『運命の出会いが欲しい』と願っていたら、モニターから男の子が生えてきました   作:おにぎり・S

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3話ー②

「ねえ、あっこ。私、バイトしようと思うの」

 

 いつものカフェテリアで、優愛がそう宣言した。

 私は、なんとなく察しはついているけど、あえて聞き返した。

 

「また急な話ね」

「うん、ちょっとピンチで。でも、志郎くんとふ、二人でデートとかしてみたいし。デート代は私が出したいし……イイ女って思ってほしいし、なんて」

 

 また志郎くん、か。

 

 ここ最近の優愛は、すっかり恋する女の子になってしまった。

 まぁ、無理もない。ずっと憧れていた『恋』というものが、ようやく手の届くところに来たのだから。

 

 でも──きっとこの恋は、叶わない。

 

 最初、志郎くんを見たときは怪しい男の子だと思った。

 でも一緒に過ごしているうちに、「あ、いい子だな」って思った。

 急に「俺はパソコンから出てきた」なんて言い出して、信じられるはずなかった。

 

 けれど、彼が画面に吸い込まれるのを見た瞬間、信じるしかなくなった。

 

 本当に彼は大学生で、何故か優愛の部屋にワープしてきたのだ。

 優愛は彼を好きになって、恋人になりたいだなんて浮かれている。

 

 ──ねえ、優愛。気づいてる?

 

 もし彼が本当に大学生なら、たぶん恋人がいるよ。

 婚約者がいたって不思議じゃないんだよ。

 2番目、3番目の女を狙うにしても、彼の周りにはその席を狙うライバルが、きっと山ほどいる。

 か細い繋がりしか持ってない優愛じゃ、太刀打ちできないよ。

 

 なんて、

 そんな現実を彼女に突きつけることなんてできなくて。

 私はただ、幸せそうに笑う彼女を眺めるだけ……だったけど。

 

「そういえば、まだ志郎くんの連絡先も聞けてないんだよね。ね、ねえ、どうやって聞いたらいいのかな?私、テンパっちゃって、うまく聞けなさそうで……」

 

「ねえ、優愛」

 

 私はどうしたらいいんだろう。

 

「何、あっこ?」

 

 誰も傷つかない方法が、分からない。

 正しい答えが、見つからない。

 

「志郎くんって……今、フリーなのかな?」

 

 その瞬間、彼女から笑顔が抜け落ちた。

 

 

 ◇

 

 

「神崎……陽依?」

 

「あはっ、覚えててくれたんだぁ!」

 目の前のブレザーを着た少女──陽依が、嬉しそうに笑いながら立ち上がった。

 

「なんで、こんなところに」

「ん-、散歩?学校つまんなくって、抜け出してきちゃった」

 

 彼女の大きな茶色い瞳と目が合う。

 以前、ぐいぐい来られた記憶が蘇って、少し苦手意識が浮かんだ。

 ……というか、本当に高校生だったんだな。

 

「おにいさんは帰り道?この辺に住んでるの?」

 

 俺の両手には、優愛とあっこへのプレゼントが入ったショッパー。

 これを持って路地を歩いていたら、帰り道と思われても不思議じゃない。

 

「あ、いや……実はちょっと道に迷っちゃって」

「……へえ、おにいさん、困ってるんだ」

 

 気のせいだろうか。

 一瞬、彼女の瞳が意地悪そうに歪んだように見えた。

 

「そっかそっか。ねえおにいさん、私、この辺の道、結構詳しいんだよ」

 

 一歩距離を詰めてくる。

 その無邪気な笑顔の奥に、言葉にできない圧を感じる。

 

「おにいさん、迷ったままだと困っちゃうでしょ?でも、私なら助けてあげられるかもしれないよ?」

 

 耳に響く甘い声。

 思わず縋りたくなる。

 確かに、今はここがどこかも分からない状態。広い通りに出られるなら助かるのは事実。

 

 ──けど。この誘いに乗っていいのか?

