TS転生した俺は魔法少女になれないらしい   作:環状線EX

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音色!

 

「おい、坂本。曲を変えさせろ」

 

 手元のタブレット端末で、歌唱曲を確認したヒエロクックは後方に立つ坂本に指示を出した。

 

「……」

「オイ、聞いてんのか?坂本」

 

 ヒエロクックの言葉に、坂本は動こうとしない。

 そんな様子を見たヒエロクックは苛立ちを隠そうともしなかった。

 だが、もう一度何かを言う前にやっと、坂本は口を開いた。

 

「理由は何ですか?」

「あ?気に入らないからに決まってんだろ」

「その理由を聞いているんです」

 

 坂本の言葉にあからさまに面倒そうな表情を浮かべる。

 

「だって、この曲盛り上がんないじゃん」

「バラードだから、と言う事ですか?」

 

 ヒエロクックの回答に対して、すぐにそう声を出した坂本は知っていた。

 ここ数日共に過ごすと言ってもいいほどの時間をヒエロクックの監視に費やしていた。

 それゆえ、彼女が耳なじみの良い盛り上がる曲を好む傾向にあることを知っていた。

 事バラードに関しては、動画であれば視聴を避け、歌配信のアーカイブでは飛ばして視聴していた。

 

 楽しみ方は人それぞれだが、ここに至るための彼女による我儘と、坂本の本来の気質と性格が災いしてか酷くそこに引っ掛かるようだった。

 

「異存があるのか?」

「空霜は歌唱全体が高レベルですが、個人的に彼女の声が映えるのはバラードです」

「オレの要求をお前ごときが拒むって言うのか?」

「自分は事実を言っているだけです」

 

 尚も坂本は強気だ。

 管制室では阿鼻叫喚に包まれる中、ヒエロクックは言葉を紡いだ。

 

「なら、一度だけチャンスをやる。オレが気に入らなかったら、お前を殺す」

 

 意外にも、坂本の言い分を一部でも聞き入れたヒエロクックは腰を下ろした。

 ストップがかからなかったことで、レコーディングは予定通り行われる。

 仮説スタジオへと速やかに移動し、用意されていた個室の椅子に陣取った。

 低い机に脚を乗せて、ヒエロクックはハーフミラーの向こうを見る。

 

 定刻通り魔法少女空霜が登場し、少し表情が変わるもそれ以上にヒエロクックに反対しているためか毅然と振舞おうとしていた坂本の表情が更に分かりやすく変わったのを横目に見た。

 ヒエロクックは視線を空霜に戻す。

 「お願いします」の声と共に、演奏が始まる。

 

 オリジナル楽曲『幾星霜』。

 

 魔法少女空霜が、ファーストアニバーサリーライブで初披露した二曲目のオリジナルソングだ。

 自身の魔法少女活動の内容を意識し、歌詞の原案は彼女本人が考え、それを作詞家が整えた。

 

 最初はピアノから始まる。

 一音一音、置かれる音は、まるで彼女の紡いだこれまでを足跡のように残す。

 華やかでいて、重みのあるその音は、緊張と期待を抱いたまま歩みだした。

 

「───♪」

 

 そこへ、少女の、空霜の声が重なった。

 演奏の足跡の上に、声の足が重なった。

 足跡しか見えなかった暗闇に、空霜姿が見えた。

 

 次々と足される弦楽器と管楽器の音は重なり、少女を支える。

 目的地だけが光るトンネルの中で、しかりと足元を照らす。

 少女の視界が開ける。

 きっと様々なものが見えるだろう。

 初めての経験と新しい発見。

 

 そして最高潮に差し掛かる。

 充足し、ひたすらに進む。

 応援と目標を糧に進んでいく。

 

 ピアノはまたメロディーを紡ぐ。

 少し暗い。

 不穏な雰囲気を醸す。

 

 華やかな活動の裏にある苦労。

 表に見えない裏の努力。

 重なる音色は、手繰るように奏でられる。

 

 積み重ね。手繰る。

 そして、音が消える。

 

「───♪」

 

 少女の声だけが導となる。

 

 次の瞬間、光がさすように、演奏が背中を押した。

 迷いが吹っ切れた声は綺麗に伸びる。

 波長の羽ばたきと共に羽根が落ちる。

 

 これが、空霜であると、そう言っているように見えた。

 

「坂本。これが終わったら、お前がバラードだけのプレイリストを作れ」

「……はい!」

 

 ヒエロクックの指示に今度こそ坂本は強く頷いた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 ヒエロクック・アルカフルールの要求を何とか達成した面々はまたも顔を突き合わせていた。

 

「坂本君のおかげで先の要求以降、ヒエロクックからは要求が出されていない」

「同程度の要求をまた言われてはかなわんわ」

「とにかく、今現在要求が来ていないのだからいいだろう。彼が、何とか話題をコントロールしているおかげだ。……危うい面も見えるが、ひとまず彼以外に適任もいないだろう」

 

 坂本と言う人間の危うさは危惧するところであるが、奇跡的にヒエロクック・アルカフルールとかみ合っているように見える。

 すぐさま、坂本の任を解こうという話が出ていたが、今回のヒエロクックの鎮静化に貢献したことでそうした動きは小さくなっていた。

 そもそも、危うさを除けは彼以外の適任者もいないと思える現在の状況であれば、彼を外す決定をしたとしても更に誰をあてるかと言う議論が延々と続くのは想像に難くはない。

 だからこそ、坂本の危うさを直近の目立つ功績で隠すことでこの場の面々は目をそらしていた。

 

「しかし、もう少しの辛抱だ。世界強度のピークは近い」

「ああ、そうだな。あとは、A級1位殿に活躍してもらうことが出来れば、事態は収束するだろう」

 

