TS転生した俺は魔法少女になれないらしい   作:環状線EX

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のりこえ!

 

「え~珈琲ぃ?美味しくないじゃん」

「……あとは、部隊の子が持ち込んだインスタントの紅茶なら」

「じゃあ、それでいいよ」

 

 尚も熱いのなんのと文句をつけて、海月は紅茶を口に運んだ。

 無理な体勢で飲んだからか飛んだ紅茶のシミが資料に出来る。それに眉をひそめたのがバレぬように自制する。

 

「それで、どのような用件で?」

 

 自身の分の珈琲を淹れて、デスクチェアに腰を下ろす。

 ベッドに居座る彼女は、顔を向けもせずに口を開いた。

 

「プロフェット、その命令を伝えて上げに来たに決まってるでしょ~」

 

 横柄な態度を崩さずにそう言う。

 

「プロフェットはS級アクセス権が無いと接触すらできない。だから、海月ちゃんが来てあげてるの」

 

 「感謝してよね」と言われて無言で加覧は頭を下げる。

 実際、プロフェットと話すためにはS級アクセス権が必要となる。

 プロフェットが依り代として使用するS級魔法少女春霊と接触出来ても、アクセス権が確認出来なければ表に現れることはないのだ。

 それ故に、限られたS級の名を冠する海月がこの場にて命を伝えるために出向いたのだ。

 

「とーいうかぁ。報告にあった魔法少女コフィンの捕縛ってホント~?」

「?……ええ、協力者を使いおびき出したところで数で押し切り捕らえました。ですが、いくら疑惑のかかった存在とは言え、いきなり捕縛と言うのは性急すぎます。もしプロフェットの意思とは別にあなたの──」

「ねぇ?私、そこまで喋っていいって言った?」

 

 眼前、目と目が触れ合いそうなくらいに海月の顔が迫っていた。

 先ほどまでベッドを占有していたはずの彼女の身体は加覧の懐に潜り込むようにして接近していた。

 S級魔法少女。その名にたがわぬ動きは加覧では知覚できない。

 いつの間にか引き寄せるように掴まれていたネクタイは首を絞める。

 視線を外して、回り込むように移動した彼女につられるように椅子は回転する。

 やっとネクタイが彼女の手を離れて乱れを加覧が直しているのには目を向けもせず、無遠慮にデスクに座った。

 時代遅れの紙の資料とノートPCは彼女の身体に押しのけられて床に散乱する。

 地面に転がりシミを広げていくコーヒーカップに注意を取られると、不意に肩に何かが乗る。

 前方に顔を向けなおせば、海月が脚を組み伸ばされたそれを加覧の肩へと乗せていた。

 

 

「委員会の大人もそーだけどさあ。何で弱い人って海月ちゃんの言ったことだけ出来ないの?」

 

 華奢な足。

 変身ゆえか靴すらも履いていない素足だが、これを少女の脚だからと切り捨てることはできない。

 仮にもS級魔法少女。首に鎌をかけられたようなものだと加覧は錯覚する。

 

「すぐに海月ちゃんの言ったこと以外するのは何でぇ?」

 

 組み替えられた足は反対側の肩に乗せられる。

 警策のような動きを見せる少女の脚にいつ自分降りかかるのかと思考がよぎる。

 魔法少女であっても人に危害を与える行為は犯罪であることに変わりない。だが、目の前の少女はその一線をやすやすと越えてしまいそうな危うさを持っていた。

 加えて、加覧と言う人物の立場を考えれば、ここで彼女によって怪我を負っても表ざたにはなることはない。

 

「はぁ……。弱いんだから、余計なことしなきゃいいのに」

 

 そう言った海月が軽く加覧の肩を蹴るとキャスターが加覧を下がらせた。

 またも海月が脚を組み替えると今度はデスクの上からぶらぶらと揺らす。

 

「それで、コフィンを君たちが本当に捕まえられたってのは、海月ちゃんちょっと信じられないなぁ」

 

