魔法少女零は魔法少女としては不良品だ。
ランクは最低ランクであるF。
ランキングだって下から数えた方が早い。
理由は平均よりも低い魔力素養。
そして、何よりも魔法「空位」と言う攻撃力に欠ける力。
魔法により周囲の状況を取得できたとしても、通常インベーダーとの戦いは一対一。戦況を有利に働かせることは難しい。
視界に入れずとも状況の把握が出来る能力と言えど、ミクロな動きを捉えたいのなら連続使用が不可欠だ。だが、実際は魔力を食うのでそう何度も出来ない。
故に無能の烙印が押されるのも必然だった。
それでも零は活動を続けた。
自身のランクの低さときつい口調が災いしてから目を付けられてトラブルになることもあった。
だが、誰よりも人助けに尽力した。
昔見たインベーダーの被害にあう人間を何としても減らしたかった。
きっとそのときのインベーダーは人の身体をもてあそぶ行動をとっていたのだろう。
だが、そんなことを理解することもなく、ただ事実を零は押し付けられた。
目のくりぬかれた死体。
その一度きりの光景は深く彼女に刻まれた。
それから魔法少女として活動していた中で、その日は一人の少女がインベーダーに襲われていた。
B級インベーダー。E級の零には荷が重い。
だが、それでも引くことは出来なかった。
魔法「空位」を駆使して最低限の動きで攻撃を躱す。
魔力の低さは魔法体の生成に影響を及ぼす。
平均よりも運動性能が低く、攻撃力もスピードも満足に出ない。
それを最小限のアクションにとどめ、ロスタイムを無くす。
そうして、インベーダーへと立ち向かった。
だが、それは極端なものだ。
最低限の動きと言うのは本当にインベーダーの排除に必要なだけの動きだ。
致命の攻撃でもなければ、自身に掠っても前進した。
そして、最後には魔法体の維持すらできなくなっても血を流し、接近した。
攻撃の瞬間だけ、魔法体へと変身をして仕留めるに至ったのだ。
そんな戦い方を何度もしていた。
本来怪我の残らない魔法体を持つ魔法少女でありながら、零はいつも傷だらけだった。
そんな彼女が魔法少女や身の回りの人間に理解を得られることはなく、孤立していった。
そこで現れたのが一人の男だった。
「魔法少女零だね。提案があるんだけど、良いかな?」
冴えない男。
その辺にいるような無害そうな男だった。
その男は二人の魔法少女を引き連れて接触してきた。
「君を秘密混成部隊に招きたい」
「秘密混成部隊?悪いが興味ない」
詳細は分からないが、すぐさま断った。
零が魔法少女になったのはそんなよくの分からない部隊に入るわけではない。
いくら現状の自分に出来ることが何もなくとも、その根幹には人助けの精神があった。
荒れた口調もぶっきらぼうな一面があっても、零が魔法少女になったのは人助けのためだけだった。
困っている人を助けたい。ただそれだけが、彼女を魔法少女にした。
だが、男は言った。
「部隊に来れば、君の望む“人助け”が出来るよ」
「……」
自身の行動理念など誰にも話したことはなかった。
この男はどこからそんな情報を仕入れて来たのか。
そんな疑問に被せるように、「ただし、裏からではあるけれどね」と続けられた。
◆
「隊長、どうしました?」
「……いや、何でもない」
不意にかけられるその声は、魔法少女紫流の言葉だ。
秘密混成部隊に関連する施設の一つ。
モニター室と呼ばれるここには「蛇」の面々が居た。
「それにしても、暴れる気配もない。意識を離している間も変身を解く様子もない。寝ていると言うわけでもなさそうだが」
モニターに映されたのは白い布の塊。
人ひとり分の大きさのそれは、押さえつけるように拘束具で固定されている。
布越しにも均整のとれた体のラインが見て取れた。
まるで人形のようだ。
そんな彼女は暴れることもなく、身動き一つとらなかった。
「それより、逆鳴はそろそろか」
◆
布でグルグル巻きにされた俺はこれからの行動に頭を回していた。
まず、この状況から脱するよりも、なぜこうなったかを考えるべきだろう。
今回の事態、俺を拘束した魔法少女たちは、俺を探し出して接触してきた。
それは、魔法少女逆鳴が言っていたことだ。
そして事の流れまで彼女の言葉からくみ取れば、俺に対して俺が彼女らの動向を気にして逃げ、雲隠れをしていた、そしてそれを見つけ出した……と言う事らしい。
意味わからん。
人違いの線も考えたが、彼女は俺を魔法少女コフィンと呼んだ。
とは言え、俺に心当たりがない以上、勘違いって可能性がある。
魔法少女としての露出が極端に少ない俺は何かと疑われやすいだろう。
何か事件が起こった時、魔法少女が犯人だと言う情報だけで人を特定しようとした場合には明らか怪しい俺が犯人に上げられた、みたいなこともあるだろう。
分からんけど。
まあ、でも、そんなことを考えたところで、今の俺にはどうすることも出来ない。
何たって、魔力を練れないんだからね!
