『運命の出会いが欲しい』と願っていたら、モニターから男の子が生えてきました   作:おにぎり・S

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4話ー①  期待しちゃうじゃん、そんなの

『志郎くんって……今、フリーなのかな?』

 

あっこに言われた言葉が、頭の中から離れない。

 

なんで気づかなかったんだろう。

……いや、気づきたくなかっただけか。

 

でも仕方ないじゃない。

だって、私は、小さなころからずっと『恋がしたい』って憧れていたんだもの。

だから、目の前に現れた彼との時間を、都合よく信じたかったんだ。

 

夕方の冷たい空気の中、私は憂鬱な気持ちを抱えながら帰り道を歩く。

 

志郎くんが私のそばにいるときは、彼はずっと『一人』だったから、考えもしなかったけど。

男子大学生なんだから、恋人や婚約者がいるのは当たり前だ。

 

まして志郎くんは、優しくて、見た目もかっこよくて……

女の子なら、誰だって『いいな』って思うはずだ。

 

そんな彼にパートナーがいない可能性のほうが低い。

私みたいな、どこにでもいる普通の女を相手にしてくれたのは、彼がたまたま私の部屋にワープしてきたから。ただ、それだけ。

 

…分かってる。

分かってるのに。

 

彼に必要とされたい。

彼の特別になりたい。

 

そんな浅ましい願いが、胸の奥でじわりと疼く。

 

──でも、きっと叶わない。

 

そう思った瞬間、足取りがふっと重くなる。

夕日に伸びる自分の影が、やけに細く頼りなく見えた。

 

家までの道を、ぼんやりと歩き続ける。

足は前に進んでいるのに、心はどんどん沈んでいく。

 

志郎くん……会いたいな

 

そう考えた瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。

会う方法も、連絡先すら知らないのに。

それでも思ってしまう。

 

影がどんどん長くなり、街灯が一つ、また一つと灯り始める。

 

「……寒い」

 

それが身体なのか心なのか、自分でもわからない。

か細い声が、暮れかけた道に吸い込まれていった。

 

買い物袋を持ち直し、もう一度ため息をつこうとした時、

視界の端の公園が、妙に気になった。

 

いつもの帰り道。

いつもの公園。

なのに今日は、なぜか胸をつかまれるように目が向いた。

 

……え?

 

ベンチに誰かが座っている。

薄暗くてよく見えない。

 

でも、その姿が。

そのシルエットが。

その雰囲気が──

 

胸がどくんと跳ねた。

 

気づいたら、私は半ば駆け寄るように近づいていた。

 

「し、志郎……くん?」

 

街灯の光の中で、彼がゆっくりと顔を上げる。

その瞬間、胸の奥にまとわりついていた不安も孤独も、全部まとめてほどけていくようで。

思わず息を呑んだ。

 

驚いたように目を瞬かせる彼の表情は、少し疲れていて、どこか心細そうで。

彼は驚いたように目を瞬かせ、少し疲れた顔をこちらに向ける。

それが、胸にじんと刺さる。

 

「優愛……?なんでここに」

 

「えっと……買い物の、帰りで」

 

彼の目線が、私の持つスーパーの袋に落ちた。

 

「し、志郎くんこそ。どうして、こんな所に」

 

「俺も買い物の帰りにさ……気付いたら、またこっちにワープしてて。優愛の家に行こうとしてたんだけど、道に迷っちゃって。……ははっ、分かると思ってたんだけど」

 

──『優愛の家に』

私に、会いに来ようとして。

 

胸の奥が熱くなる。

私を必要としていた事実が、嬉しくてたまらない。

 

「だ、大丈夫?こんな暗い時間に、男の子一人だと……危ないよ?何もなかった?」

「あ、うん。さっきまで”他の子”が一緒にいてくれて。その子に助けてもらってたから」

「……ふぅん。そうなんだ」

 

自分でも驚くほど冷たい声が出てた。

顔に出ていないか不安になる。

 

”他の子”──つまり、他の女の子。

私じゃない誰かが、彼のそばにいて。

彼を助けて、頼られていて。

 

そこは、私の場所なのに──。

 

胸の奥に冷たく苦しいものが滲む。

醜いと分かっているのに、抑えられない。

 

「でも……本当によかった。無事で。ちゃんと見つけられて。」

なんとか声のトーンを戻して、笑顔を作る。

 

「家、もう近くだから、一緒に帰ろ?」

「いいのか?」

「いいよ。だって──」

 

本当は言いたかった。

誰にも渡したくない。

渡しだけを見てほしい。

ずっと傍ににいてほしい

 

だけど、そんな重い本音を言えるわけもなくて

 

「……志郎くんが一人で困ってるの、見るのやだもん」

 

少しだけ綺麗な言葉をかぶせて、綺麗な私を演じる。

 

「ありがとな」

 

その一言が、温かく胸に落ちてくる。

さっきまで胸に沈んでいた黒いものが、ゆっくりとかき消されていく。

胸まで、顔まで熱くなる。

 

「か、感謝されるほどの事じゃないよ。ただ──」

 

息を吸う

 

「……会えて、よかった」

 

これだけは、飾り気のない、本音だった。

 

 

