『運命の出会いが欲しい』と願っていたら、モニターから男の子が生えてきました 作:おにぎり・S
「プレゼントぉ!?」
大学の学食。
対面でカレーを食べていた孝弘が、スプーンを止めて顔を上げた。
俺は続ける。
「お、おう。ちょっとお世話になった人がいてさ。お礼に何か渡したいんだけど……お前そういうの詳しいだろ?」
怪訝そうだった孝弘の表情が、一転してにやりと歪む。
「女か」
「なっ……!?」
思わずスプーンを落としそうになる。
図星だった。優愛とあっこにお礼をしたいと考えていた。
こいつは本当に、人の心が読んでくる。
「大方、知り合った女に世話になったから、お礼を口実にもっと仲良くなりたいってとこか」
本当に……どこまで見えてるんだ。
二人への感謝の気持ちも、お礼をしたいっていうのも本当だ。でもそれだけじゃなくて、また会いたい、もっと仲良くなりたいと思っていたのも本当だった。
「そ、そうだよ!でも何選んだらいいかわかんなくてさ。せっかくなら喜んで欲しいし。お前こういうの得意だろ?助けてくれよ」
孝弘はモテるし、彼女もいる。
大学の成績は俺とどっこいどっこいでも、恋愛経験では圧倒的に上。
見た目にも気を使っていて、俺から見てもおしゃれな奴だ。
正直、プレゼントは自分で選びたかった。
でも、変なもの選んで引かれるのは嫌だし。
女の子が喜ぶものって分からないし。
だったらセンスのある孝弘に頼った方が確実だと思った。
「いいぜ~手伝ってやるよ」
にやにやしながら孝弘が言う。
「で、その子とはどんな関係なんだ?」
関係か、どう説明すればいいだろう。
ワープの話は流石にできないし、”泊めてもらった”なんて言えば誤解されるのは目に見えている。
「えーっと、俺が困ってる時にすごい良くしてくれてさ、お金立て替えてくれたり、コンビニで物買ってきてくれたり。後日また会ったんだけど、その時も俺お金持ってなくて……ごはん奢ってもらった。で、もう一人はその子の友達で、その子にもお金出してもらって……」
「え、なに?二人いるの?ていうかお前、なにやってんの?」
呆れ半分、ツッコミ半分の声。
孝弘は頭を押さえてため息をついた。
「……つまりお前、二人の女に金出してもらってんのか」
「言い方ぁ!」
思わず声が大きくなり、周りの席の学生が一斉にこっちを見る。
慌てて息をひそめた。
「いやそういうんじゃなくて……ほんとに助けてもらっただけで……」
孝弘はスプーンを口に運びながら、あきれたように肩をすくめた。
「それ、完全にヒモ寸前じゃねえか」
「ヒモじゃない!!」
借りたお金はちゃんと返すし、次出かけることがあったら、俺がお金を出すつもりだ。ヒモになる気なんてさらさら無い。
「まぁ、まだ深い仲って感じじゃなさそうだな。で、プレゼント候補はあんのか?」
「い、一応……ネックレスとか、指輪とか、アクセサリー系。あと、その子がコートを欲しそうにしてたからそれとか。……あとは花とか?」
孝弘が深いため息をついた。
「お前マジか。……唯一褒めるとしたら、プレゼント買う前に俺に相談したことだけだな」
「そ、そんなにダメか?」
「ダメだね。知り合って間もない子に渡すにしては重すぎる。そんな高いもん贈ったら相手が困るぜ。想像してみ?その子がブランド財布とか贈ってきたら、お前だって遠慮するだろ」
確かに。
この間、優愛が1万円近くする靴を「買ってあげる」と言ってきた時も、申し訳なさ過ぎて断ったっけ。
「なるほど……」
「ほかにもツッコミ所はあるけどな。とりあえず、相手が受け取りやすいものにしとけ」
孝弘はカレーを食べ終え、口を拭くと立ち上がった。
「とりま、この後時間空いてるだろ?一緒に買いに行くぞ」
◇
駅近くのショッピングセンター。
ガラス張りの吹き抜けに、キラキラとおしゃれな店が並んでいる。
あまりこういう場所に来たことが無いから、場違い感がすごい。
孝弘は慣れた様子で進んでいき、俺は必死に後を追った。
エスカレーターに乗りながら孝弘は言う。
「こういう時は、あんま高すぎないほうがいい。値段の大きさは気持ちの大きさになるからな。服やアクセサリーも避けとけ。好みが分かれやすいから」
「それは分かった。でも、何を買えばばいいんだ?」
「おすすめは3つ。バスソルトとか入浴剤系、フレーバーティーとかおしゃれなスイーツ系、あとは小物とか雑貨系だな。まぁ、選ぶのにセンスがいるが。」
……難しそうだな。
とりあえず順番に回ってみるか。
最初に入ったのは雑貨店だった。
日用品から、ちょっとデザインのきいたアイテムまで並んでいる。
