」
「う、うーん……」
確かに、この状況で見つかったら終わりだ。
この状況で外に出たら、通報まっしぐら。
女子寮に男がいるなんてバレたら、完全にアウト。
弁解の余地がない完全な不審者の誕生だ。
「だ、だから……ね」
優愛が顔を赤らめて、視線を逸らす。
言いにくそうに、でもどこか覚悟をしたように言った。
「ここに……泊まっていきなよ」