切れば良いのだ、何事も!   作:葛城

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第12話: なんでドヤ顔なの……???

 

 

 

 さて、それからどうなったのかと言うと……特に、何もない。

 

 

 もしかしたら島田さんが来るかなとちょっと身構えていたけど、それよりも前に、なんか島田さんの友達らしき女子が、島田さんを引っ張って行ってさ。

 

 昼休みに入ってすぐ、休み時間に入ってから、放課後に入ってすぐ、その度に連れ出されてゆくから、本当に拍子抜けな結果だった。

 

 いったい、どんな話し合いが行われているのか……それとも、無かった事になっているのか、それは分からない。

 

 ただ、あんまり良くない空気になっているっぽいのは、分かる。

 

 だって、連れ出されるたび、島田さんのテンションが下がっているし、何時もなら事あるごとに集まっている友達が、居ない。

 

 反対に、その友達は教室に戻ってくるたび、明らかに機嫌を悪くしている。ていうか、なんか視線も態度も冷たくなっている。

 

 

 ……もしかしなくても、友達に嘘を付いて味方につけようとしていたのだろうか? 

 

 

 それにはちょっと違和感を覚えるけど、実際のところ、どうなんだろうか。

 

 僕の知る島田さんならそういう事はしないし、むしろ、その友達が早とちりして動いたっぽい感じがする。

 

 あるいは、互いが勝手に思い込んだか、都合よく信じて欲しい、都合よく信じたい、そんな考えが噛み合った結果なのかもしれない。

 

 まあ、もっとも、僕の知る島田さんは浮気なんてしない女性だったので、結局のところ、僕が勝手に思い浮かべていた『島田彩音』でしかなかったのだけど……で、だ。

 

 

(……う~ん、空気が浮ついているなあ)

 

 

 何時もとは違い、教室内の空気は相変わらず浮ついていた。

 

 いつもならすぐに部活に移動する生徒も、今日ばかりは動きが鈍く……盗み聞きするわけじゃないけど、『今日はパスする』という言葉が……まあ、それも当然だ。

 

 既に誰も彼もが『ステータス』を消しているが、その興味はまったく変わらず……それどころか、より強くなっている。

 

 致し方ない。

 

 なにせ、他人がひた隠しにしている秘密を見る事ができるようになったのだ。それも、超常的な存在からの、お墨付きで。

 

 

(裏で悪い事をしている人とか、浮気とかそういうことしていた人、戦々恐々だろうなあ……くわばらくわばら)

 

 

 さもありなん、としか言い様がない。

 

 実際、昼休みとかに、なにやら甘酸っぱい雰囲気を醸し出しているカップルも居れば、喧嘩……まあ、破局した後っぽい男女の姿が、いくつか目撃されている。

 

 彼氏あるいは彼女からすれば、『ステータス』で浮気の有無などが分かるのだ。

 

 それを開示せずにひた隠しにする時点で、怪しさMAX。

 

 いくら言葉を重ねたところで、『でも、ステータス見せないよね?』で終わるのだから……おお、くわばらくわばら。

 

 

「良かった、まだ学校に居た」

「あれ、レイダじゃん、どうしたの?」

 

 

 とりあえず、友達らしい友達がいない僕は、さっさと学校を出ようとしたわけだけど……なんと、レイダが教室に来た。

 

 同じ学校に通っているとは聞いているが、レイダは自宅でのゴタゴタ(いざという時は、拳で解決するとか)で、今日は学校には行けないかもという話だった。

 

 

 まあ、そりゃあ、そうだ。

 

 

 男の僕が家出したところで世間は騒がないけど、女のレイダが家出なんてしたら、そりゃあもう関心の度合いが違う。

 

 世間体を考えたら、あの手この手で引き留めようとか、落としどころを見つけるまでは……なんて話になるのは、想像するまでもない。

 

 

 ……なんか怪しい視線を向けていたお兄さん? 

