TS転生した俺は魔法少女になれないらしい   作:環状線EX

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四章
かわる!


 

 魔眼には二種存在する。

 

 通常「魔眼」と呼ばれる古代の神秘の系譜を持つ者が発現するものと、「精霊魔眼」と呼ばれる全く異なる物である。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 週末、空霜のライブを見れて満足していた俺に告げられたのは、児野空音の転校だった。

 どこかで章キャラかなとか色々思っていたが、夏休みを待たずして不自然な転校を考えると俺の考えは結構当たっていたのではないだろうか。

 

 元気で笑顔を振りまく彼女がいなくなるのは寂しいな、なんて思いながら彼女にお別れを言った。

 しかし、こういうところは多分原作に当たる作品かあるいはゲームの都合を感じるところがあるが、ヒエロ何某については少し不思議な感じがする。

 ヒエロ何某がゲームに出て来るキャラなら俺がゲームのプレイヤーとしてのキャラと言うならば、ファーストコンタクトと最後のグサッとやったとこだけで特に因縁もないし。

 反対に原作キャラであれば、もみじが倒す気がする。

 

 そんなことを思うと、俺の影響で結構世界が変わっているのかもしれない。まあ、元を知らんが。

 

 ま、そんなことはいい。

 始めは余計なことをして世界が破滅に向かったらと思ったが、そもそもシナリオを知らないことを考えれば物事が転んでも嘆くことも出来ない。

 で、えっと。そうそう、空音の話だ。

 空音が転校してしまって俺の日常には少し変化が起きた。

 元に戻ったとも言うがわずかに変わった。

 

 そして、変わったことと言えば、俺の行きつけのカフェのマスターも変わったのだ。

 隠れ家的なカフェであり、琴浦が働くここのマスターは腰の曲がった爺さんだった。

 琴浦にも機嫌を立てることがないと言えば、どれくらい聖人であるかわかるだろう。

 

 そんな爺さんだが、身体にガタが来たようで、最近は店を空けていることがある。

 毎日忙しく……いや、俺たちがいるせいで忙しいかは謎だが。とにかく、働いていたのだが最近は一日ごとだったり、もう少し日にちが空いたりする。

 そこまでなら、いっそのこと長期的に休んで元気になった方がいいだろうと思いつつも、只の老いだから休んでどうにかなる物でもないらしい。

 

 で、そんな状況で俺たちは毎日のようにカフェに入り浸っている。

 つまり、マスターの爺さんの代わりが今は働いているのだ。

 

「はい。おまたせー」

「あ、どもっす」

「ゆっくりしてってね。ヒ・ツ・ギちゃん!」

 

 丁度今俺の珈琲を出したのは、代理のマスターである女性であり爺さんの孫娘らしい。

 歳は確か二十一とか言っていた気がする。

 んで、大学に通っているが、バイトをやめて暇だったとこに爺さんから頼まれてこの店で手伝いを始めたらしい。

 とは言え、そんな簡単に店回せんのと思ったが、俺たちしか基本人が来ないことに加えて、琴浦は大体の仕事は出来るらしい。

 

 ほぼ爺さんに仕事を任せきりで、仕事を覚える所まで行ってねぇだろと思っていたが、そうでもないようで、爺さんは彼女の仕事を絶賛していた。

 何でも一度見ればすべて覚えるのだとか。あと、あくまで仕事を絶賛していただけで仕事ぶりは絶賛していなかった。

 まあ、とにかく琴浦が大抵出来るので、代理マスターでもなんとかなっているのだとか。

 実際、俺程度であれば爺さんとそん色がないと感じるレベルの珈琲を琴浦は出してきたしな。

 

 で、そんな代理マスターの名前は椚瀬李耶(クヌギセリヤ)

 そして、俺の名前をヒツギと呼ぶ唯一の人物。

 つまるところ、俺の正体を魔法少女コフィンであると知る人物だった。

 

 まったく、面倒なことになった。

 

 

 

 

 ◆

 

 ますます暑くなる日差しから避けるように、影のかかるベンチには二つの影があった。

 片方の少女は日焼け止めを綺麗な腕に伸ばすように肌に塗る。

 そんな様子を横目で見つつもうひとりの影──方波見黒墨は口を開いた。

 

「話は手早くすませ」

「つれないこと言わないでよ」

 

 残った日焼け止めを大胆にさらした足に塗り付けた少女は黒墨の声に不満を漏らす。

 しかし、それ以上は言わずに言葉を続ける。

 

「夜空、滿汐の事聞いたよ」

「ああ。それで態々私に話を聞きに来たのか?」

 

 やっとこちらを見たのは、黒墨と同じくS級魔法少女春麗であるナノと言う少女だった。

 すっかり衣替えを完了した白い制服に袖を通した彼女の言葉に黒墨は呼び出された理由を納得する。

 

「別に、この話を聞きたいからって理由だけで夜空を呼んだわけじゃないよー。普通に一緒に遊びたかったの!」

「……前も出かけただろ」

「前って一か月前じゃん」

 

 黒墨の感覚からすれば、同じ学校に通っているわけでもないのに態々一緒に遊ぶ頻度としては十分過密であった。

 しかし、断る黒墨に幾度となく誘いをかけてやっと月一の予定を組めるかどうかというナノかれすれば到底そんな風には思えなかった。

 それに一か月前も随分と強引に誘って取り付けた予定。当然満足もしていなかった。

 そんな不満に頬を膨らませつつ話を戻す。

 

