『運命の出会いが欲しい』と願っていたら、モニターから男の子が生えてきました   作:おにぎり・S

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1話ー③

 志郎は髪を乾かしたあと、部屋で落ち着きなく座っていた。

 優愛から『ゆっくりしていて』と言われたものの、こちとら筋金入りのチェリーボーイ、初めての女の子の部屋で落ち着けるはずもなかった。

 心臓がずっとバクバクしている。

 

「詩賀 優愛ちゃん、か……」

 

 かわいい子だと思う。茶髪のショートボブにくりっとした二重の瞳。明るくて元気そうで人懐っこい笑顔が印象的な子だった。

 

 パソコンから出てきた、正体不明の不審者男を、『困っているから』という理由で泊めてくれたり、着替えが無いからとコンビニまで買いに行ってくれたり。ホントに優しい子だ。というか天使だ。

 

 それなのに、事故とはいえ裸を見せてしまった。

 初対面の男に裸を見せられるとか、間違いなくトラウマものだ。落ち着こうとしても、罪悪感で胸が重い。

 

(あんなことしちゃって……嫌われたかもな)

 

 さっき話した時も、どこかよそよそしかった気がするし。

 嫌われた?警戒された?

 せっかく、こんなかわいい子と出会えたのにそれは嫌だと思った。

 

(着替えのお金、ちゃんと返さなきゃな)

 

 志郎はそう考えながら、ため息をこぼす。

 

 その時、ガチャリとドアが開いた。

 

 お風呂上がりの優愛が入ってきたようだ。

 顔をそちらの方に向けて……思考が止まった。

 

 お風呂から上がった優愛の頬は、ほんのり赤くなっていて、

 濡れた髪が肩にかかっている。

 下はかわいらしいピンクのパジャマのズボン。

 似合っている……けど、しかし、なぜか、

 

 上が肌色が多い。

 というか──ブラジャーだけ。

 でかい。

 

「し、志賀さん!ふ、ふくっ!服着て!!!」

 

 思わず声が裏返る。急いで目線を外して後ろを向いた。

 

「うええ!?あ、ご、ごめん!!」

 

 ガサガサと衣擦れの音がして、慌てて服を着る気配。

 

「も、もう大丈夫!着たから!ごめん、つい、いつもの感じで出てきちゃって……」

 

 振り向くと、優愛が真っ赤な顔でうつむいていた。

 視線が泳いでいる。

 上裸を見られて、恥ずかしがっているようにみえるが、実際は全く違う。

 優愛の心の中では大パニックだった。

 

(ぎゃあああああ!またやった!!やっちゃった!!!

 ブラ着けてたら大丈夫かなって思ってたのに!!これダメだったんだ!アウトだったんだ!!き、きらわれてないかな。嫌われてませんように!!

 あ、でも志郎君、顔真っ赤でかわいい……。反応がめっちゃ初心でかわいい、あーそういうとこ好き。)

 

「え、えっと……お、俺ちょっとお手洗い借りるね!」

 

 志郎が逃げるように部屋を出ていく。ガチャリとトイレのドアが閉まる音。

 

 優愛は心臓をバクバクいわせながら、とりあえず水分補給をしようとお茶の用意しようとして……テーブルの上に置いてあるコップが目に留まった。

 

(こ、これ、志郎くんの飲みかけ……)

 

 ごくりと喉がなった。

 悪魔の私が囁く。

『どう考えても志郎くんのお茶だね。ね、ちょっと飲んじゃおうよ』

 

(だ、だめだよ。そんなの変態みたいじゃん)

 

『そういう割には、さっきからずっとコップみてるよね。大丈夫、大丈夫。ちょっとだけ。こんなの絶対バレないって』

 

(で、でも……)

 

『今まで男の人と全然出会いなんてなかったんだし、こんな機会もうないかもしれないよ?』

 

(それは確かにそうだけど)

 

『明日になったら志郎くん、帰っちゃうかもしれないよ?ね、今だけ、ちょっとだけ勇気を出すだけでいいの』

 

(ちょっとだけ、勇気……)

 

 気づいたら私はコップを握っていた。

 手が震える。

 興奮と罪悪感で心臓がうるさい。

 

 そして、コップを──

  

「何してるの?」

 

「ひゃい!!!」

 

 心臓が口から出るかと思った。志郎くんが戻ってきている。

 見られた!?

 

「アッ、イヤッ、えっと……そう!残り少なかったから片付けようと思って!!」

 

 早口でまくし立てる。即興にしてはうまい言い訳じゃないかな。こういうときだけ回る頭に感謝する。

 

「ああ、そっか。ありがとね。詩賀さんめっちゃ気がきくね」

「あっ、いえ、ソンナコトナイデス……」

 

 消え入りそうな声で、そうつぶやく。

 男子に褒めてもらえた嬉しさと気恥ずかしさと罪悪感で溶けてしまいそうだった。

 

 ◇

 

 心臓がうるさい。

 

 志郎は電気の消えた部屋のベッドで、あおむけに横になっていた。このベッドはもちろん優愛のもの。そんな場所で眠れるわけなんかない。

 しかも、隣で優愛が寝ている。

 

 どうしてこうなったのか。

 最初は志郎が『床で寝る』と言いだした。だが頼れる女アピールをしたい優愛がそれを譲るはずもなく、『志郎くんがベッド使って。私は床で寝るから』と言い張った。譲り合いの末、妥協案として「じゃあ一緒に寝よっか」となってしまった。

 

 それから一時間。志郎は全く眠りにつくことができなかった。

 当然の結果だ。初めて会ったかわいい女の子と一緒に寝ろと言われても、女性経験の乏しい志郎が緊張しないはずがない。しかもこのベッドはシングルベッド。二人で眠るにはかなり狭い。なるべく距離を取れるように、ベッド端の落ちないぎりぎりで寝ているが、それでも優愛と身体が触れてしまって、全神経がそこに集中する。

 

(む、無理無理無理、絶対寝れない、寝られるわけがない!)

