TS転生した俺は魔法少女になれないらしい   作:環状線EX

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影!

 

 もみじを乗せた車を追って見れば、カゲ先生の予想通り委員会の支部へ着いた。

 正直そこで帰っても良かったが、委員会の施設ってのはどんなところだろうかと覗くことにした。

 始めて来たのになぜか顔パスできたので意気揚々とまでは行かないものの特に気負うことなく散策をしてみれば、灰色の少女を見た。

 恐らく魔法少女だろうと言うのは、施設内にいるからではなくその風貌が変身後のそれであったからだ。

 

 そんな彼女を観察してみれば、何やら魔法の発動の気配を感じて、もみじの入った応接室へと入った所で俺もそれを追った。

 そして、そんな彼女がもみじの目に手を伸ばしたのを見て、思わず飛び出た。

 正直なところ、琴浦の言を信じれば魔眼と言う事もあって外傷があっても回復するだろう。

 精霊魔眼は例外と言われればそれまでだが、しかし何よりも眼球なんて触られただけでたまらない。少女が爪を立てようとすれば手を伸ばすのは必然と言えた。

 

 目の前にいる少女は恐らく相当な実力者だろう。そう傍目に分かるほどの力を内包していることは容易にわかった。

 今手を出すことは、下手をすればこちらが傷を負いかねない。

 だが、幸運なことに彼女の注意はもみじの魔眼にくぎ付けだった。

 反撃を予想して出力により蝶を飛ばしつつ、腕を掴んだ。

 

「離してよ」

 

 そう言う彼女の目は色が抜け落ちていて、だがそれ以上に濁って見えた。

 向けられたのは明確な敵意。

 それだけで、俺の身体は警鐘を鳴らした。

 

 ───パチンッ

 

 カゲの機転によって、少女の反撃を回避する。

 滿汐の時のクワガタインベーダーなんか目じゃない。その攻撃を避けることが出来たのは警戒レベルを最大限まで上げていたおかげだろうか。

 

 そして、そんな俺に少し意外そうな様子を少女は向けた。

 

「……ねぇ。貴方誰?」

「コフィンさん……!」

 

 少女が質問をし、そして俺が返答する前に目を見開いたもみじが俺を呼んだ。

 それだけで十分だったのだろう少女は「ふーん」と息を洩らした。

 

「コフィン。魔法少女コフィンちゃんだよね。知っているよ、海月ちゃんも」

 

 意外にもそう言ったのは目の前の少女だった。

 

 ──魔法少女海月。S級だ。

 ──S級、道理で。

 

 強キャラ感マシマシだが、S級と言えばなるほど納得だ。

 しかしカゲの情報を聞けば海月と書いてカイゲツと読むらしい。 漢字苦手かな?

 そんなことを思っていると「でもさぁ」と続けられる。

 

「コフィンちゃんって今関係ある?」

 

 言外に邪魔だと俺を見た。

 しかし、関係あるかどうかと言われれば分からない。

 いやでもなぁ……。

 

「……友達だから」

 

 絞り出したのがそんな言葉だった。

 マジで今の俺には貴重で大切な友達である。

 明らか疑似制服と言うおかしな俺に対して話しかけてくれる聖女だ。

 

「ぷっくく、あははは!」

 

 腹を抱えて、こらえきれないとばかりに身体を揺らして笑う。

 そうして息を整えた海月はやっとこちらを見た。

 

「友達って。……コフィンちゃんは結構クールだと思ってたんだけど。でも、残念。S級には立てついちゃダメなんだよ?」

「そんな決まり……」

「ないよ。ないけど、普通に考えてダメだよね~」

 

 途中で挟まれたもみじの言葉は海月によって、切り捨てられる。

 

「だって、魔法少女は強いから融通が利くんだよ。強いから委員会から支援してもらえるし、インベーダーの討伐に応じて報酬がもらえる。特別扱いしてもらえるのは強いから。だから、同じ魔法少女同士だったらS級が絶対だよね~」

 

 力は絶対だと語る彼女の目には狂気が宿っていた。

 そして、その鈍い光を灯した双眸を再度こちらに向けた。

 

「そ・れ・と・も~。コフィンちゃんは、海月ちゃんに指図できるほど強いわけ?」

 

 バチッと海月から電気のように魔力が光、はじけた。

 灰色に見えた彼女の髪は一瞬逆立ちその一本一本が透き通る。

 黄金と青、そして赤み掛かった魔力が彼女の透明な髪を通して流れた。

 

 ああ、やばい。

 これは無理だ。

 理論上速度を解決できれば、対応できたクワガタインベーダーとは違い、こいつはそもそもガードしても意味がないとわかってしまう。

 それほどの脅威であると嫌でもわかった。

 

 頭に無数の選択肢が浮かぶ。

 「逆行」「吸収」「出力」

 そのすべてがこの状況に対応不可だと結論を出す。

 