「でも、ヒエロクックの件はともかく、滿汐についてすら教えてもらえないなんてな~」

「仕方ないだろう。今回の事は通常の滿汐で知らされるS級にすら情報を与えられなかったんだ。今回の作戦は公表できなかったし、委員会内部だとしてもインベーダーに好き勝手させてたとは言えないだろう。万が一世間にバレれば、委員会の信頼は揺らぐどころでは済まない」

 

 ヒエロクックにおける幾度の要求。

 作戦を決行し討伐するまでは、どんな言い訳をしたとしてもインベーダーの言いなりになっていると言う事実しかない。

 そんな疑念を少しでも起こさせないために、ヒエロクックの存在だけでなく滿汐に関しても秘匿していた。

 そもそも早期終結に至らない時点で違和感は相当なものだ。

 よって、公式文書には今回の滿汐の情報が記されることはない。

 本来であれば冠されることになっただろう「滿汐2号」と言う今年度二つ目の滿汐としてはカウントされていなかった。

 

「……それより、今日が7月の1日。ランキングの話だが……」

「もしかして、また、コフィンちゃんの話~?」

 

 魔法少女統括管理委員会が出すランキングは、順位のつかないS級を除いて、AからF級までの番付を行うものである。

 基準はインベーダーの討伐数と滿汐発生時の貢献度(数段階の戦功に規定された評価値の付与)からなり、月締め(滿汐を除く)で翌月一日に魔法少女NET等で閲覧可能となる。

 具体的な計算方法は公表されていないが、より強く多くのインベーダーを討伐したものが上位にランクインする仕組みになっていた。

 そして、そんなランキングに言及した黒墨に対してナノはつまらなそうにコフィンの名前を出した。

 

「お前も気付いているだろう」

「魔法少女コフィンちゃんのランキングが初登場のA級32位で固定されてしまっていること?」

「そうだ」

 

 魔法少女コフィンが正式に活動を開始したのは今年の四月。

 そして今日で二度目のランキングの変動があったのにも関わらず彼女は同じ位置を保っていた。

 

「でも、それって別によくあることだよ。A上位のランキングなんて暫く動いてないし。むしろA級最下位、B級1位との壁の厚さを考えると一番代わりづらい順位とも言えるよね。……ただ」

「魔法少女コフィンに限ってそれはない」

 

 上位の魔法少女はランキングが固定化されやすい傾向がある。

 そして、コフィンが今いる順位も同等だ。

 だが、それを上回ってしかるほどの働きをコフィンはしている。

 

「前回の滿汐は、秘匿されている。それを考えれば、本来奴に与えられる戦功が出ていないことも頷ける。そもそも、委員会はコフィンへの死神の子の件での信頼回復という面で評価のし直しがそれにあたるだろう。だが、四月に起きた「滿汐1号」の功績に関しては別だ。奴は実績を出しており、尚且つ公式に等級は低いが戦功を得ていた。それでも順位の変動はなかった」

「委員会側からすれば、他の人にも戦功を与えてだとか、戦功を得てなくても評価されるからそれでとか理由付けはしてくるだろうけど」

「恐らく副会長である森峰の力だろう。A級32位を特別な記号として確立させようとしている」

 

 恐らくの目的は、いやコンセプトとも言えるだろう。

 魔法少女コフィンを「運用のしやすいS級」にすること。

 実際はS級ではない。

 しかし、匹敵するだけのイメージを付けようとしている。

 

 本来のS級は力が強すぎるだけに運用への制約は大きい。

 だが、かといってA級1位の赤鞘のような強力な力を持つ人間でさえも、S級と言う存在の下としてどうしても見られてしまう。

 しかし、敢えてA級32位で固定させて、尚且つコフィン自身の特異な力と行動によるラベリングによってA級32位と言うランクをコフィンの記号とする。

 つまり、A級の中の32位と言う番号ではなくS級のように「A級32位」と言う名前にするのだ。

 

「でもさっ。今日は私と遊びに来たんだから、コフィンちゃんの話ばっかりはやめてよね!」

 

 黒墨が思案していると、腕にナノが抱き着いて来る。

 身体を押し付ける彼女に少し怪訝な顔をして黒墨は引きはがす。

 

「夜空~!」

「暑い」

「も~。恥ずかしがりなだけのくせに!」

 

 ナノはそう言い放つが実際、近年の気温の上昇で相当に暑かった。

 加えて、ナノは全身を押し付けるように近づいてくれば、黒墨でなくとも暑苦しさに彼女の身体を離しただろう。

 しかし、ナノとしては中々構ってくれない黒墨に対して積もり積もった気持ちがあって、十分に抑えているつもりがあった。

 

 とは言え、黒墨が暑そうにしているのは十分にわかっていたので素直に距離を取った。

 そうして、手に持ったハンディファンの風を黒墨に向けた。

 黒墨の綺麗な黒髪が送られてきた風に揺れる中、小型扇風機を持つナノは口をとがらせていた。

 そんな酷く不思議な光景を、黒墨は視線を向けることもなく、ぼそりと呟いた。

 

「……どっか、行きたいとこがあるって言ってたろ」

 

 ナノの方を見ずに口にしたそこの言葉は以前黒墨に話した一つの話題だった。

 覚えているかどうかはともかくとして、それを黒墨が自分から言うのは珍しい。

 そんな黒墨の発言にすっかり嬉しくなってしまったナノは口をとがらせることも忘れながら、黒墨の手を引いた。

 

「早くいこ!」

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