TS転生した俺は魔法少女になれないらしい   作:環状線EX

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三章
堤防!


 

 あの作品好きって言うと大抵「推しは誰?」なんて聞かれるのが現代だ。

 物語を楽しんでいるこちらとしては、それに対する答えを持ち合わせないと言う事も多い。

 

 きっと、俺の転生した異世界の元になったであろう魔法少女メーカーと言う作品を好きな人との中には、いわゆる推しキャラなんてものがいる人もいるかもしれない。

 でも、俺が前世でちゃんと作品に出会ったとして推しと言うものは出来なかっただろう。

 この歳まで生きてきてそう言った経験が一切ないのだ。それはこれからもないと断言できるほどの話であった。

 

 だが──

 

「やばい、配信始まる!」

 

 俺は大慌てでタブレット端末の引っ張り出して画面を付けた。

 そこに映るのは魔法少女空霜。

 B級4位の彼女は、魔法少女ユニット「プラネット」に所属する魔法少女だ。

 

 今回画面に写るのは、ゲリラ。つまるところ、上位インベーダーと接触した際に行われる自動配信だった。

 

「まさか、キサマの方がハマるとはな」

 

 そして、配信に食いつく俺の様子を見て、カゲはそう言葉を吐いた。

 と言うのも、俺が彼女の配信を見ることになったのは、カゲがきっかけだった。

 前世でも動画投稿サイトでの配信は時々話題に上がったものを見るくらいにはなじみがあったのだが、魔法少女は通常の自動起動する戦闘配信の他にも、雑談をしたりゲームをしたりとどこにでもいるインフルエンサーの様な活動をしている子も少なくない。

 そんな配信をカゲがよく見ていたのだ。

 

 いわゆる推し。つまり好きな魔法少女の配信を追っていた。

 それが、プラネットと言うユニットに属する一人の魔法少女、魔法少女月酒だった。

 インターネット中毒患者のカゲは月酒が配信をするたびに律儀に待機をして視聴していた。

 そんな様子を鼻で笑っていた俺ではあったが、カゲの影響で流れて来る動画の中に月酒が出てくるとついタップするようになっていた。

 見た目は銀髪で凛としていて、いわゆる人気が出そうな枠の少女で、彼女のことを知らずとも持ち前の面白さから見かければ気に留める程度にはなっていた。

 

 そうして、高校の宿題をしているとき、不意に一つの配信が流れて来た。

 魔法少女空霜。ただのゲーム配信だった。

 ただ、少しなじみがあったことと彼女が所属しているユニットが月酒と同じであると言う理由だけでなんとなく見たのだ。

 

 彼女は、ほぼ毎日配信をしていて、そのゲームを一日数時間配信していたから、丁度宿題をしながら流し見をするようになっていた。

 そして、彼女が配信に【感動の最終回!】とつけるころには、俺は宿題を帰宅後早々に終わらせて五分前には待機するようになっていた。

 

 そんなわけで、現代の若者が推しだなんだと言う気持ちが分かるようになった俺は、一日のサイクルの中に魔法少女空霜の配信のスケジュールが組み込まれるようになっていた。

 とは言え、実生活優先だし、彼女の配信スケジュールは学生や社会人が追いやすい時間帯であるため、悪影響は出ていない。

 一つあるとすれば、この狭いアパートの一室に俺とカゲは別々の画面にそれぞれ顔を近づけてニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていることくらいだろう。

 

 

 

 

 

 ◆

 

「おはよう。比果さん!」

 

 今日も元気いっぱいな、もみじが挨拶してくる。

 「おはよ」と短く返せば、笑顔になる。

 それと同時に、腕にかかる体重が増えることに顔をひそめた。

 

「ヒナリ。重い」

「重くないです!」

 

 何故か、今日も今日とて登校途中に現れたヒナリは俺の腕に絡みついていたのだが、ここ数日もみじと会うと強く締めたり身体を押し付けて来る。

 

「おはようございます。中滝さん。比果さん少し困ってますよ」

「おはよっ!もみじちゃんっ!比五子ちゃん、困ってなんかないですよねっ?」

 

 猫を被るので必死で俺の声が届かないのか、そう訊いて来るヒナリを剥がす。

 それでも組み付いて来ようとしたヒナリは動きを止める。

 視線の先には緑子何某がいた。

 もみじと仲良くしている中の一人だ。一緒に居てもおかしくはない。

 

「あ、えっと」

 

 何故か、緑子を見ながらもじもじとしだしたのでこれ幸いと俺はその場を抜ける。

 そうしてもみじと一緒に教室へ向かった。

 ヒナリもさっさと自分の学校に行かなくていいのだろうか。

 キイナとティナには通学路すらも教えていないため彼女らはいないが、教えれば他の二人も来てしまう気がする。

 そんなことを思いつつ、さっさと移動した。

 未だに、学校の場所をヒナリに教えていないのだ。

 

 多分察しているだろうが、一応違う制服だしな。

 それと何故か他二人には俺の学校の情報を頑なにヒナリが教えていないようだが、そのまま心変わりしないことを願いたい。

 朝は静かにしてほしい。

 

