「どうなってる?」
モニタールームに入った加覧は状況を確認すべく、声を上げた。
誰かが何かを言うより早く映像が視界へと入る。
施設内廊下に設置されたカメラはコフィンが「龍」による足止めを意に介すことなく進む姿が映っていた。
そしてやっとモニターを見ていた職員の言葉が返って来て補足される。
「現在、第三ブロックから第二ブロックへと魔法少女コフィンが進行中。命令により抗戦を開始した「龍」は魔法少女コフィンによって無力化されてます。魔法少女龍幻に関しては、魔法が通じないと報告が。判断を仰いでいます」
報告に大体の状況を察する。
しかし、それでも素直に受け入れることはできない。
魔法少女コフィンが龍幻の魔法を無効化?ありえない。
龍幻の魔法が通用しない相手なんて存在しない。
存在するはずがないのだ。
「……龍幻聞こえる?」
だが、今ここで考え事をしている暇はない。
通信用のマイクを引き寄せて、そう問いかけた。
『聞こえてるぜっ。でも、手早くね』
龍幻の普段の声色からすると落ち着いているように聞こえる声が耳に届く。
「報告は聞いているけれど、魔法以外の手段でのコフィンの無効化は可能?」
『……単純な力勝負なら余裕だね。でも、今のこの状況なら五分五分ってところ』
「A級2位を相手に……?」
『思ったより強いよ。捕まったのだって、絶対わざとだし』
このタイミングでの自力で拘束を解いて脱走となればそう考えるのが自然だった。
そして、A級2位の龍幻と魔法抜きの状態とは言え、互角と言わせるほどの力を有しているとは……。
先ほどの、S級魔法少女海月の不審な様子が一瞬頭をよぎる。
「蛇」の隊長である魔法少女零と言った者とは違い、ランキングですらA級2位を取る龍幻は単純なインベーダーとの戦闘に関しても、高い実力を誇っている。
作戦や、からめ手なしに、力と言う一点においての強者である。
いくら幻術を使えても、A級インベーダーに有効打を与えるには、固い外殻を貫くだけの単純な破壊力が必要となる。
そんな力を有しているからこそ、ランキングが高いのだ。
「……直接戦闘を許可するよ」
『いいの?』
「侵入してきた死神の子に接触される方が面倒だ。ただ、致命打を受ける前に離脱してね」
『りょっ!』
カメラ越しの龍幻は敬礼のようなポーズをした。
彼女が、直接戦闘の判断を仰いできたのは、勝率が五分五分であるからだ。
コフィンを潰すために、この場の最高戦力の一人を使うかどうか。
最悪撃破される可能性を残したまま、戦うのかと言う話だ。
だが、最大限の時間稼ぎと、撃破される前に離脱すると言う譲歩による命令を加覧は下した。
死神の子を相手に出来るのは協力者と「蛇」と「虎」だが、そこにコフィンを向かわせるわけには行かない。
出来るだけ戦力を分散させたい思いがあった。
だが、不安は募るばかりだ。
今現在も、コフィンは廊下を進み続ける。
妨害をものともせずに、ただ散歩でもするように進む。
魔法を封じられた龍幻と全力を出せるコフィンが同程度と言うことであれば祈ることしかできなかった。
『さてさて、魔法なしでの戦闘は久しぶりだからなぁ。……少し高ぶるぜ』
龍幻のその声を加覧は好意的に受け取るように努めた。
◆
「インベーダー……!」
コフィンと「龍」の接触とほぼ同時刻、死神の子とティナ、そして「蛇」と「虎」の二部隊は接触していた。
気が立って入るのか、血走るような逆鳴の目はヒナリとキイナを貫いた。
そして、すぐさまその矛先は協力者と名乗るティナへと向いた。
「お前が手引きしたのか?」
「落ち着け、逆鳴」
食って掛かる逆鳴に魔法少女零は言葉を吐いた。
協力者の正体が判明してから、逆鳴はずっとこんな調子だ。
逆鳴は過去に、インベーダーによって家族が怪我を負い、憎悪の念を抱いているからこそ我慢ならないのだというのは知っているが、二人の死神の子を前にして、そんなことをしているほどの余裕はない。
零だって、先の一件で未だやつれた表情に回復の兆しはなく、自分の事だけで手いっぱいなのだ。
「どーでもいいけどさぁ。もう手加減する必要はないから、黙って死ね」
みっともなく言動を乱す逆鳴に相対したキイナはそう言い捨てる。
実際、秘密混成部隊の拠点とする施設が判明した以上、彼女らに情報源としての価値はない。
強いて言えば比果比五子が人質に取られたようなものだが、すぐにこいつらを殺して助けに行けばいいだろう。
比五子だって、弱いわけではないのだ。
そして、言い終わるが早いか、すでにキイナの言葉に呼応するようにして亜門から獣が飛び出していた。
施設内通路には大きすぎる身体を押し込めながら獣は魔法少女らに肉薄する。
いや、それと同時に、現れたティナの獣によって両者は衝突した。
狼の特徴を持った獣「マガミ」、クジャクの特徴を持った「ナンカク」は既存のそれとは違い身体が大きく、力が強い。
接触するだけで破裂するような轟音と衝撃波があたりを包んだ。
「悪いけれど、貴方たちは私がまとめて相手をします」
キイナの攻撃を受け止めたティナがそう言った。
「はぁ。舐めんなし」
「おごり過ぎ」
ヒナリが不満を吐いた時には彼女の獣、「カムカ」が現れていた。
