『運命の出会いが欲しい』と願っていたら、モニターから男の子が生えてきました   作:おにぎり・S

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2話ー②

「王子様みたい」「背が高くてかっこいい」「声がハスキーで素敵」

 私、『岸田 亜希子』を評するときによく使われる言葉だ。

 

 背も高いほうだし、目つきも少し鋭い。顔立ちもすっきりしていて、髪型はブルーブラックのベリーショート。かわいい系よりはかっこいい系だと思う。

 

 実際、女の子から告白されたこともあるし、高校のころは一時期”彼女”もいた。

 

 そんな私から見ても、詩賀 優愛は本当に女の子らしい子だ。

 茶髪のショートボブが似合っていて、背は高くなく、丸みを帯びた柔らかな身体つき。笑顔は明るく、声は柔らかく、誰とでもすぐ仲良くなれる。

 私に無いものをたくさん持っている。正直、少しうらやましい。

 それでも、それ以上に大切な友達だ。

 

 だからこそ、カフェテリアで聞いたあの話には驚いた。

 何かトラブルに巻き込まれているんじゃないか。

 それとも、恋に憧れすぎて妄想が暴走しているのか。

 最近では『彼氏がいる設定』で、男物の服や日用品を部屋に置くことが流行っていると聞く。……まさか、本気でそんな設定遊びにハマってるわけじゃないよね?

 

 気分転換になればと思って、彼女をショッピングに誘った。

 ほんの少しでも、力になれたらと思って。

 

 

 

「遅いな……」

 

 優愛から『部屋まで迎えに行くから待ってて』とメッセージがきたのが、もう10分前。同じ寮に住んでいるのだから、優愛の部屋から私の部屋まではほんの数分の距離だ。メッセージを送っても既読がつかない。

 

 嫌な予感がした。

 不安を抑えきれず、私は優愛の部屋へ向かう。

 

「……?ドアが開いてる?」

 

 優愛の玄関の扉が、わずかに開いたままになっていた。

 中から優愛の声と、もうひとり……低く落ち着いた、男のような声がする。

 

 思わずドアを開けると、声がはっきり聞こえた。

 

『し、詩賀さん!?危ないって、離して!』

 

 知らない男の声。

 直後、ドン、と何かが倒れる音。

 血の気が引く。

 

 ──まさか、本当に事件……?

 

 考えるより先に、身体が動いていた。

 

「優愛!?大丈夫!?」

 

 部屋に飛び込んだ瞬間、息が止まった。

 視界に入ってきた光景を、頭が理解できなかった。

 

 優愛が──男を押し倒していた。

 その手をつかんで、抵抗できないようにしている。

 男は服を脱がされ、タンクトップをはだけさせ、

 二人とも顔を真っ赤にして息を荒げていた。

 

 ……どう見ても、優愛が男を襲っていた。

 

「あ、あんた何してんの!?」

 

 ◇

 

 志郎は焦っていた。というか、恐怖していた。

 

 今部屋に入ってきた女性。おそらく詩賀さんの友達だろう。

 友達の部屋に、見知らぬ男。しかも服を脱いでいる。

 どう見ても俺、不審者。

 

 女性の顔には、驚きと怒り。

 

(やばい、完全に誤解された。通報されたら終わりだ。落ち着け、ちゃんと説明すれば……)

 

「あ、あの、誤解です!俺、詩賀さんに助けてもらって……それで、お礼したかったんですけど……お金が無くて、そしたら、”服を脱いでほしい”って言われて……」

 

 そこまで言って、彼女の顔から表情が無くなっていることに気付いた。

 

「優愛ァァァアアアア!!!」

 

 ──火に油だった。

 

 ◇

 

「はぁ。まあ、だいたい話は分かったけど」

 

 あの後、なんとか説明をして誤解は解けた。

 全員、床に座ってテーブルを囲んでいる。

 

「それにしたって優愛、あんたなんてお願いしてんのよ」

 

「う、うぅ……勢いで言ってしまったというか……」

 

 優愛が肩をすくめ、身体を小さくして答える。

 

「それに総戸君も、普通女の子の部屋で服なんか脱いじゃだめでしょ。今回は何もなかったからよかったけど、冗談じゃすまないことだってあるのよ?」

 

 志郎は背筋を伸ばして頷いた。

 

