シノビの様な衣装を身にまとう少女、魔法少女切尾。
赤鞘に陶酔し、そして、今回の一件ではコフィンに敵意を抱いていた。
不意を取られて首に武器をあてられたが、次は同じへまはしない。
確実に、排除して見せる。
そう考えていた。
だが。
二振りの銀が交差する。
こんなことはありえない。
魔法少女刀赤は純粋な戦闘において、S級を除けば及ぶものなどいない。
いないはずだ。
A級2位の龍幻だって敵いはしないだろう。
だが、A級とは言え32位、そんなはずの魔法少女コフィンは彼女と打ち合っていた。
◆
刀赤に魔法を使う気配はない。
何を狙っているかは知らんが、これは好都合だった。
こちらが、出力を封じられている状態が不利に働かない。それは途方もなくデカい。
とは言え、エネルギーを使わない能力であれば使用できない道理はない。
上段の刃が迫り、それを避けずに俺は一歩前に出る。
先に切り伏せれば、相手が攻撃を仕掛けようと関係はない。
だが、相手も当然対応してくる。
一歩足を引き、俺への刃を届かせる最適な間合いへと入る。
俺の刀は弾かれ、更に刃が迫る。
ただ、俺は敢えてギリギリの状態で攻撃を避けた。
攻撃は俺に血を流させることはない。
ただ、前髪を掠るだけ。それだけで、逆行が発動する。
世界が、強制することによって、俺は半歩後ろに降り立つ。
予想外の行動に、一瞬でも相手が怯めば上々。
間合いを奴が掴む前にこちらの一刀が滑り込む。
それを刀赤は、小手により受け流し、反撃を返す。
地面を蹴り、更に迫る。
今の俺なら、正面戦闘でも速度は負けない。
打ち込み、防がれ、地面を蹴りまた打ち込む。
自分の剣の速度がどんどん上がっているのが分かる。
どこからか湧いて来る全能感。
俺はやれる。
俺は──
「──忘れているのではないか?」
刀赤の声。
それが聞こえたのは、視界の景色が巻き戻った後だった。
何が起きた?
分かるのは、逆行が起こったこと。
ならば、少なくとも俺の前髪に攻撃が到達したと言うことだ。
今の俺は髪を結んでいる。切られるとすればそこだけだ。
だが、奴の攻撃が俺が気付く前に俺に到達していた。
「魔法」
今の今まで使ってこなかったのは、どんな理由があったのか。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
無理やり能力の上昇を行って奴に追いついた。
だが、奴の魔法により、切られてしまえば今度こそただではすまない。
切る。
その要素から考えれば、奴の武器が関係している可能性がある。
しかし、攻撃を受けただろう瞬間に剣は動いていなかった。
だとすれば……。
「斬撃か?」
漫画のキャラがよくやる飛ぶ斬撃。
恐らく、それに近いモノだろう。
推測されるのは、刀を事前に振ることで斬撃を設置し時間差で飛ばすことができるものだ。
先ほどまでの奴の攻撃に俺にまで到達しなかったものがあったが、それをただの空振りにするのではなく、魔法として設置した可能性がある。
しかし、厄介なのは不可視と言う事だ。
ただでさえ、奴の攻撃に神経をすり減らしているのに、更に置かれた斬撃の位置まで把握しておかなければならない。
だが、斬撃をその場に保持できる時間がどれくらいか分からないが、戦闘が長引くほど仕掛けられる数は増えていく。
速攻で決める。
再度地面を蹴る。
刀赤も、同時に踏み込んだのを確認しながら、今度こそ、斬撃に気を付けようとして──
「っ!?」
左腕から血が噴き出した。
たまらず、後退するも、奴はその隙を逃さない。
刀赤の、刀を一瞬で逆手に持ち直した刀に沿わせて促し、蹴りを放つ。
すぐさま、構えなおした奴には蹴りは当たらず、更に振られた剣によって俺はギリギリで防御をした。
じくじくと左腕が痛む。
エネルギーで傷口を塞ごうとして、大袖と刀の効果で霧散する。
疑似制服のおかげですでに修復を開始しているが、無理に動かせばまた血が流れるだろう。
とにかく、次も同じへまはしないようにしなければならない。
恐らく今腕に傷を負った原因は、奴が設置し使っていなかった斬撃に俺がかすったことが要因だろう。
新しく、斬撃を設置する可能性に意識が向いていたが、そもそも奴はその前から仕込みをしていた。
だが、また同じように設置されていた斬撃に当たってしまうことを危惧していれば動きが鈍る。
能力の際限から俺が奴の魔法に気付く前までに設置した斬撃が他にも残っている可能性は低い。
魔法よりももっとミクロなところでエネルギーの生成を繰り返しているため、俺にはなんとなく時間の制限が分かる。
奴の魔法による特殊な補正が入っている可能性は大いにあるが、魔力は強固にするほど不可視よりも見た目が遠のく。
俺のエネルギーを圧縮した刀が白から黒く変色するのがその証だ。
それに、今一瞬だけこの場に設置されている斬撃を判別する。
俺は魔眼を発動する。魔力を見ることのできるこいつは、不可視であっても関係がない。
今、この場に他の斬撃はない。
俺は新たに設置されるものだけに注意を向けるだけでいい。
本当は魔眼を常時発動させておきたいが、残念ながらそんなことをすれば数秒もせずに眼球が破裂するしな。
そして、新たに設置させる隙は与えまいと俺はすでに地面を蹴っていた。