同時に、キイナはマガミの出力を上げる。
だが、当然のことながらティナの発言は嘘。
刺客は二人の背後に居た。
音も出さずに近づくそれを二人は転移によって躱す。
「く」
攻撃を入れようと接近したのは、「蛇」の一員である紫流だ。
魔法による瞬時の移動。
それを本来わずかにはじける雷鳴すらも死神の子の二人に届かせることなく接近していたはずだった。
だが。
「アンタの魔眼の事なんてよく知ってんのよ」
ヒナリがそう言葉を吐く通り、ティナのその力はよく知ったものだった。
ティナの魔眼の能力は、音に関するもの。
任意の対象に対して音による近くを揺さぶる。
実際に音が出ていなくとも、音が聞こえるように感じさせることや、音が出ていても音を感知させないことが出来る。
本当によく知っている。
彼女らの密談は、ティナの魔眼によって内容の隠匿をしてきたのだ。
彼女の魔眼が一度に対象と出来る数はそう多くない。
故に、内緒話をするときに魔眼の対象とするのは死神の子。
これにより、ある一定の音を別の音に変換する。
実際には、聞き取れないような曖昧な音で会話していても、三人の間だけでは正確に音を拾えると言う方法だ。
まるでカクテルパーティ効果のようにして作用するその力によって人目をはばからずに会話をしてきたのだ。
だから、そこ、爆音でもない少量の音を発生させる紫流の攻撃に対して、死神の子の二人が音を拾えないように魔眼を使うだろうということは分かっていた。
故に、先手を打ち、奥へと転移した。
転移先はキイナがティナの眼前、ヒナリが魔法少女零と魔法少女逆鳴の前へと降り立つ。
突然の接近、ティナは予想済みなのかすでに動いている。
だが、一方ヒナリを相手にする二人は動きが何故か鈍い。好都合だ。
「少しは耐えて見せて」
ヒナリのその言葉に、二人は何かを言う前に黒い魔力は放出された。
圧縮された黒い魔力は視界に映るものをすべて飲み込む。
一直線に伸びた通路は跡形もなく吹き飛び、壁が剥がれ随分と広く吹き抜ける。
そして、眼前に居たはずの魔法少女は光が漏れ出て霧散していく。
「──……っ」
声が出ないのだろう。
変身が剥がれ、魔法体が崩れ去った二人が呆然と膝をつく。
潜伏していたであろう残りの数人も変身が解けて身体を地面に投げ出している。
「……ん、なんだよ」
「あ?」
何かを呟く逆鳴だったであろう変身の解けた少女を見る。
「何なんだよっ!お前!」
ろくに身体に力が入ってないだろうにつかみかかろうとする少女を半身を動かして避ければ容易に転んだ。
生身の肉体は施設が壊れたことによる鋭利な破片に切り付けられる。
「どうして……。どうしてお前らは」
歯を噛みしめて憎しみの表情を浮かべる少女にヒナリは冷たい視線を向けた。
◆
今回の作戦にて秘密混成組織を統括する男、加覧からの戦闘許可を取れたことで身体を伸ばすように龍幻はストレッチをし始める。
「さて、久しぶりだから、慣らしから行くぜっ!」
地面を蹴る。
「龍」の他の二人は無力化されて、待機を命じている。
故にタイマン。
一瞬でコフィンの懐に潜り込む。
攻撃を仕掛けようとして……。
「ん?……本物?」
「っ!?」
初めてしっかりと実体での攻撃を入れる。
これに対してコフィンは避けることが出来るか否か。
小手調べとしてそんなことを考えていたが、それ以前に接触前に幻術ではないと暴かれた。
反射的に距離を取り、龍幻は声を洩らす。
「こりゃ、完全に魔法は封印かな」
フェイクとしての幻術としての効果はゼロ。
魔力の温存を考えれば、完全に封じた方が良いだろう。
「本物……やるしかないか」
対するコフィンもそう漏らした。
やっと戦闘態勢に移ったと見える。
今度こそ、純粋な力比べが始まる。
A級2位の最高速度は、並みの魔法少女では追い切れない。
コフィンも俊敏性に長けているが龍幻には及ばない。
単純に同時に動いたのなら先手を取るのはこちらだ。
ステッキを剣のように変形させる。
青龍刀の様なそれをコフィンに叩き込む。
しかし、転移により僅か後方へ交わされる。
それも予想済みだが、振ると同時に投げた刃は弾かれる。
しかし、ステッキには目もくれず龍幻は肉薄する。
ステッキは宙を舞うが、顕現を解除して再顕現することで手元へ戻す。
それを振り首をかこうとして、やはりコフィンが容易く避けようとするのを右手から先ほどと同じように左手へ再顕現することにより、反対方向からの攻撃を成す。
白武器で、それを防がれるが流れるように蹴りを入れる。
やはりこちらも、コフィンの脚が突き出され衝撃波を生み防がれる。
だが、こちらの方が単純な力は強い。そのまま押し込もうとして上半身へと黒い刀が迫りまたも右手に再顕現した刃をあてがい絡み取るように横に流す。
空いた手で、拳を振るうコフィンの攻撃をしゃがみ込んで、避けつつアッパーを入れようとしてそれより早く地面から槍が生えるのを察知して魔力を爆発させて後方へと下がった。
やはり魔法の使えない自分と違い、手数の多い相手だけあってやりにくい。
だが、自身の口角が上がっているのに気付く。
「楽しくなってきたっ!」