学校の屋上。
そこにはいつも彼女がいる。
「来たか」
「ああ。時は近い」
俺は昼休みに速攻で屋上に向かおうとも、方波見黒墨は俺を待ち構えるように今日もそこに居た。
なんか教室まで行ってちゃんと授業を受けているのか気になってしまう。
もしかしたら屋上を根城にしているだけに、教師にも「咬み殺すよ」とか言うのだろうか。怖い。
「今回の事態は持久戦でありながら、リミットが存在している。実に厄介な話だ」
「ああ。その通りだ。持久戦でありながらコミットがリミットだ。そうだ。」
どういうこと?
持久戦、リミット……。…………コミット?
もしかして、持久走の話?
いや、十月とかじゃないの?普通。
いま六月だよね。
そう思ってみるも、話題がなさ過ぎて彼女のカレンダーは十月まで進んでいる可能性がある。
文化祭が近いと言うのに持久走の話題を出すしかないとは悲しい話だが。
でも、此処で厨二全開トークをする以外は、普通に会話しているようだし、クラスに馴染んでいないと言うようなことは想像したくない。
まあ、付きやってやるか。
「貴様は今回の範囲をどれくらいだと把握している?」
「範囲……だと?」
何範囲って?
走る距離ってこと?
「順当に考えて10kmと言ったところだろう?」
「10……だと?」
え?違うの?
前世では男子は大体……いや、そうだ女子の長さだ。
「いや、正確な数値で言えば、8km……だろう」
「8だと?……貴様にしては的外れな回答だ」
え?ミスった?
八じゃないの?六とか?
いや待て、奴は範囲と言った。
何の範囲だ?
「範囲は1.3──」
「1.3kmだろう?」
「っ!?……やはり知っていたか」
結局何の数字か分からんが、彼女が「いってんさ」くらいまで言ったところで被せるように言い放った。
正直怪しいところだが、彼女は純粋なのか俺が言い当てたかのように驚いた。
「だが、8kmとはなんの数字だ」
「フッ。愚問だな。すべての状況を総合的に分析し、イニチアチブを握り、更に離し、また握る。8kmとは、障壁だ。障壁であり障害であり、結果を手繰り寄せるための一助だ。10、この数字が示すとき、すべての意味を知るだろう」
「!?」
多分これで誤魔化させたな。
「10」つまり、十月になればその意味が分かるだろう。
持久走の距離は8kmだと。でも、これで六キロだったらどうしよう。
あと、格好つけてイニチアチブをにぎにぎしてみたけど、イニチアチブってなに?
しかし、黒墨は何だが驚愕顔で固まっているのでいいだろう。
どうせそのころには忘れてるだろうし。
◆
魔法少女コフィンである比果比五子はどこまで事態を把握しているのか。
ヒエロクック対策会議は彼女はヒエロクックに対する現状唯一の戦闘行為が出来る魔法少女として現場へと向かわせたと言う。
そして、その時の様子を後に聞けば、コフィンは事情を聴かずにことを把握していたと言う。
『面倒は好きじゃない』
そう言って、ヒエロクックのあらましを聞くことなく、戦闘を開始した。
彼女の言う面倒とは何なのか。まさか、長い話を聞くのが面倒。なんていうふざけて意味を持っているわけではないのだろう。
恐らくこれは正式に、その場で事情を知ってしまうことを避けた。
ヒエロクックに対する情報は今現在完全に世間では認知されていない。
通常の滿汐であれば、すぐに避難命令を出すところであるが、今回は小規模であり、収束は少なくとも世界強度のピークまでかかってしまう事。そして、ヒエロクックを刺激しないために全くと言って周知していないかった。
そして、その事態の詳細を聞くと言うことは、秘密を抱え込む側になると言うこと。
それは彼女はリスクととらえたのだろう。
しかし、彼女は現場にて、事情を知っているのではないかと思ってしまうほどの行動に出ていた。
それは、ヒエロクックの分析に特化した戦い方だ。
ヒエロクックの戦闘情報少なく、部分変身を行った黒墨自身、一度の攻撃で終了せざるを得ないほどの状況である。
ヒエロクックの機嫌を害さず、更に良い勝負を出来るだろう魔法少女は世界強度の問題に挟まれる。
そんな状況下にあって、彼女の戦闘は作戦の精度を格段に増させる結果となった。
そして、コフィンは、最低限でありながらこれ以上の効果を得られないと言う適切な場所で見切りをつけて戦闘を終了している。
こんなことをしておいて、状況を把握していない。
そんなことはまかり通らない。
観測魔眼の事と言い。彼女には何か特別な情報収集の術があるに違いない。
だからこそ、比果比五子に黒墨は問いかけた。
今回の事態。すなわち滿汐がどの程度の範囲で行われているかと。
だが、予想に反して帰って来た言葉は「8km」であると言うものだった。
耳を疑った。
しかし、彼女は次の問いで「1.3km」と正確な数字を答えた。
答えを急いた黒澄の言葉を制すようにまるで被せるかのようにしてそう言った。
そして、実際今回の滿汐は半径1.3kmの範囲で展開されている極めて小さなものだった。
では、8kmとは何なのか?
