TS転生した俺は魔法少女になれないらしい   作:環状線EX

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ワルキューレ!

 

 幻影ちゃんは幻影じゃなかった。

 は?って感じだが実体だったことに気付いた。

 つまり、今まで俺の身体を通り過ぎていいた幻は俺の眼球と脳の不調から来るものではなくこいつの魔法だったわけだ。

 多分。

 

 そして、奴は俺が本物だと認識した後くらいから魔法を使わなくなった。

 その理由については謎だが、どちらにせよ俺はこの少女を倒していなかければならないようだ。

 

「さぁ、行くよっ」

 

 彼女はなぜか口角を上げて、地面を蹴った。

 先ほどまでよりも更に速い。

 すでに眼前だ。

 

「──っ!」

 

 右斜め上青龍刀。手元を掴む。

 俺の行動にひるむことなく、少女は拳を腹部に押し付ける。

 数度殴られるそれを手のひらで受け止めガードする。

 そして四撃目で、刃が握られていることに気付き、半身をずらす。

 先ほどから、ステッキの再顕現を繰り返して右左を変えている。

 それだけで、そうとに厄介なのだが、それ以前にどうやって再現しているのかは全く見当もついていなかった。

 

 ステッキは一度消すと再生成する際にそれなりの魔力を食う。

 一つしか一度に顕現出来ない為の解除と再顕現だが、ステッキが移動しているように見えて壊して作ることを繰り返しているのだ。

 とてもじゃないが、魔力が足りなくなるだろう。

 だが、幾度とそんな行為を重ねてきて未だためらう様子も見えない。

 

「考え事してる暇はないんだぜっと」

 

 足を刈られて体勢を崩しそうになる。

 だが、急遽生成した黒武器であるナイフを滑り込ませる。

 それを、奴は一歩踏み込んで組み付くようにタックルしてくる。

 ナイフは腕を伸ばされ少女の身体に充てられず、しかし、一秒かかるかどうかという時間で逆手に持ち直して背中に挿そうとして再顕現された青龍刀を挟み込まれる。

 

 同時に、地面から白武器を生やすも槍は避けられる。

 

「面倒……お前、なに?」

 

 魔法少女のくせに戦い方が泥臭すぎる。

 

「もしかして、知らないっ?龍幻って言えば分かる?」

 

 知らんがな。

 

 ──魔法少女龍幻、A級2位だ。知らずに戦ってたのか?

 ──魔法少女なんて分かんねぇよ。最近の魔法少女みんな同じ顔じゃん。……冗談だよ。変な思念送ってくんな。

 

 いつの間にそんなに魔法少女大好きになったんだよ。

 推定裏ボスとくれば対立する側だろうが。

 まあ、とにかく2位と言うことが分かれば先ほどまでの芸当も納得だ。

 膨大な魔力量を有しているからこそのステッキの解除と再顕現の繰り返しだったわけだ。

 

「A級2位……」

 

 しかし、そう考えるとコイツに勝てる気がしなくなってきたぞ。

 恐らく魔法は使ってこない。それは良いだろう。

 だが、魔法発動に使うだろう魔力のリソース分が浮いているはず。故のステッキの出し入れと言うわけだろう。

 奴は万全ではない。対して俺は眼球を始めとした諸々の回復は済んでいる。エネルギーは端から問題外だ。

 これで、五分ってところだろうか。

 

「まあ、いいか」

 

 どうせやるしかないしな。

 逃げたいところだが背中向けたらやられそうだし。

 

 再度、刀を握りこむ。

 刀の長さは短くして二刀にする。脇差二本もちみたいな見た目だ。刀は詳しくないから知らんが。

 リーチを短くしたのは、龍幻とやりあうときに距離が極めて近くなるためだ。組み付いてくるような相手だ、長い武器は使いにくい。

 二刀にしたのは、俺も右左と持ち替えたいところだが彼女ほど生成スピードが速くないからだ。

 黒武器は圧縮して「吸収」を付与しなければならない。

 事前に途中までの工程を終わらせておくとか色々しているが、それでも少女には追い付かない。

 

