「結局のところあの闇落ち魔法少女はなんだったんだ?」
もみじが落ち着いたようなので家まで送って解散したあと、俺はふと口にする。
確か、もみじに少女の名前を聞いたら魔法少女壱意とかいってたが。
魔法少女同士で戦っていることもよくわからんし。
もみじが人の恨みを買うと言うのもあまり想像できない。
そして、一番は魔法少女壱意の黒を感じさせる風貌。
「そのことについてだが、我に少し心当たりがある」
「心当たりとな?」
カゲの言葉に疑問を落としつつ耳を傾ける。
そして、耳を傾けた俺にカゲが話し出したのは、昔話だった。
カゲが頭をかち割られて封印されたのは、数百年前。
そんな時代に、神秘を扱うものたちがいた。
それが、神秘者と呼ばれるもので、教科書なんかにも載っている。
彼らが使うのは魔法少女とはちがう力であり、「術」と呼ばれている。
そんな神秘者が残した文献なんかの神秘的技法を使って記された言葉が琴浦の言うところの「魔法少女言語」と言うやつだ。
蓋を開いてみれば、全く魔法少女でもなんでもないわけだ。
名前ゆえに琴浦独自の研究だと思っていたが、最近気づいたのは教科書には「神秘文」として載っていた。
まあ、文化も含めた大枠のもののようだが、よく考えてみれば琴浦だけが疑問を持って調べていると言うのはおかしな話ではあったのだ。
ただ、厄介なのが、少なくとも公開されている情報だけで判断すれば、琴浦が一歩先どころか数世代分くらい先までの研究成果を得ているらしいことだ。
教科書で見る限りでは、表面的な解読はあっても、神秘的技法を用いた透かしようなものに関しては触れられていなかった。
話が脱線したが、そんな神秘者たちがいた時代にカゲはいた。
その時代、カゲはとてつもなく強い力を持っていたのだとか。
まあ、なんとなく予想できるところではあるが、きっとゲーム版ボスとかなんだろう。
で、そんなカゲだが、「怪」と言う存在に分類されるらしい。
インベーダー、精霊、「怪」って感じのカテゴリーだろう。
そして、そんなカゲだが、当時人々に言われる異名があった。
「東怪。そう呼ばれていた」
東の怪で東怪なんだとか。
で、東ってことは西もいるらしく、そいつの名前は「西怪」と言うらしい。
そいつも結構強かったとカゲが言った。
で、なんでそんな西怪の話をしたかといえば、もみじの腹部に侵食していたエネルギーの残滓。
それが西怪のものではないかと言う予測をカゲが立てたためだった。
「エネルギー自体は妖力だから、別の怪と言う可能性もあるが……。問題は、エネルギーの活用方法にある」
「活用方法?」
「ああ。先ほどの魔法少女壱意の様子を加味すると、あれは以前我がキサマに言った魔法少女の真似事に近いやもしれん」
以前ていつだよ。
つーか、そんな話していたっけとか思っていたが、そういえばカゲを拾って情報を引き出した時にそんな話をしたような気がする。
確か、その時は俺が転生者ではなく魔法少女になれた場合、と言うか、普通にストーリーが進行した場合の話だった。
そんな中でカゲは言ったのだ。
『キサマに捕まってなければ復活を遂げた後、インベーダーを利用し人間の一人でも使って魔法少女技術を模倣しただろうな』と。
まあ、詰まるところ闇の魔法少女を作っていただろうと言う話だ。
となると、西怪とやらも闇の魔法少女を作ったと考えられる。と言うか、さっきの闇落ち魔法少女がそれだろう。
「となると、その西怪とやらが犯人なわけだ」
「そうなるな。我と同じで封印されていたはずだが、封印を解いたと見ていいだろう」
カゲが封印のことを知っているとなると、時系列的に西怪が先に封印されていたわけか。
確か、封印を解いた時に妖力を貯めてからとかなんとか言っていたが、カゲより前から封印されていたそいつは力を蓄え切ったと言うことだろうか?
