「おい、どうなってる?」
「襲撃を受けたみたいで」
「襲撃だと?」
柳の傘の所有するビルの一つでは男たちが慌ただしく連絡を取り合っている。
現在何者かの襲撃を受けており、構成員の何人かが被害に遭っていると連絡が入ったのだ。
「くそ。今日に限って。重要な取引だってのによお」
男たちが背にするのは大きなドア。
その先では、とある取引が行われていた。
「それを察知して押さえにきたとかじゃないんですか?どっかから情報が漏れたとか」
「……とにかく、普段の数倍の構成員がこの建物の中に集まっている。中の取引の邪魔をされないようにするしかない」
ここで行われているとある取引の関係で、この建物内には警備の意味も含めて多くの構成員がいた。
それぞれが一定の間隔を開けるようにして死角はないはずだ。
「だが一体に誰がカチコミなんてかけてきやがってんだ?」
現在集まった情報は、気絶した構成員を別の人間が見つけたことによる状況証拠からの推測だ。
実際に、誰がどんな目的で襲撃を仕掛けてきているのかはわかっていなかった。
だが、男の携帯にまたも着信が入る。
「わかったんですか?どんな奴が攻めてきたか」
「ああ。相手は魔法少女だ。それも、A級32位」
男に届いた連絡は、襲撃者が年端もいかない少女だと言うこと。
しかし、その少女は魔法少女であり、有名どころ。
A級32位、魔法少女コフィンだった。
「おい。柱はここにきてるんだったよな。すぐに呼び出して対処させろ」
男はそう叫んだ。
◆
「こいつも知らないか」
ぐったりと項垂れるように気を失った男を捨てる。
これで何人目かはわからないが、やはり闇の魔法少女のことは知らないようだった。
はなから騒ぎを起こす前提で動いてはいるものの、転生したといえどそこらへんの人間を殴ったことはなかったのでへんな感覚だ。
いや、一般人ではないんだろうが。
「それにしてもどれくらい暴れれば、いいんだろうか」
「少なくとも、綾谷もみじに襲撃をけしかけるのをやめさせる程度には、だな。オマエがことを構える気があることと、自身の身分を開示してそれが西怪を囲う組織に周知されることが必要だ。これまでのオマエの力量を知っていれば、今は手を引くべきだと考えるだろう」
「そか」
正直よくわからんが、俺が本気だぞって思わせればいいわけだ。
少なくとも、俺の力は世間に周知されているから、俺が本気だとわかれば相手も身を引くと。
「しかし、この建物どんだけ人いるんだ?通路の角には絶対立ってるし、部屋にもほぼいる」
「何かあるんだろうな。だが、それだけ注目が集まっていると言うことだろう。好都合だ」
カゲさんは過激だね。
さすが、東怪と呼ばれていたことはある。
「いたぞ。A級32位だ!」
考え事をしていると、また別のやつに見つかった。
みんな俺のことを順位で呼ぶが、本来変動する月間ランキングを固有名詞にするのはどうなんだ?
と言うか、俺の正体はバレているらしい。
俺が正体を表すと言うのはもちろん計画にあったが、影響力のありそうな偉い人に辿り着くまでは正体をバラすのはあまり良くないと思って、ちょっといつもと違う雰囲気のアウターを着てきたのだが。
まあ、普段の活動で使うアウターもコロコロと替えているが「誰ですか」と言われたことはないから、佇まいで結構わかってしまうのかもしれん。
それに、バレたならバレたでいい。下っ端とかだとへんに今日の話が広まって委員会にも伝わって面倒ごとになる気もしたが、よく考えてみたら俺には言われのない噂が多くある。
今更だ。
「おい。さっさと柱を連れて来い。商品にもなれねぇんだ。今日ぐらい役に立たせろ!」
男はそんな声を叫んで後方を向く。
通路は折り曲がっていて男が何をみているのかはわからないが、俺を前にして随分と余裕がある。
そんなことを思っていたが、俺は不意に目を見開いた。
新たに、通路の先から現れたのは二つの人影。
一人は柄の悪そうな男で、もう一人は女、いや、少女だ。
サイズの合わない服に不健康そうな肌、そんな少女が男に引きずられるようにしてこの場に現れた。
そして、男は少女を放り出すように俺の前へと投げた。
「がっ!?」
少女は意識が朦朧としていたのか、床に叩きつけられて音を洩らした。
それに男は舌打ちをすると、怒鳴りつけた。
「ルタ!仕事だ。死んでもそいつを足止めしろ」
ルタ、それが少女の名前だろうか。
家出少女と言われても納得できるような、およそ整えられていない身なりの少女はむくりと体を動かした。
ボサボサの髪の隙間から除く小綺麗な顔はやつれている。
「し、ごと」
ぽつりと呟いて、少女は変身した。
「魔法、少女か?」
こんなところにいるとは思わなかった。
だが、闇の魔法少女が西怪の手先と考えると神秘者の集団にいてもおかしくないのか?
そう思いつつ俺は「識別」を起動する。
だが。
──反応がない?
──委員会に登録されていない魔法少女の可能性がある。
闇の魔法少女の次は、違法魔法少女か?