 作戦は変わらず。本命は世界強度のピークに合わせた理論上の最高火力による一瞬の奇襲。

 それを成すために必要とされるのが、A級1位の魔法少女だった。

 だが……。

 

「だが、彼女にコンタクトは取れたのか?」

 

 肝心の少女との接触には難があった。

 

「魔法少女NETでも、回線でも連絡を取ろうとしている。だが、先月より彼女は姿を見せていない。根城に職員を向かわせているが……」

「本人との接触は出来ていないか……。これでは、笑い話にもならんぞ」

 

 苦々しい表情を浮かべて拳は強く握られる。

 だが、そこでテーブルを囲む面々以外の人間が発現する。

 それは、先ほど静かにこの場へと入室したものだった。

 

「A級1位の彼女についてなのですが……」

「なんだ?」

「丁度、今、彼女の拠点、丹の道(アカノミチ)地区に魔法少女コフィンが、現れたとの報告が」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 ゲーム世界に転生して此処までゲームみたいと思ったこともない。

 なんか、和風でありながらファンタジー的な街並みを見る。

 丹の道地区と言う場所らしい。

 

「なんかわくわくするな」

「以前、岡園に呼ばれていった僧橋区の時は言わなかっただろう?」

「あれは、ファンタジー感なかったし」

 

 あのあたりにあった店は確かに日本ぽくなかったが、ゲームだからこそのトンチキ文化みたいなやつではないしな。

 そう言う意味では、恐らくここは魔法少女メーカーとそのもとになったオリジナル作品のどちらかに出て来るものなのだろう。

 で、なんでこんなとこに来たかと言う話だが……。

 

「お前には結構苦労かけてるしな」

「ご主人様が、態々付き合ってくれると思わなかった」

「どういう意味だ」

 

 俺の気遣いを素直に受け取らないカゲに声をかけた。いや、今は人化しているので影木うるしだろうか。

 俺の好みを反映した黒髪貧乳美少女の彼女はスマホを触る。

 なんか、出かけるときに一生スマホ触っている奴いるよね。

 

「で、中華街行こうぜ、みたいなノリで来たけど。なんかあるん?ここ」

「知らんのか?ここは、とても珍しいものが見れるぞ」

「だから、それってなに?」

「始めから知っていてはつまらんだろう。ご主人様がその目で確かめるべきだ」

 

 面倒だな。

 いや、こういうのは楽しんでこそだ。

 何にでも無気力なのは現代人の悪い癖だ。なあ、マジで。スマホさわんのやめね?ああ、マルチタスクでちゃんと会話もできる?

 こいつの場合、本当の意味でマルチタスクが出来るみたいだから文句付けづらいんだよな。

 

「おっ。買ってから後悔しそうなお土産屋行こうぜ!」

 

 ただ歩くだけではつまらんと思い、目に付いたそこを指す。

 ドラゴンのキーホルダ―に剣のキーホルダー。サービスエリアとかで買うけど後悔するよね。

 ちなみに、俺のお勧めは剣の方だ。刀の方が好きだが、持ち手が太いんだよな。おもちゃっぽいと言うか。

 この盾付きの剣はシャイニングなんとかみたいで、すぐにブレイブできそう。こっちの方がいいね。

 

「よし、これを買ってやろう」

「いらん。……ご主人様はこう言うのが好きなのか?」

「いや別に」

 

 ノリわりぃなコイツ。もっとはしゃいで金色の五重塔と買えよ。

 

「まあ、真面目に考えるか」

 

 カゲに、と考えても特に思い浮かばないので、影木うるしちゃんにプレゼントすると考えよう。

 いや、此処で売ってるどれを上げても喜ばなそうだな。

 まあ、この辺のキャップで良いか。

 

「ほれ」

「んぐ」

 

 適当な帽子を見繕い、カゲの頭に被せた。

 乱暴に被せた帽子の唾を両手で押し戻して、こちらを見た。

 顔が良いだけあって結構似合っている。

 

 よく考えたら、こいつ服とか持ってないしな。

 今着てる制服も自前だし、帽子くらい持っててもいいだろう。

 

「さて、なんか食うか」

「ああ」

 

 文句ではなく返事が戻って来たことを確認しながら、小腹を満たすために次の目的地を探した。

 食べ歩きと言えば、文化祭が直近の思い出だが、レパートリーと独創性はやはりこちらが勝っている。

 比べるのも仕方のない話だが、観光地としての側面も併せ持っているのだろう。この地にちなんだ名物菓子は結構面白い。

 

 で、そんな感じで歩いていたのだが、裏路地からゴツイ人ならざるものが現れたので切ってしまった。

 いや、インベーダーならいいだろって話だが、これ多分インベーダーじゃないな。

 深紅の鎧は昔の武士の様な風貌だ。そして、鎧を真っ二つに切ったのだが、空洞、と言うか、人形と言うか。

 

「お、おま、ご主人様」

「え?やっぱヤバいこれ?」

 

 カゲの表情ががらりと変わる。

 裏ボスのコイツが、こんな表情をするとは。

 

「この鎧は、この丹の道地区を管轄にする魔法少女の魔法によって作られたものだ」

「え?なに年頃の女の子の大切なものを壊しちゃったってこと?」

「いや、そうではない。その鎧の主である魔法少女の現在のランクはA、そして、順位は1位だ。つまり、S級魔法少女四人を除くすべての魔法少女の中で、一番の強さを誇るわけだ」

 

 な、なるほどな。

 うんうん。で?

 

「つまり、今ご主人様は、A級1位に宣戦布告をしたことになった」

 

 またまた~。……マジ?

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