魔法少女赤鞘。
少女は、魔法「朱鎧」により自身の魔力を練り込んで作製した鎧を傀儡とする。
これにより、丹の道地区に発生するインベーダーを発生直後に狩ることに成功している。
それと同時に、この地区には他の魔法少女が健全に活動できるほどの土壌はない。
すべてのインベーダーは要請が送られるまもなく、赤鞘に排除されることになる。
同時に、鎧では対処することのできない脅威度を持つインベーダーが居ても、彼女の傘下の魔法少女が即座に排除した。
それ故に、インベーダーが頻出する首都圏においては最も安全な街とも言われる。
故に居住者は多く、そして戦いたくない魔法少女も同地区に住む傾向があった。
これらの功績を持って、赤鞘は多くを免除されている。
故に、赤鞘は居城にこもり、本人に相対することができる機会はほぼ存在しなかった。
「一つ、彼女に接触できる方法は……」
「赤鞘の傘下の少女らに力を示し、挑戦権を得ること……か」
ヒエロクック対策会議にて、A級1位との接触方法が改めて確認された。
「しかし、コフィンが丹の道に現れたと言うが、彼女が挑戦して叶うのか?」
「無理だろう。……だが、こちらの意図を把握して作戦の最後のピースを埋めるために行ったのならあるいは……」
そう。本来挑戦権は、彼女が引きこもる際に唯一譲歩した窓口だ。
しかし、今回は滿汐と言う彼女に要請を出来る十分な理由がある。
どうにかして、今回の事態を伝えることが出来れば直接戦闘なしに作戦に引き込むことができるかもしれない。
◆
赤鞘の前に引っ張りだされた俺ではあるが、誤解を解いておかなければならない。
まず俺は赤鞘の鎧を切ってしまった。これは事故だ。
で、襲われた。
シノビ少女と戦闘になって、このナンチャッテ道場に呼び出された。
ここまでは、話を聞いてくれなそうなシノビ少女しかいなかったのでどうにもできなかったが、赤鞘を前にしてやっと機会が訪れる。
「あー。誤解をといておきたい。ここに来る途中、そちらの鎧を切ってしまったが、あれは事故だ」
「じ、事故っで……事故だと?」
「出会い頭にインベーダーの類だと思って切ってしまった。謝罪をしたい」
え?口だけで頭は下げないのかって?
流石に、隙を見せて頭をかち割られたくはない。
空き地で遊んでいてボールで窓ガラスを割ってしまったわけではないのだ。謝っても無慈悲に殺される可能性がある。いや、ないが、シノビ少女が躊躇せずに刃を向けてくる時点で気を抜くことは出来なかった。
「わかり……わかった。偶々なら──」
「許さない!あれは、赤鞘様が気に入っていた鎧だった。さっきまで泣いていたんだぞ!」
「ちょっ、
気に行ってたなら、パトロールさせるのはどうなんとも思ったが、戦闘用でないのならむしろ本来壊れるモノではないのか。
「そうか。泣くほどのものだったのか。すまなかった」
「そんな言葉一つで許されるわけないだろう!あんなに泣いていたのは、楽しみにしていたケーキを運ぶ途中で落としてダメにしたとき以来だぞ!」
「や、やめて……」
「ちなみにそれいつ?」
「昨日だ!」
なんか申し訳ないな。
俺も秘蔵の空霜グッズを壊されたらショックだしな。
「今すぐ──」
「切尾」
我慢ならないと言った様相でシノビ少女、切尾が踏み込んだ時、今度は別の声が彼女を止める。
弓を持って控えていた少女の声だった。
「切尾、貴方の行動が赤鞘様の顔に泥を塗ることになるのですよ」
「───ッ」
諭された結果か、唇を噛んで元の位置へと戻った。
そして、今度は弓の方がこちらに声を向けた。
「私は、魔法少女蝶王。赤鞘様に使えるものの一人です。……魔法少女コフィン。貴方の言い分は分かりました。ですが、貴方の謝罪は受け取ることはできません。これはこちらの感情的な話ではなく、ここに我らに認められ、迎えられた時点で挑戦権は貴方に与えられました。これに何人も逆らうことは許されるものではありません」
さっきから彼女らの言う挑戦だのなんだのはよくわからんが、イベントと考えればありそうなことだ。
いや、でも辞退できないのはどうなんだ?
認められたってことは、相手をしても死にはしないだろうが。
「まあ、それなら分かった」
仕方ないな。
俺が、頷けば蝶王は大人しく下がった。
とうの本人である赤鞘はワタワタとしているが。
しかし、こうやって見ていて思うのはA級1位と言ってもそこまで強くないのではないのかということだ。
彼女のランキングの所以はその絶対的な量の殲滅によるものだ。
魔法から逆算される必要魔力量は膨大なものだろうが、それを俺との戦闘に使えるかは些か疑問である。
だが、そもそも挑戦権などと銘打って赤鞘とのタイマンを強制しているのは彼方の方だ。
勝算がない訳がなかった。
「ん?」
赤鞘が変身を解いたのを見た。
──ああ。お前は知らなかったな。赤鞘の力は「朱鎧」だけではない。彼女にはもう一つの人格がある。
──人格?
