TS転生した俺は魔法少女になれないらしい   作:環状線EX

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守護い!

 

 息が出来ない。

 呼吸の仕方を忘れたように、空気が喉を通らない。

 絶対的なまでのインベーダーとの力の差は綾谷もみじの身体機能を著しく害していた。

 

 身体が動かない。

 恐怖もあるが、克服したそれとは違う。

 下手に動けば命がないとわかってしまう。

 

 肥大化した身体は真っ黒で、頭部と思われる部分には鹿のような真白な角が生えていた。

 二足で歩きながらも、逆三角形とも言うべき発達した上半身を支えきれないのか屈強な巨木のような腕を地面に突き立てる。

 このこの世ならざる存在こそが、今、綾谷もみじの、魔法少女朝桜の前に立つインベーダーだった。

 

「──っ」

 

 もみじはステッキを握りこむ。

 

 ──朝桜。逃げた方が良い。今の君には……。

 

「──わかってる……!」

 

 朝桜を心配してか、使い魔の餅兎は逃げるように促す。

 だが、力不足何て言葉では足りないほどの力量の差があることは、もみじが一番分かっている。

 それでも、ここは退けない。

 

「大丈夫……だから!」

 

 朝桜は後方に呼びかけるように言った。

 使い魔の餅兎にではない。朝桜の後方には、一人の少女がいた。

 逃げ遅れ、腰を抜かしてしまった少女に精一杯笑いかける。

 

「心配しないで、必ず倒すから」

 

 少女を安心させるように、自分を鼓舞するように言った。

 今度こそは、魔法少女として守る。

 ショッピングモールの時のように、逆に庇われてしまうわけには行かない。

 もう、克服したのだから。

 

 そして、そんな朝桜の準備を待っていたのか、それとも気まぐれか、鹿角のインベーダーは動いた。

 愚鈍な速度かに予測された鹿角の動きは、目で追い切れなかった。

 巨大な腕による振り。それは、梵鐘を突く撞木を連想させるほどの威力と質量を持って、朝桜に打ち込まれた。

 ステッキで受けようとして、受けきれないと判断した朝桜は角度をわずかに変えた。

 身体がミシミシと音を立てる錯覚に襲われながら、やっとの思いで攻撃をいなす。

 

 足元に突き刺さった鹿角の腕は、地面を剥がす。

 朝桜は、後方に意識を回し少女に被害がないことを確認しながらも、次の行動に出ていた。

 攻撃直後故の至近距離での攻撃チャンス。がら空きの懐に、ステッキを突き出した。

 

「──輝露(キラツユ)

 

 魔法「輝露」。

 朝桜のステッキの先端に魔力によって一つの水滴が出来る。

 極小のそれは朝桜の魔力。圧縮されたそれは回転し加速してゆく。

 小さな水滴の中で魔力は威力を増し、放出された。

 

 さながら、ビームとでも言おうか。

 光の加減によって虹色にも見える白い光は、鹿角に直撃する。

 

「───ッ!!!」

「はぁあ!」

 

 鹿角は高純度の魔力に後退を余儀なくされる。

 そして、光が止んだ後わずかにその身を削っていることが分かった。

 だが……。

 

「最大出力だったのに」

 

 輝露で出せる最大威力にまで、圧縮し至近距離で撃った一撃だ。ファーストアタックとは言え、これで倒すくらいの考えの元の攻撃だった。

 無論、まだ余力はあるが、それでも、今の攻撃を幾度か同条件で発動させることは 至難と言えた。

 だが、使い魔の餅兎は何かに気付き、声を発した。

 

「いや、確かに今の攻撃は効いているはずだよ。あのインベーダー攻撃をしてこない」

 

 そう言われて、朝桜も鹿角を見た。確かに、すぐに攻撃を仕掛けてきそうなものだが、未だ距離を取ったままだ。

 

「恐らく至近距離での輝露を警戒している。多分、見た目以上に中身はボロボロだ」

「なら、もう一度当てられれば」

「でも、相手もさっきみたいには突っ込んでこない」

「こっちから懐に入らなきゃ」

 

 そう言いつつ、後ろに意識を向ける。

 ただ、背後には少女がいる。インベーダーが大量発生している現状で、すぐに守れる距離に少女を置かなければならない。

 懐に飛び込み、再度攻撃するということは少女を放り出すことと同義だ。

 

 それはできない。

 

 だから……。

 

「この場所からもう一度さっきと同じだけのダメージを与える」

 

 もう一度、朝桜はステッキを構えた。

 照準を定めるように鹿角に狙いを決める。

 

「この場所からって。威力どころか、避けられるだけだよ!そうなれば、隙をつかれて君は……!」

「いいから。……信じて」

 

 朝桜の声に餅兎は押し黙る。

 もう一度、魔法を発動した。

 

「───ッ!」

 

 警戒を開始する鹿角には構うことなく、輝露を加速させる。

 そして、圧縮魔力を解放した。

 行われるのは先の再現。異なるのは、鹿角との距離だけ。

 圧縮魔力が標的まで着弾するまでの、速度は目にも留まらない速さだ。

 しかし、その一瞬は、先ほどの至近距離での被弾と比べればあまりにも長い。

 鹿角の身体をわずかに掠るも、避けられる。

 そして、再度魔法の発動までに、丸腰も同然だと鹿角も疾うに気付いている。最大速度で接近される。

 