確か、魔法少女は例外なく委員会の管理下に置かれることになっていたはずだ。
だからこそ、俺は魔法少女と判定された時、副会長に登録を促された。
俺自身は、魔法少女もどきだから、登録するべきかどうかを悩む余地があったが、本来ならばおそらくあり得ないこと。
しかし、そんな悠長に考え事をできる相手ではないようだ。
そう気づくのは、少女の獣のような身のこなしが俺に迫ってからだ。
早い。と言うより、極限まで死角に入り込んだ上での攻撃。
動きの起こりから動作までは言わずとも、俺は自身に向けられた攻撃が数センチ先まで迫ってやっと存在に気づく。
「──っ!?」
俺は体を捻って、攻撃を避ける。
振り抜かれた腕の先には大きなナイフが握られている。
ステッキを変質させたものだろう。
だが、そんなことに目を奪われる中で、俺は心の内でカゲを呼んだ。
───パチンッ
行われるのは逆行。
そして、俺の視界には先ほどまで俺がいた場所に噛みつこうと歯をならしたルタがいた。
ナイフが避けられれば、噛み付いての攻撃。
およそ文明人には思えない。
それに、ここの構成員の男に指示されたにしては必死すぎる。
と言うか、手段を選ばなすぎる。何か思い入れがあるとかじゃなくておそらく、これが彼女の戦闘における普通なのだろう。
厄介だ。
再度接近してくるルタに刀を振る。
死角をつく攻撃をしてくるが動き自体は単調、捉えれば切るのは容易い。
注視した上で意識外へと潜り込むのでおそらく何らかの魔法なのだろうが、対応できないほどではない。
俺の刀は少女の体に吸い込まれていく。
一瞬のうちに察知して上方へと跳躍するも俺の刀の方が早い。
胴を捉えずとも、足を切れる。
機動力を失えば終わりだ。
「っ」
「ガルッ!」
だが、俺の刀を足に受けながらも、ルタはこちらに手を伸ばした。
いや、むしろ足を犠牲にして俺の刀の動きを止めたと言ってもいいほどだ。
しかし、その一瞬でナイフが向けられようとも、俺は自在に武器を生成できる。
彼女の体に向けて真横から放たれる無数の白武器の槍。
そして、体制を崩しながらも新たに生成した刀を少女に振り落とした。
だが。
「──まじかよ」
瞬間起こったのは、爆発的な加速。
彼女を貫かんとする槍よりも早く、俺の刀を踏みつけた。
いや、それだけでは止まらずに、足場にして前進した。
一瞬だ。あまりにも早い一瞬の動きで少女は、俺へと距離を詰めた。
さらに逆行を重ねて数度の攻撃を回避する。
死角をつく魔法じゃねぇのかよ。
全くどんな魔法か想像がつかないが、少なくとも一瞬だけ爆発的な機動力なのか運動力を発揮することができるのだろう。
しかし、そうなると死角をつくのは自前か?
「グァ!」
獣のように攻撃を続ける少女を避ける。
ところどころの爆発的な身体能力の上昇により追いついてくる。
刀で防ぎ、逆行で避ける。
途中でこちらかも攻撃を与えるも怯む様子がない。
ただただ、相手を排除するためだけに動いているようだった。
ナイフが迫る。
それを腕を掴んで逸らして俺は蹴りを入れた。
ルタはそれに怯みながらも、強引に動かした蹴りを放ち俺はそれを避ける。
続け様の攻撃の中で、やっと二人の距離ができる。
それほどまでにルタの攻撃はとめどなく続けられていた。
「なんで、立っている?」
ここまでの攻防はなかなかに長い。
それでも、俺を倒せないことへの疑問だろうが。
おそらく戦い方からしてみても、インベーダーや魔法少女相手に攻撃する際に必須となる魔法由来以外の手法を取り入れていることを考えると、普段は生身の人間を相手にしてきたのだろう。
そこまでの、力量さのある相手との戦いが染み付いているのであれば、簡単に俺を倒すことができないことに疑問を覚えるのも仕方のないことにも思えた。
「何で、邪魔をする?何で、仕事を増やした?」
何かとめどなく溢れでるようにして言葉が少女の口から落ちた。
確かにあまりいい扱いを受けているようには見えないから、俺がきたことで増えた仕事に不満があるのかもしれない。
そんな少女に仕方がない。とは言えない。
そもそももみじが襲撃されたことがことの発端だが、それは彼女が関与するところではないはずだ。
だがしかし、俺はここにくるときに少なからず誰かの不利益が起こることは分かっていた。
だから、今更何かを言うつもりはない。
強いて言うなら、ここを選んだときに使った言い訳くらいだろう。
「天の神に従った」
最悪だね!
でも、まあ、そう言うことだから諦めて欲しい。
「天の、神?……うそ」
うん。嘘。
正直、幼少の頃から天の神に任せているのでどれを選べば何に当たるかなど分かっている。
しかし、気負わず指を指すのに必要な工程だったのだ。
だけど、これは良くない。
「いや、訂正する。俺が、選んだ。俺が決めた。だから、俺が──」
「神」
「え?」
ルタはボソリと呟いた。
それは俺の先ほどの言葉を逡巡して口から発したようにも思えた。
だが。
「お前が神」
まるで俺が自らを神と名乗ったとでも言うかのような言葉を続けた。
どゆこと?