と、なんとなくあたりをつけてみる。
「しかし、そうなるとカゲ完全体みたいな奴がいるってことか?やばくないか?」
「いや、おそらくそれはないだろう。封印が自然に解けるだけの時間妖力を貯めるとなれば、身体を維持するだけでも、後、数十年は先になる。奴がどれほど先に目覚めたかは知らんが、全盛期の力はとてもではないがないだろう。そもそも……お前の言うところの闇の魔法少女を作っているのは自らが動ける状態ではないからだろうしな」
「そなんか」
実際、力を貯めると言うのは結構大変らしく、思い返してみれば俺が封印を解いた時もカゲが真化して動けた時間はそう多くなかった気がする。
それで、数百を使い果たしてしまうのならなるほど納得ではある。まあ、その計算だと、あと数十年で妖力を貯め切るってのはよくわからんが。
あと、色々聞いて思ったのだが、原作のラスボスが「西怪」ってやつで、ゲームの方のラスボスが「東怪」ことカゲな気がする。
「だが、そうなると迷うな」
正直、そいつが巨悪と考えると力を取り戻していない今潰すと言う手もある。
絶対こいつがこれから被害を増やしていくだろうってのは予想がつくからだ。
だが、同時に原作ラスボスであると仮定してしまえば、主人公であるもみじが倒す相手でもある。
原作改変等は今更話だが、もみじが倒してこそと考えることもできる。
つーか、もみじじゃないといけない理由づけくらいされていそうでもあるし。
結局S級とかがいることを考えると、もみじを戦わせる必要はないわけだし、もみじ以外だと世界滅亡スイッチが押されてしまうとかある気がする。
「テスト勉強もしたいけど……。しゃーなしで少し探るか。……それにもみじを襲ってくるとなると、とりあえず、魔法少女壱意を止めたい」
一応、明日の科目については、一通りの勉強はできている。
それに、もみじを助ける過程で大分時間を食ってしまった。
ここまでくれば、勉強時間については仕方ない。
と言うことで、なぜか聞けば知ってそうな琴浦に電話をかける。
◆
神秘者の末裔と言っても、その系譜は多岐にわたるようだ。
俺の認識では、現代の委員会である中央魔術結社と瑞穂の会とそれ以外という感覚だった。
だから、改めて琴浦に確認して、それ「その他」に分類される組織がいくつもあることを認識した。
そして、現在でもそれなりに力を持っているだろうと言う幾つかの組織の存在教えてもらった。
これは単に超常の力を持っているとか、そう言う話ではなく、現在大きな事業等を抱えており力を有しているかどうかと言う指標だ。
単純に金があれば、組織の力は強くなるし、特別な「術」に準ずる力を持っていればそれはそれで金を集めるのに使えるだろうなんて言う推測だった。
「だが、どっからいくか」
「西怪が関わっているとしてどこかの組織がやつを囲っていると見たが、結局のところ我らには情報が少ない、か」
今の所の情報はエネルギーの残滓による犯人の特定。
だが、そいつがどこに囲われているかなんてのは予想もつけられなかった。
封印されていたと言っていたから、その場所を探そうかとも思ったが、多分移動してるだろうしな。
「適当に決めてもいいか?」
「本来なら少し吟味をしたいが、まあ、いいだろう」
「いいの?」
「今回の目的は西怪を見つけることではないだろう」
そういやそうだ。
組織の詳細を探ることと、もみじにちょっかいを出す壱意を止めることが目的だった。
「綾谷もみじを狙う魔法少女壱意を止めたいんだろう。なら、直接見つけ出さなくとも、警告を送ってやればいい。複数の組織が混在していると言っても結局のところ神秘者同士のコミュニティーだ。一つの組織が得た情報はすぐに他にも伝わる」
「まあ、そうか」
関係ない組織に対して干渉するのはあまり良くない気がするが、見た感じどこも薄暗いことをしてそうなので許して欲しい。
「じゃあ、どうしようかな。どれにしようかな天の神様の言うとおり。えー名前は「柳の傘」。ここにするか」
まあ、もし違っても、天の神様が決めたことだから恨まないでね!
◆
柳の傘。
かつての神秘者の系譜の一族により今日まで活動を続ける組織である。
「術」の理を失ってからもガーディアンの手を取り委員会に一元化されるまでは魔法少女を有しており、かつては魔法少女を有していた歴史もある。
だが、さらに情勢は変わり、そんな魔法少女も委員会以外は所有することができなくなった今でも事業を拡大し、利益を生み出して組織を存続させている。
柳の会は表向きなりを潜めることにはなったが、フロント企業の裏に潜みながらも存続しており、柳の傘の所有する建物はここら一体でだけでもいくつもある。
そんな柳の傘の所有する建物の一つであるビルのトイレで二人の男たちが談笑する。
男たちは会話をしながら小便器に向かう。
トイレの窓は開け放たれていて、夜空に浮かぶ月がくっきりと見えた。
「お前、次の柱の調達は順調か?」
「ええ。孤児の中になかなか筋のいい子がいましてね。調整の方も後一年の期限には十分に間に合いますよ」
「ならよかった。今の柱も17だからな。契約が切れた時に再契約が出来ねぇと使い魔に逃げられる。だが、突然壊れてもすぐに替えが効くようにはしておけよ」
「もちろんです」
大柄な男の言葉に若い細身の男は深くうなづいた。
「まあ、うちも委員会みたいに魔法少女湧いてくればいいんですけどね。ほら、最近もA級32位ちゃんが話題ですし、羨ましいですよ」
「それ、他のやつも言ってたな。だが、委員会側だ。どう転んでも味方にはならねぇんだから、目の前にでも現れてもちゃんと殺せよ」
若い男の軽口に大柄な男は冗談めかして笑う。
そんな彼らが背中を向ける窓の枠には、一人の少女が足を屈めるようにして座り込んでいた。
黒を基調としたシックな学生服のような服を身にまとい、さらに上からアウターを羽織る。
そして、目ぶかに被られたフードの隙間からは、少女の背後に浮かぶ月のような冷たい金色の髪が伸びる。
そんな少女は青金石のような双眸を覗かせた。