「神秘者が今回の事態に関わってくる。その可能性があると言うことは分かりました。でも……」
「ヒツギちゃんが朝桜本人の力を高めていることを考えれば、態々手を出す必要はない。もっと、正確に言うのなら恐らく私たちは、彼女より先に神秘者に遭遇することは出来ないと考えるべきね」
ティナの言葉にリヤがつ付けるように話すのは、自分たちが取るべきスタンスだ。
事情を知りながらも自らは動くことは出来ないのだと再確認をした。
事前にことが起こることを予測出来ているのならば、死神の子が事前に防げば十分であるはずだ。
それをしないのは、実現しえないと考えているからだろうと。
「あとは、先を見据えて、朝桜に敢えて接触させようとしているか」
キイナはそんな声を洩らす。
実際、7月6日に何かがあると考えられるが、事態は四日間は続く見通しだ。
それを考えれば、その場限りの対処では後に響く可能性も考えられる。
「本来なら、比五子ちゃんに直接聞きたいところだけど。……これも、連絡が取れない場合を想定した訓練の一環でもあるってことだよね」
「私のことを貴方たちに直接伝えていないことまで加味するとそうなるわね」
ヒナリの言葉にリヤは頷く。
だが、どちらにしても彼女らは今のところ何かをすることは出来ないのだと再確認した。
「まあ、何にしても貴方たちと話すことが出来て良かったわ。ずっと気になっていたから」
◆
「大事なことはちゃんと共有すべきだろ。普通に考えて」
俺はスマホに向かってそんな言葉を吐いた。
現代文の担当教諭が遅れて期末考査の出題範囲の変更の連絡を直前でして来たのだ。
教科書が数ページ分減ったのと最終日の科目と言う事もあって実害はほぼないことがせめてもの救いだろうか。
「まあ、システム上の不備だから責めるのも違うか」
一応余裕を持っての告知はしていたようであったが、システム上の不備により一部生徒に連絡が行き渡っていなかったようなので、まあ運が悪かったと割り切るしかない。
現代文のテスト勉強なんてあってない様なもんだしな。
「しかし、もみじはここ数日訓練続きだけど、テスト勉強も完ぺきとは凄いな」
少し心配になって送ったチャットには心配ないと返事が返って来ていた。流石である。
◆
7月6日。
魔法少女零の元で訓練が始まって四日立っていた。
お互いに学校があるので平日は学校が始まる前の早朝に集まって訓練をしていた。
放課後が開いて居ればそちらが良いが、零の予定の兼ね合いもある。
四日目の今日に関しては早朝の訓練、そして放課後の自主練のメニューなんかをもらっていた。
そして、そんな中、比五子からチャットが届き、今日何かがあると言うことが分かった。
しかし、身構えつつも今日は夏休み前の期末考査の一日目でもある。
しっかりと、回答を解いて答案用紙を提出してきた。
ここ数日は訓練に追われてあまり勉強ができていなかったが、魔法少女の活動に力を入れるようになってから一層普段の生活での予習復習を行っていたので困ることはなかった。
魔法少女として要請されれば出動しなければならない為の処置だったが、急に決まった訓練の役に立つとは思っていなかった。
しかし、そんなこんなで昼までで学校が終わったことで、放課後になってしまったが、未だ何かが起こる気配はなかった。
比五子自身の普通に登校していることを考えれば、昼間の内は何かが起こると言うことはないのかもしれない。
ただ、インベーダーの要請がもみじに送られてきた。
何に身構えているからと言っても、それを見逃す手はない。
すぐに現場に急行した。
そして、すぐに発見する。
いるのは、前回とそう強さの変わらないインベーダー。
だけど、この前は踏み出せなかった事実がある。
それを思い出すも、首を振った。
「ううん。大丈夫。低いランクのインベーダーだけど、もうあれから何体も倒している」
そして、もみじの言葉通り身体は動いた。
俊敏にインベーダーに駆け寄り、魔法を打ち出す。
機動力に長けているのかギリギリで躱されるも、十分にダメージを与える。
逃げるほどの力も残っていないだろうと判断して最後の一撃を入れようとした時、背後から何かが高速で接近する気配を感じた。
空気が裂けるような音がして、振り向いたことで朝桜の背後にしたインベーダーの身体ははじけ飛ぶ。
だが、その一瞬の間に朝桜の目には高速で近づいた何かが、朝桜を狙い攻撃しようとした様子が見えていた。
朝桜が回避した故にインベーダーに攻撃が直撃したのだ。
故に、この攻撃の狙いは朝桜。
だが──。
「魔法少女……?」
その姿は魔法少女であり、そして。
「壱意、ちゃん?」
持ち上げられた顔は先日トラブルとなった魔法少女壱意のものだった。
◆
あの日、壱意は苛立っていた。
C級に入ってから変動の少なくなったランキングは、目標としていた一けた代へのランクインをぼっと出の魔法少女朝桜に阻まれ、人間関係ではかつての先輩魔法少女と揉め事になった。
