『運命の出会いが欲しい』と願っていたら、モニターから男の子が生えてきました 作:おにぎり・S
嬉しさで胸がいっぱいになりながら、私は夜の道を歩いていた。
結局あの後、志郎君は私の家に泊まることになった。
男の子が、うちにお泊り。
う……嬉しすぎる。つい頬が緩んで、にやけてしまう。
夜風が冷たいのに顔が熱い。
初めて会った男の子を家に泊めるなんて、自分でもどうかと思うけど。
でも、志郎君は悪い人じゃなさそうだったし。困ってたし。
『困ってる男の子には優しくしてあげなさい』って、恋愛本にも書いてあったし。
それに、『突然家に訪ねてきた』とか、『町で声かけられた』とかだったら、さすがに警戒するけど、志郎くんは自分の意志でうちに来たわけじゃない。”パソコンから出てくる”なんて、そんな非現実的なこと、自分でできるはずがない。それに志郎くん自身も、今の状況をよく分かってないみたいだった。
なによりも、あんなかっこいい男の子と話せるチャンスなんて今まで一度もなかったから、こんな機会を棒に振るなんて、絶対に嫌だった。
泊まることになったはいいけど、志郎君は着替えも靴も何も持ってない。
だから、私が近くのコンビニまで買いにいくことにした。
「夜道に一人でいくなんて危ないよ。俺も一緒に行く」
って言ってくれたけど、志郎君には靴がなかったし。
”夜の散歩デート”みたいで本当は一緒に行きたかったけど。
さすがに裸足で歩かせるわけにはいかないよね。
なによりも、こんな夜道を男の子が歩くなんて危険すぎる。
この男性が少ない社会で、志郎君みたいなかっこいい子が出歩いてたら、本当に襲われちゃう。
コンビニについた私は雑貨コーナーを覗いた。
「服のサイズ……どれくらいだろ。一番大きいのでいいかな」
そう呟きながら、私はスウェットの上下を手に取った。ついでにサンダルと、あと……
「こ、これも……いるよね」
男性用の下着を手に取った。
異性の下着を買うなんて初めてだから、背徳感と緊張で心臓がバクバクする。
顔を真っ赤にしながらレジに向かう。
店員さん、お願いだから早くバーコード通して……!
買い物を終わらせて外へ出ると、夜風がひんやりと頬を撫でた。
少し冷えた空気が、さっきまでの恥ずかしさを和らげてくれる。
私が出ている間に、志郎君にはお風呂に入ってもらっている。
あんまり遅くなると、着替えがなくて志郎君が困っちゃうし早く帰らないと。
帰り道を歩きながら、さっきまでのことを思い出す。
志郎君──モニターから飛び出してきた男の子。
いまだに現実感がなくて、正直、夢なんじゃないかって思う。
でも家に帰ったら、そこに男の子がいる。
その事実が、胸を高鳴らせた。
子供のころから、男性との恋に憧れていた。
でも今までの人生で男性と出会う機会なんて一度もなくて、
きっとこの夢が叶うことなんてないんだろうなって諦めていた。
──だから今、胸の奥がどうしようもなく熱くなる。
まるで、運命にあったみたいに。
◇
「ただいま」
「おかえりー」
家に帰ると浴室の方から志郎くんの声が聞こえてドキリとする。
男の人が”おかえり”って言ってくれる。それってなんだか恋人みたいじゃない?
とりあえず着替えを渡そうと思って、私は脱衣所のドアを開けた。
「着替えここに置いて──」
言葉が途中で止まる。
ドアを開けた瞬間、浴室のドアも同時に開いたからだ。
思わず目を見開いた。
湯気の向こうから現れた志郎くん。
志郎くんはお風呂にはいっていて。
それはつまり──裸ということで。
目が合う。
濡れた肌に光が反射して、腹筋のラインがくっきりと浮かび上がる。
厚みのある胸板、がっしりとした肩幅、引き締まった両腕。
思っていたよりずっと、男性らしい身体つき。
……志郎くんって、意外と着やせするんだ。
「わーーーー!!」
「ご、ごごごごご、ごめん!!!!」
私の声と志郎くんの叫びが、同時に響いた。
あわててドアを閉め、扉越しに必死で謝る。
「ごめん、ほんとごめんなさい!わざとじゃないの。あ、えっと……へ、部屋で待ってるから!!」
顔が熱い。心臓が暴れている。
私は着替えをドアの前において、逃げるように部屋へと戻った。
──やばい。やばいやばいやばい。
見ちゃった。見ちゃった見ちゃった見ちゃった……!