刀赤はその場で剣を振るう。
斬撃が来る。
一瞬、魔眼を発動させて俺の体までの到達速度を測る。
二度目からは、これを基準に対処しなければならない。
だが、それは杞憂であることに気付く。
その斬撃は不可視ではなかった。
恐らく理由は、先ほどとの距離の違い。
遠くに飛ばすほど、魔力を練らなければならない。それゆえの可視可能な斬撃。
俺は斬撃を切り伏せ更に進む。
間合いに入った瞬間の、通常攻撃。
これを、刀をぶつけ、相殺する。
奴はそのまま至近距離で、斬撃を置く。
この距離まで接近して分かったが、奴の斬撃は完全な不可視にまでは出来ない。
よく見れば空気が揺らぐようにして、その場にあることがわかった。
それでも、高速戦闘時に瞬時に判断できるような代物ではないのは確かだ。
設置した斬撃と同時に、彼女の刃が迫る。
斬撃は切り伏せ、同時に刀赤の胴には蹴りを繰り出した。
上段からの振り上げ故に、刀では間に合わないと判断してか、刀赤は俺の脚を自身の蹴りで逸らす。
そのまま、崩れそうになる俺に向かっていつの間にか、下段に降ろされた刀が迫った。
それを一瞬、刀を手から離すことで俺は短刀を生成して防ぐ。
刀の魔力を食う特性がなくなっても、大袖のアクセサリーがエネルギーの生成を阻害するも何とか間に合わせる。
容易に折れるも、体を逸らすには十分だった。
だが、更に、蹴りが迫り、ガードするも吹っ飛ばされる。
俺が立て直す前に、刀赤が迫る。
そして、奴が刀を振り何とか避ける。
しかし、その軌道上に斬撃が置かれるのを確認して、更に大きく避けた。
斬撃を設置することができるのは、刀が攻撃として使われなかった時だ。
それは、奴の攻撃が俺に接触したり、武器でガードした時に斬撃を設置しなかったため分かっている。
だが、今のように俺が避けた場合、斬撃は設置される。
そして厄介なのが、その攻撃は刀の軌道を追従しない。
斬撃は刀の振りに沿って生成されるが、刀は点が線を描く軌道を取ることに対して、斬撃は線をこちらに向けて放たれる。
よって、刀をギリギリで避けた場合、刀のリーチより先に斬撃攻撃がくるため、それを避けなければならない。
これは、結構頭を使わされる以上に、無駄に動かされる。
加えて、それをしている間に、新たな斬撃を設置される。
刀を防ぎ、次に設置されたのは可視可能な斬撃。
至近距離での効果は薄いそれに気を取られていると、隠すように不可視の刃が飛来する。
見える斬撃と見えない斬撃を置くことで、こちらの注意を逸らす。
そして、斬撃を見比べようと意識を割いた瞬間、奴の刃は迫る。
正直、装備による生成の制限は悪手だったかもしれない。
そうは思うも、これがなければ戦闘についていくことはできないのも事実だ。
舌打ちをしながら、俺は接近する。
先ほどまでの戦いで、周囲に可視可能なものと不可視の斬撃が設置されている。
刀赤へと駆ければ、自然斬撃に囲まれることになる。
見える斬撃と見えない斬撃。見えない斬撃だけの方がまだ対応がしやすい。
両方が一気に迫りくるとどうしても可視された方に意識が割かれる。
だが、魔眼を使い強行突破をする。
俯瞰視を使い俺の視界外、この一定領域内を脳裏に浮かべる。
そして、同時に魔力を魔眼で見た。
左右同時に、魔眼を使用することで俺の眼球は容易に破裂した。
しかし、今の一瞬、で周囲の斬撃は把握済み。
刀赤に向かい駆け抜け、俺の身体に当たる最低限の斬撃だけを切り落とす。
前後左右。順番もバラバラで時間差攻撃もいいとこだが、今の俺なら方向が分かっていればやれる。
僅かに肉を切らせて、致命打になる前に切り伏せる。
そして、奴本体は俺の接近に合わせて刀を振った。
狙いは、俺の潰れた眼球側の死角を狙っての攻撃だろう。
見ることはできないが、狙いが分かっていれば対処は出来る。
刃が俺を裂くが、まだ踏み込める。
そして、それと同時に刀赤は抜刀の構えを取った。
先ほどまでの抜刀は、魔法を使用していなかった。
だが、今この瞬間、初めて抜刀により打ち出される斬撃は知覚できたとて、俺の速度では追い付けない。
容易にその斬撃は、俺へと到達した。
ここで逆行が発動しても、数歩後ろの俺の逆行後の位置まで刃は届く。
刀赤もそれを見越しての、此処での魔法攻撃だっただろう。
だが、俺は更に潜りこむように、前傾姿勢を取った。
俺の逆行は、髪を切る位置によってその後の巻き戻る距離が変わる。
キャラクリ時の髪の位置で、毛先から一センチ。
現在、髪は伸びていて態々切りそろえていないが、それ含め俺は正確な位置を自分で把握している。
そして、刀赤の斬撃がわずかに掠り、俺の髪を切った時逆行が発動する。
数歩後ろではなく、その場での逆行の発動。
以前も使っていたが、攻撃がその場に滞留せず通り過ぎる奴の攻撃であれば、それは有効に働いた。
いわば、攻撃のすり抜け。
これは奴には見せていない。
一瞬の動揺は、動きを鈍らせる。
抜刀からの返す刀は、俺を狙うが大袖を壊すのがやっとだ。
そして、その瞬間、俺は刀を手放していた。
すでに回避行動を取ろうとする刀赤に対して白武器を生成して、地面より生やした槍でその場に留める。
そして、俺の生成した黒武器の刀は刀赤の首に刃を添えていた。