 

 

 以前ならばともかく、たっぷりご飯を食べて『超特殊体質』を発揮させているレイダなら、一撃で返り討ちである。

 

 下手しなくとも、今のレイダはビンタ一発で脳震盪を引き起こしたり、骨にヒビを入れたりが可能なパワーがあるのだから。

 

 まあ、それでも時間は掛かるだろうし、17時に待ち合わせ場所に……って話だったのだけど。

 

 

「……なんか、制服小さくない?」

「言わないでよ、これ買ったの、痩せていた時なんだから」

 

 

 思ったことを率直に尋ねたら、レイダさんから、ちょっと気恥ずかしそうに文句を言われた。

 

 そう、最初は気のせいかと思ったけど、レイダさんが着ている学生服は、体形に比べてこころもち一回り小さいように見える。

 

 理由はまあ、語るまでもなく……この夏の間に、滅茶苦茶食べたからである。

 

 出会った当初は痩せすぎだったが、話を聞く限り、元々痩せ気味な体形だったらしく、それに合わせたサイズになっている。

 

 つまり、今よりも一回り小さい頃のレイダの体形に、だ。

 

 なので、スカートの位置が他の女子よりも若干高めに見えて、袖の長さもちょっと短い感じになっていた。

 

 

「……制服だと、そんな感じになるんだ。なんか、印象変わるね」

「なによ、似合っていないとか?」

「う~ん、そういうんじゃなくて、本当に同じ学校だったんだなって。だって、ずっとジャージだったじゃん」

「あぁ……まあ、うん……」

 

 

 まあ、それはそれとして、今後の事も考えて色々と作戦を練る必要がある。

 

 そう思って、レイダの横を通って廊下へ……けれども、レイダが動かず、ジ~ッと教室内を見ているのを見て、僕は立ち止まった。

 

 

「どうしたの?」

「なんか、ずっと中の男子たちが見てくるから、何か用でもあるのかなって。あと、なんか女子からも視線が……」

「物珍しいだけだよ」

「そうなの?」

 

 

 首を傾げるレイダに、僕は頷いた。

 

 

「以前の骸骨みたいな時ならともかく、今のレイダって普通に美少女系じゃん? そりゃあ、視線も集まるでしょ」

「……ハチくんは、アタシが美少女に見えているの?」

「え? そりゃあ見えるでしょ? 謙遜も過ぎると嫌味だよ、美少女はちゃんと自分が美少女だって自覚しようよ」

 

 

 不思議な事を言い出したぞコイツ……と思っていると、何故か、レイダの方も心底不思議そうな顔をして僕を見た。

 

 

「……ハチくんも、自覚した方が良いよ」

「え、どこが?」

「ハチくん、そのうちその手の趣味の人に狙われるよ、本当に」

「えぇ???」

 

 

 もしかして、レイダって目が腐っているのでは……本気で思う、僕なのであった。

 

 

 

 

 

 さて、そんなわけで、レイダと一緒に学校を出たわけだけど……これがまあ、中々にカオスな光景を何度か目撃する。

 

 

 1.痴情のもつれ。

 

 これはまあ、言うまでもなく若い男女が多い。ステータスを開示しろしないで喧嘩別れになりそうなカップルがちらほら見られた。

 

 家でやれと言われたらそれまでだが、うっすら疑惑を抱いていた人にとっては、一刻も早く知りたかったのは想像するまでもない。

 

 まあ、中には、路上にて『他所の男の子供育てている俺を、どんな目で見ていやがったんだ!!』ってガチギレしている男と、ひたすら違う違うと泣き喚いている女の姿が……う~ん。

 

 

 2.なんか、グループで固まっている人たちが妙に多い。

 

 通行人だし、別にそれ自体は普通ではないのだが……なんだろうか、横を通り過ぎる時、『あいつ、開示を拒否してた、ヤバくね?』みたいな会話が……まあ、うん。

 

 教頭先生の未来予測、大当たり。

 

 あまりにも展開が早すぎて、ちょっと気持ちが追い付かない。とはいえ、言葉一つで悪事の有無とか分かるとなれば、身の安全を図るためにもだし……っと。

 

 

「あっ」

「どうしたの?」

 

 

