7月1日。
魔法少女ランキングが発表される今日、綾谷もみじはスマホに張り付いていた。
魔法少女NETに関わらずランキングの更新時間は、午前七時。
後一分もないと言う状態で、アプリの更新をした。
そして、変化したランキングリストの中から、「魔法少女朝桜」の名前を見つける。
「やった!餅兎、9位!C級9位だよ!」
「凄いよ。もみじ。頑張ったね」
ベッドの上で跳ねるように喜んだもみじに使い魔である餅兎は素直に褒めた。
実際、快進撃と言えた。
長い間最下位に居た魔法少女朝桜が破竹の勢いでランキングを上げていた。
この事実は、魔法少女界隈では、たびたび話題に上がるほどだ。
A級、S級と言った著名な魔法少女を除けば、一番の話題性を持つと言っても過言だと言われることはないだろう。
そしてそんな話題の的とも言えるもみじは、自身のランキングの確認だけで終わらずに、もう一つの名前を探した。
魔法少女コフィン。
漢字名が並ぶ中に唯一の横文字を含めば、見つけるのは容易かった。
そして、表示された順位に声を洩らした。
「A級32位。……変わっていない」
そう。変わっていないのだ。
先月は偶然であるかに思われた。
滿汐の影響で多くの魔法少女が功績を立てていたからだ。
比果比五子だけが、活躍していたわけではない。
皆が相対的に順位を上げれば、そう言う事も起こるだろう。
加えて、A級のランキングは変動しずらい。
おかしな話ではなかった。
だが、今回の六月締めの評価を見れば、彼女の活躍を鑑みれば、順位が上がっていてもおかしくない。
もみじもたくさん戦ったが、比五子だって呪いのような体質ゆえに幾度どなくインベーダーに遭遇しているのだ。変動しない方が不自然だろう。
それでも、変わっていない。
何か理由があるはずだ。
もしかしたら不具合かもしれない。
だから、その日登校してすぐに比五子に問うた。
少女の返答は淡白なモノだった。
「あー。確認するの忘れてた。そうだったんだ」
そんなはずはない。
魔法少女であれば、絶対にランキングは確認する。
いや、興味がなくとも目にするのだ。
魔法少女NETを開けば、トップ画面に表示されるし「おしらせ」として通知されるはずだ。
気付かないはずがない。
多分、比五子は知っている。
知っていて知らない振りをしているのだ。
もしかしたら、ランキングに変動がないこと自体比五子自身の意思が絡んでいる可能性だってあった。
有り得ない、とは言えない。
何故なら、比五子のランクの挙動は不自然な点が多いのだ。
ネットの情報を鵜呑みにするわけではないが、もみじ自身が観測する限りでも、ランキングに初登場してからその順位に変動がない。
これは、上がり切って以降と言う話ではなく、初めからだ。
本来、一時的にも最下位からスタートするはずのランクが彼女の場合は、突如としてA級32位に現れたのだ。
それを踏まえれば、彼女にはランキングを操作するツテがあると考えるのが自然だ。
一度聞いたことのある委員会の施設である天坂支部で比五子と支部長との会話を思い出せば、ありえないと言える話でもないともみじは考えていた。
不正にランクを上げることは出来なくとも、固定させることは可能ではないかと言う事だ。
では、そうだとして、比五子がそれをする理由があるはずだ。
「っ」
そして、それはきっともみじのためだ。
もみじがいつか肩を並べて戦いたいと言ったからこそ、比五子はそこに留まった。
彼女の今までの功績を思い出せば、きっとS級にだってなってしまうだろう。
そうなると、もみじがどんなに努力をしても届かない。
もみじだって、快進撃を続けているが、それだけでなれるほどS級と言うのは優しくないのだ。
「でも……」いつの間にか口が動いていた。
「それは違うよ!比果さんっ!」
「え?」
突然言い放ったからだろう。比五子は首を傾げた。
同時に魔法少女の事について話すからと、人の居ない場所に呼び出したのも正解だと思う。
叫んでしまった事とか。皆には言えないことだからとか。そんなことじゃなくて、漏れ出る声はきっと他の人には聞かせられないから。
「比果さんは、私を信じてくれてたと思ってた……」
「え?」
どれだけ遠くに行ってしまっても、もみじは必ず追いつくと信じていてほしかった。
それだけの信頼を気付けていると思っていた。
だからこそ、いつの間にか涙が頬を伝っていた。
「……………………え?」
だけど、そうじゃない。
溢れ出る思いをぶつけるだけじゃ意味がない。
比五子に当たるのは違う。
だから、息を吐く。
「……ごめん。比果さん。私、もっと頑張るから。信じて待ってて……。ううん。私の事なんか気にせずに駆け抜けて。どこまで比果さんが遠くに行っても絶対に強くなって必ず追いつくから!」
「あ、うん」
始めからこういうべきだったんだ。
同情されてしまうのではなくて、彼女が昇って行っても、それに追い付き、追い越せるくらいに。
◆
「ん?」
どゆこと?
