勝負は一瞬だった。
俺が、刀で彼女を切り伏せて終わり。
それだけだ。
「始めから本気でやるつもり何てなかったんだろう?」
彼女が、自身の大切な家族であると言う祖母の墓の前に立っていた時から気付いていた。
俺と全力で戦うと言うことは、この周囲も荒れることになるのは必至だと。
それでも、ここで俺を待ってあんな話をダラダラとした理由は、俺に裁いてほしかったからだ。
彼女はついこの前まで自身の考えに疑問を持つことすらなかったのだろう。
呪縛から解けるまでは本気で、これが正しいと思っていた。
いや、呪縛が解けてからも正しいと思い続けようとしたのではないだろうか?
それでも彼女は死神の子として一番になろうとする中で、確実に多くの物を踏みにじって来た。
いくら、因子によって思考が侵されていたとは言え、大好きな祖母をその理由としていた。
それを裁いてもらいたかったのだろう。
ちなみに、峰打ちだ!フッ(不敵な笑み)。
「バレバレでしたか……」
いや、バレてなかったら、普通に危なかっただろ。
三枚におろしてたぞ。
「ふふ」
何故か、ティナは笑う。
そんなに俺の不敵な笑みがおかしかっただろうか?
俺のことを笑ったやつは敵認定してるから、有敵の笑みになってしまいそうだ。なんか弱そう。
「負けちゃいましたね」
それでも、ティナは憑き物が落ちたように可愛らしく笑った。
◆
「な、水戸守!?」
「どどどどどうして!?」
一件落着と言う事で、ティナをカフェに連れていく。
ヒナリとキイナが酷く驚いた。まあ、確かに連絡を入れたわけではなかったのだ。
いきなり登場した少女にびっくりしてもおかしくないだろう。
そう思っていたのだが。
「ひ、比五子ちゃん。こいつ裏切ったんですよ!」
「そうそう!昨日魔法少女側についてたのは、比五子ちゃんも知らないわけじゃないですよね!」
「え?あ、え?あ?え!?………………まあね」
「まさか……」
「い、いや、いまさらそんなことを言われてびっくりしただけ」
裏切ったって何?
魔法少女側ってなに?昨日のアレでしょ?
まあ、確かに魔法少女が付けていたインカムを持っていたな。そう言えば。
……ん?
と言うことは、裏切った彼女は一応あっち側ってこと?
うーん?つーことは、連れてきたらまずかったか?
いや、やめますって言えばいいのかな?
辞職?いや、役職がないと退職だっけ?
でも、結構顔合わせずらいよな。死神の子たちが施設消し飛ばしちゃったし。
退職代行とか使えるかな?いや、ギリ無理か。
だが、ティナに言わせるのもどうなんだって感じがする。
仕事を辞めるのとは違って、どう考えても寝返ってさらに寝返りますと言っているようなものだ。
だが、黙ってやめるのはリスキーすぎる。
「仕方ない」
俺は決心して一つの考えの元、ある人物へと連絡を取る。
相手は、天坂支部の長である岡園と言う男だ。
彼は俺の要望に対して多少の融通を聞いてくれる。
そんなわけで、ティナから聞き出した加覧と言う男に連絡を取れないかと頼んでみたのだが……。
──直接は無理か。
──ティナの言う秘密混成部隊のことを考えると簡単に表に出られる人物ではないのだろう。それでも、何とか橋渡しをしてくれたことに感謝すべきだろうな。
──そだな。
「しかし随分と大がかりだ」
委員会施設である天坂支部へと通された俺は、ある一室へと招かれた。
前回お邪魔した応接室よりももっとデカい部屋だ。
ちょっとしたホールと言えるだろう。
そんな場所に様々な機材が持ち込まれていて、まるでテレビの撮影でもするかのようだ。
そして、カメラが俺を捉えたのを確認して口を開いた。
◆
それは、魔法少女コフィンの活動領域となっている天坂地区の支部長より関係者各位へと発信された映像だった。
施設内大ホールを写すその映像の中心には一人の少女がいた。
夜空の星の様な暗い金の髪を揺らし、特徴的な制服に酷似したコスチュームを身にまとう少女。
A級32位。魔法少女コフィンの姿である。
『知っているかとも思うが改めて、私は魔法少女コフィン』
自己紹介から映像は始まった。
彼女が発生する機会を納めた映像は皆無に等しい。そんな現状で口を開けば自然彼女に注目が集まった。
『手短に言う。委員会の秘密混成部隊に協力者として囲っていた死神の子の一人は私の側についた』
本当に短い映像だった。
しかし、それを見た加覧は「くそ!」とデスクを叩いた。
「これで、協力者の話ではすでに二人、それは実際に僕も見た。そしてこの映像の宣言も考えると三人の死神の子が魔法少女コフィンへとついた。委員会はどこまで把握しているか知らないが……」
現状、委員会とは独立しているこちら側は情報を丸々渡すことはしていない。
しかし、委員会だって何も知らないと言う事もないだろう。こんな映像を野放しにしている時点で引っ掛かるが……。
だが、それよりもこの映像の出所だ。
工作をしてすぐに突き止められないようにしていたようだが、出所は恐らく天坂支部の岡園だろう。
態々施設内で撮っていることを考えるとわざとか?