「お、おっしゃる通りです……」

 

(勢いで脱いじゃったけど、確かに、俺が詩賀さんを襲ってるって思われても文句言えない行動だよな……)

 

「えっと、この後どうしよっか」

 

 優愛がそう言うと、亜希子は腕を組んで考える。

 ──本当ならこの後、優愛と二人でショッピングに行く予定だったけど、この様子じゃ恋愛脳の優愛が総戸くんを放っておくはずがないわよね。

 最悪、私とのショッピングを断って、総戸くんと過ごそうとする可能性もある。

 とはいえ、見知らぬ男と二人きりにさせるのも不安だし……。

 

(なら、三人で行けばいいか。近くで総戸くんがどんな人なのか、見ておきたいし)

 

「総戸くん、実はこの後、優愛と遊びに行く予定だったのよ」

 

「あ、そうだったんですね。じゃあ俺、邪魔にならないようにどこか……」

 

「もし君が良ければ、一緒に行かない?」

 

 志郎が一瞬、驚いた後、嬉しそうに笑った。

 けれどすぐ困ったように目を伏せる。

 

「え、あ、ごめんなさい。とてもうれしいんですけど、実は俺、お金持ってなくて。一緒に行っても迷惑になるだけだと思います」

 

「え?財布忘れたの?」

 

「えっと、そうですね。財布も、スマホも……ちょっと忘れちゃったというか……」

 志郎が口ごもる。亜希子が眉をひそめた。

 人の家に来ているのに、財布もスマホも持っていないというのは不自然だ。

 しかし「気が付いたらこの部屋にいました」なんて言えるわけがない。

 志郎の困り顔を見て、優愛がぱっと手を叩いた。

 

「じゃあさ!今日は私が出すからさ、三人で一緒に行こうよ!」

 

「ちょっ、優愛!?」

「え、いや、それは悪いですよ」

 

 二人が慌てて声を上げる。

 優愛が笑顔で言った。

 

「いいっていいって!お金は今度返してくれたらいいし。それに、みんなで行ったほうが楽しそうだし!」

 

 亜希子は小さくため息をつき、苦笑した。

 

「まぁ、優愛らしいわね」

 

「え?」

 

「勢いで決めて、後先考えないところがあなたらしいわ」

 

 そう言いながらも、声のトーンはどこか柔らかかった。

 

「分かったわよ。今日は三人で行きましょ。私もいくらかは出すわ」

 

「ほんと!?やった!」

 

 優愛が嬉しそうに志郎の方を振り向く。

 

「ね、総戸くんもいこ?」

 

 志郎はまだ戸惑いが残っていたものの、その笑顔につられて頷いた。

 

「……はい。お世話になります」

 

「決まりね。じゃ、準備しましょう。あまりゆっくりしてると遅くなっちゃうから」

 

 亜希子が立ち上がり、バッグを手に取る。

 その背中を見ながら、志郎はほっと息を吐いた。

 

(なんとか……丸く収まった、のかな)

 

 ◇

 

 人のざわめきと、どこか甘い匂いが混じった空気が流れ込んでくる。

 志郎たちは、何駅か先のショッピングモールに来ていた。

 

 吹き抜けの天井からは柔らかな光が降り注ぎ、カップルや家族連れが行きかう。休日らしい明るさと賑わい。

 

 気づけば、優愛と亜希子は少し前を歩いていた。

 優愛は楽しそうにショーウインドウをのぞき込み、亜希子はその様子を微笑ましげにみている。

 

(まさか、こんな状況で買い物デートみたいになるとは)

 

 志郎は荷物を抱え直し、二人の後を追った。

 お金が払えない代わりに、二人の荷物を全部持たせてもらっている。

 最初は二人も遠慮していたが、志郎の「せめてこのくらいは」という申し出に折れてくれた。

 

 正直、女の子二人と遊びに来れていることに嬉しさはある。

 だが、財布もスマホもなく、帰り方すらわからない現状で、心から浮かれることができなかった。

 

「ねえねえ、まずは服見に行こ!し……総戸くんもこっちー!」

 

 優愛が満面の笑みで手を振る。

 志郎は思わず笑って返した。

 

「あ、うん!今行くね!」

 