しかし、いったいどれを選べばいいんだろうか。よくわからないまま棚に並んでいる商品を眺めていると、孝弘が苦笑した。
「何選んだら分かんねーって顔だな」
「うっ……いや、難しいぞこれ。今まで女の子にプレゼントなんかしたことないし」
孝弘が笑いながら言う。
「その子たちも見返り目当てに、お前に優しくしてくれたわけじゃないんだろ?善意には誠意で返すもんだぜ。お前がちゃんと相手を想って選べば、気持ちも伝わるだろうさ」
そういうものか。
優愛のことを考える。彼女は何が好きだろう。
可愛くて、優しくて、いちごのドーナツが好きで……大学生で。
ふと、棚に並んでいたボールペンが目に留まった。
白いボディにピンクゴールドの装飾。普段使っているものより少し上質なボールペン。上品で可愛らしい印象で、優愛に似合いそうだと思った。
「なぁ、孝弘。こういうのって、どうかな?」
「ん?ボールペンか。いいじゃん。お前にしちゃなかなかセンスあると思うぞ」
「”お前にしちゃ”は余計だ!……でもそっか、これにしようかな」
大学生ならボールペンを使う機会は多いはずだ。
それに、もし気に入って使ってくれたら、俺の渡したものをずっと持っていてくれる。そう思うと、少し胸が嬉しくなる。
「あと、こういうのもアリだぜ。」
孝弘が手に取ったのは、小さいメッセージカードだった。
「やっぱ、形にしたほうが気持ちは伝わるもんでさ。別に短くてもいいから、お前の気持ちを書いて渡してあげな」
メッセージか……。正直そういうの慣れてないし、恥ずかしい気持ちがある。
けど、優愛に喜んでもらえるなら頑張ろうって思えた。
「そっか、ありがとう。やってみる」
◇
あの後、優愛とあっこに、バスソルトとフレーバーティーを一つずつ買った。
お菓子にしようかと思ったけど、いつ向こうにワープするか分からなかったから、日持ちのするものにした。
「ほんと助かったよ。お前にもお礼しないとな」
「別にいいって。お前もデートで金かかるだろ。礼は、俺が困った時に助けてくれよ」
……こいつは本当に。
孝弘がモテる理由が、少し分かる気がする。
相手の立場になって考えるのがうまいんだ。
「プレゼント、しくじんなよ。付き合えたら報告よろしく」
「なっ……お、おう。がんばるわ」
そう言って、孝弘と別れ、家路についた。
──付き合えたら、か。
多分俺は、優愛のことが気になっている。
いや、違うな。好きなんだと思う。
あんな不思議な出会い方をして、優しくしてくれて。
可愛くて、気が利いて、一緒にいると楽しくて。
気づいたら、好きになってた。
優愛と、もし付き合えたら。
……優愛は俺の事、どう思っているんだろう。
というか、恋人とかいるんだろうか。
あんなにかわいくて素敵な子、周りの男が放っておくはずがない。
でも、最初に会った時、俺を泊めてくれたし。恋人がいたら、そんなことしない……よな?
俺、優愛の事何も知らないんだな。
好きなタイプも、どんな生活しているのかも、連絡先すら知らない。
そもそも、どうやって向こうにワープしてるのかも、まだ分からない。
もし連絡先が分かれば、メッセージのやり取りだってできるのに。
そんなことを考えながら帰り道を歩いていた。
突然だった
「うあっ……」
視界がぐらりと揺れた。
足元がふらつき、立っていられない。
思わず壁に寄り掛かる。
気持ち悪くて、目を閉じる。
そして、浮遊感。
……どれくらい経っただろう。
落ち着いて目を開けると、見慣れた街並みは消えていた。
「あ、れ……?」
そこは、狭い路地だった。
民家が並んでいる。
後ろを振り返っても、知っている道では無い。
──まさか、またワープしたのか?
「スマホは……!」
ポケットを探る。今日はちゃんと持っている。
すぐにマップを開いて位置を確認した。
「つながらない……なんで!?」
通信が切れていた。マップを開いても現在位置が表示されない。検索しても”インターネットに接続されていません”と表示されるだけ。
ワープの時に壊れたのか?
とりあえず、広い道を目指そう。
駅に出られれば、どのあたりかも見当がつくだろう。
そう思って歩き出す。
道は細く、曲がり角が多い。
だからだろう、前から来た人に気付けなかった。
「うわっ!」
「きゃっ!」
ぶつかって、二人してよろける。
向こうは小柄なブレザー姿の女性で。尻もちをついて倒れた。
「す、すいません。大丈夫ですか?」
駆け寄りながら気づく。
──あれ、この人、どこかで。
「いてて……ちゃんと前見なさ……え?この間のお兄さん?」
その顔に見え覚えがあった。
以前フードコートで話しかけてきたあの子。
確か名前は、
「神崎……陽依?」