 そう言いつつ海月に要求されるがままに加覧はコフィンを監視するカメラの映像を手渡した。

 少し驚いたような表情を浮かべた海月を視界に入れながら、加覧は怪訝な顔をする。

 海月はどうにも秘密混成部隊の面々にはコフィンを捕縛するだけの力が無いと考えているように見える。

 少なくとも、被害を出すことなくことを成していると言う事態に疑念が尽きないようだった。

 

「ま、今は良いや。で、なんだっけ。死神の子の方。そっちはどーしたの?」

 

 話題は死神の子に移る。

 本来プロフェットは、死神の子の力を危険視して今回の命を下してきたことを考えると、こちらが本題と言うべきものだろう。

 故に、コフィンの話題をそうそうに出してきた海月の行動は気になるがまた機嫌を損ねては面倒くさい。気にしないようにして言葉を紡ぐ。

 

「一人は、報告したように協力者として。残り二人は作戦中に離脱し逃亡しました」

「使えないなぁ。じゃあ、どーするの?」

「もう一度仕掛けます」

 

 海月の問いに加覧はそう答えた。

 なんとも安直な答えだと内心加覧自身も思う。

 

「魔法少女コフィンを抑えたのは、死神の子にリミッターをかける必要があったから。それはわかってるよねぇ?で、この写真のコフィンちゃん、目から血流してるじゃん。今度は手加減なしで来る。勝てないでしょ。龍幻ちゃんがギリ」

「それはもちろん分かっています。ですが、こちらの罠に嵌めて尚且つ、協力者として引き込んだ死神の子をぶつけます」

「ふーん。まあ、いいや」

 

 上手く事が進むわけでないことをお互いに分かっていた。

 それでも海月は興味を無くしたようにして話を切り上げた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

「どうするつもり?」

 

 キイナは乱暴にグラスをテーブルに置いてそう言った。

 その目は責めるようにヒナリを見た。

 ヒナリに促されてあの場から退散したことは事実として存在している。キイナはヒナリよりも先に離脱と言う合理的な判断を頭に浮かべていたが、責任転嫁するように外部へと押し付けるように思考が働いていた。

 ヒナリはそんな態度には引っ掛かることなく、考えるそぶりを見せる。

 

「比五子ちゃんが、何処に居るかを特定するのが先決だけど……」

「それが出来たら苦労はないわね。と言うか、あの時の魔力の文字も水戸守が仕掛けておいたものだと考えると、腹が立つわね」

 

 キイナが思い出すのは、座標を伝えるために窓に現れた魔力の文字。

 思い返してみれば、これを設定できるのは襲撃してきた部隊ではなくカフェに近づくことが出来るティナであると言うのは納得のいく話だ。

 呪縛が解かれたとはいえ、インベーダーの敵とも言える委員会側へと寝返るとは考えていなかっただけに、予想が出来なかった。

 

「それにA級2位までいるのは厄介よ」

 

 A級2位。そもそもの能力が高いことは言わずもがな。

 そのうえ幻術を使うとなると手に負えない。

 

「龍幻……っ」

 

 魔法少女龍幻の名前を呟いたヒナリは不意にその目を見開く。

 その反応にキイナが首を傾げる前に、ヒナリは口を開いた。

 

「一つ、方法があるかもしれない」

 

 その手には一つのストラップが握られていた。

 

 

 

 

 ◆

 

 それはずっと昔の話だ。

 死神の子なんて全く関りのなかった昔の話。

 

 ヒナリには、一年の間だけ親友と呼べる少女がいた。

 

 出会いは、近所の公園で彼女に助けてもらった事が始まりだろうか。

 当時、ヒナリは大人しく気が弱かった。そんな性格だからかよく男子に絡まれた。

 今思えば、ちょっとした揶揄い程度。それでも、自分よりも大きくて声の大きい男子にちょっかいをかけられれば酷く嫌な気分になった。

 怖くて、言い返せなくて、地面を見つめて耐えるようにしていた。

 

 そんなヒナリを少女は助けた。

 

「やめなさいよ!」

 

 ヒナリと身長は大して変わらないし見た目も大人しそうなのに、堂々と男子の前に立ちはだかった。

 手を出すことはなくても、怒鳴る男子を追い払う姿はとても大きく見えた。

 ヒナリにはとても真似は出来ないとそう思った。

 