 管理センター行きのバスに乗って一息ついたあたりで、唐突にレイダが声をあげた。

 

 

「そういえば、ハチくんにアタシのステータス見てもらってない」

「え? いや、別に見せてもらわなくても……」

「ううん、こういうのはキチッとした方が良い。信頼だとかそんな言葉で誤魔化してよい事じゃないから」

 

 

 そう言うと、レイダは「ステータス」とポツリと呟いた。

 

 

「ちょ、他の人が──」

「別に、見られて困るものでもないし」

 

 あまりのせっかちさん、僕の方が思わず車内を見回したぐらいであった。

 

 車内の人達も、空気を察してわざわざ僕たちから視線を逸らしてくれた……ありがとうございます。

 

 

【あなた】: 九曜レイダ 16歳

【生 命】: 401

【 力 】: 290

【 防 】: 244

【 速 】: 319

【 魔 】: 14

【おまけ】:飲食代謝(大)、自己回復(中)、剛健柔軟体質、ドラゴン因子

【ひみつ】: 処女、可愛いモノ好き、大食い、野菜嫌い

【私からの一言】:栄養が足りていませんね、今はとにかく好き嫌いせず食べましょう、話はそれからです。そう、野菜もね、野菜も食べましょう。

 

 

 で、レイダのステータスを改めて見たわけだけど……うん。

 

 

(なんか、飲食代謝とか聞き慣れない単語が……文字だけで考えると、食べた分をそのまま綺麗に代謝しちゃうとか、そういう系?)

 

 

 心当たりは、けっこうある。

 

 食べたら食べた分だけどんどん健康的な身体になっていっているし、それで胃もたれとか一切起こしていないし。

 

 と、いうか、改めて考えると、レイダの『超特殊体質』って、この『飲食代謝(大)』の事なのでは……ん? 

 

 

「この、ドラゴン因子ってなに?」

「さあ、分からない。角も翼も無いし火も吹けない……でも、その上の『剛健柔軟体質』ってのは、見当が付いているよ」

 

 ──ほら、これだよ。

 

 

 その言葉と共に、レイダは手首を捻って……手の平や手の甲を、腕に触れさせた。

 

 見たままを語るなら、ほぼ手首の可動域がほぼ360℃。くねくねと、タコの触手のように手首が動いている。

 

 しかも、その状態なのに力を抜いているわけではない。試しに手を引っ張っても、ビクともしなかった。

 

 無理をしている様子はなく、「こういう事もできるよ」片足を上げて……首の後ろまで容易く足をもっていった。

 

 おぉ……思わず、僕は手を叩いた。

 

 僕も怪我予防のためにストレッチは毎日行っているから分かるのだけど、一定以上の柔軟性は、ある種の才能なのだ。

 

 

 ……まあ、それはそれとして、だ。

 

 

 見せてもらった以上は、こちらも見せるのが礼儀というもの。

 

 レイダも僕と似たような事を言ったけど、僕もまた構わずステータスを見せた。

 

 

「……ふ~ん、ハチくんも色々あるんだね」

 

 

 なんだかんだ言いつつも気になっていたようで、しばらく真剣な目で見ていたレイダは、そんな感想をこぼしたのであった。

 

 ……ところで、気になる事が一つ。

 

 

「あのさ、なんかステータス見ている途中でグッと握り拳を作ったの、なんで? なんか気に入らないところあったの?」

「え? いや、違うよ。むしろ、逆だから」

「逆?」

「こっちのこと、気にしないで、大した意味じゃないから」

「そう……???」

 

 

 その答えは、結局教えてはくれなかった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、ダンジョン管理センターへとやってきた僕たちだが……何時もとは違う光景に、僕たちは首を傾げた。

 

 それは、管理センターの隣に、併設されている施設ではない、見慣れない建物が増えていたからで、そこに人だかりが出来ていた。

 

 

 何を言っているのか、分からないって? 

 

 ごめん、正直、僕もよく分からない。

 

 だって、昨日の今日だよ? 