なんか朝学校に行ったらもみじに何かを宣言された。
信じてくれていたのかと思っていただのなんだのと言われて、最終的には信じて駆け抜けてと言われた。
なにこれと思ったが、これはアレかもしれない。
原作主人公の彼女が、何かを決意した時。
それに俺が居合わせたのではないだろうか。
なんか出会った時から一貫して力を求めている感じではあったが、屋上に呼び出されたときは「焦らずでも努力は続ける」みたいなことを言っていた気がしたが、なんかまた焦っているように見えた。
危うい感じではなかったからあれだけど、なんか俺がしてしまった可能性があるのか?
いやでも、品行方正に生きてるし。
誠実だし、人の話もしっかり聞くし……。
まあ、人間生きていれば定期的に奮起するものだ。今日帰ったら資格勉強するぞって言ってやらないのはお約束だろう。
とは言え、もみじはやると決めたらやるタイプなので、どうにか手伝ってあげたいが……。
そんなことを考えながら河川敷を歩いていると誰かの言い合う声が聞こえた。
「アンタ!もう一回言ってみなさいよ!」
「だから、言ってるだろう。これ以上私に構うなら容赦しねぇってな」
少女たちの言い合う声。
喧嘩と言うか、一人を三人で取り囲んで難癖をつけているように見えた。
「大体生意気なのよ。何でF級のアンタが、A級の人間と仲良くしてるのよ。きっと媚び売ってるんでしょうけどねぇ、そんなのは──」
「おい、低能。話聞いてたか?殺すぞ」
「っ!?」
一人の少女にガンつけられて「お、覚えてなさい!」そう言って、三人娘は逃げていった。
ごめんうそ。F級らしい少女に怯んで道を開けていた。
で、そんなF級の少女に俺はどこかで見たことあるような気がして、思い出す。
あれだ。秘密混成部隊の人だ。
確か、駐車場で俺を拘束した時に一番強そうだった人。
しかし、彼女がF級とは驚きだ。
低い素養を工夫で補っている気がしていたが、それでもインベーダーを満足に狩るのも難しいほどだとは。
──魔法少女零だな。
──そんな名前なんだ。
そんなことを思いつつなんとなく目で追っていると、物陰に隠れたところで変身を解いていた。
解いた瞬間は見なかったが、影に隠れた少女が一人で出て来た少女も一人ならば同一人物と考えるのが自然だろう。
しかし、そんなことより驚いたのは。彼女の髪が変身後とあまり変わらない白く透き通ったものであることだ。
それになんとなく目を奪われる。
しかし、顔の造形と言い髪と言い、儚げだが本人はオラオラしてるな。
先ほどのトラブル故の態度化と思ったが、少し刺々しい印象を受ける。
まあ、あくまで印象で加害性はないだろうが。さっきだって絡まれていただけに見えたしな。
つーか、なんかストーキングしてるみたいになってきたのでさっさと離れるべきだろうか?
だけど、歩く方向同じだし……。あ!
色々と思っているととある考えが思い浮かんだ。
もみじが強くなりたいと努力している。
その手伝いを魔法少女零にしてもらうのはどうだろうか。
無論、対価は払うがもみじがパワーアップしたいと言うならば彼女の指導は有効ではないだろうか。
魔力や素養はそう簡単に上げられるものではない。
だけど、自力が低いながらも工夫をして俺が少なくともあの時一番厄介だと瞬時に判断できるような人間であれば何かもみじに良い影響を与えられるのではないだろうか。
うん。きっとそうだ。
となれば、早速誘おう。
この瞬間を逃しては、会おうと思っても会えるとは思えないしな。
「いつまでついて来るつもりだ」
「……話がある」
声を掛けようと思って近づこうとすれば、そんな声が掛けられる。
魔法少女ってのは気配を察知できるのだろうか。
そんなことを考えてみるが、変身を解けば結局皆が年端も行かない少女であり能力も一般的なものになると考えると、やはり彼女特有の能力なのだろう。
すでに警戒を欠かさないその姿勢こそが、強さの秘訣の一端に感じた。
「魔法少女コフィン……」
魔法少女零は俺を見て声を洩らす。
認識阻害をかけているし、制服姿だから彼方は当然俺と分かる。
しかし、それでも話しかけて来た人物の正体まで見抜いていたわけではないようで驚きの表情が混ざっていた。
「……わかった。場所を移そう」
あたりを見渡して、魔法少女零はそう言った。
まあ、確かに腰を落ち着けるような場所ではないか。
土手に寝そべって語り合うわけでもないし。
そして、そんな彼女に促されるままついたのはファミレスだった。
何の変哲もないその店に入店して俺たちは飲み物を頼む。
なんかみんなオシャレでイケイケだから、もっとキラキラしたところを選ぶのかと思ったが、やはりそこは高校生と言う事で庶民的なファミレスを選んだようだ。
つーか、高校生だよな?
小柄だが、あっているはずだ。
魔法少女には中学生もいるらしいから、断言は出来んが中学生の貫禄には見えん。
と、つい考え込んでいると対面に座る少女が口を開いた。
「要件を聞こう」
なんか緊張の面持ちだ。