岡園の話によるとこの建物には、インベーダーがいるらしい。
だから戦ってね、と言う事だ。
もっと詳しく説明しようとしていたが、長くなりそうなので断った。
だって、倒すだけでしょ?
これで、相手は毒使いですとか、触ると爆発しますとかなら、話しを聞いたが、発生時の状況から話始めようとしたから、それは勘弁だ。
とか思っていたのだが……。
「あー。そう言う」
──今まで出会ったインベーダーのどれよりも強いな。
岡園が変な表情していたのはそう言う事か。
え?じゃあ、なんで俺に頼んだん?無理だよこれ。
死神の子とかぶつけないと。
そんなことを思いつつ、俺の目の前に映るのはノートPCを眺める少女だった。
ただし、頭に生えた二本の小さな黒い角とドラゴンみたいなしっぽが特徴的だ。
パーカーとか言うラフな格好をした彼女はこちらを見た。
「なんか来るって言ってたけど、お前が……コフィン?」
「そう」
コイツ俺の名前忘れてたろ。
気持ちが分かるから許してやろう。
「ああ、ネットにあるわ。A級32位。まあまあ凄いじゃん。で、神出鬼没、使える能力は「武器の生成」、「分解」、「転移(後方のみ)」、「呪い」。……呪いってなんだ?」
俺も聞きたい。
藁人形に釘を打った覚えはないが……。
「魔法少女朝桜が配信内でした発言により命名されたものである。曰く、インベーダーを引き寄せる呪い……これホント?」
マジか、呪いってそう言う事?
と言うか、俺と同じネーミングじゃん。と言うか、もみじって俺の事配信で話してるの?
つーか、なんでコイツネット使ってんの?
そう言うのカゲさんで間に合ってるんだが。
「なあ、答えろよ」
瞬間、俺の身体を奴の尻尾が貫く。
ふっ、そいつは残像だ!
と言うのは冗談で、着た瞬間からやばそうだったので出力した蝶を飛ばしつつ、体に貼り付けてわずかに隠した状態で半身を翻して避けた。
視界悪くしとかないと死にそうだし。
「おお、良い動き。まあ、オレより遅いけど」
なんだい。オレっ娘かい?お揃いじゃん。
「で、なに?オレとやるの?」
「まあ。頼まれたし」
一応な。
まあ、いざとなったら四隅の魔法少女が止めてくれるだろう。
なんか、秘密混成部隊の奴らみたいな雰囲気あるし。
と言うか、俺が知らないメンバーなだけで秘密混成部隊だったりして。
「じゃあ、良いぜ。おい、PCとタブレット持って部屋から出てろ」
「は、はい」
厳ついスキンヘットのおっさんに端末を投げ渡して……確か名前は、そう、ヒエロクック。彼女は指示をした。
彼が魔法中年でない限り、生身だろう。ヒエロクックの近くに居させられて可哀そうだ。
頑張れ!おっさん!
「じゃあ、行くぜ!」
「っ!?」
力量が下の俺からじゃないのかよ!?
まんまと先手を取ったヒエロクックからの攻撃を俺は何とか避ける。
徒手空拳ではあるものの、只の人間とは段違いだ。
俺が、刀をあてても難なく抵抗してくる。
それに、奴にとっては腕と変わらない認識なのだろうが、尻尾での攻撃が対応しにくい。
不意に打ち込まれる尻尾の攻撃は恐らく奴の持ちうる攻撃手段の中で一番強い物だろう。
筋力しかり、その鎧の様な鱗しかり、当たればただではすまない。
刀でいなし、白武器で槍を突き立てそれを掴み自らの身体を引っ張り上げる。
つーか、戦うにしたってこの部屋狭すぎんだよ。
「結構やるじゃねぇか!」
ここでお前もな!と返したいが、怒涛の攻撃は俺に口を開くことさえ許さない。
攻撃の影から脇差くらいの短刀を出すことでやっとまともな攻撃になるが、容易に避けられる。
それに驚愕する暇もなく繰り出される蹴りに、両手の刀を使いガードするも耐えきれない。
吹っ飛ばされついでに白武器を飛ばしてみるも威嚇にもならなかった。
とは言え、白武器にエネルギーで作った紐をつけることで何とか身体を引っ張り壁に衝突することを避ける。
ヒエロクックもそれを見逃すことなく身体を動かせない俺に対して攻撃を仕掛ける。
咄嗟の判断で紐を消滅させて、後方に倒れて繰り出される攻撃に刀でいなそうとするも弾かれ、その衝撃のまま横へと避けた。
「まあ、こんなもんか」
ヒエロクックはそんな言葉を発した。
まあ、奴からすればそんな感想も出るだろう。
だが──
俺は次の踏み込みを
この速度で俺が奴に迫るとは予想できなかっただろう。
何故なら、先ほどの戦闘の中で俺は一度として手を抜いていなかったのだから。
故に、最高速。限界を奴は見たと考えていただろうし、実際はそれは嘘ではなかった。
ただし、それは俺の身体能力だけを加味した時の話だ。
足の裏でエネルギーを爆発させて俺は一度だけ、更に速度を上げる。
実際そんなにうまく真正面に跳べるものでもない。
それでも、爆風ではなく破裂させたエネルギーそのものを踏み込みのエネルギーへと利用しようと試行錯誤しただけあって、この一度きり、そして極めて狭いこの空間では最高のパフォーマンスを出す!
