乱れた髪から覗く瞳は獰猛な獣のようだ。
以前みた衣装は一度溶かされて、何かを混ぜてまた方に嵌めたような、不気味さを感じさせる。
黒を思わせる意匠が施されていて、内包する力はとてつもないものであると認識させられる。
「──っ」
すさんだ眼光はもみじをひるませた。
比五子がチャットでほのめかしたのは恐らくこれだろう。
訓練が始まってから、何かが今日あることをほのめかした文面が送られてきていた。
予測なのか知っていたのか。それは分からないけれど、事実として目の前には姿の変わった魔法少女壱意がいた。
しかし、観察するもみじそんな時間はないと警告するように、刃は迫る。
黒く流動的な刃はステッキに不格好に取り付けられたように見えた。
魔力だろう。そう断言できないのはその異様な雰囲気か。
だが、そのエネルギーの塊は確実に威力を持っていた。
しかし、それを阻むだけの力をすでに朝桜は得ていた。
瞬時に四点に魔法を発動する。
それぞれが向かい合い十字の先に位置するような配置だ。
そして、それぞれが渦を巻くように屈折し、まるで一枚の盾が形成された。
不格好で、隙間も多い。
これが成立する時間もわずか一秒。
実用性はあってないようなもの。
だが、それでも使用したのは相手のスピードを信頼しての物。
タイミングを見極めてミスさえしなければ──。
「ちぃ」
威力を相殺する。
そして、そのまま蹴りを繰り出す。
それを避けられて距離を取られた。
そして、濁った眼光は朝桜を睨む。
「なにその動き?」
壱意の認識では、魔法少女朝桜はC級程度にも足がすくむ様な人間。
そんな認識なのだろう。
故に、戦う姿に疑問を抱いたように見えた。
「壱意ちゃんのインタビューを見て、戦えるようになったんだよ」
「は?」
朝桜の言葉にひどく理解が追い付かなかったのだろう。
フリーズするように顔を顰めた。
そこに更に言葉を加えた。
「壱意ちゃん。戦うときにはいつも憧れの人を思い出すんだよね。だから私も──」
「黙れよ」
朝桜の言葉は遮られる。
憤怒の表情を覗かせた壱意に一瞬たじろいだ。
「壱意ちゃん……?」
「お前が私の名前を呼ぶなよッ!」
地面が破裂した。
それが、壱意が地面を蹴ったことによって出来たのだと言うことに、遅れて気付く。
流動であるが故に湾曲する黒い刃。
そのしなりが尾を引くように真横にないだ。
避けるが、その身に掠る。
そして、追撃には対応できない。
知覚できても回避は間に合わない。
(……でも、こんな時、比果さんなら!)
ステッキから撃たれた魔法は屈折して、朝桜自身に向かう。
そして、更に受け皿として展開していた魔力の障壁でガードしながらも、その衝撃をその身に受けて後退した。
「うぐっ!」
完全に威力を殺すことが出来ないし、不格好そのもの。
だけど、相手の攻撃の直撃は免れた。
朝桜は──もみじは、あの日立ち上がるために、壱意のインタビューコメントを参考にした。
憧れの人になり切る。
その文からインスピレーションを受けて、比果比五子の戦い方を真似た。
幻想を追うのではなく、比五子そのものになり切って戦闘を行う。
先ほどの回避も、自分の服に槍を引っかけてその勢いのまま回避する比五子の戦闘方法を真似たものだった。
比五子でさえも、それを使うのは緊急時だけ。
不完全であり問題点は多いためだ。
そして、それをもみじが真似を使用ならば、更にお粗末なものになる。
「だけど、これでいい」
結果として回避には成功した。
その事実だけで十分だった。
そして、呟く。
「──
◆
「魔法の段階、ですか?」
数日前、トレーニングルームでもみじは復唱した。
「そうだ。魔法をいくつかの段階に区切り、言ってしまえばマニュアル操作にする」
零は首をかしげるもみじにそう言葉を吐く。