思わず一句読んでしまいそうになるのも仕方がないほどだ。
でも、一個だけ出来ることもある。
そう。魔眼。
外部に魔力を放出する類の力ではなく、体の一器官であるそれはある程度の行使は可能。
ある程度と言うのは、少なからず影響があるのは事実だからだ。
俺の有するのはコンタクトの疑似魔眼だが、まあ、この状況で使えると言う点は変わりない。
と言う事で、早速使う。
本来、片目でしか使えないが、今回は両目で使う。
片目で使う理由は、戦闘中に視界がつぶれたことを考えると最悪死ぬと言うか、普通に死ぬことと、単純に操作が難しいと言う理由があった。
とは言え、今現在の状態であれば出来なくもないだろう。
使い分けを考えてあらかじめ付けておいた「透視」と「俯瞰視」を利用する。
布越しで透視を使って前方を見る。
布に穴をあけたようで満足に見えないな。
だが、俯瞰視を使うのに必要な状況は整った。
俯瞰視は本来直接前方を観測しなければ使えない。
それを、透視でカバーして無理やり発動す──眼球に電流が流れ、火花が散った。
失敗した。
行けると思ってたんだが、ダメだったか……。
ちなみに発狂したが、口に猿轡のようなものが付いているらしく満足に声が出なかった。
あ、そうそう。
林間学校中に琴浦と死神の子たちには連絡を入れ忘れていた。
それに関して俺は地下駐車場に行く前に連絡を入れておいた。
無論、言い訳はしなかった。
一言、「ごめん」と潔く送ったわけだ。
そういや、バス降りてそのまま地下駐車場に移動したから、荷物はスマホも含めて適当なコインロッカーに入れておいたのは正解だったかもな。
一応、認識阻害は掛けっぱなしだし身元はバレてないだろう。
◆
行方不明となった比果比五子からのチャット。
それは一言、「ごめん」と送られてきていた。
「これって……」
「久篠も来たの?」
キイナが驚愕の表情を浮かべたのを見て、ヒナリは顔を向けた。
「私も来ましたよ!」
割り込むように琴浦が顔を出した。
それに二人は反応することはなく、考え込むようにしてスマホに映るその文字をなぞった。
そして、彼女らが動く前にもう一人の少女、ティナは窓の外へと目を動かした。
いや、正確には窓自体にと表現した方が良いだろうか。
魔力がうごめく気配は残る死神の子の二人もそちらを見た。
魔力は薄く延ばされその場でうごめく、そして、文字が描かれた。
「これは……」
簡素な数字の羅列。
だが、規則性のあるその並びはすぐに琴浦から一つの言葉を引き出させる。
「座標……どこかの位置情報ですね!」
位置情報。
魔力で形成されたそれに意味を見出さないのは不可能だった。
そして、自然、比果比五子のチャットと結びついた。
「私たち以外の気配はなし。この文字も今誰かが操作しているわけではなさそう」
「あらかじめ設置されていたものだと考えれば……あの時の三人」
ヒイナが消えていく文字を観察しつつ仕組みを推測し、ティナは「蛇」の姿を思い浮かべた。
そしてそこまでわかった以上、取れる行動は一つ。
「今すぐに、行かないと」
キイナが真っ先にそう言って、立ち上がる。
それに追従するようにヒナリとティナは荷物をまとめた。
「え、ちょっと。罠かもしれないですよ!もう少し作戦を練ってからの方が……!」