 ところで、俺の変身問題。

 魔法少女モドキの俺が変身するのには、少々力業過ぎる。

 再生する疑似制服をバラバラにして、うんぬんかんぬんと無理やりしていたのだが、それが通用するのは夏まで。

 冬にまで布面積が少ないアホみたいなファッションで過ごしたくはないと思っていたのだが、案外すぐに解決策が見つかった。

 と言うのも……。

 

「ヒーコさん!この着せ替えアプリを見てください」

「え?」

「委員会の出している「使い魔収納」の機能を解析しまして、私が作り上げた新たなアプリです。なんと、一瞬で早着替えが可能!依頼の報酬として差し上げます!」

「マジかよ。もっと早くくれても良かったのに」

「私何度もヒーコさんに話そうとしたのに、聞いてくれなかったので!」

「え?そうだっけ?」

 

 分からん。

 最近は基本的に無視してたしなぁ。

 いや、そう言えばティナが帰ってこなかったあたりでしつこく何かを言おうとしてたような……。

 気のせいか!

 

 ところで、本題のアプリだが少し使って見て思ったのは、これゲームに出てきていたんじゃねってこと。

 報酬と銘打って琴浦からアプリとしての機能が解禁されることでプレイヤーは着せ替えが可能となる。

 だが、そう考えると、大分序盤でもらえるはずのものではないだろうか?

 アホみたいに制服を切り刻んでいた俺がバカみたいじゃないか。

 

 とは言え、あるものは使わせてもらおうと言う事で早速使ってみる。

 

「……おお。いいなこれ」

「変身!とは言わないのか?」

「黙れ」

 

 いつも家で変身するときのように「変身」の掛け声を出さないからかカゲにそんな声をかけられる。

 今は人化していて影木うるしとしての姿を取っている。

 見た目は十四歳の黒髪清楚少女であるが、やはり中身は変わらない。

 外でやるのは恥ずかしいからやんないんだよ!

 

 これに申し訳程度のエネルギーで出力した蝶で誤魔化せばすごく使い勝手の良い物になるだろう。

 別にそこまでこだわりがあるわけでもないが、おしゃれも出来るしな。

 まあ、丈を気にせずに服を着れるようになったことを考えると可愛げのない男子大学生の考えるようなダル着になるのは目に見えているが。

 

 そんなこんなで琴浦との会話の必要はなくなったので、帰宅する。

 帰宅途中なんとなく海の方を歩いてみる。

 前世では日常的に海が見える場所には住んでいなかったが、不意に近くに海があることを思い出したのでなんとなく寄ったのだ。

 

 うちの学校の生徒もこの辺を通学路にしている人も少なくない様なのでちらほらとみる。

 そして、そんな人影の一つにはものすごい速度で視界の端を突っ切る少女がいた。

 

「元気だなぁ……。あ、こけた」

 

 堤防を走る少女は盛大にずっこける。

 そして小綺麗な顔面を地面に擦り付ける前に、俺は体が動いていた。

 堤防の上でずっこけた故に地面に落ちるまでに時間があった。その猶予故だろうギリギリで間にあう。

 俺の身体能力は変身に依存してないだけに生身での最高速が可能だ。

 加えて、脚の裏でエネルギーをわずかに破裂させて推進力を増した。

 初めてやったからか、普通に足折れたかも。超痛い!

 

「大丈夫?」

「え?あ、ありがとうございます?」

 

 何が起こったのか理解するのに時間がかかっているのだろう。

 俺に身体を支えられた彼女は、そんな声を洩らした。

 

「立てる?」

「はい。大丈夫です!」

 

 「元気です!」と言って身体を動かして見せる少女は傷一つなさそうだ。

 

「本当にありがとうございました!」

「急いでたようだけど、ここで時間食ってていいの?」

 

 律儀にお礼を言う少女にそう訊く。

 この歳になってなかなかしない全力疾走だ。相当なようがあったのだろう。

 と、思ったのだが……。

 

「え?いや別に用とかはないです」

 

 何の話と首をかしげて不思議そうな顔をする。

 

「じゃあ、なんであんな全力で走ってたの?」

「? 凄く走りたくなって?」

 

 ギリ分からない。

 いや、ランニングしたくなるみたいなことは分かる。

 でも、堤防で走るか?ローファーだし、荷物も多いし。

 

 と思っていたら近くにあった駄菓子屋に連れていかれた。

 駄菓子屋とか前世でも言ったことがないかも。

 なんか場所的に某なつやすみの4みたいな感じだ。

 

「ど、どうぞ」

「え?」

「お礼です!」

 

 そう言って渡されるのはアイス。

 助けたお礼だろうと受け取り食べる。暑くなって来たので結構嬉しい。

 

「……食べにくい」

 

 俺がひとなめするたびに欲しそうな顔をする少女が視界に映る。

 

「あ、えっと。買えば?」

「もうお金がなくて……」

「……」

 

 俺は駄菓子屋でアイスを買って少女に渡した。

 嬉しそうだからいいか。

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