初めて見た男の人の裸は私を沸騰させてしまうほどの衝撃で。
興奮と罪悪感で、心臓が爆発しそうだった。
◇
部屋に戻っても、心臓のドキドキが止まらなかった。
ベッドの上で正座しながら、私は頭を抱える。
「なにやってんの私ぃぃぃ……!」
顔から火が出そう。いや、もう出ている。
志郎くん、絶対びっくりしたよね。引かれたよね。
初対面の女に裸見られるとか、トラウマものだよ!
ていうか私このままセクハラとかわいせつ罪とかで捕まるのでは!?
どうしよう、次どう顔合わせればいいの。
時間が戻ってほしい、帰ってきたところからやり直したい……。
そんなことを考えていると、ドアがガチャリと開いた。
お風呂上がりの志郎君が、髪をタオルで拭きながら部屋に入ってくる。
濡れた髪と、上気した肌がすごく艶っぽくて……思わず目を奪われた。
「あ……」
「……その、ごめん。びっくりさせた」
志郎くんは、少し恥ずかしそうに眼をそらして言った。
濡れた髪から水滴が首筋を伝って、スウェットの襟を濡らしている。
「い、いや!こっちこそごめん!ノックすればよかったのに、ほんと、ほんとにわざとじゃなくて!」
早口でまくし立てる私に、志郎君は小さく笑った。
「分かってるよ。そんなに慌てなくても。……あと、その、ゆ、許してほしい」
「も、もちろんだよ!許すも何も、すごくいいも──じゃなくて!かっこよかったし──じゃなくて、ありがとう──でもなくて!えっと、とにかく私の方こそごめん!」
自分でも何を言っているのか分からなくなる。
その様子を見て、志郎くんがくすりと笑った。
「じゃあ……お互いさまってことで」
て、天使……。
初対面の女に裸見られて、笑って許してくれるなんて。
私には、今の志郎くんが天使に見えるよ。
その笑顔に、胸の奥がまたどくんと鳴る。もう本当に心臓が壊れちゃいそうで。
「え、えっと!私もお風呂に行ってくるから!部屋でゆっくりしてて!冷蔵庫の飲み物とか、好きに飲んでいいから!!」
そう言って、逃げるように部屋を飛び出した。
◇
湯船につかりながら今日のことを思い返す。まぶたを閉じても、志郎くんの顔が浮かんで消えない。
間違いなく今日が人生で一番幸せな日だ。
……それにしても、なんか失敗ばかりしている気がする。
笑って許してくれてたけど、内心『気持ち悪い女』とか思われてないだろうか。
だって私、処女だし、男の人とまともに話したことなんてないし。
ていうか出会うこと自体、ほぼ諦めてたし。
ぶくぶくぶくと口元まで湯船につかりながら、ぼんやり考える。
とりあえず、これ以上悪い印象を持たれないようにしなきゃ。
髪も身体もいつもより念入りに洗ったし、毛の処理もスキンケアも完璧にした。
これで、少しでもいい印象を持ってくれるかな……。
男の人がおうちにいるなんて、まるで漫画やドラマの世界みたい。さっきのお風呂で裸見ちゃったのとか、もうほんとに……。
そこまで考えて、気づく。
あれ?この湯船って、さっきまで志郎君が入ってた──
思考が一瞬で沸騰した。バクバクとうるさい心臓。顔は多分真っ赤。しかもさっき、湯船に口までつけてたし、『飲んじゃってるかも』という背徳的な興奮。
……それになんかいい香りまでする気がする。
そのままいつもより長風呂になった。
湯船から出るのが本当に、本当に後ろ髪を引かれる思いだったけど。断腸の決断だったけど。さすがにこれ以上入ってるとホントに死んじゃいそうだった。
「さ、さすがにつかりすぎた……。あっつ……のぼせた……」
湯船から出た私は、ふらふらしながら脱衣所へと向かった。
バスタオルでざっと髪と身体を拭き、ある程度水気をとる。
とりあえず水分補給と、のぼせた体を冷ましたくて、足早に部屋に戻ろうとして、気づく。
パンツ一枚で出ようとしてた。
いや今志郎君いるじゃん!?
「ハッ!あっぶな!」
いつもは一人だから、その辺適当にしてたけど、
さっきのこともあるし、このまま行ったら完全に痴女じゃん!
変態じゃん!というか事件じゃん!
セーフ!ギリギリで気づいてえらいぞ私。
慌てて下着とズボンを履いて、ようやく脱衣所を出た。