魔法少女コフィンがこの場所に来た理由は概ね察していた。
長い期間居城に引きこもる赤鞘は外の事情に特別聡いわけではない。
だが、こと丹の道地区に関しては魔法「朱鎧」による巡回と傘下の魔法少女たちの働きによって情報を得ていた。
そして、こちらに接触しようと試みている委員会の人間の存在がここ最近あることに気付いていた。
それゆえ、疑問を抱き、情報の収集に当たらせていた。
慣例上、自らとの接触は挑戦権を持って以外では、月に一度の魔法少女コミュニティと委員会職員とのコンタクトに限っている。
赤鞘の本来の気質も関係しているが、そもそもこの形式を取らねばならない理由があるために致し方のない事だった。
そんな経緯があって、手に入れた情報は僧橋区における委員会の動き。
秘匿された情報故に直接委員会から聞き出さねば状況を知りうることはできないが、これを発端として職員がこちらに接触を図ろうとしていることが分かった。
しかし、職員からしても接触は通常の挑戦権を行使して行わねばならない。
そこで必要となるのは、やはり代理で魔法少女を立てることだ。
赤鞘、刀赤に対抗できる人間。
秘密混成組織が動いているだろうことを予想すると龍幻をあててくる可能性があったが、魔法少女コフィンであったことは意外だった。
委員会が、差し向けたと考えると旧瑞穂会の意向が入っている可能性がある。
しかし、魔法少女コフィンの認知される力量と先ほどの戦闘能力には乖離があった。
敢えて隠しているであろうそれを露見させてしまう可能性を抱えてまでコフィンを運用したとなると……。
「と、とにかく、魔法少女コフィン。貴方の事情は察しています……いる」
「え?……まあ、そりゃそうか」
赤鞘がコフィンにそう話しかけると当の本人は至極当然のことを聞いたとばかりの反応をした。
まるで、自身はすでに説明していたと言うようにこちらを見た。
いや、そうではない。コフィンはこちらがどこまで理解しているのかを把握しているのだ。
隠し持った実力と言い底が見えない。
「ところで……そちらの方とはどういったご関係、関係なんだ?」
「え?あー」
先ほどからずっとコフィンと一緒にここに来た少女が気になっていた。
思案するような様子を見せるのは、何か言いづらい関係なのだろうか?
「うーん。家族?ほぼ家族みたいな」
「か、かかか家族!?」
「お前、そんな人間が居るのに先ほどは赤鞘様に色目を使ったのか!」
切尾が叫ぶ中、脳がショートした赤鞘をしり目に、コフィンはこの場を去っていった。
それにしても、コフィンは何者なのか。
隠した実力と先ほどの少女との関係性をほのめかす言葉が赤鞘から離れなかった。
◆
「魔法少女赤鞘より、情報の共有を求める連絡があり、手筈通り作戦概要を共有、承諾されたことを報告します」
ヒエロクック対策会議にもたらされたその報告に面々は胸を降ろした。
「では、改めて作戦概要の確認をしよう」
すべてのピースが揃ったことを確認した男が提案をした。
それに面々は頷いて、最終確認に移る。
「ヒエロクック討伐作戦は世界強度のピークと予想される10日土曜18時10分10秒丁度きっかりに、奇襲攻撃をかけ一撃で標的であるヒエロクック・アルカフルールを仕留める」
作戦の大まかな流れはその言葉の通りだった。
現在、魔法少女統括管理委員会が該当インベーダーであるヒエロクック・アルカフルールに対して手を出せない理由は、世界強度に深く関係していた。
滿汐は世界強度の高まりにより、インベーダーが侵略地への負荷の許容度から強力な個体、あるいは大量の軍勢を使い侵略することを指す。
しかし、今回の滿汐は世界強度の数値は通常の物とそん色なかったが、発生範囲が極端に狭かった。
その距離半径1.3㎞。
故に、ヒエロクック・アルカフルールの顕現で世界強度のリソースの大幅を使われてしまっている。
これにより、ヒエロクックに対抗する魔法少女の派遣をする場合、対抗できるだけの力量を持つ魔法少女では、自身の力により変身するだけでリソースの上限に達し、世界に負荷がかかり過ぎてしまう懸念があった。
ヒエロクックに対抗しうる戦力はA級上位であれば十分ではあるが、戦力として投入できない以上打つ手がないと表現する以外になかった。
この制限下で運用可能な委員会側の最高戦力として挙げられるのが、部分変身をしたS級魔法少女だった。
部分変身はS級ほどの力量に加えて個人差もあるため、一概には言えないが、体を五体に分割して考えた場合(それでも適切ではないが)、例えば片腕だけを部分変身させたとき、単純に引き出すことのできる力は完全変身の五分の一になる代わりに、世界にかかる負荷も五分の一になる。
これにより完全変身しかできないA級が戦力として数えられない状況にあって辛うじてS級の運用が出来ていた。
しかし、それでも均衡の上に立って入るようなものであり、簡単に当該インベーダーを討伐できるわけではなく、時間をかければ討伐できる状態にあっても、戦闘が長引く間に世界が壊れてしまう可能性が高かった。
