切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第10話: 聞こえますか……あなたの頭に、直接呼びかけています……

 

 

 さて、そういう流れで僕はまず、実家に学生服を取りに戻る必要があった。

 

 

 時刻は9時を回っている。ちなみに、始業式は昨日だ。

 

 なんで始業式に行かなかったのかって、時間帯次第でくそ面倒な事になりそうだったし、少しでも人が居ない時間を選びたかったから。

 

 レイダも似たような感じらしく、『制服とか、持ち出せなかった物を持ち出せたら、それで……』ってな感じで、タイミングが合えば、留守中に全部事を済ませるつもりだとか。

 

 

 正直、僕の方もそれが出来たら良いなあ……って思った。

 

 と、同時に、勝手に処分されている可能性を否定出来ないかも~、と思った。

 

 

 たとえ、その学生服は僕がお金を出して買った物だとしても、やりかねないから。

 

 そう、実は、高校進学時の学生服のお金、出してくれなかったんだよね。

 

 中学に入ってすぐの頃から『高校へ行くかどうかは好きにしろ、学費は出さないから』って、何度も念押しされていたから。

 

 おかげで、中学の時の僕は余暇なんて無かったね。

 

 幼馴染のアイツと遊びに行くとき以外は勉強かダンジョンかの二択で、同級生とまともに会話したことなかった。

 

 なにせ、学費とかその他諸々稼げないと、下手したら中学卒業時には家から叩き出される可能性が高かったから。

 

 結果的には、宝くじでも当たったのか、それとも周りから何か言われたのか知らないけど、高校卒業までは居ても……みたいな空気を臭わせていたけど、まあいい。

 

 

 ……今になって冷静に考えると、幼馴染のアイツが他所の男に流れたのも、なんか分かる気がする。

 

 

 だって、普通は嫌でしょ。

 

 なんか金&金&金って、とにかく勉強か仕事《ダンジョン》かのどちらかしかしていない彼氏とか。

 

 おまけに、それで金を持っているかといえば、そういうわけでもない。むしろ、バイトしているのに金が無い学生って感じで。

 

 スマホこそ持ってはいるけど、一番低額のプランだから、テレビもネットも実質使えない、文字通り彼女との連絡以外では通信料の余裕がないわけで。

 

 服だって、早々買い換えられるわけじゃないし、流行の服とかなんてまず買えなかったし……当然、美容品とか、そういうのも無理なわけ。

 

 

(……本当に冷静に考えると、なんでアイツって僕と付き合おうとしたんだろう? 客観的に見ると、意味不明過ぎて怖くなるんだけど?)

 

 

 なんだろう、実家に戻るまでの道中、色々と考えているうちに怖くなってきた。

 

 人間、マジで理解不能な存在を前にするとだいたい恐怖を覚えるっていうけど、今の僕ってマジでそれ。

 

 思い返せば思い返すほど、僕って友達か、それ以下ぐらいな関係だったんじゃなかろうかって気持ちになる。

 

 だって、セックスはおろか、キスだってしていないんだぜ。

 

 手は……う~ん、何度か繋いだ事はあるけど……見方を変えたら、その程度の付き合いだったわけだ。

 

 これ、むしろ、僕が横恋慕みたいな形だったんじゃね……という気持ちにすらなってくる。

 

 なんかこう、過去の事として振り返って考えると、アイツの思考回路が滅茶苦茶過ぎて、なんか好きだったって感情の思い出すら無くなっていく感覚もある。

 

 考えれば考えるほど、なんで僕と一緒にいたんだろうって……う~ん、思考がループする、今度レイダに聞いてみるか。

 

 

 そんな感じで、実家に到着。

 

 

 物置小屋はこのままコソコソっと入ることは可能だけど、住居不法侵入になりそうだし、警察に通報されたら嫌だし。

 

 あいつら、助けてほしい時には何もしてくれないのに、放っておいてほしい時は『警察は君の味方だよ』って顔をしてくるんだよな。

 

 明らかに虐待を受けてますって姿をしていたのに、なんか口頭注意だとか何だとかでそれっきり。

 

 役所から来たやつも、結局は仕事してます~みたいな顔をしただけで、何もしなかったし……はあ、やめやめ、この事を思い出すと、色々と空しくなる。

 

 とりあえず、万が一監禁されたりして殺されないよう何時でも斧を取り出せるよう意識しつつ……インターホンを、ポチッとな。

 

 ……少し遅れて、玄関が空いた。

 

 

「──っ、ハチ……!」

 

 

 中から顔を見せたのは、母親だった。

 

 いや、母親なのだろうか。

 

 約一ヶ月ぶりに顔を見るわけだけどなんか顔をうまく思い出せない。たぶん、僕の名前を読んだから、母なんだおる。

 

 しかし、驚いた顔をしてる。寸でのところで取り逃がした獲物が戻ってきて、驚いたのだろう。

 

 そんな様子の母は、キョロキョロと視線をさ迷わせていて……それ以上、何も言わなかった。

 