 そんなことを考えている内に、少女は迫る。

 一瞬のその動きの中で無数に左右の手の内の青龍刀を移動させる。

 お手玉を早送りしてみてもこうはならない。

 俺の視力がなければ残像でも残って両手に握られているようにも見えただろう。

 それほどまでに、回し続ける。

 

「化け物め」

「どうもっ」

 

 右。受ける。

 相変わらず速い。

 そして左を囮にした蹴りも繰り出されるが、太ももを上から蹴りつけて封じる。

 

「っ」

 

 力まで強いのかよ。

 押されそうになるのを、龍幻の脚を更に踏みつけ足場にして跳躍しながら回し蹴りを入れる。

 態々、刃を向けて切り付けるとこまでの余裕はなかったのだろう。腕で受け止める。

 切り付けられる前に、脚をどけて攻撃を繰り出す。

 俺が攻撃して龍幻が避ける。龍幻が攻撃して俺が防御する。

 奴が、避けるのに対して俺は食らうことはなくとも防御を強いられる。

 明らかに、力量に差があった。

 それでもそれなりに勝負が出来ているのは、彼女が魔法少女的な戦いをしないからだ。

 

 きわめて人間的な動きの中で戦っている。

 通常であればやられるが、彼女が使えない魔法少女的な要素の分を俺はあの手この手で埋めることが出来る。

 

 しかし、彼女が無手で俺が武器を持っているような状態であっても、僅差で押されている。

 

 俺が攻撃を入れるには、相手のスタイルを乱すしかない。

 最低限の動きだけで作られた彼女の攻撃を、大きく引き離すことで動きのスタートを強制的に最適から遠のかせて動きを大きくさせる。

 蹴りによって、半身を仰け反った彼女が元の体勢に戻るまでにかかる時間によって、本来の行動よりもわずかに動きが大きくなる。

 敢えて大きく動き翻弄することで、間合いを広くしていく。

 絞められた体はわずかに開いていく。

 そこに、俺を地面を蹴って潜り込む。

 刀を滑り込ませて、離脱する。

 一撃離脱を繰り返し、彼女の周りを動くように地面を踏む。

 だが。

 

「正面からやろっ」

「チッ」

 

 痺れを切らしたのか、腕を掴まれる。

 身体が浮く中、脚を龍幻の首に回すも避けられる。

 彼女が刃がこちらに届いた時、俺は白武器によって少女の身体をわずかに押し出す。

 吸収が付与されていなく脆い白武器は攻撃には使えない。相手が実力者ともなるとなおさらだ。

 故に、地面から出力したソレを少女の身体に充ててわずかに動かした。

 そこまでして、俺はやっと刃を避ける。

 それでも、掠って頬が斬れる。

 

 だが、少女を数センチ動かしたところで俺の目的は果たされていた。

 手を閉めるように動かせば、数本のひものようなものが龍幻を縛り付ける。

 先ほどこいつの仲間を退けた時に使ったワイヤーモドキだ。

 両端に改に取り付けた白武器を射出するように動かして、重さで縛り上げた。

 

 そこを狙いに行くも、力ずくで外される。

 だが、それでも大きすぎる隙だ。

 彼女に右の刀を押し付け、避けられたところを左の刀を逆手に持って振り下ろした。

 ついぞたまらず、龍幻はその腕で受けて刀が差さる。彼女は後退しつつ、俺の武器が刺さったまま距離を取る。

 だが、そいつは罠だ。

 

 黒武器は、濃縮したエネルギー。

 作成段階で、細工をして外部に糸のようにエネルギーを伸ばしておけば簡易的な爆発力を得ることが出来る。

 黒武器を内側から壊すほどの膨大なエネルギーを濃縮したうえで更に起爆時に威力を与えるためのエネルギーを込める必要がある。

 更に、奴に威力を伝えるには「吸収」の付与が必要となる。

 破片にそれを付与するのは散乱する破片の内に一瞬のうちにエネルギーの経路をつなげる必要がある。

 