玄関の明かりをつけた瞬間、外の冷たい空気がふっと遠ざかっていく。

志郎くんと並んで靴を脱ぐこの光景が、い……一緒に住んでるみたいで、胸がくすぐったくなる。

 

「ど、どうぞ……あ、スリッパそこに」

「おじゃまします」

 

志郎くんをリビングに通してから、買い物袋をキッチンに置く。

いつ志郎くんが来てもいいように、部屋を掃除しておいた自分を心の中で思わず褒めた。えらいぞ私。

 

振り返ると、志郎くんがクッションの上に座っていた。

私もリビング戻って腰を下ろす。ほんとはもう少し近くに座りたいけど、その勇気はなかった。

 

「その、毎回ありがとう。優愛にはお世話になりっぱなしだ」

「全然大丈夫。志郎くんの事情が事情だし。志郎くんのことを分かって、力になれるの、私だけだもん。ちょっと誇らしいんだよ」

 

『気が付いたらワープしてました』なんて、普通なら絶対に信じられない。

志郎くんは独りぼっちで、不安だらけで、

力になれるのは、私だけだって──そう思うと胸がきゅっとなる

 

「優愛、」

「どうしたの?」

 

「実は、渡したいものがあるんだ」

 

その言葉が胸に落ちるのに、一瞬だけ時間がかかった。

気づいた瞬間、心臓が跳ねる。

思わず志郎くんを凝視してしまう。

 

彼は持っていたショッパーから、包みを取り出した。

淡いクリーム色の包装紙に、控えめなリボン。

 

「これ……?わ、私に?」

「うん、優愛と、あっこに。お世話になりっぱなしだから、お礼の気持ちを渡したくて。実はこれ買った直後にこっちにワープしたんだけどさ」

 

そう言いながら、もう一つ小包をとりだす。あっこ用だ。

 

胸がふわっと暖かくなる。

……でも、少しだけ、ほんの少しだけ胸が沈んだ。

 

──そっか。私だけじゃ、ないんだ。

 

もちろん嬉しい。

嬉しいのに、ほんのちょっと物足りなくて。

そんな浅ましいことを想っている自分が、ひどく嫌だ。

 

「あ、ありがとう。すごく嬉し──」

「あ、あと……これ……ッ!」

 

志郎くんが急に真っ赤になって、もう一つ、小さな紙袋を差し出してきた。

 

「優愛には……特にお世話になってたから!これ、優愛にだけ……。優愛の事考えて買ったんだ」

「え、え、え……」

 

紙袋を受け取る瞬間、指先が勝手に震えてた。

 

──なにこれ。

──心臓痛い。

──嬉しい。嬉しい。嬉しすぎて苦しい。

 

『私にだけ向けられた好意』が、あまりにもまっすぐで、身体の芯まで響いてくる。

期待しちゃいけないと思っていたのに。

ずっとずっと求めていた物、欲しくてたまらなかったもの、夢みたいな話なのに、

これは確かに現実で。

 

嬉しくて、嬉しさが溢れすぎて、感情が胸の奥で暴れている。

 

「あ、開けていい?」

「もちろん」

 

そっとリボンをほどく。

震えるのは寒さのせいじゃない。

 

袋の中には、落ち着いた白いボディに、ピンクゴールドの装飾が入ったボールペン。上品で、大人っぽくて……普段使ってるペンとは違う、『特別』をまとった一本。

 

──こんなの、好きにならない方が無理でしょ。

 

胸がいっぱいで、言いたい言葉は山ほどあるのに、どれも喉につかえて出てこない。

ようやく絞り出せたのは、たった一言だけ。

 

「……ありがと」

 

震える声しか出なかった。

 

志郎くんは、照れくさそうに頭をかいて、小さく言った。

 

「俺、こういうの何選べばいいかわかんないし……気に入ってもらえるか不安だったけど。でも、気持ちだけは本気で込めたつもり。優愛のことを想って、選んだんだ」

 

胸の奥が熱くなる、

どうしてこんなに優しいの。

どうしてこんな風に私を見てくれるの。

言葉じゃ足りないほど、彼の気持ちがまっすぐ届いてしまって──。

 

志郎くんは少し俯いたまま、言葉をゆっくり探すように唇を噛んだ。

 

「……優愛が喜んでくれたなら、よかった」

 

その視線がそっと上がって、私とぶつかる。

それだけで、私の全部が溶けてしまいそうで。

 

そして、志郎くんは覚悟を決めたように、真剣な顔で言った。

 

「あのさ……優愛」

 

「う、うん?」

 

何……?

すごく真剣に、まっすぐ見つめてくる。

こんな顔で、こんな空気で言うことって──

 

──告白(プロポーズ)

 

その文字が頭をよぎった瞬間、身体に緊張が走る。

胸が苦しい。

まさか、そんなわけ……ない。

ないよね。

ないはずなのに。

それでも、期待してしまう自分が止められない。

 

時間がゆっくりと引き延ばされたような沈黙の後、

彼がついに口を開いた。

 

 

 

「……家に帰りたいから、パソコンを貸してくれないか?」

 

 

 

…………えっ




ここまで読んでいただきありがとうございます!
これで10投稿目までこれました。嬉しいです!
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