しかし、意図は今はどうでもいい。
問題なのは、旧瑞穂会派閥が絡んでいる可能性が大いにあると言うことだ。
魔法少女以外の強力な駒である死神の子を手中に収めたコフィンは、旧瑞穂会側とのかかわりが多少なりともあるだろう。
それを踏まえれば、組織内のパワーバランスが崩壊することは必至だ。
今までは、疑惑の段階であったが、今回は本人が映像により警告をした。
つまり、想像だけで騒ぎ立てていた今までとは状況が変わってしまったと言うわけだ。
今の制限されている秘密混成部隊では、手が出ないことが分かってしまっている以上、それは実質的な脅威であることは皆が分かっていることだ。
「委員会はどうする気だ?」
◆
撮影も終了したし、今度こそ一件落着。
気兼ねなくカフェに行って珈琲を飲もう。
そんなことを思いつつティナと施設の外に出る。
彼女は俺のラブラブレタームービーには出なかったが、着いていくと言ったので連れてきていたのだ。
他の二人もせがんだが、流石に留守番を頼んだ。
ティナは本人の事だからまあいいとして、あとの二人も連れて行くと少々目立つしな。
そんなわけで、一緒に歩いて帰ろうと言うことになったのだが、妙にティナのテンションが高いように見える。
クールな印象を受ける彼女がなんだか子供みたいだ。
そんな様子を珍しく思いながら歩いていると、彼女が不意に口を開いた。
「比五子さん。ありがとうございました」
「ん?ああ、いいよ別に。元々俺が原因だしな」
今回の一連のごたごたはもとはと言えば、脅威を排除したくて後先考えずにインベーダーの呪縛を俺が解いたことが原因だ。
そのせいで、死神の子たちの生活は一変してしまっただろうし、ティナは悩むことになった。
知らないことが幸せみたいな考えも出来るし、本人がどうかは知らないけど俺が原因となって苦しませたことには変わりない。
「ふふ。やっぱり、比五子さんは優しいですね!」
「そう?」
それって、アレ?彼氏さんやさしそー。みたいなこと?褒めると来ないから、みたいな。
まあ、何でもいいか。表情も柔らかくなってるし。
「そうです。……」
「どうした?」
頷いてから、急に黙って下を向いたティナに俺は首をかしげる。
しかし、いきなり落ち込んでしまった、なんて話ではないようだ。
「ふふ。少し、良いことを思いつきました!」
「良いこと?」
「はい。私、ずっと一番に執着していて、辛くて。それで、比五子さんに止めてもらってから色々考えてみたんです」
墓地での出来事を思い出す。
確かに、暫く何かを考えるような真剣な顔をしていた。
だからこそ、先ほどの柔らかい笑みが新鮮に映ったのだ。
「やめようかな~、とか思ったんですけど、やっぱり私は一番になりたい。だから、決めたんです」
隣を歩いていた彼女は、少し前を歩いてくるりと翻す。
「比五子さん!私、水戸守ティナは、貴方の一番になります!」
背中に夕日をいっぱいに受けて、そんな言葉を言った彼女の表情はきっと今までで一番きれいだった。
二章完。