 まあ、割に合わない以前に、無理だよね。

 ってことで陽動。

 

 爆発力は途方もないだろう。

 だからこそ、魔法体と言えど容易に体を飛ばされる。

 龍幻はことが起こってから気付くだろう。

 

 背後に設置していた黒武器に自ら身体を押し付け、損傷を追う事となる。

 

「くくっ。凄い、私が傷を負ったのは随分と久しぶりなんだぜ」

「あそう。満足したなら。終わりで良い?」

 

 なんか楽しそうだから終わりで良いか訊いてみた。

 満足だって顔だよね。分かる。

 

「凄く凄く楽しいからさ。もっとやろうぜ?」

 

 やらないぜ?

 目がキマッてんじゃねぇかよ。

 

「やらない。腕も傷ついてる」

 

 俺は龍幻の腕を見る。

 しっかりと魔法体に傷を与えていた。

 

「勝負はまだ──」

「ずっと、拘束されてて疲れてる」

 

 マジで頼むよと視線を向けた。

 まあ、体力的には問題はないから心理的にって話ではあるが。

 つーか、こいつどう考えてもさっきより更にテンションが上がって来てる。

 ノラれたら死ぬだろ。普通に。

 

「……もしかして、万全じゃなかったってこと?」

「……?」

「私と全力でやりたいの?万全の状態でさっ」

 

 なんか、一人でしゃべりだした。

 幻影ちゃんとか言ってた俺がなんだが、イマジナリーフレンドでもいんのか?

 

「じゃあ、分かった。お預けってことで良いよ」

「え?あそう」

 

 よくわからんけど良いか。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 魔法少女龍幻は酷く退屈だった。

 A級2位。その力は、魔法に由来しない。

 正確には魔法抜きでも相当に実力を兼ね備えているのだ。

 

 しかし、少女が直接戦闘をする機会はないと言っていい。

 魔法が強力過ぎるのだ。

 幻術を大規模で使える彼女からすれば、実際の戦闘では相手を翻弄することは簡単だ。

 故に、とどめを刺すことはあっても戦闘と言う戦闘は実現しえなかった。

 

 だからこそ、幻術の効かないコフィンとの戦闘は心が躍った。

 小細工なしの一対一。

 コフィンはそれなりに実力もあって、魔法を封じた自分と同じくらいの力を持っている。

 

 コフィンよりも強い魔法少女たちが居ても自分とは戦うことはない。

 魔法少女同士で戦いをしているのは、秘密混成部隊に属しているからこそだ。

 そもそも、幻術が完全に封じられる事態など起こらないと言うのもあるが。

 とにかく、魔法抜きでの手ごたえのある戦闘が出来るのはコフィンだけ。

 

 そんな状況で、彼女を見逃したくはなかった。

 だからこそ、戦いたかったのだが、コフィンは万全ではないと言った。

 

 確かに、彼女は長時間の間拘束されていた。

 加えて、脱出を試みたのなら散々魔力を乱されたはずだ。

 どのような方法を取ったか分からないが、あの拘束を解いたうえでドアを蹴破って来たとなれば消耗が無いと言うほうがおかしな話だ。

 

 なら、コフィンは万全になればもっと強くなると言う事だろうか?

 なら、今戦うと言う選択肢は正解と言えるのだろうか?

 

 万全の状態の彼女ならどれだけ自分を楽しませてくれるだろうか。

 

 本気の彼女とやりたい。

 すでに、志気すら下がっている彼女とではなく、本気の彼女と。

 なら今は我慢をしよう。

 

 そもそも、彼女の命は撃破されない程度の足止め。

 大きく傷を付けられた時点での退避はむしろ命令に忠実とも言えた。

 

「今度は本気でやろうぜっ!」

 

 少女はそう言った。

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