そんなことを言った琴浦の言葉は聞き入れられることなく、死神の子の三人はカフェを出た。
彼女らに提示された位置座標が示していたのは、地下駐車場。
死神の子三人はそこへ足を進めた。
距離がそこまでなかったこともあって、程なくして到着した。
そしてそこに待ち構えた居たのは、三人の少女。
「やあ、初めまして、僕は魔法少女逆鳴。人型インベーダー、初めて見たよ。一見人間と同じ見た目……」
早々に口を開いた逆鳴は喋り始める。
そして。
「実に不愉快だ」
憎悪の籠った目で三人を見た。
「不愉快なのはこっちよ。回りくどい真似して、どういうつもり」
ヒナリがそう言って、隣にいたキイナがガンつけるように眉間に皺を浮かべた。
「はぁ、自分の立場をわきまえられないのかな?……まあ、いい。視覚的に見せればいくらインベーダーでも理解できるだろう」
そう逆鳴が言って、何かを促すと隣に立つ一人が動く。
少女に死神の子たちは見覚えがあった。魔法少女鈴神だ。
鈴の取り付けられた長い杖の扱いに困ったようにオロオロとした後、ハッと何かに気付いたように顔を明るくした彼女は床に杖を置いた。
そして、やっと指示されたであろう行動に移った。
鈴神が取り出し皆に見れるように腕で持つのは、一つのタブレット端末だった。
画面が大きく、死神の子の三人が立つ位置からも映ったモノをよく見ることが出来るだろう。
「これが、何か分かるか?」
無機質な空間を写す画面。
そして中央には白い布でまかれたなにか。
判別のしにくい色合いでありながら、その布にくるまれているものが一人の人間であるとわかった。
陰影から察することの出来る体つきはしなやかで少女のソレだと察した。
そこまでわかれば、嫌な予感が走る。
頭に向かう疑問に否定をしようとしても、無慈悲に逆鳴は答えを告げた。
「魔法少女コフィンだ。君たち死神の子を扇動していた張本人だ」
口を歪めた逆鳴の感情はどんなものだっただろうか。
それを推測することなど出来ずに画面に写るコフィンを見た。
「さあ、君たちも彼女がどうなってもいいとは思ってないだろう。血も涙もなくても委員会の事情に精通し作戦を立て──」
逆鳴の言葉は遮られる。
突如としてタブレット端末から流れた何かが破裂したような音だった。
それにこの場のものの意識が向いた。
画面中央に鎮座する魔法少女コフィン。
その目であろう場所が赤くにじんでいた。
「は……?」
この場のだれもが突然の事態に状況が飲み込めていなかった。
「なによ、これ……?答えなさいよ!」
ヒナリの声が地下駐車場にこだました。
だが、それにこの場の誰かが答える前に、タブレット端末から声が漏れた。
『あ、いや……ちがっ』
魔法少女零の声だった。
その声に何かを問う前に、キイナが自身の胸を押さえて身体を上下させる。
「あ、あああ、ぁぁ……」
身体を丸めるようにしながらもその精神が乱れるのと呼応するように魔力が漏れる。
「殺す──」
思考より先にキイナは行動に出る。
だが。
「乱れた魔力じゃ、なーんにも出来ないぜって感じ!」
三人目の魔法少女はそこで動く。
とびかかるキイナに正面からぶつかり互いに距離を取る。
「と言うかっ、もうぶつかるしかないよねっ!」
事態が収拾しない中、少女はそう言った。