椚瀬李耶における魔法少女活動と言うのは本人が黒歴史なんて表現をするようなものだった。
リヤは中学三年生の秋から高校卒業までの三年と少しの間魔法少女死神として活動していた。
A級には早々に上がり、根強い人気を持っていた彼女が、黒歴史、なんて語るのには当時の振舞に理由があった。
「死は救済。死せるものは救われる。……だから、安心して死んでね!」
それは、 当時の魔法少女死神の人気の要因でありながらも今は恥ずかしく思う魔法少女死神のキャラ付けだった。
中二臭い言動をたびたび口にして、極めつけはファンに「死神ちゃん」などと呼ばれて喜んでいた。
自身が特別な存在であると優越感に浸り、振舞や言動にすべてが現れた。
魔法少女における人気の獲得と言う一点を考えれば、これ以上ない一手ではあった。
魔法少女と言っても、現実に生きる年端も行かない少女。その中でキャラクターになり切るように振舞えば、魔法少女にエンタメ性を求める層からの支持はあつくなった。
そして、そんなおりだ。かつて神秘を扱った者たちの系譜、神秘者と言う存在と出会ったのは。
だから、神秘者の存在を知っていく中で、一つの目的についても知っていた。
それが、精霊魔眼を手に入れること。
魔法少女朝桜の精霊魔眼についての情報を手に入れれば、彼女を狙う勢力の一つとして神秘者と言う存在すらも出てくるだろう。
リヤはそう考えていた。
◆
ひーこ:わかった。オーケーって伝えとくね。時間と位置情報は後で送っておくから。
少し前に自身のスマホに来たチャットアプリの文面をもみじは目で追った。
送り主は比果比五子だ。
彼女から送られたチャットの一連のやり取りは、もみじの宣言を聞いた比五子が心当たりのある知り合いに訓練の約束を取り付けたことを説明していた。
そして、最後の選択をゆだねられたもみじは是非ともと返信をした。
そうして送られてきたのが、この文面と暫くして追加された位置情報と時間についてだった。
「態々、比果さんが用意してくれたんだ。頑張らないと!」
ぐいっと拳を握りこんで一人意気込んだ。
そして、指定された場所まで足を運んだ。
時間までは十分ほどある。
スマホを見て確認しつつ、カフェに入るほどの時間もないと考えて、もみじは適当な場所に腰を下ろした。
そして、暫くその場で待っていると不意に透き通る白い髪が視界に入った。
時間は指定された物よりも三分ほど時間があった。だが、もみじは足りあがり、その人影に近づく。
事前に聞いていたその人の情報は、「魔法少女零」と言う名前と、非変身状態での外見は小柄で白髪であると言う事。
その外見に一致した人物であるとあたりを付けて少女に駆け寄った。
「あ、あの。零さん、ですか?私は──」
「朝桜だろう。知っている」
勇気を出して話しかけただけあって本人だったらしく、自信なさげなもみじとは裏腹に零はこちらの容姿を把握しているようだった。
写真か何かでも比五子が見せていたのだろうなんて予想をしつつ、一言「ついてこい」と少女に言われたもみじは零の背中を追った。
遅れないように後を追いながらも、その後ろ姿は小柄だ。
もみじもどちらかと言えば小さい方だが、それでも零は中学生、場合によっては小学生に見えそうなほどの背丈と体格だった。
そんな彼女に連れられた先は委員会関連施設だった。
「ここは……?」
「魔法少女が訓練に使うことができるトレーニングルームだ。まあ、使う奴はすくねぇがな」
もみじが白を基調とした箱の様な空間を見渡していると、零が説明した。
トレーニングルームと呼ばれたそこになれたように零は入り部屋の端に陣取るように立った。
「まずは、実力を見る。変身しろ」
「は、はい!」
目の前の少女が変身してもみじも変身し、朝桜となる。
そして、一瞬もみじは驚愕の表情を浮かべそうになる。
(F級?)
