「緑子ちゃん、ちょっと嬉しそう」
「そう?」
寧々華の言葉に緑子は首を傾げる。
元来喜びの表情を顔に出すのが得意なタイプではないのは自覚しているだけに、寧々華の言葉には首を傾げる。
「そーだよ~。あ~でも、力になって上げれなかったのは残念だけどね~」
「まあ、仕方ないわよ。秘密混成部隊のアジトなんて機密情報、いくら寧々華が龍幻と姉妹だからって教えられるわけないわよ」
「え~。でも、緑子ちゃん、私が知らないって言ったら絞り出せって言ったくせにー」
「うるさいわね!」
そう言って緑子は足を早めた。
◆
「えー、中滝使えな」
「はぁ!?」
「なによぉ!」
ヒナリとキイナは取っ組み合う。
ヒナリの目論見が失敗に終わった以上、アジトへの手がかりはなくなった。
次の一手を見いだせずにいるままに、二人はカフェへと向かっていた。
カフェの場所はすでに割れているので、敢えて近づいていなかったが、一度態勢を整えるために戻ることにしていた。
そして、手は尽きたかに思えた時、話を聞いていたらしき琴浦が口を挟んだ。
「比五子さんの行った場所なら私わかりますよ!」
「「は?」」
二人の声が重なるのも仕方のないことだ。
その情報入手の難易度よりも、この琴浦と言う女が死神の子の二人が得られない情報を得ていることに驚きを隠せない。
だが、思い返してみれば、比五子だけを見ていた二人は琴浦のことなど眼中に入れていなかったが、一般人が知りようのないことを普段からつらつらととめどなく話していたような気もする。
自身の指で輪っかを作ってそれをのぞき込んだ琴浦のドヤ顔に半信半疑ながら耳を傾けた二人は、藁をもすがる思いで彼の情報を受け入れた。
そして……。
「本当、だったとは……」
言われるがままに、情報をたどってついた先には比果比五子が攫われたであろう秘密混成部隊のアジトがあった。
しかも、彼女に手渡された端末を各所でコンソールにあてがうとマスターキーのようにしてロックを開錠した。
「えぇ……」
半ばドン引いた声が出た。
◆
ティナがここを訪れ退出してからしばらくたった。
その間誰かが訪ねてくることはない。
目覚めてすぐはスピーカで、尋問?されたが、俺が何も話さないと見たからか接触がなくなった。
最後にこちらに接触してきたのは魔眼を使ったときだろう。俺が魔眼を破裂させたときに近くで声がしたからな。
ずっと機械を通して話しかけてきていたのに、その時だけ内側に居たのは謎だ。
まあ、少女らがどこに居ようが俺が何かを話す気はない。
千七百二十八人分の食事でも出されれば、考えないこともないが、彼女らが俺を縛り付けてしたことと言えば、「ヘキナー・ディーガル!」と叫ぶことくらいだ。
ただ、彼女らが俺の私物を没収しないことには少し驚いた。
身分が割れるようなものは身に着けていないとは言え、琴浦からの報酬アイテムである指輪は左手に嵌ったままだ。
効果は「すばやさ+1」とか「こうげき+1」とか、そんなものだが、彼女らは只のアクセサリーだと判断したようだ。だが、そうなると左の指全てに指輪をしたイタイ奴だと思われた可能性もあるのは度し難い。
まあ、分かりやすい武器と言う武器も持ってないからこその、持ち物を何も取られていないと言う結果だろう。
もし彼女らが、懐中時計やピストルを知らない異国の民ならその全てを没収されそうなもんだし。
まあ、残念ながら彼女らはもてなしもしない魔法少女だが。
と、そんなもやもやが俺の内にはあるものの、ティナが話を付けたと言うし、私情はなしにしよう。
眼球も回復したし、出るか。
と言う事で、俺はカゲ先生の吸収案を利用して拘束していた布の効力を解く。
エネルギーが乱れなくなったのを確認しながら身動きを取ろうとして物理的な拘束力に阻まれる。
別にエネルギーで作られた拘束具と言うわけではないから、こいつを解かなきゃならんのだった。
生成した刃物を自身の身体に這わせるように移動させて拘束を解いた。
疑似変身を解く際に、制服を生成した刃で切り刻んで変身解除を再現しているだけあってスムーズにできた。
まさか、他の事に役立つとは思わなかった。
「……っと。拘束も解けたし、出るか」
なんか拘束具が外れて、何重にもベルトが俺を縛っているのがわかった。
つーか、滅茶苦茶着いてて取るのも面倒になって来たし、動きを阻害しないのはそのままでいいか。
そういや、拘束の解き方は分かったけど、この部屋からはどう出んだろ。
扉っぽいのはあるけど取っ手とかないし。多分外から開けるのを前提とした扉だろう。
「どうあけようかな」
「普通に壊せばいいだろう」
「豪快だなぁ」
魔法少女たちと話がついたと言う事は穏便に済ませることとイコールだったけど、流石カゲ先生考え方が違う。
まあ、話がついたとか言いながらこの部屋に入ってきていない時点で、これくらいは我慢してもらっても良いだろう。
この真っ白な部屋に長くは居たくないしな。
しゃーなしと言う事で、ドアを壊して外に出る。
通路に出てみるも、無機質な通路が続く。典型的な敵のアジトって感じだ。
とは言え、リアルにこれを作るとなるとどれだけの費用が掛かるのだろうか?