変身を解いた状態でありながら、少女の瞳の色が変わる。
紫色の瞳、魔眼だ。
ただ、それは目の色がただ変わっただけには思えなかった。
髪を結び、表情が変わる。
自身のなさげだった顔から凛とした表情になる。
再変身をすれば、その様相が変わった。
一切の防御を捨てた着物の様な姿。
違う人間だとわかった。
そして紛れもなく強者であると。
──魔眼をその身に宿した時より、彼女にはもう一つの人格が生まれた。そしてのその人格は、赤鞘の「朱鎧」とは別の魔法を宿す。そして、彼女は公式には登録されない別の名前を名乗る。
「魔法少女
龍幻の上に立つだけある。
魔法のベクトルが違うだろうから一概に並べることはできないが、一対一であればコイツの方が断然強い。
なら、俺は、と言う話だ。
龍幻が魔法を限定した状態で一歩劣る。
なら、魔法を縛らない刀赤と戦闘すれば確実に負ける。
こっちは魔法体ではないのだ。普通に死ぬだろう。
「仕方ない。少し足掻くか」
アクセサリーによるステータス補助。
これはアホみたいにつけている指輪の他に有用そうなものが一つある。
奇しくも赤い鎧。それは赤鞘や刀赤と雰囲気が似ている。
和風鎧の大袖とでもいうのだろうか、肩の部分の盾みたいな奴を報酬として受け取っていた。
鎧丸々出ないのがアクセサリ―である所以だろうか。
まあ、とは言え、左肩にだけ付けるだけで、防御力アップって話ではない。
肝心な効果が付与されていた。
それは、刀武器使用時の大幅補正だ。
で、まあ、何で普段使わないかと言うとデメリットも存在するからだ。
それは、肝心の刀武器に、俺の生成した黒武器が該当しないこと。
加えて、魔法に下方補正が入る。俺は、魔法は使えないが出力は原理としては同じため例えば刀を生成しても通常の番倍も時間が掛かり、加えてもろくなる。
ちなみに、刀は最近手に入れた。
まあ、こいつもアイテムだが。
見た目はよくある刀。俺の生成したもののように黒い刀身ではなく鏡のように光を反射していた。
まあ、こいつも魔力を食うので生成を戦闘中に使えないと言う縛りがあるのだが。
いわゆる妖刀と言う奴で魔力を食って威力を上げるとかなんだとか。エネルギーの絶対量的に困ることはないが、指向性を持たせたエネルギーがすべて食われてしまう難点があった。
で、アクセサリーと刀。
そして、もう一つ。
いや、六枚のアイテムがあった。
こいつは確実にゲーム由来と分かる代物だった。
ソシャゲによくある強化要素に関するものだ。
同じキャラでも強化しないとレベルキャップが解放されずにレベル上限が低いなんてこともよくある話だ。
で、俺も最初の頃は強くなっている感覚があったのに、いつしか打ち止めになっていたような感覚を感じていた。
それ故に長い間気になっていたのだが、琴浦の働くカフェに謎の機械があった。
機械と言っても、アンティークみのあるジュークボックスみたいな見た目の酷くなじんだものだった。
で、見た目はそんなんだが、よく見れば換金所みたいな造りになっていてそこに報酬でもらった適当なアイテムを入れると長方形の紙のようなものが出て来た。
昨今電子化されて等しいチケットに酷似したソレは、いわゆる強化アイテムと呼ばれるものだった。
で、色々試してみて分かったのは、強化は一時的なモノであり、時間が経てばもとに戻ることと、使用時に溜まっていたと思われる恐らく経験値に相当するだろうモノを消費してレベルアップすること。
そして、強化チケットにはランクがあること、そして今現在持っているのが最高位だろう虹色三枚と金色一枚青二枚だった。
正直、これらが実際どれくらいの強化を可能としているかどうかは、分かっていない。
だが、このアイテムを使うことが今現状で出来る策だった。
六枚重ねて破ると効果が発揮される。
これで、相手にどこまで対抗できるかどうかわからんが、やってみるしかない。
「雰囲気が変わったな」
「そっちほどではない」
いやマジで。
二重人格とか言っている人間に、言われてもそっちがなとしかならん。
「では、始めようか」
刀赤の声で、俺たちは改めて向かい合う。
居合の構えをする刀赤に対して、俺はすでに刀を抜いて抜き身の状態で腕をたらした。
同時に構えての居合では、こちらに勝機はない。
そう判断して、俺は一撃目の攻撃を受けることに専念した。
その判断は正解と言えただろう。
奴の攻撃をギリギリで防ぐことに成功する。
そのまま、蹴りを繰り出し刀赤の身体を剥がす。
そこを潜るように刀を振るう。
容易に防がれるも二刀三刀を重ねる。
そこから流れる攻撃で、僅かに刀の持ち手を移動する。
僅かながらの、リーチの変化。
それにより、長さを誤認させるが、容易に対応される。
出来た隙に、上段からの構え。
無理な状態から刀で攻撃をガードするも受けきれないと判断して、横へ逃れるように攻撃を避けた。
しかし、追撃は来る。
後手を取らぬように、無理にでもこちらから地面を蹴る。
両者の剣がぶつかり、つばぜり合いする。
それをはじき、互いに距離を取り相手を見据えた。