 少しだけ肩の力が抜けた。

 現実的な問題は山積みだけど──この時間が楽しいのは本当だった。

 

 ◇

 

 鏡の前で、亜希子がブルーグレーのロングコートを試着している。

 照明の光に反射して青みがかって見える髪と、コートの色がよく馴染んでいた。

 

「どうかな?」

 

 くるりと一回転して見せる亜希子に、志郎が少し照れくさそうに笑う。

 

「あ、えっと……すごく似合ってると思います」

 

「そう?ありがとう」

 

 慣れない状況に少しどもりながらも、なんとか言葉を返す志郎。

 似合ってると言われて、亜希子の表情がふっと緩む。

 その笑顔をみて、志郎はもう少し言葉を伝えようと一歩踏み込んだ。

 

「髪もそうですけど、青系の色がよく似合いますね。雰囲気によくあってて……かわいいなって」

 

「か、かわいい!?」

 

 不意の言葉に、亜希子の耳が赤く染まる。

 普段は落ち着いていて、優愛よりも大人っぽい印象の彼女だが、異性に面と向かって褒められる経験はほとんど無かった。なんやかんやで「かわいい」と言われなれていない。だからこそ、志郎の言葉で余計に照れてしまう。

 落ち着かない様子でコートの裾をいじりながら、小さく呟いた。

 

「そういうの、さらっと言わないでよ……」

 

 そのやり取りを見ていた優愛が、焦った様子で手に取った白のニットカーディガンを羽織る。

 

「わ、私はこれ!どうかな、し……総戸くん!」

 

 志郎は目を瞬かせて、少し見とれた。

 彼女の柔らかい雰囲気に、カーディガンの淡い色がとてもよく似合っている。

 

「す、すごく似合ってる。ホントに。詩賀さんにぴったりだと思う」

 

「ほんと!?やった!私これにする!」

 

 優愛の表情がぱっと明るくなる。そのままレジに走っていきそうな勢いだ。

 その横で、亜希子はまだコートを見つめたまま、少しだけ迷っていた。

 

「私は……今日はやめておくよ。」

 

 そう言ってハンガーに戻すと、優愛がすぐ隣で腕を組む。

「えー似合ってたのに、もったいない!」

 

「ありがと。また気が向いたらね。それよりも総戸くん。ずっと気なってたけどそのサンダル寒くないの?」

 

 志郎は、優愛がコンビニでTシャツと一緒買ったサンダルを履いていた。

 正直、寒い。

 

「あ、あはは。寒いは寒いですけど、今日はちょっと買えないかな。それに、ここってあまりメンズのお店無いですよね?」

 

 モールを少し回っても目に入るのは女性の向けの服ばかり。もともとレディースが多いのは分かっていたが、それにしてもここではメンズの店を見かけなかった。

 

「あー確かに、ここ、メンズ店ないかもだね」

 

 少し遠慮がちに優愛が言う。

「ちなみに、し……総戸くんは、靴のサイズっていくつなの?」

 

「えっと、26くらいだったかな?」

 

「26!?やっぱり男の人って大きいんだね」

 

 優愛が驚いたように言う。

 

「まぁ、女性に比べたら大きいかな?俺も一応男だし」

 

 志郎は苦笑しながら足元を見る。サンダルの隙間から空気が入り、少し冷たい。

 

「でも、ほんとに寒そう。ねえあっこ、ここって靴屋さん無かったっけ?」

「うーんと……確か3階にあった気がするけど」

「じゃあさ、後でちょっとだけ見に行こ?見るだけ、ね」

 

 優愛がにこりと笑う。その”見るだけ”が絶対見るだけじゃ済まなそうだと、志郎と亜希子は察していた。

 

「優愛、あんまり押し付けにならないようにね」

「分かってるってば~」

 

 そんなやり取りを横で見ながら、志郎は少しだけ肩の力を抜いた。

 ふと外の時計を見ると、もう昼を過ぎている。

 

「そろそろお腹すいたね。そろそろフードコート行こうよ」

 優愛の提案に、亜希子も頷く。

「そうね、歩き疲れたし、ちょっと休憩しましょ」

 

 会計を済ませてから、お店を出て3人で歩いていく。吹き抜けから流れてくる音楽と、人のざわめきが混ざり合い、志郎の胸の中で小さな楽しいが膨らんでいった。

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