魔法少女には、委員会に属している限り「識別」と言う機能を使うことができる。
変身している状態に限るが、それを使うことで相手のランクを見ることが出来た。
とは言っても、本来魔法少女同士でランクを見ることはほぼない。
態々、実際の戦闘時に識別するほど余裕はないためだ。
だが、今回もみじは自身に訓練を付けてくれると言う彼女に対して興味本位で識別を行った。
そして、そこに現れた結果につい驚いたのだ。
だが、そこでもみじは零に対して低い評価を付けることは出来なかった。
比果比五子が態々用意してくれた相手。
そして、インベーダーの強さ、討伐数に依存するランキングと言う指標以外で評価されていると言うことまでわかれば、技量に特化した人間であると分かる。
「制限時間を設ける。5分だ。5分以内に私に一撃あてることを目標にしろ」
「一撃……?」
「不満か?」
不満。
違う。そうではない。
零のことを侮ってないからこそ、これを正確な評価と信じている。
だからこそ、ひいき目なしで見た時に今のような評価になることが、やるせない。
だが、あくまで実力はこれから図るのだ。
ある程度のあたりはつけているのだろうがそれを覆せばいい。
「ふぅ。よろしくお願いします!」
もみじは──朝桜はステッキを構えた。
「──
地面を蹴り、踏み出すと思わせてはなったのは朝桜の魔法だ。
ステッキの先に魔力を収束し回転し加速させることで高威力の魔力の塊をビームのように発射することができると言うものだ。
それを変身時にすでに発動させ加速していたものを、解き放った。
虹色が見える白い光は一直線に零に向かう。
そして、それに追随するように朝桜は駆ける。
零はその場で身構えるも、到達する光は眼前で光の方向を変える。
上、左右に分かれた魔法は伸びた先で更に折れ曲がり零の背後に収束する。
そして、そこへ合わせるように朝桜がステッキを振りかぶる。
しかし、衝突する魔力の中を前進した零は、朝桜の懐に潜り込んで振り下ろされるステッキの軌道を腕を掴んで逸らして横へ避けた。
「魔法を屈折させ意表を突くなら、追随する自身の動きから軌道を割り出されることを考慮しろ」
朝桜は、ステッキを動かさずそのまま魔法を撃つ。
逸らされた体勢のまま撃たれた魔法は、地面に衝突する前に屈折し朝桜の身体を隠れ蓑に死角に沿って零へと向かう。
だが、見えないはずのその位置から、零は一手早く身体を動かす。
容易にさけられる。
「っ」
これでもダメか。
そう思いつつ、距離を取られて時間を確認する。
5分と言う時間が途方もなく少なく感じる。
少しは強くなったと思っていた。だからこそ、自分の現状を突き付けられるとそれは勘違いだったと思わされる。
自身の魔法
一直進しか出来ない容易に避けられてしまう魔法に対して、屈折するように工夫を加えた。
方法としては、
魔力収縮時にそれを仕込むことで、
屈折可能回数は、3回。
一度の魔法作製の中に仕込むことが出来るの限度が3度だった。
加えて、屈折させるごとに威力は減退する。
「ッ!」
そして、再度魔法を撃つ。
今度は連続二回。
片方は屈折弾、もう一方は通常弾だ。
だが、それも、まるで見極めたように零は避ける。
同時に、ステッキを振る。
接近戦は容易に避けられる。
ステッキを弾かれ先で屈折弾を撃つも意味がない。
(どうやってか分からないけど、通常弾と屈折弾がバレている)
朝桜は、威力を抑えて魔力構成の時間を削減して、数を増やす。
それぞれが屈折して網目状に魔力の格子を作る。
その中をフェイントを入れつつ朝桜は進む。
その姿は舞を舞っているようにも見えた。
「自分の手の内がバレていると考えて手数を増やす、フェイントを入れて動くことで安全地帯を絞らせない、それもいい。だが、それで機動力が落ちてしまえば、本末転倒だ」
やはりこの空間すべてを認知しているのかと思いたくなるような仕草で零は避ける。
最低限の動きだけで回避をこなされてしまえば、まるで攻撃の方が彼女を避けているようでもあった。
無数の魔法、朝桜本人の攻撃はことごとく避けられる。
だが、不意を突くように朝桜は魔法を発動した。
ステッキからではなく、手のひらからだ。
以前の滿汐の際に付け焼刃同然で行った武器を利用せず直接の魔法発動。
手のひらは衝撃に耐えきれず使い物にならない代物であった。
けれど、朝桜は通常の鍛錬の傍らでどうにか実戦で使えるレベルに落とすことが出来ないかと試行錯誤を繰り返していた。
継戦も視野に入れた運用法だ。
そして、只の一発、負傷せずに放つことが出来るようになっていた。
手のひらを魔力でガードする。
更に威力を落としつつ緻密な制御をする。
二度は連続で使えないが、一度であれば実戦でも使用可能であるものにまで昇華していた。
「──
「っ」
だが、彼女の手のひらからは魔法は放たれない。
すでに零には発動したとして当たらない。これは分かっていた。
だからこそ、意表の一手を囮としてステッキから魔法を放った。
一度の屈折で無理な体勢から放たれようと目標に進む。
それを零は避ける。その先に囮として使った手のひらの魔法の狙いを付けた。
零は手のひらから魔法を出すことが出来たのはブラフだと考えただろう。
だからこそ、一気に注意は逸れる。
本当にブラフだと零に思わせることが出来ていたらの話だが。
腕を掴まれ、魔法を逸らされる。
手のひらから発動するそれには屈折の効果を付与できない。
いともたやすく魔力の光はトレーニングルームの外壁へとあたり消滅した。
「5分だ」
そして、時間を確認した零がそう呟いた。
ついぞ、朝桜はF級の彼女相手に一撃も当てることが出来なかった。
だけど、前の自分よりは確実に強くなっている。
それに、此処まで凄い人物に自分はこれから訓練を付けてもらえるのだと思うと少しワクワクもした。
「あ、ありがとうございました!」
そう何かを掴めそうな予感を感じて頭を下げた。
だが、そんな朝桜に対して零は口を開いた。
「魔法少女朝桜、聞いてもいいか?」
「は、はい!」
「お前は何を想定して戦ってる?」
「え?」
質問の意味が分からず一瞬呆けてしまう。
そんな様子を見て補足するように言葉が続く。
「ああ、いや言いなおそう。お前のその戦い方は、魔法少女コフィンがいる前提で組まれているものじゃねぇか?」
それに朝桜は──もみじは言葉を返せなかった。
「コフィンは私にお前の訓練を付けるように頼んできた。そして奴は言った。A級中位、それがひとまずの目標だと。分かるか?私の言っている意味が」
零が話すその目標値はあまりにも高い。
だが、当然もみじはそれを、いや、それ以上を目指していた。
だけど。
「お前が戦うときにコフィンはいねぇぞ。お前は、魔法少女朝桜は一人で強くならなければいけない」
一人で。
その言葉が輪郭を成してもみじに刻まれていく。
だが、それでも足りない。
零は続けた。
「お前の戦闘から魔法少女コフィンを捨てろ」