 そんな縁からか時々公園で顔を合わせれば、男子を退けるようにヒナリの近くに来てくれた。

 そしていつしか一緒に遊ぶようになっていた。

 学校は違ったけれど、おこずかいを持ち寄って一緒に出掛けることも多々あった。

 

 そんな彼女とは同じ夢を持っていた。

 

「大きくなったら魔法少女になりたい」

 

 彼女が先に言ったのか、ヒナリが先に言ったかは定かではない。

 それでも、どちらに影響を受けたわけでもなく同じ夢を抱いていた。

 

「一緒に、魔法少女になろうね!」

「うん!」

 

 そう二人で誓い合った。

 誓いの印に二人で買った「ウサッキー」のペアグッズに彼女は微妙な顔をしたけれどすぐに鞄につけてくれた。

 だから、これからも学校が一緒でなくても同じ志で魔法少女になるのだと思っていた。

 

 でも、九歳のある雨の日、ヒナリはインベーダーへと落ちた。

 

 ヒナリを揶揄う男子とは違う本当の悪意。

 どろどろとした感情がヒナリに注がれた。いや、ヒナリなど見てもいなかったのだろう。

 ただ、目に付いたから、もてあそんだ程度だろう。

 面白半分でいじられた身体はインベーダー因子によって堕ちた。

 

 不快で不快で仕方なくて、衝動のままに暴れた。

 

 インベーダー因子によって与えられた力によって、自身をこんな目に合わせたインベーダーを殺すと言うのは皮肉なものだ。

 殺しても収まらない。その衝動は頭の中で渦を巻いた。

 どうしようもなくやるせなかった。

 

 そして、その日を境に少女には顔を見せなくなった。

 何故そうしたかは分からない。

 汚れていない彼女を見ることが出来なくなったのか、魔法少女を目指す彼女に心底不快な気持ちを抱いてしまうからか。

 

 それから、長い年月の中で少女の存在は薄れていった。

 

 少女と再会したのは、A級下位に入った直後の魔法少女コミュニティだった。

 油断したわけではなかった。

 そのころには他二人の死神の子と共謀し計画的に行動をしていた。

 だが、顔を合わせるまで気付くことは出来なかった。

 

「ねぇ!菊日さん」

 

 そう言って呼び止めた少女は変身していて認識阻害が働いていた。

 けれど、ヒナリは偶々変身を解いたところを見られたのだ。

 だから、少女が手にしたそれを見せてこなければ察することは出来なかっただろう。

 

「覚えてる?私の事。ヒナリちゃんだよね?」

 

 その手に握られてたのは、おそろいで買ったストラップだった。

 それだけで、ヒナリの頭の中では少女と目の前の彼女がつながった。

 

「探したんだよ!いきなり公園こなくなっちゃったから。……でも、やっぱり魔法少女になったんだね。私も──」

 

 目の前で彼女の言葉が途切れた。

 その時、自分が少女の手をはたくようにしてストラップを叩いたのだと気付いた。

 ストラップが地面に落ちるも、少女は目を見開いて固まった。

 

 そして、そんな少女にヒナリは何かを言っていた。

 何故あんなことを言ったのか分からない。何故声を荒げたのかも分からない。

 ただ、言い終わった後に佇む少女の前に彼女の姿はなかった。

 

 やってしまったことを自身を縛る呪縛のせいにする気力すら残っていなかった。

 

 その次にあった魔法少女コミュニティでは、彼女はA級上位へと上がり顔を合わせることはなかった。

 

 それを思い出して、鞄のうち側へとしまい込んだストラップを取り出し握りこむ。

 比果比五子を助ける手がかりは彼女にある。

 無意識に避けていた少女の向かう先に一歩足を進める。

 

 ヒナリは、少女を待ち伏せるように立っていた。

 少女の学校も通学路もわかっていた。

 そして、一緒に行動している人間も。

 

 春から夏に近づく季節。

 少し汗ばむ中で少女を見つけて、覚悟を決める。

 

 暫くの間、一人の少女に頭を下げ、必死の形相で頼み込むヒナリの姿がそこにはあった。

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