 どうやら、家には母親だけのようだ。もしかしたら、お礼参りでもされると思ったのだろうか。

 

 さすがに、そんな事をするつもりはない。

 

 やったところで僕のナニカが変わるわけでもないし、もう、それらは終わった事だ。

 

 

「物置小屋から制服とか取りたいのだけど、入っても大丈夫ですか?」

 

 

 何時まで経っても動いてくれない母にそう言えば、母はビクッと身体を震わせて……それから、唇を開いた。

 

 

「だ、大丈夫よ」

「そうっすか。それじゃあ、入らせてもらいます」

「そ、その前に!」

 

 

 面倒事はさっさと済ませようと思っていたのだが、なにやら母はいきなり声を荒げ……続けて、こう言った。

 

 

「お、お腹空いてない?」

「はい?」

 

 

 当たり前だけど、脈絡が無さ過ぎて僕は首を傾げるしかない。

 

 そんな僕に、なんか母はモジモジと気持ち悪い動きを見せながら……変な事を言い始めた。

 

 

「ちょ、ちょうど、昨日作ったご飯があるのよ。余りそうだから、良かったら……その、食べてくれないかなって」

 

 

 これまた当然ながら、僕の返答は決まっていた。

 

 

「仲良くもない人からの手料理って怖すぎなんで、お気持ちだけでけっこうです」

「え?」

「え?」

 

 

 どういうわけか、お互いがビックリしたかのように目を瞬かせ……とりあえず、僕は母を無視して物置小屋へと向かう。

 

 最悪処分されている可能性を考えていたけど、どうやら放置されっぱなしのようで……扉を開けたら、なんともいえない臭いと共に、見慣れた光景が広がっていた。

 

 その中で、部屋の隅のダンボール箱……学生服と学校指定のジャージが入ったやつと、教科書類とか色々入ったダンボールを抱えて、外に出る。

 

 

「あっ、その……」

「お邪魔しました、お達者で」

 

 

 すると、僕を見張っていた母が居たので、その横を通り過ぎて急いで外へ……閉じ込められる可能性を警戒していたけど、何事もなくて良かった。

 

 

「──は、ハチ!」

 

 

 しかし、声を掛けられた。

 

 無視すると面倒なので振り返れば、母はまたもやキョロキョロと視線をさ迷わせ……でも、僕の不機嫌さを察知したのか、ごくりと喉を鳴らすと。

 

 

「ま、また、帰って来るのよね?」

「?????」

 

 

 また、意味不明な事を言い出した。

 

 本当に、まったく、これっぽっちも理解出来なかった。

 

 帰るも何も、ここは僕の家ではない。便宜上、実家と呼んでいるだけで、それ以外の呼び名があれば、そっちで呼んでいる。

 

 僕にとって、ここは、その程度の価値しかない。

 

 ぶっちゃけてしまえば、火事になって消し炭になろうが、三面記事に載るような事件が起こったとしても、食事を終える頃には忘れている……その程度の場所でしかなかった。

 

 

「お、お母さん、最低な母親だったけど……でも、でもね、おか──」

「あのさ、何を言うつもりかは分からないけどさ」

 

 

 そんな僕の反応にナニカを感じたのか、あるいは、別の目的があるのか……それは分からないけれど。

 

 

「自己満足のために母親ごっこするの、やめてもらえる?」

「──っ!」

「もしかして、周りから虐待母みたいな目で見られているとか? 口裏合わせて欲しいなら、そうするよ」

「ち、ちが……」

「でも、面倒臭いから、あなたのごっこ遊びに付き合うつもりはない。時間の無駄だし、もうそれでいいじゃん? お互い、時間を無駄にしたって思うだけだし」

「…………」

 

 

 素直な気持ちを言うと、母は……図星を突かれたのか、唇を噛み締めて、黙ってしまった。

 

 それで、今度こそ用は済んだと判断した僕は……ダンボールを抱えて、さっさとその場を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、だ。

 

 そうして、荷物を持ち出した僕は、適当に一目の付かない場所に移動し、『鍵』を使って『部屋』へと入った……わけだが。

 

 

「やあ、少年。息災のようですね」

 

 

 そこで、まさかの人物(?)、謎のお姉さんが居た。

 

 6本の腕に、背中に大きな翼。半裸の恰好なのに欠片も堪えたようすもなく、何一つ違和感なく6本の腕が別々な事をしていた。

 

 

 具体的に、何をって? 

 

 

 そんなの、僕が分かるわけがない。なんか、ジェスチャーをしているのは分かるのだけど……まあ、それよりも、だ。

 

 正直、誰も居ないと思っていたから、本気でビビった。

 

 だって、この『部屋』は僕が持っている『鍵』でしか入れない。

 

 もしかしたら入る方法があるのかもしれないけど、とにかく、今はそれ以外には知らないわけで。

 

 反射的にダンボールを落として身構えたぐらいだから、そりゃあもう心臓がバクバクである。

 

 

「……お姉さん、本当に何者?」

「私が何者であるか、そこに大した意味はありません」

「そ、そうなの?」

「おそらく、そうでしょう」

「えぇ……」

 

 

 相変わらずのマイペースっぷりに、言葉を失くす僕……を尻目に、やっぱりマイペースなお姉さんは、ズイッと6本の腕で急に僕を指差した。

 

 

「少年、こう見えて私は空気を読めるのです」

「え? あ、はぁ……?」

「甘酸っぱい青春を送っている少年に気を使って、あまり姿を見せないようにしていました。他の人には見えない私と話していたら、ほぼ確実に正気を疑われますからね」

「青春……???」

 

 

 アレが……青春? 