「もみじっ!」

 

 惨状を予感した餅兎が、叫ぶ。

 魔法少女であっても、朝桜には知覚できないスピード。

 だが、一度見ている。

 次の行動を決めて、あらかじめ動いて居れば、先に行動も出来た。

 

 一歩、いや、半歩だけ朝桜は足を踏みだしていた。

 

 ──そして。

 

「輝露っ!」

 

 触れたのは手のひらだった。

 いつか見た、魔法少女コフィンの攻撃。

 素手で触れての能力の発動。

 

 魔法少女の使う魔法は、基本、ステッキを通じて発動する。

 無論、ステッキを含めて魔法の範疇にあるものも多くあるが、それ以外であってもステッキから発動するのは狙いのつけやすさやリーチの差や指向性の有無などが上げられる。

 それでも、理論上は素手からでの発動も可能ではある。

 可能ではあるが、朝桜がしないのは、発動する魔法に自身の肉体が耐えられないことも関係している。

 圧縮し回転する魔力を素手で放てば、只では済まない。

 

 それでも、犠牲を払ってでも今回それを実行したのは、ステッキでの攻撃を囮にして並列発動していた素手の攻撃を接近してきた鹿角に当てるためだった。

 そして至近距離で放たれたそれは、今度こそ鹿角を戦闘不能へと追いやっていた。

 音を立てて巨大な体を地面に打ち付けた鹿角を見て、朝桜は息を吐いた。

 そして、あっけに取られていた餅兎が我に返る。

 

「な、なんて真似をするんだ、もみじ!」

「えへへ。ちょっと、無茶しちゃった……」

 

 尻もちをつきながら朝桜は笑う。

 そして「そうだ」と振り向いた。

 

「もう。大丈夫だからね」

 

 少女にそう声をかけた。

 少女はコクリと頷いたあと、クラリと意識を失う。それを何とか支えて近くに寝かせた。

 

「あとは、この子を……」

 

 ドキリと心臓が跳ねた。

 いや、跳ねるどころか、掴まれて運動を停止させられたような、形容できない感覚を覚えた。

 なんとか、振り向いた。

 

 倒したはずの、鹿角が震えながら立ち上がろうとしていた。

 もう、朝桜は魔法を撃てない。

 素手で撃った右手はボロボロだ。

 

 だが、朝桜の状態など関係なしに鹿角はまた腕を立てて立ち上が──腕が生えた。

 鹿角の胴の中心から腕が生えた。

 いや、違う。後ろから貫かれていた。

 人に類似した腕の形だが、インベーダーだと直感する。

 

 空間に皹が入っていた。

 今入ったモノじゃない。先ほどの鹿角が出て来た場所だ。

 そう言えば、ふさがっていなかった。

 そして、いつの間にか鹿角は光となり霧散した。

 腕の主であるインベーダーの赤い目と目が合った。

 

「……あ、れ?」

 

 視界が落ちた。

 足が震えていたことに気付いた。

 地面に放りだされた足はガクガクと止まらない。

 

「オイ、大してエネルギー残ってねぇじゃねぇかよ」

 

 知性体。

 以前遭遇したのとは明らかにレベルが違う。

 黒い外骨格に人のような二足歩行。武器はなく、刺々しい体は図鑑か何かで見た恐竜のようだ。

 

「ん?ああ、お前魔法少女だな。S級知っているか?」

 

 不意に朝桜を視界に入れた黒いインベーダーはさも当然のように問いかけて来た。

 ただ、声が出ない。

 自分でも驚き、グルグルと思考が回った。

 口が開けば知性体との会話で時間稼ぎくらいできたかもしれない。だが、声が出なければ何もできない。

 

 だが、インベーダーは意外な反応を見せる。

 

「いや、いい。声でねぇんだろ。それに、知らねぇってことは分かった」

 

 まるで寄り添うかのような声色で語り掛けたインベーダーの動きに疑問を抱けなかった。

 朝桜が、それに気づいたのは自身の変身が解けてからだった。

 

「あ?なんで生きてんだ?」

 

 自身の腕ともみじを見比べて、首を傾げる。

 だが、餅兎を見て得心を言ったような声色に変わった。

 

「テメェか。こいつを殺しても死ななかったのは」

 

 もみじは今この瞬間にこのインベーダーに殺されていた。

 しかし、変身時の魔力体のおかげで、命をつなぎとめたのだと理解する。

 

「まあ、もう一度殺りゃあいい話か」

「させないよ!」

 

 インベーダーに立ちはだかるようにして、餅兎が前に出た。

 小さな体を盾にしても余程意味があるとは思えない。それでも、餅兎は前へと出た。

 

「はぁ、じゃ一緒に死ねや」

 

 しかし、インベーダーからすればどちらも変わらない。

 人が薄着をしてようが厚着をしてようが、銃を前にすれば結果はほぼ変わらない。

 

 ただ、命を刈り取ろうと動いた手は、弾かれることとなる。

 

「間に合った」

「あ?」

 

 インベーダーの腕は、一振りの黒い刀に止められていた。

 それが、魔法少女コフィンであるともみじはすぐに気付いた。

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