「ねぇ。試してみる?」

 

 そう問いながら動く細い指はこちらに迫っていた。

 その顔はどこまでも残酷な表情を浮かべる。

 

 ただ、一つ思い出してこう言った。

 

「いいよ」

 

 予想外の返答だったのだろう。

 少し、反応を見せるが、相手に先手を取らせてはこちらが死ぬ。

 その前に告げた。

 

「──(カゲ)

 

 その一言と共に俺の影が揺らぐ。

 燃焼した灰が宙を舞うように影が動き、それは量を増していく。

 

 影はその大きさを増していき、俺の背後で渦を巻く。

 ついの村での再現。

 カゲの本来の姿。

 数百年の眠りによって溜めた妖力(エネルギー)を使ってやっとあの状態を暫く維持し続けることが出来ていた。

 

 だが、また本来の姿を取り戻すにはそれと相応のエネルギーが必要となる。

 とは言え、カゲが社で引きこもって溜めたエネルギーだ。俺がインベーダーから直接吸収して溜める方がはるかに効率がいい。

 それでも、顕現時間はほんの一瞬。故に、切り札。

 

 だからこそ……。

 

 

 

 

 ◆

 

 魔法少女統括管理委員会の受付に勤めていても、実際の魔法少女の対応をする機会は少ない。

 魔法少女とついていようと、実際に訪れるのは関係者である大人たちが大半だ。

 だから、今日は魔法少女を対応すると言う点においては珍しい日だと言えた。

 

 本日訪れたのは二人だ。

 一人は数少ないS級魔法少女海月、そして、最近一部で話題の魔法少女コフィンが訪れた。

 そして、そんな二人を立て続けに対応した。

  以前、支部長から魔法少女コフィンが来た際には通すように通達があった。

 そして、その通りに対応した。

 

 それから、暫くして奥で扉が勢いよく開かれる音がした。

 それに、驚いているとペタペタと素足の足音が聞えた。

 その音が、入り口に近い受付に近づいているのを感じてすぐに、血相を変えた一人の少女が飛び出した。

 

「~~~っ!」

 

 その少女は、先ほど対応したS級魔法少女の海月だった。

 受付時に余裕のありそうな姿だった彼女が、浮かべる表情としては予想しえないものだった。

 

 トイレを我慢するかのように両手で股を抑えて小走りをする彼女は、そのまま施設外へと走っていった。

 

 本来なら声をかけるところだが、あっけにとられて固まってしまった。

 

 そして、当の本人はと言うと……。

 

「なにあれ、なにあれ、なにあれっ!」

 

 先ほど応接室内で起こった事態に理解が追い付いていなかった。

 力こそ絶対。そんな考えを根強く持っている彼女は、自身に立てつく資格はあるのかと対する魔法少女コフィンに問うた。

 その結果、コフィンは何かを呟き、黒い何かが湧き出るように覆った。

 影のようなそれは、見上げるほどにまで膨れ上がり、膨張した。

 

 あれは異常だ。

 並みのS級指定インベーダーでは済まない。

 S級魔法少女の海月であっても、あれには敵わないと本能的にわかってしまった。

 

 気付けば恐怖によって体は震え、その場を逃げ出していた。

 

「そ、それに、この私が、チビっ──」

 

 ふざけた一人称を忘れたように口から言葉が漏れて、前で隠すようにした手に力を込めた。

 

「魔法少女、コフィン……覚えたんだから!」

 

 そう吐き捨てるも誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 魔法少女コフィン。

 委員会関係者の中で、彼女の存在を真っ先に確認した人物と言えるのは天坂支部の長である岡園であった。

 最初に接触したのは副会長の森峰だが、彼女に情報を流したのは、委員会合併前に瑞穂会で部下としての繋がりがあった岡園だった。

 故に、森峰からの指示で天坂の施設に関しては彼女に便宜を図るように手を回していた。

 

 だが、そんな彼であっても、今回の事態には驚きを隠せなかった。

 彼女が内包する力には謎が多くあるが、今まで見たことのない黒く禍々しい魔力の何か。

 強大な威圧感。魔法少女でなくともどれだけ強大なものであるのか分かってしまうそれは、S級魔法少女である海月すらも引き下がらせた。

 

 彼女は何者なのだろうか。

 

 委員会をもってしてもすべてを暴くことは出来ていない。

 いや、そもそも、前回の滿汐時にはS級に誤判定されたとはいえ、A級インベーダーには手が出なかったはずだ。

 故に、綾谷もみじが負傷を負い、精霊魔眼が覚醒することになったのだ。

 

 となれば、今の力は切り札であるのか。

 それとも、綾谷もみじが精霊魔眼を有していることを彼女は何らかの方法で知っていたか。

 

 しかしなんにしても、今のところコフィンはこちらに取り込めている。

 今できるのは、彼女が旧瑞穂会側から離れないように、機嫌を損なわないようにすることだけだろう。

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