それが尾を引くように日を跨いでも苛立だっていた。
けれども、近くで要請があり付近の魔法少女がインベーダーと戦闘に入ったのを確認した。
敵を前にして足がすくんでいるようなので、助けてあげようと考えた。
その行動にはどこかいい行いでもして嫌なことを忘れようと考える下心もあったかもしれない。
だけど、そんな目論見も失敗する。
助けた魔法少女が、苛立ちの元凶たる魔法少女朝桜だったのだ。
そして、彼女が実力を偽っている可能性があると気付いた。
ランキング相当の力があれば、本来足がすくむなんてことはない。
似たようなレベルのインベーダーを倒さなければランキングを上げることは出来ないからだ。
だから、ランキングの操作が行われた可能性を考えた。
直接的なシステムへの干渉でなくてもいい、弱らせたインベーダーでももらって倒しているのだろう。
魔法少女朝桜と言えば、長期にわたって最下位にいた。
それでも、努力を惜しまない姿に少しは好感を覚えていたが、ふたを開けてみればすべてが虚飾で塗り立てられた嘘だった。
許せなかった、媚びを売ってまでランキングを偽る行為が。
だから、罵倒しその場を離れた。
そして、苛立ちは収まることなく更に増していく。
そんな中で、一人の人物に声をかけられる。
「壱意さん。お久しぶりです」
顔を隠した怪しい人物だった。
C級で停滞したころからどこからか現れて鬱陶しく付きまとってくる人間だった。
名前も知らないほどの仲だが、決まって一つの言葉を口にする。
「力は、いりませんか?」
「いつも言ってるでしょう!アンタの話なんか興味ないって!」
壱意はいつものように声を振り払う。
最初は刺激しないようにと気を使っていたが、いい加減鬱陶しくなっていた。
「そうですか。残念です。ですが、貴方の顔は力を欲しているように見えますが?」
「うるさいわね!大体アンタの話は胡散臭いのよ!」
委員会関係者でもなければ、超常の力は扱えない。
いくら浮世離れした見た目をしているからといって、そんな言葉は信用できなかった。
「嘘ではないんですがね。ですが、仕方ありません。今の現状に満足なされているのなら、これ以上は──」
衝撃が鼓膜を揺らした。
壱意が壁を殴りつけた音だった。
ごちゃごちゃと好きかっていう人物に耐えきれなくなったのだ。
そして、それ以上に、現状に満足していると言う言葉が気に入らなかった。
「……嘘じゃないんでしょうね」
「ええ。もちろん」
その人物はよどみなく答えた。
壱意は嘘だったら滅茶苦茶にしてやると決めて、付いていくことに決めた。
案内された場所は、とある住居だった。
邸宅と表現できる場所で、距離としてはほど近い。
そして、奥の部屋に通された。
変身は解いていない、いざとなれば一般人相手ならどうとでもなる。
そう思って警戒は抜かずに足を進めた。
通された部屋には、祭壇のようなものがあった。
そして、そこには何かがいた。
「お連れしました」
何かに向かって壱意を連れて来た人物はそう言った。
それより先は、覚えてない。
とてつもなく大きな何かに飲み込まれたような気がして、気付けば別の部屋に寝かされていた。
「私は……」
目を覚まして身体を起こした壱意の変身は解けていた。
そばには壱意を連れて来た人物が控えていた。
「目を覚ましたようですね」
記憶を探り何があったか答えを得ようとする壱意に対して、その人物は酷く落ち着いてそう言った。
「何をしたの?」
何かされた。
そんな感覚だけが残る身体に疑問を抱いて壱意は問いかける。
「力が増しているはずです」
帰って来たのはただ一言だった。
意識が覚醒したてで思考があまり回らないのもあっただろう。
ただ、促されるままに変身をした。
その一瞬で、自らの力の大きさを感じる。
湧き出る魔力の質が明らかに違う。
自身に施された意匠も普段とは変化がある。
「これが」
これならば、C級一桁などと言う低い目標を掲げることもない。
もっと、上を目指せる。
そう確信した時、水を差すように声をかけられる。
「おめでとうございます。見違えたようです。……ところで、一つ頼みたいことがあるのですが」
「なに?」
「そんな顔をせずとも大丈夫です。貴方にとっても良いお話だと思いますので」
そう言って向けられる顔はやはり隠されていた表情は伺いしれない。
ただ、きっと薄っぺらい笑顔でも浮かべているのだろうと予想した。
「魔法少女朝桜に襲撃を仕掛けてほしいのです」
「は?」
飛び出た言葉は、予想だにしないものだった。
「私どもも貴方の事情は存じております。力の代償にと言う話であれば益のある話ではないですか?」
その言葉に一泊置いて壱意は頷いた。
そもそも、朝桜には思うところがあった。
どうせ魔法体の相手、少しぐらい痛い目を見せてやってもいいだろう。
そんな考えが湧いて出た。
一つ決心をしてみれば、朝桜に対する憎悪が湧いてきた。
ぐつぐつと煮えたぎるようなその衝動をどうにかして朝桜にぶつけたいと壱意は拳を握った。