 胸の奥で警鐘が鳴る。 

 

「クスッ……そんな怖がらないで。何も取ったりしないから。」

 

 妖しく笑い、彼女は一歩、さらに近づく。

 

「でもね、ひとつだけお願いがあるの。それだけ聞いてくれたら、おにいさんのこと助けてあげる。ね?いいでしょ?」

 

「な、なにを……?」

 

 彼女の口元がゆっくりと弧を描いた。

 まるで”待ってました”と言わんばかりに──

 

「私と、デートをしましょう?」

 

 ◇

 

「お待たせしました。カフェラテのお客様」

「あ、私でーす」

 

 ウエイトレスが運んできたカフェラテが、神崎さんの前に置かれる。

 俺の前にはホットコーヒー。立ち上る香りに包まれて少しだけほっとした。

 

 結局、彼女の条件を飲んだ。

 スマホも使えない状態で、見知らぬ土地で彷徨っているのは流石まずい。

 デートと言っても、少し彼女に付き合う程度なら、まぁ許容範囲内だと思う。

 

 広い道まで案内してもらい、そのまま近くのカフェで少し話をすることになった。

 

「えっと、神崎さ……」

「もー、違うよ。」

「えっ」

陽依(ひより)って呼んで。せっかく『デート』してるんだから。ね?」

 

 上目遣いでそう言われ、思わずドキリとする。

 

「え、えっと、陽依……さん」

「さんも、いらなーい」

 

 嬉しそうに笑うその顔に、完全にからかわれている気がした。

 年下の女の子に弄ばれるのは癪だ、名前くらい普通に読んでやる。

 

「……陽依、は何が目的なんだ?」

「目的?」

 

 首をかしげる姿が妙に自然で……ああっ、くそ、かわいいな!

 

「フードコートの時も急に話しかけてきたし、今日も、わざわざカフェで話をしようだなんて……。俺はただの学生だぞ。いったい何のつもりで」

 

 陽依は髪を指でくるくると回しながら、少し考えるようにして言った。

 

「んー……見た目が好みだったから?」

「は、はぁ!?」

「だって、おにいさん、清潔感あるし。男の人だし。ちょっと仲良くなりたいなーって思って」

 

 あまりにあっけらかんとした口ぶりに、言葉が出てこなかった。

 い、いや、そんな……マジで逆ナン?

 

 そりゃ、ある程度は見た目に気を使っているけど、俺くらいのルックスのやつなんてその辺に普通にいる。

 それに目の前にいる陽依はかなり美人だ。

 赤茶色のセミロング、ぱっちりとした二重の瞳。

 少し幼さも残した顔立ちなのに、どこか大人びた美しさを感じさせる。

 芸能人と言われても納得するレベルの整った容姿だ。

 

 そんな子が、俺を逆ナン?

 

 いや絶対ありえない。間違いなく、別の目的がある。

 それこそ勧誘とか……

 

「もしかして、おにいさん」

 

 カフェラテのカップを指でなぞりながら、陽依が口元を緩める。

「私の事、怪しいとか思ってるでしょ?」

 

「えっ……」

 

 図星を突かれて、言葉が詰まる。

 その反応を見て、陽依はくすりと笑った。

 

「ふふ、やっぱり。勧誘とかしてくると思った?」

「そ、そんなことは……」

「ほんとかなー?顔に書いてあるよー」

 

 悪戯っぽく笑うその仕草に、また心臓が変な音を立てた。

 こんな風に軽くからかわれるたびに、ペースを乱される。

 

「私ね、別に変なことをする気はないよ。ただ──」

 

 陽依はそこで言葉を切り、真っすぐに俺を見つめる。

 彼女の茶色い瞳の奥に、真剣な光が見えた気がした。

 

「おにいさんと、仲良くなりたいだけ」

 

 その一言は、不思議と嘘っぽく聞こえなかった。

 

 

「……そう、なのか」

「そうだよー、あ、じゃあ証拠に──はい、これ」

 

 そう言って彼女は鞄からカードのようなものを取り出して、俺に差し出した。

 そこには名前と学校名が記されている。

 

「これって……学生証?」

「そうだよー。私の出せる身分証明書って、これくらいしかないし」

 

 驚いた。本当に、ここまでしてくるなんて。

 自分の本名と学校名を明かしてまで、俺に信じてもらおうとするなんて。

 これで俺とトラブルを起こせば、彼女の人生に大きな影響が出る。

 ……ここまでされれば、流石に信じざるを得ない。

 本当に俺と話したいだけ、なのかもしれない。

 

「えっと、そろそろ返してもらってもいい?その写真、かわいくないから恥ずかしい」

「あっ、ご、ごめん」

 

 慌てて手渡すと、陽依は照れ笑いを浮かべながらカードをしまった。

 

「これで信じてくれたかな?ホントにおにいさんと仲良くなりたいだけなの」

「あ、うん。そうだね」

 

 そう答えながらも、胸のあたりがむず痒い。

 改めて考えると、俺、今かわいい女の子に『仲良くなりたい』って言われてるんだよな……。

 お、落ち着かない。というか、顔が熱い。

 