 

 お姉さんの指摘に、思わず首を傾げる僕……そんな僕に、お姉さんは……深々とため息をこぼした。

 

 

「まあ、いいでしょう。私もちょっと立て込んでおりましたので、どのみち青春を送れなかったとしても、しばらく会えなかったでしょうから」

「あ、そうなの? ていうか、お姉さんってなにか仕事していたの?」

 

 

 その見た目で? 

 

 

「はい、こう見えて私は忙しいのです。つい先日のことですが、世界さんが別の宇宙を食らいまして。偶発的に生まれたばかりの宇宙が傍に出来たので、戦いらしい戦いにならず一気飲みしましてね」

「はぁ……???」

「そのせいで、ちょっと胃もたれみたいになったらしくて……だからよく噛んでからと忠告したのに、人の話はちゃんと聞けとはよく言ったものですね」

「そうなんだ……」

「まあ、そういった負担を別の形に変えて放出するダンジョンのおかげで、世界もずいぶんと楽になったなと話しておりましたけど。何かあると私も巻き添え食らいますし」

「はい?」

「まったく、ダンジョンというセーフティを作っておかなかったら、またとばっちりで文明が消し……あ、そういえば、先に伝えておくことがありましたね」

「……なんか、滅茶苦茶気になる単語が聞こえたんだけど?」

 

 

 何を言っているのかさっぱり分からないけど、とりあえず分かったフリをしておく。

 

 聞いたところではぐらかされる……いや、たぶん、お姉さん的には説明しているつもりなんだけど……で、だ。

 

 

「──実はですね、この星の生命体に、ステータス機能を追加しました。ちょっと、停滞していましたし」

「は?」

「『ステータスオープン』、そう唱えてください。あなたのステータスが表示されます」

「え……す、ステータスオープン」

 

 

 そう、呟いた瞬間、僕の眼前に半透明の画面が表示された。それは、まるで立体映像みたいな感じで、そこには僕のステータスとやらが表示されていた。

 

 

 

【あなた】: 小山内ハチ 16歳

【生 命】: 189

【 力 】: 120

【 防 】: 111

【 速 】: 150

【 魔 】: 344

【おまけ】:自己回復(小)、キャパシティ(極)、『鍵&部屋』、『戻ってお~の!』

【ひみつ】:童貞、猪突猛進、頑固

 

【私からの一言】:変なところで生真面目ですね。けして悪くはないのですが、もう少し気楽に考えても良いと思いますよ、知りませんけど。

 

 

 

 ……率直な感想を言わせて貰おう

 

 

(お姉さん……なんかセンス古いっていうか、変な所で雑じゃない?)

 

 

 けして悪く言うつもりはないのだけど、どうしても、そう思わずにはいられなかった。

 

 というか、だ。

 

 このステータスとやらが言葉通りなら、表示されている内容は僕が知り得ていない僕の事なんだろうけど……ん、そういえば? 

 

 

「さっき、生命体とか言っていたけど、他の人も同じように見えるようになったってこと?」

 

 

 自分でも何を言っているのか分からないけど、お姉さんが言った事をそのままオウム返しみたいに聞いてみたら。

 

 

「はい、そうですよ、他の人達も見られるようになりました」

 

 

 あっさり、そう言われたので。

 

 

「たとえばこれ、他人のステータスを見ようと思ったら、見れたりするの?」

「当人が開示する意思でステータスを表示させたら、見る事が可能です」

「……お姉さんって、神様かナニカの類なの?」

 

 

 以前より思っていた事を率直に尋ねたら。

 

 

「それ、これまで何度か様々な形で尋ねられてきましたけど、私は神様とかそういうのではないです」

「違うの?」

「違います、せいぜい中間管理職みたいなものです」

「ずいぶんと、規模の大きい中間管理職だな」

「中々お辛い立場なのですよ、私も」

 

 

 なんだか、分かるような分からないような、そんな感じで否定されたのであった。

 

 

「ところで、童貞とか表示する意味ある?」

「特に意味は無いのですが、私はこう見えて、表向きは善人だけど実はヤバい事やっているのが露見して狼狽し焦って誤魔化そうとする様からしか摂取できない栄養が好物でして」

「神様じゃなくて、実質妖怪の類じゃないよね?」

「違います」

 

 

 どうやら、妖怪でもないようだ。

 

 

 

 

 

 







※ちなみに、ハチくんは気付いておりませんが、外は大パニックで、様々なところで暴動が起こっております
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