それゆえ、決定力に欠ける状況で面々が導き出したのは、滿汐のピークを狙った作戦だった。
滿汐は、世界強度の高まりによっておこるものではあるが、その期間内にわずかばかりの変動がある。
それが、最大に高まるピーク時であれば、僅かにではあるが委員会側が投入できる魔法少女戦力の条件が引き上がる。
そのため、その一瞬だけ、A級相当の完全変身であれば耐える土壌が出来た。
しかし、それでも予想されるピークはそう長い時間継続されるものではない。
討伐時の戦闘が長引けば、部分変身を成すことができるS級を投入した際の結果と同じことが起こる。
であればこその、迅速な作戦の実行だった。
ピーク時を利用したほんの一瞬を使い、最大火力により討伐を成す。
これが可能であると判断されたのが、A級1位である魔法少女赤鞘だった。
そして、公式活動名ではないが、刀赤の瞬間火力が期待されていた。
「現在こちらがヒエロクックに提供している「駅北口ビル」から約100メートル地点より、赤鞘の魔法攻撃により奇襲をかける。この距離は、赤鞘自身の最大有効射程と精密攻撃の安定性を加味したものだ」
実際の地図に照らし合わせながら、作戦概要の説明がなされる。
「作戦当日には、決行時の被害、そして失敗した場合の対応を考慮し、建物内で監視にあたっている魔法少女四名は退避させる。この際、部分変身の可能である魔法少女龍幻の協力の元、魔法によりヒエロクックには依然魔法少女の監視がなくなることを悟らせないように離脱させる。建物内には他一名委員会関係者の職員が残っているが、こちらは建物外に内線呼び出す。すでに、作戦決行のためにヒエロクック収容時から、内線での幾度かの外出を行わせているため、ヒエロクックに感づかせる心配はない」
作戦の大まかな、概要はすでにヒエロクックが現れてから数時間で練られていたことだ。
変更が加えられることなど考慮したうえで、疑問を抱かせない様な細工はしていた。
「念を期すため、該当職員は作戦実行の5分前には外出命令を出すが、すでに取り付けられているインベーダー検知器を使用し、脱走等がないかは監視下に置き確認する」
精度はそう高くない。
しかし、ヒエロクックと言う存在の大きさ故に、その場に存在しているかどうかを判断するだけであれば十分すぎるほどの性能は有していた。
「これにより、「駅北口ビル」内の魔法少女及び職員の離脱完了後、作戦開始時刻丁度に実行する」
◆
なんかひと悶着あったが、取りあえず切り抜けた俺は帰宅した。
切り札のレベル上限解放チケットも使ってしまったし、これ以上の無理は出来ないのでまた強い奴と戦うことがないように祈っておこう。
一度レベル上限を解放しても、戻ってしまう謎仕様だが、もしかしたら戻らない本命のアイテムがあるのかもとも思った。
ほら、レンタルチケットみたいな感じで一時的に出来るアイテムが俺の手に入れたもので、実際は強化アイテムを使用するとか。
「と言う事で、何か知らない?」
「ふむふむ、ヒーコさんは時々変なことを言いますね!ですが、もしそのようなものがあったとしても私の口からは言えません!なぜなら受注するまで報酬アイテムは秘密だからです!」
こいつに変なことを言う奴だと認識されているのは心外だが、まあ、回答は予想していた。
琴浦レンズと言う少女は融通が利かないのだ。
「「比五子ちゃんいた!」」
「どこに行っていたんですか?」
死神ガールズたちが、カフェに入店してきた。
面倒そうだったので、そう言えばカゲと出かけた先のことは伝えていなかった。
絶対勝手に来そうだし。
「カゲとちょっとな」
と、そんなことをしていると一つのメッセージが届いた。
もみじからだ。
:大丈夫です!ぜひ行かせてください!
その言葉は、俺の送ったメッセージへの返信として返って来ていた。
と言うのも、この前の、と言うかヒナリとカゲがドンパチやって避難指示が出た商業施設の埋め合わせの話だ。
もみじと出かけていたが、途中でヒナリを連行してしまったので、その時の続きをいつに使用かと言うのを相談していた。
それで、適当な予定日を提案してもみじがオッケーしたと言うわけだ。
ちなみにどこに行くかと言うと水族館。
今世では、言ったことがなかった。
前世ではいつ行っただろうか?
高校の時の学校行事で言った気がする。
遠足みたいなやつで。
とは言え、ぞろぞろとクラスメイトと魚を見ても情緒がない。
と言うか、流れ作業のように見ていくのでもう少しちゃんと見てみたいな、なんて思った記憶がある。
そう言うことを考えると、もみじとならじっくり見れそうなんて思って提案したのだ。
少し楽しみな水族館に思いを馳せていると更にスマホが震えた。
そして再度、確認すると今度はもみじではなく空音だった。
しかも遊びの誘い。
しかし、悲しいかな。もみじと水族館に行くのと同じ日だ。
具体的な目的地が書いていないからどこに行くか分からないけど、もみじと二人で出かけることの埋め合わせだからどうせだったら一緒に行こうよってのはまずいと思って断った。
とは言え、行きたくないわけではない。
一応別の日なら大丈夫だと送っておいた。