そんな疑問を持った黒墨に彼女は言った。
8kmは障壁であると。そして、「10」の数字が深く関係していると。
これはきっと、黒墨よりも一歩先を見据えたのだろう彼女からの忠告だ。
黒墨は、この言葉を心にとどめておいた。
◆
文化祭が近いとあって俺たちのクラスは少し浮ついていた。
まあ、浮つくよね。メイド喫茶だもんね。
もみじがメイドになるんだもんね。
分かる!
「え?俺……私も?」
「そうだよ。比果さんも!」
んな馬鹿な。
もみじのメイド姿を拝むための行事である文化祭で俺がメイド?
やだよ。と言うか需要ないだろ。
いや、俺は好みのキャラクリしているから見たくはあるが。
「わ、私は一緒に、やりたいな」
「そう?じゃあ、仕方ないか」
他の女子だってやりたくない子だっているだろうし、俺だけ特別ってのはおかしな話か。
まあ、普段から疑似制服着てセルフ羞恥プレイしてるし今更な気もして来た。
しかし、こうして衣装を見てみると安物とは言え、結構ちゃんとしている。
と言うか、デザインが良い。
布はペラペラなのにうまく綺麗に見えるような工夫を感じる。
いや、これは……。
「誰か手直ししたの?」
「わ、わかる?うん。ちょっと安っぽいかなと思ったから、少しだけ手を加えてみたの」
「もみじさんが?凄い」
「そうかな?」
照れくさそうに、もみじは謙遜するが本当に凄い。
まだ手を付けてないと言うメイド服を見せてもらったが、並べてみると雲泥の差だ。
と言うか、もみじって多彩だね。
「こっちは、比果さんの分。一番最初にやったの」
「ありがとう」
と言う事で試しに来てみる。
もし合わなければ修正しなければならない。
うん。ピッタリ。ピッタリすぎる怖い。
前も思ったが、サイズを測ることに長けているのだろうか?
そう思ったが別の女子には採寸をして数字を書き留めているのを見ると謎である。本当に謎だ。
「あ、あああの。比果さん。わわわわ私の背中を閉じてく、くれれレれないかな?」
「ん?いいよ」
背中にチャックがあるので、届かなかったのだろう。
もみじが閉めてくれと頼むのでチャックを上げた。
前世なら摑まってるなとか思いながら思いながら彼女の首筋を見る。
「綺麗だな」
「ふぇ!?」
「ああ。ごめん。つい」
流石にきもかったか。
なんか、もみじもあわあわしているし。
変な空気にしてしまった。
そんなことを思っていると、パシャッと何かがなった。
いや、こちらに向けられた瞬間に反射で隠そうとしたが思いとどまり、そしてそれが別の生徒がこちらにスマホのカメラを向けていたこと気づく。
多分、そう言う係なのだろう。
写真係みたいな。
後日確認したら、赤面したもみじと俺が移っていた。
何かメイド姿で教室背景と青春みたいだな、なんて思った。