刃は届く。
「いや、惜しいな」
奴の頬をわずかに割いた。
そして、追撃が来る。
俺の脚はすでに折れていた。
ただ、やった後の離脱くらいは考えていた。
無理やり、白武器は俺の服をひっかけて後方へと下がった。
「おお。今の白い奴で下がるの早いな。恐らく脱力してなきゃ、あの速度が出せないのが難点だが」
俺は白武器が壁に突き刺さり身体が立って固定されていることをいいことに、自身の脚をエネルギーで補強する。
強度の問題で遥かに薄く一見靴下みたいだが、添木的な感じだ。本当にこれで良いのかは分からんが、治るからいいだろう。
ただ、限界だな。
「これくらいすれば満足だろう」
そう呟いた俺は構えを腕を降ろした。
◆
「魔法少女コフィンは戦闘を終了。ヒエロクックも動画の視聴を再開しました」
「……まともに戦える戦力の中ではマシと言えるが、それでも成果なしか」
期待外れもいいとことだと男たちは内心思う。
岡園の計らいでこの場にいる者がした提案を受け入れこそしたが、それが不発ではため息も出る者だった。
ただでさえ、気を害さないように事前にヒエロクックにコフィンを投入していいかと言うのを事前に聞いているのだ。それで、何の成果も得られませんでしたでは、話しにならない。
「いえ、ですが、無駄、と言うわけでもなかったかと」
「なに?」
「コフィンとの戦闘により、僅かではありますがヒエロクックの解析が進みました。そして、コフィンの言動も考えると彼女も端から勝利ではなく、確実な情報を得るために動いていたのかと」
実際コフィンは戦闘終了時には「これくらいすれば満足だろう」と呟いている。
これは、今得られる最大限であり最低限の情報をこちらに損害なく得られるギリギリの判断だった。
長く戦闘を続ければ、コフィンにダメージが入るだけでなく、ヒエロクックの機嫌が変わることもあるかもしれない。
そうした事柄を加味した場合、コフィンの行動は最適解であるとも捉えられた。
「実際、魔法少女コフィンとの戦闘により得られたデータはより作戦を確実なモノへとする手助けとなっています。いまだ、正確とは言えませんが、彼女によりもたらされた情報があるのとないのとでは作戦の精度は雲泥の差と言えます」
「……」
それに対して男たちは黙り込む。
そもそも、元々の作戦は滿汐のピークに乗じて一気に叩くこと。
これは、僅かにでも世界強度が上がり、最大限まで達した時にギリギリ耐えうる火力を出すことが、最大限攻撃力を高めることにつながるからだ。
だが、かといって、その最大火力がヒエロクックにどれほどのダメージを与えることができるかなどは、正確なデータがなく断言はできていなかった。
しかし、先ほどのコフィンとの戦闘は少なくとも現段階でのヒエロクックの戦闘情報を取得することに役だった。
中でも大きいのはコフィンが最後に与えたわずかな傷。
これは、ヒエロクックの耐久度を測るには格好のデータと言えた。
ここで、コフィンが戦闘を打ち切ったのは、やはり奴の硬さと言う何よりも重要な情報の一端を引き出すことが出来たからだろう。
少なくとも、ヒエロクックはコフィンの攻撃が通らない程の強度を有していないことが分かった。
それだけで、十分だった。
「これで、ヒエロクックに攻撃が効くことが分かった。しかし、まだ問題はまだ残っている。早急に対処しなければならないのは、ヒエロクックが提示した次の要求だ」
「これは骨が折れますよ……」
男たちは手元のタブレット端末を前髪を撫でつけながら険しい面持ちで見た。
「今から一時間以内に「1st anniversary【まほぬい】魔法少女空霜(星の誓いEXver.)」を手に入れなければならない!」
ヒエロクックから出された次の要求は、「魔法少女ぬいぐるみ」、いわゆる魔法少女グッズだった。
人気商売の面も強い魔法少女と言う存在であり、配信業に勤しむ魔法少女では委員会を通してオンラインストアで販売することも少なくない。
そして、指定されたのはそんな中の一つだった。
だが。
「世界に三個しかないとはどういうことだ?!」
男が叫ぶように、ヒエロクックに要求された品は世界に経った三つしか存在しえない商品だった。
「どうやら、一周年を記念して製造した品らしく。魔法少女空霜の直筆サイン付きであるため製造数も三つに絞ったと」
そんな注釈を聞いて面々は険しい顔をする。
男たちの中には「娘が持っていたかも」と電話をかけて「あれは月酒ちゃん!」と他の面々にも聞こえるくらいの声量で電話越しに怒られたものもいた。既に様々な手を尽くして空振りに終わった状態であるために空気は重かった。
「魔法少女空霜に頼むことはできないのか?本人にサインを書いてもらえば済むことだろう。見たところ通常の物と顔も同じようだし」
「あ、いや。それではダメらしく」
「同じじゃないのか?」
「確認します。……何でも、表情が他のシリーズとは違うと」
問われた者は逐一電話越しに確認して返答する。
それに対してじれったく思ったのか、一人の男は声を上げる。
「その電話の向こうの奴を連れてこい。埒が明かん!」
この一件について詳しいのだろう。
そう判断して、電話口の向こうの人間をこの場にて呼び出した。
そして。
「君が、詳しいと言う……」
「坂本です。……まあ、そこまで詳しいわけでもないのですが、まあ……恐らく質問には答えられるかと」
そこに立つのは、先ほどまでヒエロクックの周囲で小間使いのように動いていたスキンヘットの男だった。