 少し間をおいて、陽依がぽつりとつぶやいた。

「ねえ、この間いた二人って、どっちが彼女なの?」

 

 この間の二人……優愛とあっこの事か。

 付き合っているように見えたんだろうか。

 それは少し……いや、かなり嬉しい。けど、

 

「え、いや。二人とは付き合ってないぞ」

 

 優愛と付き合えたらな、なんて思うけど、悲しいかな、現実はそんな風にはなっていない。

 

「そうなんだ。付き合ってない子と遊びに行くなんて珍しいね」

「そうか?普通じゃないか?」

「普通じゃないでしょ。そんなことしてたら、怒られちゃうじゃん」

 

 陽依は軽く笑いながらそう言った。その声には、冗談半分と、少しこちらを探るような色が混じっていた気がした。

 

 ……怒られる?誰に。

 

 一瞬、意味が分からなかった。

 女友達と遊びに行くくらい、普通のことじゃないのか?

 まさか、親に怒られるっていう話か?

『異性交遊は、清く正しくお付き合いしてからしましょう』ってことなんだろうか。

 もしかしたらご両親がその辺に厳しいのかもしれない。

 

 でも、よく考えれば、小悪魔みたいにからかってくるから忘れがちだけど、陽依は高校生だ。こういうところは潔癖に考えていてもおかしくは無い。

 

 ──意外と子供っぽいんだな

 

 志郎は苦笑しながら、肩をすくめた。

「誰に怒られるんだよ、それ」

 

 軽く返したつもりだった。

 けれど、陽依は目をぱちくりさせて、少し驚いたような顔をした。

 少し考えてから陽依が口を開く。

 

「ねえ、おにいさん」

 陽依が髪をくるくるといじりながら、ちらりと見上げてくる。

 その仕草が妙に可愛くて、思わず見とれそうになる──が、次の言葉がそんな感情を吹き飛ばした。

 

「お兄さんってさ、恋人とか──いないの?」

 

 一瞬で頭が真っ白になった。

 そして次の瞬間、思考が全力で回転を始める。

 

 恋人いないの?──いない!!

 俺は童貞だ、というか、付き合ったことすら無い!!

 

 だがしかし、それをそのまま言うのは恥ずかしい。

 男のプライドがそれを許さない。

 かといって嘘はつくのもなんか違う。

 どうする。どう答える。どう切り抜ける──

 

 その思考の果てに、一つの答えにたどり着く。

 

 何でもない風を、余裕のある大人っぽい感じを装って口を開いた。

 

「そうだね。恋人は……いないかな。”今は”」

 

 そう”今は”いない。

 別に過去にいたわけじゃないけど。でも嘘じゃない。

『昔はいましたよ』風を装ってるだけで、嘘は言っていない。

 これでうまく誤魔化せれば、俺の臆病な自尊心と、尊大な羞恥心が守られ……

 

「えっ!?ウソっ!?ホントにいないの!?」

 

 心底驚いたように、陽依が目をまん丸にして身を乗り出してくる。

 え、そんな驚く?

 

「じゃ、じゃあ今フリーってこと!?なんで!?前は当然いたんだよね?」

 

 や、やばい、その辺は突っ込まれるとボロが出る。なんとか誤魔化さないと……ッ!

 

「あ、あんまり昔の話は、し、したくないかな」

 

 嘘は言っていない、嘘は!!

 

「あ、ご、ごめん。簡単に話せるような事じゃないよね……」

 

 陽依がまずいことを聞いたみたいな表情で、シュンと縮こまってしまった。

 え、いや……そんな、ガチで謝られる事でもないけど!?

 フォローしようにも、これ以上口開いたら絶対ボロが出るし……

 

 無言のまま、微妙な空気が流れる。

 き……気まずい。

 

 そうしていると、陽依が頬を染めながら、もじもじとカップを両手で包み込む。

 一度こちらを見上げ、少しだけ笑った。

 

「……でもさ」

 彼女の瞳は、何かを決意したように、まっすぐ俺を見ていた。

 茶目っ気と本気が混じり合ったその表情に、思わず息を呑む。

 

「おにいさんがフリーなら──私、恋人に立候補してもいい?」

 

 心臓が跳ねた。




これがWSSってやつですか?
恋愛ってしんどい思いもしますよね。

応援コメント、評価、誤字脱字報告ありがとうございます。
大変励みになってます。
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