見たところ、委員会の支部とは違う施設のようだし。
つーか、どっち行けばいいんだろう。
「まあ、適当に行けばいいか」
◆
「死神の子が施設内に侵入し、魔法少女コフィンも自ら拘束を解いて脱走した?」
監視にあたっていたものからの報告を受けて秘密混成部隊を束ねる加覧は驚いた表情で復唱した。
一度の報告で受けるには情報量が多すぎる。
加覧が困惑するのもおかしな話ではなかった。
しかし、これに反応を見せたのは加覧だけではなかった。
S級魔法少女海月もその報告を聞いた時にピクリと身体を動かした。反応したのはコフィンの情報の方だろう。
だが、それを一旦、視界の隅に追いやって通話相手へと指示を出した。
「コフィンには、「龍」をあてて。死神の子の二人には協力者、そして「蛇」と「虎」を。頼んだよ」
コフィンは死神の子と比べれば大したことはない。
龍幻の魔法だけで無力化には十分おつりがくるほどだろう。しかし、念には念をと思い龍幻とその部隊を向かわせた。
短時間にコフィンを無力化し、死神の子に今いる総戦力をぶつける。
本当に戦力と言う話をするのなら、ここに居るS級魔法少女の力を使いたいところだが、残念ながら加覧には指揮権がない。
そんな風に思いながら、盗み見た海月の様子はやはりおかしい。
何か表情を硬くして小刻みに体を震わせているように見えた。
海月の普段の言動からは考えられない姿だ。だからこそ、何かの間違いだろうと目をこする自分と、これが見間違え出なければ何なのかと言う疑念が頭をひしめいた。
「……か、海月ちゃんは、もう行くから」
こちらの視線に気づいたのか、何故か下腹部を抑えるようにもぞもぞと足を動かしながら彼女は退室した。
しかし、それに疑問を呈す前に、新たな一報が加覧の鼓膜を揺らした。
『報告、龍幻隊長の魔法が全く、コフィンに通じてません!』
その信じられない一報に加覧は目を見開いた。
◆
なんか眼球直ってなかったぽいわ。
視界おかしいもん。
飛んでくるナイフ。
それは俺を傷つけることなく俺の身体を素通りした。
幽体離脱でもしたかと疑ったが、そんなファンタジーあるわけない。
転生?あれは、ファンタジーじゃないし。
まあ、そんなことはともかくとして、次々と俺の周囲を囲むように現れる刃物や炎なんかは実体がないのか、俺を取り囲んで近づき特に危害を与えることもなく消えていく。
マジで目がおかしくなったぽい。
まあ、眼球吹き飛んでるから、脳までダメージが行ったと考えると有り得る話だ。
そんなことを考えていると、一人の少女が目の前に現れる。
「私の、幻術が通じないなんて思わなかったぜっ」
知らん子だ。
俺に接触してきた魔法少女たちの中にはいなかった。
まさか、この少女自体幻覚なのか?幻聴もプラスとなると、大分頭がやられたようだ。
「これも、幻覚か……」
結論が出ないから試しに手を伸ばしてみれば、触ることは出来なかった。
「まさか、そこまで見抜くとは……」
少女はそう話して、姿が搔き消える。
すると、少女の幻影があった場所より奥に、また、同じ少女の身体が浮かび上がる。
「無駄なことを」
我ながら、馬鹿な幻覚だ。
幻覚であるのに見極められるとは……。
そんなことを思っていると不意に背後に二つの気配を感じる。
多分これは幻覚ではない。いや、どうだろ?
色々考えながらも、一応白武器を生成して背後の欧撃を防ぐ。
防ぐ感覚があるから実体だろう。
じゃあ、なんで襲って来てるんだって話だが、この二人は見たことないし事情を知らんのかもしれない。
拘束具が完全に取れてないし、扉ぶち壊しているしで超危険人物だと思われているのだろう。
いつの間にか、枷のようにして足に絡みつくのは魔法だろう。
動きを止めた俺を狙うように、少女は迫る。
俺のイマジナリー幻覚少女もいろいろしてくるがこっちは無視でいいだろう。
ステッキが振るわれて、それを刀で受け止める。
瞬間、防いだ攻撃が重さを増した。
質量を変化させる魔法。重さを倍増させて慣性を利用することなく振り上げた状態では発動していなかったことを考えると武器が接して初めて効果を発揮する類のものだろうか?
まあ、別に真正面から受けなければどうとでもなる。
攻撃を受け流すように、刀に沿わせて攻撃をいなす。
体勢を崩したところに蹴りを入れる。寸前で手のひらで受けるように防がれるが、本命は別だ。
生成した白武器を支点としてワイヤーのように強度を付けたエネルギーで出来た紐の先に黒武器を付けることで紐の先を引っ張って空中で軌道を変化させる。
近づいてきた魔法少女二人の行動を妨害しながら最終的に俺の蹴りを防いだ少女を切り付ける。
一瞬のうちの出来事故に、対応が遅れたのだろう。それだけで一人を無力化した。
しかし、使いにくいなこれ。
普段投擲する黒武器の槍はエネルギーの供給のために手から伸ばしたケーブルの様なエネルギーによって遠距離での運用を可能にしてるが、今使ったのは紐に強度を与えるために使用するエネルギーと工程が多すぎる。
強度としなやかさとその他もろもろと要件が多いのだ。
加えてエネルギーの供給は継続してしなければならない。
実戦で使えんな。
つーか、幻影ちゃんなんかやる気無くしてる気がする。
さっきまで幻覚で翻弄してきたのにあんまり撃ってこないし。
あと、時々近づいて来るので癖で黒武器で邪魔するのだが、すぐに諦めて距離を取る。
めっちゃショック受けたような顔してるのが謎だけど、きっと俺の脳が回復したらお別れだろう。
少し愛着がわいてきたので寂しいかもしれない。いや、そんなことないか。