だが、その言葉を聞いても疑問は残るばかりだ。
「これは、恐らく私しか知らねぇだろってことだ。そして、お前が強くなるためには習得しなければならないものだとも考えている。そして、下手をすれば以降魔法を使えなくなる危険性もある」
「ただ、これを教える条件は他人にやり方を教えないこと。これは約束してもらう」と続けた。
零の付け足すように提示した条件は大したものではない。
だが、問題は下手をすれば魔法を使えなくなると言う点だ。
失敗して、力を失えばもう努力ではどうにもならない域である。
だけど、すでに覚悟は決まっていた。
もみじは力強く頷いた。
その様子に満足げに零は頷き返して、説明を始める。
「まず、魔法についてどんな認識だ?どんな仕組みだと思う?」
「えっと、それは……。魔力と言うエネルギーを使って……」
零の質問にもみじは言葉を詰まらせる。
実際に魔法について考えてみれば、今まで使っていたとはいえ原理何て見当もつかなかった。
しかし、それに対して特に不満も見せることなく零は言葉を続けた。
「そうだ。魔力を使う。精々それぐらいの認識なんだ。あとは発動条件やルールが決まっている。その程度。魔法少女は与えられた魔法のルールの中で運用する。不変の力を深く考える人間はそうはいないだろう」
不変。そう訊くと確かにそんな印象をもみじも持っていた。
原理とかではなくて、魔力を消費することによることと生じる結果だけがすべてだ。
超常の力と言う先入観もあって、既存の科学のような法則性など皆無であると考えていた。
「だが、実際のところ魔法は魔力が決められた図式をたどるように加工されて魔法となる」
つまり、何かしらのエネルギーの変換が怒っていると言うわけだ。
魔力は対価ではなく、魔力そのものの変質による魔法の創造。
「そして、魔法少女同士の魔法がそれぞれ違うのは、持っている式が違うって話だ」
それが、魔法少女における魔法の差異と零入った。
だが、もみじには疑問が浮かぶ。
「どうして、そんなことを知ってんのかって顔だな」
「……はい」
思っていたことを見透かされたことに少し気恥しさを覚えながらも返答に耳を傾ける。
「別に大した話じゃない。自分の魔法を分解したんだ」
「それって」
「お前の危惧するところは間違っていない。出来るできないの前に魔法少女は感覚的に分かることだ。魔法は精密機械みたいなもので下手に干渉すれば壊れてしまうだろうってな。だが、私の魔法は強力な魔法少女たちの物よりも恐らく作りは簡単だった。自らの力がなくなる橋を渡ってリバースエンジニアリングの真似事をした」
分解し解析する。
いうに容易いが、元に戻せなければ魔法は機能しなくなる。
零は機械に例えたが、あくまで例えだ実際は更に緻密な作業を必要とする。
「その結果、私が段階分けしたのが3工程。一つだった魔法を三分割しそれぞれのつけ外しを出来るようにいじったってのが表現として近いかもな」
具体的な想像を付けるのは難しい。
だが、言わんとしていることは分かった。
「とは言え、これが出来たのは私だからだ。魔法の構造と私自身の魔力に対する感覚が揃って可能となったと言える」
「じゃあ、なんで私に?」
ここまで聞いて疑問が出た。
零は覚悟は問うたが、本当に一か八かの可能性であればこんな方法を進めたりはしないだろう。
ほんの数日の付き合いではある物の、もみじにはそう思えた。
そして、零も何か理由があるようで、しかしそれは予想だにしていないものだった。
「すでに、お前は無意識にだがその一端を実用レベルに引き上げて行使できているからだ。本来、相性があるこの方法はやって見なければ誰にもわからない。だが、お前はすでにやっている。可能性があると思ったんだ」
「すでに、私が」
先ほどの説明を聞いても、自分がそんな高度なことをした覚えはなかった。