 

 志郎の心臓は破裂寸前だった。ベッドの端ぎりぎりで寝返りも打てず、志郎は石のように固まっていた。

 

 一方となりで寝ている優愛からは、穏やかな寝息が聞こえている。

 ぐっすり眠っている

 

 ……わけもなく普通に狸寝入りだった。

 

(あっ、やばい、隣に男の子がいる、やばい)

 

 自分の鼓動が相手に聞こえるんじゃないか、と心配になる。

『床で寝る』と言い出した志郎に、かっこいいところを見せようと思って『私が床で寝る』って言ったのに、それもうまくいかなくて。勢いで『じゃあ一緒に寝よ』っていっちゃって。なぜか志郎くんがオッケーしちゃって。

 

 その結果が、今。

 

(どうしてこうなった!?ていうか志郎くん警戒心なさすぎじゃない?こ、こんなの私、お、おそ、襲えちゃう……ッ!!)

 

 もちろん処女にそんな勇気も行動力もない。せいぜい隣でドギマギしながら寝たふりをするだけだった。本来ならば。

 

(志郎くん全然動かないし、寝ちゃった……よね?)

 

 しかし、非現実的な体験と、男子が隣に寝ているという夢にまで見た状況が重なり、普段の優愛ならありえない積極性を見せた。

 

「んぅ……」

 

 寝返りを打ちながら、志郎の腕にそっと抱きつく。

 ベッドに入ってからもう1時間。志郎はさっきから動かないし、確実に寝ている……たぶん。もし起きていたとしても、『寝てるときの行動だから』で押し通せばいい。完璧な言い訳も準備済み。

 

(さ、触っちゃった!志郎くんの腕、見た目より硬くて太い……!こ、これが男の人の身体!)

 

 ここぞとばかりに志郎の身体を思いっきり堪能する。

 そっと頬を寄せると、かすかに石鹸とシャンプーの混ざった匂いがした。

 

(志郎くんめっちゃいい匂い。すごいドキドキする。なんか、頭にクる……)

 

 初めて嗅ぐ男の匂いが理性を溶かしていく。深呼吸をして、もっと香りを楽しみたいけど、寝たふりがばれるわけにはいかない。息をひそめながら、こっそりとこの香りを味わった。

 

 そのころ、志郎は。

 

(ちょ、ちょ!優愛ちゃんの胸が当たってる!!!やっばい柔らかい!やばいってこれやばい!!)

 

 当然パニックであった。

 女性とまともに触れたこともないのに、『かわいいと思っている子が腕に抱きついてきている』という事実に頭がオーバーヒート寸前だった。

 しかも結構しっかり抱き着いてくるので胸の感触がかなり伝わる。

 志郎からすれば、『優愛が志郎にくっつきたいと思っている』などどは考えられない。完全に寝ている優愛が無意識で抱き着いていると思い込んでいる。

 

(は、離れなきゃいけないけど、こんなの離れたくない……っ!)

 

 固まっていると、優愛がさらに脚を絡ませてくる。女性らしい柔らかな感触が、志郎の脚に伝わり……

 

(!?これ、やば……!)

 

 志郎はあわてた。志郎の志郎が元気にしていたからだ。優愛の脚が志郎の志郎に当たれば、バレるかもしれない。優愛が寝ていたとしても、さすがに恥ずかしい。

 

 どうにか離れようと反射的に寝返りをうつ。

 けれど、もともとベッドの端ぎりぎりにいた志郎は、

 

 どすん

 

 一瞬の浮遊感のあと、身体にに衝撃が走る。

 床に落ちた志郎は、慌てて立ち上がり優愛に謝る。

 

「ご、ごめん起こしちゃったか……な」

 

 言いかけて志郎は固まった。

 目の前に優愛はいなくて、代わりに見慣れたパソコン、床に落ちているスマホ。

 

「ここ、俺の部屋……」

 

 頭が追い付かない。さっきまで優愛と一緒にいたはずなのに。

 

 え、あれ?もしかして今までのって、夢?

 

「な、なんだよお……」

 

 ひどくがっかりする。いや最高の夢だったけど、あれが夢で終わるなんてそんなの悲しすぎた。

 

 そう思った瞬間、ふと気づく。

 

「あ…れ?」

 

 自分の着ているものが、いつもの私服じゃなくて。

 あの夜、優愛が買ってくれた黒いスウェットを着ていることに。




タンクトップ姿の男をみて、顔真っ赤にしながら「服着てください!」っていう女の子がいたらかわいいよね
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