 

 

 しかも、プレハブの掘っ立て小屋とか、そんな規模じゃない。どう見ても、管理センターと同じぐらいデカい。

 

 そのうえ……僕の記憶が確かなら、管理センターの隣には、医療施設だった気が……まるで、ぬ~っと建物そのものが差しこまれて設置されたかのような……え、マジでなにコレ? 

 

 呆気に取られている僕たちを他所に、メガホンを手にした職員たちが一生懸命に声を張り上げている。

 

 き~ん、とハウリングが時折うるさい中で、その話をまとめると、だ。

 

 

 この建物は、管理センターが作ったモノではない。

 

 昨日から今日に掛けて設置されたモノだが、責任者と思わしき人物はおらず、そもそも、人知を超えた現象である。 

 

 それゆえに、この建物は『ダンジョンに関係する現象』ということで、何が起こるか一切分からない。

 

 どのような被害が起こるか分からないので、許可が下りるまでは絶対に入らないように……といった感じのアナウンスが、繰り返し行われていた。

 

 

 なるほど、『ダンジョンに関係する現象』となれば、好奇心のままに入るわけにはいかない。

 

 迂闊な選択が国家規模の大ダメージへと発展しかねないからだ。

 

 それは誰しもが知っている事で、建物の近くまでは来ても、誰一人として中を覗き込める距離までは近付かなかった。

 

 僕も怖いが、それでも気になって、他の人達と同じぐらいにまで近寄る。

 

 レイダも同意見のようで、僕たちは徐々に膨れ上がってゆく人だかり……を、一生けんめい誘導しようとしている、管理センターの職員へと声を掛けようと……っと、その時であった。

 

 

 

『 ぴんぽんぱんぽんぴ~ん 』

 

 

 

 なんとも、気の抜ける音声が、謎の建物より響いてきた。

 

 どこかにスピーカーが付いているのだろうが、不思議なことに、ハウリングなどは一切無く、ノイズは一切なかった。

 

 

 

『 やあ、みんな、集まっているようだね、私です 』

 

 

 

 その言葉に、僕たちだけじゃない。

 

 この場に居る人たち全員が、反射的に頭上を……雲海の隙間から地上を見下ろしているビッグお姉さん……なんか、6本の手がグッドサインを示していた。

 

 

 

『 この建物は、総合センターだ。利用したから呪いが掛かるとか、そんなのはないから安心するように 』

 

『 総合なので、だいたいの事はやってくれる。とにかく、習うより慣れろ、それはとても良い言葉だ、健闘を祈る 』

 

『 あと、言い忘れていたが、今日からダンジョンに出現するモンスターの中には、食用できるモンスターが出現する 』

 

『 半端な養殖よりはるかに美味いので、励みになるでしょう 』

 

『 頑張りなさい、放置すると地上にもモンスターが出てくるので、ある程度は間引きできるよう準備をしておくように 』

 

『 そのモンスターは、銃弾などの無機物ではなく、生命体より伝わるエネルギーの方が有効となっている 』

 

『 色々と余剰エネルギーを改変させた結果なので、どうにもできん。まあ、なんとかなるでしょう、たぶん 』

 

『 では、今度こそ健闘を──下手に独占しようとしてはいけない、いいね? 』

 

『 では、また 』

 

 

 

 そして、建物より響いていたアナウンスも、それっきり静かになり……待っていたかのように、カチャン、と鍵が開く音がしたかと思ったら。

 

 謎の施設内に照明が点り……中から、明らかにロボットというか、ロボット以外の何物でもないロボットたちが、だ。

 

 何体、いや、何台も、ウィンウィンとその身体というか、タイヤを走らせながら……キッ、と僕たちの前で止まると。

 

 

『いらっしゃい・マセー!! ごひいき、ヨロコンデ―!!』

『総合センタ、ようこそー!!』

『ご利用ならば、ワレら、スタッフ、クエスチョンプリーズ!!』

 

 

 明らかな機械音声と共に、僕たちへ歓迎の言葉を向けたのであった。

 

 

 

 




※ 謎のお姉さん、基本的にセンス壊滅である
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