改めて言葉に出されてなお心当たりはない。
だが、零は続ける。
「魔法
そう言われれば、そんな表現を出来なくもない。
だが、もみじはそれを否定出来た。
「でも、一つの魔法に複数の能力なんて他の魔法少女でも使っている人はいるはずです」
「いや、そいつらとお前は違う。そいつらの力は魔法に備わったものだ。ための必要な強力な攻撃、溜めはいらないが威力の軽い攻撃。これは例えだが、魔法は初めから複数の能力を有している。魔法を使い慣れて新たな力に開花したと錯覚することがあっても、魔法を改良して新たな力を作る奴なんて本来いないんだよ」
「じゃあ、私は……」
「表面的とは言え、魔法の分解と再構成、もっと言えば改変までを成している」
魔法について何て学校で習ったりはしない。
使い魔が教えてくれることはあるけれど、結局は実戦で慣れることになる。
だから、自身が更に強くもがくもみじが他とは違う新たな武器を増やすアプローチをしても誰かがそれに気づくこともなければ、もみじ本人が他人との違いを知ることもなかった。
だが、確かに零の言う条件にもみじは当てはまっているだろうと言うのも感じていた。
魔法に関して言えば、魔力を加速し回転させて打ち出すだけの魔法と言葉にしてしまえば酷く単純な仕組みと言えた。
そしてもみじは最終的に魔法を五段階に分けた。
「そうか。薄々予想はしていたが、数時間でそこまでを……」
零は感心したような悔しそうな顔をした。
「とは言え、教えるとは言ったが、細かいところは自力でやってもらうことになる。アドバイスや相談に乗ることくらいはするが、私とお前ではアプローチが違うからな」
「私の場合は、やっていることは解釈を変えているに近い。だが、お前は本当の意味での分解だからな」と零が言う。
「コフィンになり切ったとは言っていたが、本当の意味で奴を追いかけることになりそうだな」
「それって、どういう?」
零の口から飛び出たコフィンの名前に首をかしげる。
何故そこで彼女の名前が飛び出したのか、分からなかったのだ。
「お前は魔法を五段階に分けた。通常発動したものを
「
魔法の枠組みよりも更に向こう。
零が自分の他にはいないと言い閉めた芸当の更に先にコフィンがいる?
「零さんは、自分以外にはいないって」
「言った。だが、お前の魔法への解釈を聞いて思い到った。恐らく、魔法少女コフィンは魔法を完全に分解したエネルギーを運用している。ただの魔力によって何かを象ると言う話ではない。魔法を思い通りに出力していしてんだろう」
思い通りに魔法を出力する。
そんなことを言われてもみじは言葉を返せなかった。
それではまるで、魔法少女の枠組みの上の存在、ガーディアンのようではないか。
「武器の生成、蝶型の魔力の生成。インベーダーの分解。数々の奴の能力にも理由が付く」
ずっと魔法少女コフィンの力は謎に包まれていた。
魔法と考えるには複数の能力の系統が離れている。
その疑問が零の仮設ならば説明が出来る。
「これは完全な予測だが、コフィンは魔法から遡ってその力を得たわけではないのだろう。初めから奴の力の形はそう言う形だった。そうでなければ、朝桜、お前に魔法の分解を教えたのは奴になっていたはずだ」
零はそう言った。
◆
(でも、これで明確になった!)
目指す姿は比果比五子。
戦い方も、魔法の力も。
そして、発動したのは
屈折弾は
そして、もみじは短期間で更に改良を重ねていた。
放たれた魔力は、自ら弧を描いて曲がる。
屈折弾は直線状にしか放てない弾時代に仕掛けを作り無理やり曲げていたが、今回はそもそも軌道を曲げるように作っている。
瞬時に放たれた三発は、壱意へと迫った。
「鬱陶しい!」
壱意の悪態は、それだけ朝桜の魔法の脅威を押し上げたのだと証明するようだった。